相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第200話 9月20日

9月19日 夜

尾張・清洲城

 

「こういう感じに散らばっているのね」

「数はおおよそです」

「で、あるか」

 

 尾張国の守護が住まうその城の中心の部屋で、小さな軍議をしているのは、守護でもなく守護代でもなかった。

 織田信奈が見下ろしているのは尾張国の絵図で、色々な所に素の色と墨で塗られた色とでわけられた石が置かれていた。

 

「私達は那古野城、清洲城、守山城、蟹江城をおさえています。対して、那古野城には大和守家の軍が、蟹江城には斉藤軍が、守山城には大和守家の軍と……」

「馬鹿な弟と母上の軍がいるわけね」

「はい」

 

「そして犬山城にも斉藤軍が入り南への侵攻を窺《うかが》っている、か」

 

 その信奈と同じような言葉を、清洲城内だが別の部屋にいる相良良晴も呟いていた。

 同じような事を違う部屋で話しているのは、主にその話す内容のためだった。

 

()()から犬山城……蟹江城が攻められている……そして()()が出ている。あの戦いだよな?」

「その通りです、()()()()。織田信()の尾張統一戦と小牧・長久手の戦いが同時進行しています」

 

 相良良晴と土岐頼次。その2人が、久しぶりに元の時代の住民として話し合っていた。

 

「確か美濃の方を抑えている秀吉が、小牧・長久手の戦いで家康の攻略を諦めて、織田信(かつ)を下ろす方に切り替え、それに成功したために家康も膝を折った……だよな?」

「はい。備考ですが、蟹江城の戦いは、落としてから籠城した滝川一益と蟹江城が重要な家康と信雄の間で行われました」

「確か蟹江城に今いるのは……」

「滝川一益ではなく、近くの荒子城の一族である前田家ですね」

 

 2人共流石に知らない事だが、現実世界でも親戚の滝川家のために前田家の者達が戦い一族の何人かが戦死している。

 

「……史実通りに動くならば、秀吉役の斉藤道三の勝ちだろうが、こっちは織田家と松平家。簡単には落ちないだろうな」

「はい。それに、秀吉は多くに戦線を抱える中でのぎりぎりの戦いだったようですし」

 

 小牧・長久手の戦いが進行しているという事は、これから2人の勇将が討死してしまう合戦に繋がっていくという事で、良晴はそれが起きる可能性があるかどうか頼次に問う。

 梅千代を含む周りのくの一達が思わず震える自分の体を抑えるほどの空気を出す頼次は、その良晴の問いに「あるでしょう」と答え、これからやるべき事を進言する。

 

「織田家に関する事は()()さんが進言してくれ。こっちは、自分の事をやっていくから」

「良いのですか? 東濃に居着いて」

「ああ。こっちには、京からやって来るまでは来ないはずだし」

「…………」

 

 そして決着の日の朝を迎える。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

①蟹江城の戦い

織田信奈方

前田 長定

斉藤 道三・服部 友貞

織田信友方

 

 尾張国の西側にある蟹江城は、木曽三川の河岸に乱立する城達の1つであり、今回の内乱で何故かこの城が主戦場の1つとなった。

 この城に籠城しているのは、蟹江城と那古野城の間の地域を有する前田家の本家の当主である長定で、一族総出で突然木曽川に現れた斉藤軍を辛くも迎撃していた。

 対して、木曽川の輪中の主であり、多くの舟を持ち、事あるごとに織田家と敵対している服部友貞を味方につけた斉藤道三は、昨日で城の固さや弱点を見極め、夜が明けぬ内に密かに2度目の総攻撃を仕掛けようとする。

 しかし、それが叶う事は無かった。

 

「親分!」

「なんだ! 静かにーー」

「それどころではねえです! 河口に織田家の旗を掲げた奴等が!」

「何ぃ!?」

 

 友貞は物見台に駆け上がり、そこから徐々に近付いてくる舟達を見下ろし、船員の顔を見る。

 

「ありゃあ九鬼じゃねえか!」

 

 伊勢湾の水軍の事を最近の海運の発展から知っていた友貞は、一隻の舟の上にいる女が、北畠家と志摩国で戦っているはずの九鬼(くき)嘉隆(よしたか)だとすぐに見抜いた。

 しかし、なぜ急に九鬼水軍が現れたかまではわからなかったし、それよりもその九鬼水軍に対応する事が第一だった。

 

「防げるかの?」

「……厳しいな」

 

 服部水軍は九鬼水軍と戦うが、しかし九鬼水軍は彼らが得意とする川の中ではなく、自分が得意とする海上で待ち伏せし、服部水軍はそっちに構うしかなくなる。

 それによって陸戦の主力を担う斉藤軍も浮き足立つが、皮肉にもそれが彼らにとって良い事になった。

 

「道三様」

 

 斉藤道三の側に下り立ったのは、木曽川の対岸の監視を担っていた忍であり、海戦の行方を見守らすために増員された事から念のために伊勢の方へ偵察していた者だった。

 

「なんじゃ」

 

 滅多に感情を感じさせない声が震えている事に、道三はすぐに応える。

 

「伊勢からこちらに来る『』の軍です」

 

 『』の家紋を使うのは、 家の血筋を引いている南勢の武家・北畠家しかいない。

 

「……何が起きとる?」

 

 道三は知らない。織田信奈、九鬼嘉隆、そして()()を結びつける少女がいる事を。

 南の海軍と、西の陸軍、そして東の敵地という状況に、慎重かつ大胆の道三は1つの道を決断せざるを得なくなる。

 

 

 

②犬山城下の戦い

織田 信奈方

織田 信奈

斉藤 義龍・織田信清

織田 信友方

 

 目の前の織田信奈軍本隊を無視し、尾州東部に中入り。これを占領しつつ、那古野城下の織田信友軍に合流する。

 そんな作戦が決まったのは、桶狭間で信奈軍の強さが広まっていたからであり、朝方に撤退を決めた道三に対する義龍の反骨心からだった。

 元々、美濃の木曽川の対岸である犬山城にいたので大きな河を渡河をする必要がなく、彼らは丹羽郡を南下し始める。

 

 しかし、彼らは考えなかった。

 その作戦が見抜かれている可能性を。

 丹羽郡内でも小さな敵達がいる事を。

 

「行くわよ!」

「「「うおー!!」」」

 

 土岐頼次の策は簡単で、夜明けまでに彼らが通るだろう道に近いこちら側の城や砦などに兵を点在させ、金子《きんす》や特権を周りの農民に与えるだけだった。

 すると、織田信奈の号令に各地で旗が翻《ひるがえ》り、彼らは連合軍へと向かう。

 

「味方じゃ! 援軍じゃ!」

 

 口々にそう叫びながら、だが。

 突然の敵にその叫び声は更に動揺を加速させる結果になり、連合軍の動きは鈍る。

 そこに、織田信奈の母衣衆を中心に襲いかかる。彼女の軍の半数を占める農民達は言われた通りに手前で止まったが、動揺している連合軍はそこまで見る事が出来なかった。

 

「撤退だ! 撤退!」

 

 織田信清は、弾正忠家の縁者であり、今回は中立を保って恩を売る作戦だった。しかし、斉藤道三に弱みを握られ、仕方なく参戦していたので、彼はすぐに撤退を決めた。

 後方の信清が撤退を決めたとなれば義龍も撤退せざるを得なく、特に『』の旗印が目立った斉藤軍が大きな被害を受けながら犬山城へと逃げていく。

 

恒興(つねおき)、任せたわよ!」

「はい!」

 

 川を渡っての追撃は厳禁させつつ、信奈は池田恒興に信清らの監視を任せ悠々と岩倉城下へと戻る。

 

 

 

③那古野城下の戦い

織田 信奈方

松平 元康・織田 茶筅丸

織田 信友

織田 信友方

 

 大きな援軍として期待されていた斉藤軍の両方の撤退と、伊勢がいつの間にか制圧されたという確定した情報は、信友軍に大打撃を与えた。

 既に昼前には逃亡者が続出し、昼過ぎに松平軍の猛将・本多忠勝が少数精鋭で攻撃をかけると、信友軍は崩壊した。

 

「お主が坂井大膳だな」

「なにもーー」

 

 そして、信友の重臣である坂井大膳の本陣の中での暗殺で、元より周りの空気に乗せられた形である信友の精神も崩壊した。

 結局、信友軍は那古野城の外壁に傷をつけただけの戦果に終わる。

 

 総大将・信友の逃亡。

 それを聞いた岩倉城を守っていた信賢は、大きな溜め息をついて、信奈に降伏を要請する。

 また、その信賢の降伏と時を同じくして末森城内でごたごたが起き、信友ら一派は柴田勝家らにより取り押さえられ、信勝は降伏を近くの元康に要請する。

 2つの要請を信奈は即諾し、犬山城の信清・義龍と稲葉山城の道三を含めて清洲城へ来るよう命じる。

 

 翌朝、清洲城に当事者達は集う。

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