相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第205話 蹴球の話

 

 室町幕府の室町御所がある上京と、その幕府の家臣達が集う鳥羽。その間にある、かつては大きな寺があった所は、良晴が訪れた事のある所だ。

 三好家が作り、京の市民のみならず全国に開かれている西寺跡に建てられた『遊技場』は、平和の象徴として扱われるようになり、周りには市場ができ、活気は更に増していた。

 その遊技場に、相良良晴は久し振りに来ていた。多くの者達と一緒に、だが。

 

(かしこ)まらなくて良いぞ」

「はい!」

 

 良晴はそう言うものの、彼の後ろに控える面子を見て、緊張しない訳にはいかなかった。

 

「広いな!」

 

 伊達良宗と、その御一行。

 

「みんな笑顔」

 

 上杉謙信と、その御一行。

 

「これは相良が広めた事ではないのね?」

 

 北条氏康と、その御一行。

 

「あうう」

 

 松平元康と、その御一行。

 

「久し振りに体を動かせるぞ!」

 

 武田信玄と、その御一行。

 

「清洲の跡地を使おうかしら」

 

 織田信奈と、その御一行。

 

「久し振りに良晴と遊べる」

 

 足利良氏と、その御一行。

 

「…………さがら」

「……ごめん」

 

 良晴との文通で久し振りにここで遊ぶはずだった少女は、彼の心の底からの謝罪に、潜めていた眉を戻す。

 東日本の国主達が『遊技場』に集まった切っ掛けは、良晴が到着直後に自分の所にきた良宗に京とその周りの思出話をした事に始まる。

 姫巫女との約束をずっと頭の片隅に置いていた良晴は、遊技場での事も喋ってしまい、それに良宗が食い付き、良晴も押しの強い彼女に迫られては断る訳には行かなかった。良宗が加わったぐらいなら、と考えていた良晴だが、彼にとっては何故か近くで聞いていた氏康が加わった事で目算が狂う。

 

「私達も行くわ」

「……何故(なにゆえ)だ?」

「興味があったからよ。それが?」

「…………」

 

 という2人の会話があり、良宗より氏康の圧力に屈した良晴は、氏康が行く事を認める。

 その北条家と伊達家の動きは、当然ながら鳥羽の武家達にも注目され、ほとんどが運動系の当主であり、古い慣習はあまり気にしない者達であり、そして良晴がいる事で次々と参加希望者が出てくる。そして、現在に繋がった。

 乾いた笑いを浮かべた良晴は、気持ちと共にやる競技を切り換えて、最初の世界では大坂の本猫寺でしたルールを簡略化したサッカーを開く事にする。

 

「誰かわからないけど宜しくね」

「うむ」

「…………」

 

 氏康らは簾越しでしか姫巫女様を見ておらず、皇居の外に出る時の姫巫女様はあまり喋らない。つまりは、そういう事である。

 相良良晴と、7つの家と、蹴鞠業界で話題になっている少女。それぞれの家から2人出て、8人のチームで戦い合う事になる。

 

「 ちゃんには絶対に渡さないようにな」

「ええ」

 

 そして。

 右京チームは相良良晴、北条氏康、松平元康、上杉謙信、直江兼続(上杉家)、さらっと織田信奈についてきていた今川義元(織田家)武田勝頼(義信)、そして片倉小十郎(伊達家)の面々。最後を護るのは、武田勝頼。

 左京チームは万里ちゃんこと姫巫女様、伊達良宗、武田信玄、織田信奈、足利良氏、北条良氏(北条家)本多忠勝(松平家)、そして細川藤孝(細川家)の面々。最後を護るのは、北条氏良。

 以上の豪華な顔触れで、前後半合わせて四半刻(30分)、相手の最後に入れて、相手を故意に倒さなければそれで良いだけの物凄く簡略化した日ノ本初のサッカーが始まる。

 

「まず1点」

 

 ドン! という音が響き、駆け出そうとした良晴は突風を感じた。

 次いで、バン! というさっきの音並みにでかいそれが後ろから響き、彼は振り向く。

 

「ちっ」

 

 舌打ちした本多忠勝を真っ直ぐ見るのは、両手で蹴鞠を押さえ込んだ武田勝頼。

 

「前へ!」

 

 我を取り戻した藤孝が叫び良晴・謙信・義元・小十郎の攻撃側は、弾かれたかのように走り出す。

 少し待ってから冷静に勝頼が蹴りあげた先には、義元がいた。

 

「来ましたわね! 必殺技をご覧ーー」

 

 だが、信玄が頭でそれを阻む。

 前へ転がした先には、謙信と彼女に追いすがる万里ちゃんがいたがーー。

 

「くっ」

 

 万里ちゃんが、見事なパスで信玄に渡し、信玄はドリブルを始める。

 

「えいっ!」

 

 元康の引っ掛けを普通にかわした信玄だったが、その次の良晴を見て余裕の表情を消す。

 そして、良晴と交錯するかのように見えて、信玄は左へと転がす。

 

「……」

 

 万里ちゃんへと。

 

「しまった!」

 

 良晴が叫ぶと同時に、シュートが放たれる。

 ふわふわと浮いたそのボールに、勝頼は思わず前に出そうになるがーー。

 

「下がれ! 弾道が変わる!」

 

 良晴の叫びに反応して、そして無回転で飛んでくる蹴鞠の弾道の変化に反応する。

 

「ありがとうございます」

「おお!」

 

 良晴にきっちりと礼を言った勝頼は、少し迷ってからある姫武将の方へと蹴りあげる。

 微かに笑みを浮かべた謙信は、足利良氏の邪魔を乗り越え、次いでドリブルしつつ信玄や信奈からのアタックを超人的な反応でよける。

 そして、ゴールに向けてまっすぐ蹴る。急造の余った布を箱形に縫い合わせて横倒しにしたそれの真ん中に蹴られた蹴鞠の真正面に北条氏良はかまえ、守備陣も彼女に任せる。

 

 だが。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 蹴鞠は、良氏の手前で右に曲がる。

 

「ご、ごーる!!」

 

 審判役の商人の息子が声を張り上げ、謙信は静かにうなずく。そのまま、良晴の所まで駆け寄り、首を傾げながら「どう?」と聞く。

 その目で彼女が望んでいる事がわかった良晴は、少し迷ってから彼女の布のような白い髮を撫でる。

 

「ん」

 

 1対0。

 左京チームが猛攻を仕掛けるが、その勢いになれてきた 右京チームが懸命にまもり、なんとか前半を防ぎきる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

午後

京・遊技場

 

 強い。

 それが、西日本の組で決勝に勝ち進んだ左京チームを見て相良良晴が感じた事で、自然と目線は西日本の左京チームの中核になった姫武将の方を見る。

 三好家、毛利家、長宗我部家、大友家、龍造寺家、そして島津家。西日本を代表する6つの武家に、飛び入り参加した将軍家が加わり、試合が行われ、そして左京チームが勝った訳だが、圧倒的と言えるものだった。

 

 三好家家臣、『謀将』松永久秀。

 毛利家家臣、『鬼吉川』吉川元春。

 長宗我部家当主、『鬼若子』長宗我部元親。

 大友家家臣、『西国無双』立花宗茂。

 龍造寺家家臣、『仁王門』鍋島直茂

 島津家家臣、『鬼島津』島津義弘。

 将軍家当主、『剣豪将軍』足利義輝。

 

 試合後、敗将である三好義継・小早川隆景・大友義鎮・島津義久の4人が人目を(はばか)らず愚痴りあい、熊と言われる龍造寺隆信がたそがれ、細川藤孝と元親の妹・信親が一緒に義昭をいじるほどには圧倒的だった。

 だが女心はわからない義輝は満足げな表情で、決勝戦は明日、つまり鳥羽に集った者達が義輝に挨拶した後に執り行うと宣言し、数拍遅れて藤孝はその準備を始める。

 その一方で、いまだ姫武将達からは『蹴鞠が得意な女の子』ぐらいの認識である姫巫女様は、良晴の服の袖を数回引っ張って「何時ものをしよう」と無言で訴えかける。

 

「わかった」

 

 と良晴が言い終えるより早く、姫巫女様は蹴鞠を蹴りあげ、少し焦りながらも彼はそれを返す。

 当然ながらなんだなんだ? となり、良宗などは早速加わろうとするが、今度は姫巫女様が無言で制し、2人だけでの本当の蹴鞠が始まる。姫巫女様は元々だが、良晴もあれから練習していた事と試合をしてたので、2人の息はぴったりで、後ろ向きで蹴りあうほどの余裕を見せた。その様子を、様々な感情で様々な少女が見ていたが姫巫女様はというと全く意に介さなかった。

 だから、である。ある姫武将はある作戦の実行を決め、それを『仲間』達に連絡する。

 

 そして、その日の夜。

 室町御所が燃え盛る。

 それを囲むは『桔梗』の家紋。

 

 この世界の戦国時代の終盤、天下人の死から天下分け目の戦いまでのそれは、こうして幕を開ける。

 

「……貴方は天下を望まないのね?」

「今更だろ、それは?」

「そうね。私は狙うわ。次の天下人に滅ぼされないように」

「…………精一杯頑張るよ」

「私を支えてね?」

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