相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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17 調停

7月18日

信濃・更級(さらしな)郡 川中島

 

 自分では(こら)えきれないほどの敵に攻められた人々の顛末は大体3つに分けれる。

 

「美味しい!」

 

 1つは、その敵に降伏して動き回る者。これは柳生家や丹波荒木家、それに信濃では真田家が当てはまるだろう。

 

「お持ち帰り出来ますか?」

「儂の早馬なら3日で行けるぞ!」

「はあ……」

 

 1つは、自分の故郷を落ち延びて、敵の敵か同族を頼る者。これは前者が足利義輝、後者が土岐頼芸や小笠原父子になるだろう。

 最後の1つは、自害する者。史実の松永久秀や武田勝頼、織田信長、豊臣秀頼などがそれだ。

 その中で、主に2つ目のカテゴリーに当てはまる事になった北信の者達が頼った先が、更に北の越後の軍神・長尾景虎である。

 そして、晴信の善光寺調略を受けて京から帰ってきた直後の彼女が出陣した事からはじまったのは、川中島の戦いの本当の始まりと言える争いだった。

 

「4月からずっと対陣しているのですが、一向に動く気配がなく、膠着状態にあります」

 

 善光寺を統轄する粟田家が武田に寝返り、景虎は軍事的にも重要な善光寺奪還のためにすぐさま出陣。粟田家は旭山城に籠り、それを攻めたい景虎と阻止したい晴信が睨みあう。

 そんな構図が、春先からずっと続いていて、戦場の周りでは両軍の将兵をお客さんとした商人達による小さな町が出来ようとしていた。

 その町の建物の1つが、頼次達にあてられた宿である。武家達を釣ろうとしたら京の公家達が釣れたのに戸惑いつつも、宿の主人はしっかりと歓待する。

 

「深志の話は一切無かったな」

「ええ」

 

 長時が言う深志とは、信濃守護所を兼ねていた筑摩郡の深志城の事で、今では松本城と呼ばれている所にあった城の事だ。

 諏訪からわざわざ和田峠を経由して真田領の方をまわるというあからさまな誘導もそうだが、晴信は長時に騒がせないつもりだった。

 

「そこまで警戒しなくても良いのになあ」

 

 しかし、頼次から武田家の後ろ楯付きの六角・斎藤家の怖さを説かれた長時は、三好家にお世話になっている内は騒がないと決めている。

 本望としては早く帰りたいが、北条と今川と同盟を結んだ武田家を相手にするのは難しいとも思っているので、待つことにしたのだ。

 

「景虎殿が粘ってくれ、武田による信濃統一が無きことを諏訪大明神様に祈っとくか」

 

 そのために、長時が三好家とは別ににゃんこう衆や上杉家、更に最上家などと連絡をとってたりするが、長慶も頼次もそれは黙認していた。

 とにもかくにも、この北信訪問の時の長時は『一行の護衛』に徹する。

 

「さあて、頼次殿! 今日もやるぞ!」

「はい!」

 

 暴れられない事に対する鬱憤ばらしは、小笠原家に伝わる弓馬礼法術を一族だけではなく、門を叩いた者達に教える事だった。

 争い真っ最中の北信訪問の道中は、それを頼次と氏清、護衛の若者達に絞り、人が少ない分しごきは何時もより強い。

 完全に日が暮れるまで続いた鍛練が終わった頃には、さすがの頼次もヘトヘトになっていた。

 

「つっかれたー!」

 

 何故か武田晴信と共に。

 武藤喜兵衛、高坂弾正などなど名だたる者達も死屍累々の状態になっていた。

 鍛練が途中で過去最高難度に跳ね上がった主因であろう者の胸を睨みながら、頼次は答えない。

 

「やはり胸の事か?」

 

 ニヤリ、という小悪魔の笑みの晴信からそっぽを向く頼次。

 それを見た晴信は、喉の奥で笑い、頼次の肩を勢いよく叩く。そして、そのまま彼女の体を引き寄せようとして、しかし出来なかった。

 

「聞きたいか?」

 

 その悪魔の誘いに、しばらく迷った頼次であった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

7月25日

信濃・上水内(みのち)郡 善光寺

土岐 頼次

 

 やっぱり何時の時代も有名な寺は大きいのねぇ。まあ、寂れてるけど。

 善光寺ってなんの総本山だっけ? お伊勢さんだっけ?

 

「頼次様」

 

 んっ?

 

「現実逃避は駄目です」

「だってぇ」

 

 したくなるでしょ、こんな状況になってるんだから。

 

「しなくちゃいけない?」

「しなくちゃいけないです」

「やる?」

「はっ?」

「イエ、ナンデモ」

 

 最近の氏清は怖いわぁと思ってると、本堂の両端の襖が同時に開いて、同時に人が入ってくる。

 片や眼帯をつけた隻眼の老人で、片や兎のぬいぐるみを抱えた男。

 

「初めましてですな、宇佐美殿」

「ええ、山本殿」

 

 山本勘助と宇佐美定満。

 武田軍の流れ者軍師さんと、上杉軍の水遊び軍師さん。

 (なん)でその2人が善光寺の本堂で顔を合わせているかというと、この2回目の川中島の戦いの和平協定締結のためだ。

 

「では土岐殿、よろしく頼みます」

 

 そして、私達がいる理由は、その和睦の執行者の役割を任されたから。

 …………うん、やりたくない。

 公家達は武田・上杉が応じず、重(まさ)さんは断り、長時さんはまあ、うん。……という事で私にお鉢がまわってきたらしいけど……。

 

「自分達でしないの?」

「頼次ならわかるだろ?」

 

 質問に質問を返した晴信の高笑いを考えて感情をコントロールしつつ、私は和睦の締結式? を執り行う。

 和睦の条件はーー

①晴信は須田、井上、信濃島津など北信の人の旧領復帰を認める事。

②晴信は旭山城を破却する事。

③景虎は栗田鶴寿を許し、彼の善光寺ごとの甲斐への移住を手伝う事。

 という感じで、景虎は犀川より北側は確保出来た。

 一方、晴信が迫った時に武田or長尾でほぼ分裂していた栗田家は正式に分裂。善光寺の栗田家は甲斐に落ち延び、戸隠神社の栗田家は安堵される。

 

 そして、この戦いの終結で、やっとこさ九条さんの目的を出来るようになった。

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