相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第208話 一の話

「御主人様自身に転生の能力はございません」

 

 闇に声が響く。

 

「御主人様がこの世界に好かれ、忌々しい3種の神器の輪廻に捕らわれてしまった。それが失敗しても、失敗したと決めても、輪廻転生が終わらない理由です。

 では、どうして好かれてしまったのでしょうか? 何事にもくじけない精神力があるから? 女の子によく好かれるから? それらも一部に含まれているでしょう。しかし、それらは本筋ではない」

 

 ここからは未来の話、と区切る。

 

「御主人様が刺された後、その犯人の女狐の実家に行きました。治療費その他諸々を出してくれた『お礼』にです。

 その家族から大いに感謝された事に首を傾げていた御主人様は、京は東福寺の近くにあるその家から近くの寺に新幹線の時間までの次いでに立ち寄りました。

 そこで御主人様は少女と出会い、近くの空き地で時間ぎりぎりになるまで遊び、また会おうと約束したそうです」

 

 しかし。

 

「その少女は待ちきれませんでした。

 また、遊びたい。その思いを、彼女は我慢しようとせず、そして特別な力を有していた彼女に、特別な力が漂っていた空間が合わさり……鎖が出来上がりました。

 その少女の名前は上杉誠子。勧修寺(かじゅうじ)家の支流の上杉家の末裔の1人であり、そして6歳に弟が産まれるまでは男として育てられ誠子ではなく誠一と名乗っていました。一は(ひと)つとも呼びます」

 

 そして。

 

「戦国時代にある親王殿下がいました。父親から政務を任されながらも、時の天下人の賛同を得られず、その天下人の死の時に自分も死ぬべきかと質したといわれる御方。そして、勧修寺晴子さんを嫁にしていた御方」

 

 名を誠仁(さねひと)親王と言う。

 父親の正親町天皇や、ほぼほぼ天下人であった織田信長の前で行われた蹴鞠大会にて参加した実力者。

 そして、和仁親王が後陽成天皇として正親町天皇の跡を継いだ事から『太上天皇』の号を与えられた親王は、歴代天皇と同じく御陵に葬られる。京は泉涌寺の裏にある月輪陵という所に眠られており、近くには東福寺がある。

 

「彼女は、その親王と結び付き、そして第六天魔王が現れる前に姫巫女様となられた。それによって、この日ノ本は狂い始めた。見えない力が、よりこれ以上の改変を拒むようになるまで」

 

 最初の時も、今までも、そして今回も良晴は主に付き添って謁見する前に姫巫女様と会われている。そして、最初から徐々にだが繋がりは深まっていく。今回に至っては 回も会え、蹴鞠もしあうまでに。

 では、何回もの輪廻の末にそこまでの深まりに至った姫巫女様にとって、今回の乱世の終わりはどう写ったであろうか。

 

「足利将軍が復権し、公家や京の民も認めていた北条家を含めない連合政権が出来ようとする。確かに足利義輝は傑物だが、それ故に鎌倉公方と一心同体の北条家を滅ぼそうとしそれを可能にするのでは無いか?

 そこまで考え、姫巫女様は足利義輝を表舞台から引き摺り下ろす事にした。ですが、間近な義輝を舞台から引き摺り下ろすと、その証拠が残ってしまうかもしれない」

 

 だから、ある道を辿って美濃へと導く。

 5摂家の1つ・一条家と、土佐の国主・土佐一条家の間の関係は深い。

 西土佐の土佐一条家と、東土佐の長宗我部家は北条氏康の仲介で手打ちとし、当主の間にはある協力関係が生まれていた。

 脇道だが、土佐の土佐一条家と、陰陽と北九州の太守だった大内家は、大内義隆の跡継ぎが一時は土佐一条家の実子であったほど関係が深かった。

 長宗我部家の主である長宗我部元親は、土佐統一を進めている頃、京の石谷家に接触していた。その家の娘と仮の結婚をするために、である。

 土岐家の支流の1つである石谷家の主の光政には男子はいなかったが、2人の娘がいた。片方は長宗我部元親の嫁に内定し、もう片方は自身の跡を継いだ頼辰に嫁いだ。

 その頼辰は養父かつ義父の光政と同じく足利幕府の奉公衆となったが、弟は実家を継いで斎藤利三と名乗り、同族かもしれない道三が退いた後にきた頼次の馬廻りに転進する。

 そして、これも脇道だが、利三が美濃に帰る前に仕えていた松山新介は、西国と貿易する堺に産まれ、本猫寺の護衛役を経て、松永久秀に仕えていた。

 

「そして、土岐家の盟主である私は、幕府の事をよく知っていた松永から美濃に帰ってきた」

 

 それに、である。

 彼女は、今までにも無かった戦いも参加し、北条家とも繋がりを持っていた。

 

「あれ以来でしたね。北条家の北面武士の方々と、御主人様の話題で仲良くなれたのは」

 

 後は、やろうという意志があれば、精強で事件後に姫巫女様に命じられてすぐに現場に駆け付けた北面武士とその武器を借りれるので簡単だった。

 

「ですが、それだけではありません」

 

 姫巫女様は迷っていた。自分のために歴史ある足利幕府を引き摺り下ろして良いものか、と。

 だが、縁に立つ彼女を優しく、しかし心の中では卑しく笑いながら押した男がいた。

 

「名は武田信虎という妖怪。その名前を、私は北面武士の者から聞きました」

 

 何故、武田家も連合政権に加わる今の体制を壊そうとしているのか?

 その答えは、事件直前に躑躅ヶ崎館に呼ばれた土岐頼芸が次の日には木曽家の所に現れ、同じ頃に丹後国内の争いに敗れた一色家一族の一部が若狭、越前、そして近江を経由して伊勢に入った事で納得がいった。

 

「武田家が得れたのは甲信遠駿の4ヶ国ですが所詮それ()()。肝心の目標である『瀬田に武田の旗を立てる』は、将軍家を味方とみなすならば1つの家によって阻まれました」

 

 両雄、というより両虎が何時までも並び立たない事は言われていたが、ここまで早く仕掛けてくるだろうとは思わないだろう。

 

「そして、戦いが起きる」

「はい。最後の大戦へと動いています。それが終わるまでは、ここで療養していてくださいね、足利義輝」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 束の間の平和、のち大戦。

 後に生き残った者はそう評し、それが更に後の人々にも受け入れられ、この時代を代表する言葉になった。

 平和から大戦への移り変わりを告げる落雷があったのは、室町の変から2ヶ月経った2月16日、捜査を担当していた相良良晴は、室町御所から幕府機能正式に移った二条城に入った時だというのは一致している。

 

「相良良晴、参りました」

「ご苦労である……」

 

 良晴に対するのは、元気がない足利義昭。良氏派からの「義昭様が姿を現してほしい」という『要請』を、幕府を実際に動かしている細川藤孝は、この時機に行う事で意趣返しをする。

 髪は腰どころか畳につくまで伸び、頬は膨らみなく平坦で、着物も微妙におかしい。その弱々しい姿に、良氏派も将軍として大丈夫か? という心配より、まず彼女の体調を気遣ったほどだった。

 だが、その義昭の元気のなさは、暗い場にあって微かに笑みを浮かべた良晴の一言で消える。

 

「まず、義輝様は死していない事をお伝えさせていただきます」

「………………ええっ!?」

 

 言われた事の意味を考え、その意味が頭の中に入り、目の前の良晴が嘘をついてない顔をしていると感じ、ようやく義昭は声をあげる。

 周りの幕臣達や鳥羽に駐留している大名達の者もざわつく中、義昭は着物がずれるのも構わず、高速で這いながら良晴に突進する。

 

「ほ、本当なのか!?」

「はい。まだお姿を見つける事は出来ていませんが、生きている事は確実かと」

「…………うわあああん!」

 

 人目を気にせず義昭は良晴に抱きつきながら号泣し、彼はそんな彼女を優しく抱き締める。

 泣き止んだ彼女に、義輝が生きている理由を話す。

 

「獣狩り?」

「はい。綺麗な太刀筋で猪や鹿、狼が斬られているのがある範囲で相次いで発見されています。剣豪に聞いてみた所、その切り口からして鹿島新当流を極めたぐらいの者が仕留めたのだろう、と」

「兄上が極めてきた流派!」

「はい。念のために の中でも極めた者達の動向を探ってみましたが、将軍様以外は掴む事が出来ました」

「おおっ! で! 兄上はどこに!?」

「……残念ながら、獣狩りの範囲は広大であり、何処だという特定は出来ません。

 しかし、その範囲から愛宕山から朽木の間の山のどこかが正しいかと」

 

 その範囲にざわついたのは、この京を本拠地としている幕臣達だった。

 朽木がそれなりに近くにある愛宕山、となると火除けの神様が祀られている嵐山の上の愛宕山しかなく、そこから近江の朽木までとなると、丹波の東の山々となるからだ。

 

「また、何らかの理由により、将軍様は脱出しようとしても出来ない模様です。もし、それが相当の手練れがいるからだとすると、無闇に探すのはやめた方が良いかと」

「……土岐頼次?」

「どうでしょう。ただ、徹底的に調べた東濃の人々ではない事は確実です」

「……ふむ」

 

 その日の内に、足利義昭の代筆として細川藤孝が、ではなく、足利義昭の名前で御教書が出される。

 

前 各家は兄上を東丹波の山々において探す人員を派遣する。

後 各家に改めて不戦の命令を出す。特に武田家の国境での争いには目に余るものがある

 

 という内容の物が、である。

 その中身に、ある者は驚き、ある者は感嘆し、ある者は悲観にくれ、ある者は笑みを浮かべた。

 前者はともかく、後者は藤孝派の筆頭大名の片側だった信玄を名指しで批判した事は誰かが「何を考えているんだ」と言ったほどだった。

 甲信駿遠を抑える彼女が良氏派にまわれば、力の釣り合いが大きく傾くだけではなく、最悪の場合、畿内とその周りにある将軍家が囲われる事態になる。日本地図を理解していればわかる事である。

 

「良晴、か」

 

 北国の白い少女は、この一文を無垢な少女に書かせた者であろう名前を呟き、北条家第一の彼ならやりかねない事だと思う。

 だが、頭では納得出来ても、心で納得出来るかというと話は別である。

 

「兼続。上野の軍を増やして」

「はっ」

 

 書状が知れ渡ってから1週間後には、利根川沿いを中心に徐々に人が多くなる。

 そして、その間、いっこうに義昭の良氏に対する返事は無かった。

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