北陸
にゃんこう宗の武装解除、というのは足利義輝の下に天下が安定した頃から話に出ていたが、武装解除後の自治についてどうするか決めれず、朝倉家・畠山家・上杉家が対立しあい話は進まなかった。
その3つの家は幕臣の下に話し合いを進める一方で、密かにすぐに軍事行動を起こせるようにはしていた。
だから、けんにょが武装解除を宣言したその日に、朝倉家と上杉家は動き始める。
「本当に良いの?」
「我等が争いあっていても無駄。ならば、新たな主を迎え入れた方が良いと思っただけでございます」
畠山家は上杉家に臣従する道を選ぶ。家臣達が推し進め、しかしけんにょによってそれが起きた日には一揆が起きてしまう対外遠征を無くすため。
相良良晴の上洛をした時に事情を聞いていた上杉謙信は、その身売りに近い行動を受け入れ、新たな主を拒む一部の家臣達が籠る七尾城を囲む。
一方、その畠山家の身売りに謙信よりも驚いたのが、朝倉家の者達だった。畠山家が得るであろう越中を緩衝帯にして、潜在的な北陸の覇権を巡る敵である上杉家を止めようと考えていたのに、越中も能登も謙信の手中に収まったのだから仕方ないだろう。
「……御館様より御命令だ。手取川の手前で軽い戦を行った後、急いで越前国内に撤退せよ」
「承知」
だが、野戦なら9割以上の確率でやられるので、北之庄に本陣を置いた義景は一応抵抗の意思を見せてから退かせる事にする。
当主に「実験台」として最新の防寒用具や生活習慣、食事を受けているがもはや自力で歩けないまで悪化している義父・朝倉宗滴に代わり、前線の当主代行として出ている朝倉景紀は、奥深くまで出てたので加賀国の中部を流れる手取川に陣取り、追撃してくる上杉軍の先鋒を迎え撃ちつつ越前側に渡らせる。
「御館様が!?」
「はい! 小松で待っておられます!」
少し前までなら絶対に無かったであろう出陣をした朝倉義景は、最低限の損害に踏みとどまりつつ退いてきた景紀と合流し、その部隊を吸収する。
「村ごとに自治を認めながら撤退する。手取川より南を主張する」
「「「はっ!」」」
上杉軍を背にしての撤退は普通なら怖じ気ついてしまうが、その中核である謙信が七尾城を攻めているという情報と、義景自身がわざわざ国外に出てきた事からの安心感の方が勝り、規律を保ちつつ整然と母国への帰路につく。
「景紀、お主の妻は何を好む?」
「はっ? …………ええと、何の
「……装飾品だ」
「ならば美濃焼です。使いやすく、割れにくいから重宝するとか」
「ふむ、焼き物か……」
景紀は、当主であり でもある義景が考え込む様子を、微笑ましく思いながら見る。
何時までもその幸せが続きますように、と景紀は改めて願うが、その直後に加賀国を探らせていた早馬が駆けてくる。
「注進! ご注進でございます!」
「…
当たってしまう、嫌な予感が。
「上杉
結局。
七尾城をそもそも囲まなかった上杉謙信は僅かな、だが一騎当千の馬廻と共に加賀国を駆け抜け、朝倉義景を捕捉。少数での急襲だったが、それ故に朝倉軍の防衛は整っておらず、縦に 段構えていた朝倉軍を まで突き破る。だが、そこで謙信の猛攻は止まる。
「上杉謙信! 朝倉家は降伏する!」
英断かその逆か、この時は宣言した義景自身どうかわからなかったが、その声に謙信が止まったのは確かだった。
上杉軍の馬を駆ける音が消えると、戦場には張り詰めた無音が漂う。馬上で槍の先を向けあう者達もいる中で動いたのは、自分の馬を動かし始めた義景だった。
「一、朝倉家は加賀、能登、越中の
ゆっくりと、謙信に近付く。
「ニ、朝倉家と上杉家は永年に渡り互いを侵さない契りを結ぶ」
敵の総大将に近付く主に、朝倉軍は戸惑うが、やがて誰もが左右に開けていく。
「三、朝倉家と上杉家は越前と加賀の国境に城を築かず非武装とする」
義景も緊張はしていたが、前みたいに怖じ気づく事は無かった。
「四、朝倉家と上杉家は互いに相手の軍の通行を認めるが支援は行わない」
背を見せる事なく、義景は謙信と刺し違えれる距離まで馬を進める。
「そして、五に幕府の許可を得て、俺の下に生まれてくるであろう子供を、上杉
決まった。
そう思ったのは、景紀だけではなく義景もだったが、彼らはそれに対する謙信の言葉に、体が震えるのを感じた。
「六、共同で織田
燃えている、応仁の京のように。
そう感じた義景は、ただ頷く事しか出来なかった。
この後、朝倉軍は一時的ながら上杉謙信の旗の下につくことになり、それを聞いた七尾城は降伏し、若狭の武田家も「毘沙門天の旗の下に集っても宜しいか?」と問い、軍神は1日も経たない内に北陸道を平定する事になる。
その北陸と近江を分ける をも躊躇せずに踏み越えた謙信は、夜も更けてきたのもあるが旗色を鮮明にしない浅井家を威圧する為にも湖北山地と平野部の境目にあたる
その書状を出した謙信は、2つの戦いーー
「良かった」
その乙女の声色を耳にしながら、義景や景紀は本当に良かったと安堵する。
一方で、謙信に「不倶戴天の敵」と認定された織田信奈にとっては悲報しかなく、暴れる元気もなく、ただ愛しの人が残していった物を抱きしめるしかしなかった。
そして、京で良晴は笑う。
2つの戦が転換点を迎えた事に。