相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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19 忍と龍

8月15日

 

 京、相国寺。

 足利義満が開き、山外塔頭(さんがいたっちゅう)に鹿苑寺と慈照寺があり、水墨画で有名な雪舟が修行した寺。

 その寺を足利義輝は京に帰ってくる場所として、勝者である三好長慶や細川氏綱が迎えに来ていた。

 それがあるなあ、と思い出していた頼次は、すぐにその些細な事から目の前の事に再び集中する。

 京を出て木津川沿いに歩き、そして島ヶ原を越える。その先の小さな家で、彼女は裁定が出るのを待っていた。

 

「お待たせ致した」

 

 昼前、2刻(4時間)にわたる会議を率いた老人は、疲れた様子を見え隠れさせながら、上座ではなく頼次と同じ下座に正座する。

 見た目以上に歳いっているはずの老人の正座に、頼次が反応するが、それを彼は苦笑いを浮かべながら手を上げて止める。

 そして、自分が率いる朗党の者達全員が座り終えたのを気配で判断した老人は、おもむろに頭を下げる。

 

「この服部(やす)長含めた服部党、土岐様の配下で命をとして働く事を決めました」

 

 老人の息子、半蔵という名を正式に引き継いで三河にいる正成は、朗党のほとんどと共に新天地に向かった。

 一方、1度は松平広忠(竹千代の父親)の配下になったが森山崩れ(広忠暗殺事件)で引退した保長と、彼についている者達。数は少ないが、細々と生きていた彼らは、新しい主君を定める。

 その答えに、ダメ元で挑んだ頼次はその仕官先の変更に驚き、心の中ではダンスを踊るほど喜ぶ。ちなみに、本来彼らがつく予定だった松永久秀は、その報告に苦笑しただけだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 三好長慶と足利義輝の和睦。

 それによって、畿内には平穏が訪れ、根気強い人達は荒れ果てている所もある故郷に帰り、日常をぎこちなくも再開させる。

 そして、多くが順調に軌道に乗り始めた頃の8月下旬、主に大和北部で動き回っていた頼次の下に黒服の男が現れる。

 

「事件?」

「の前段階になります」

 

 保長の言葉に、生駒の石と木の目録が書かれた紙を置き、聴く姿勢になる頼次。

 律儀な主君に、息子からの桃色の知らせはまだな保長は、暖かい気持ちに一瞬だけなった後、大和南西部で動いていた配下から受け取った報告を伝える。

 それを聞いた彼女は、少しだけ考えてから、山の上で指揮をとっている主君の下に向かう。

 

「総州家で戦の準備の動き、ですか」

「はい。まだこそこそと動いている段階のようで、特に宇智郡と河内との人の往来がいつもより多くなっているとの事」

「……しかし河内は尾州家の播磨守(畠山高政)殿の治世。上手く……いっているのが逆に(うと)ましいという事ですね」

「恐らくは」

「まったく。ぼんくら達は本当に好き勝手に動きますね。わかりました、長慶様に許可を貰いに行くのでーー」

「山登りをしてもよろしいでしょうか?」

「…………危険ですよ?」

「しかし、成功すれば大きな弾みとなります」

「……止めても無駄でしょうね」

 

 傍らで聞いていた荒木氏清は、半分くらい意味がわからなかったが、また姉御は常識を変えるんだなと達観した思いを抱いた。

 そんな氏清に、頼次はある格好をさせて、自分も髪を隠しつつその格好をする。

 

「似合う?」

「……反応に困ります」

「えー」

 

 そして、頼次は柳生家の弟子で、今から行こうと思っている所にも程近い所に住んでいる老人も引き連れて、1度河内に出る。

 三好家の本拠地があるため影響力が強い。なので、あまり失敗は気にせずに南へと歩いていく。

 

「ここからが紀伊でございます。紀伊が見れる、という事で紀見峠とも呼ばれています」

「ほう。城はあるんか?」

「畠山の家臣である隅田(すだ)家かちらほらと。今は、先の戦いからか少し混乱しております」

「なるほどな。せやったら、あの山に行きやすいっちゅうわけか」

「はい」

「…………どう? 大丈夫?」

「大丈夫どころか完璧です」

「そう?」

 

 厳しい柳生の弟子さんに太鼓判を押された頼次は、今までより更にスピードを上げながら山を降り、9月の秋空の下を難なく歩いていく。

 小さいながらも大和に生きる武家を曾孫の世代まで育ててきた老人も、2人と同じく白い行人包を被る氏清も、彼女の後ろをついていく。

 今までと同じように「高貴な家の美少()2人が、戦乱によって出家する」ように見られながら、3人は紀ノ川を渡り、目的地の高野山の入り口に辿り着く。

 だが。

 

「騒がしい、ですね」

「ですな」

 

 騒がしかった。

 朝廷へ強訴を繰り返す比叡山や南都(奈良)の寺達や、三好元長を自害に追い込んだにゃんこう宗とは違い、武家に対して局外中立を保ち続け、事前情報でも「騒ぐことはあまりない」と記されていた高野山が、その入り口の山門から騒がしかった。

 どうしようかと立ち止まり、仕方なく近くの茶屋に入った直後に、頼次の側に商人が現れた。

 

「調べてきますか?」

「うーん…………無理しないようにね?」

「はっ」

 

 商人に扮した服部保長が早着替えをして高野山に難なく入っていき、頼次らはそれを待つために注文を追加する。

 数分してやって来た団子を食べていると、頼次は見覚えのある人物を見つけて固まった。

 固まり、頭を抱え、そして苦笑いを浮かべながら立ち上がり、今で言う八百屋の前で品定めをしている少女の所へ向かう。

 

「兎さんや兎さん。ここは貴女の巣では無いはずではないのかね?」

「っ!? …………土岐頼次?」

「久しぶり、長尾景虎さん」

 

 頼次の頭の中には、彼女の高野山への出家騒動の顛末があった。

 そして、翌日には実際にその通りになり、頼次はそのまま景虎がいた高野山の山麓の小寺の一室にとどまり、ある交渉を行う。

 

「……承りました。これで良いでしょう」

「ありがとうございます」

 

 交渉が纏まり、1つの協定が結ばれたのは、始めてからわずか半日経った頃だった。

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