相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第2次国府台合戦スタートです。


第8話 足利梅千代からの話

「遠山、富永、そして公方家の軍勢が渡良瀬川を渡ろうとしています!」

 

 里見方の本陣。

 そこには総大将の里見義尭はもちろん、今回の戦の引き金を引き今は義尭の客将としている太田康資の姿があった。

 そこに物見の兵が駆け込み、戦が始まった事を告げる。

 

「時茂!」

「御前に」

「そなたと康資殿で奴らを迎撃せよ! 良いな?」

「もちろんです」

 

 そして、知らずの内に義尭は呟いていた。

 

「やはり虎だ、あの女は」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 一方、11月下旬の渡良瀬川の寒中水泳を終えた先行部隊は、三角形に部隊を配置し頂点に遠山軍、右側の里見側の本陣に近い側の頂点に富永軍、そして左側の頂点に足利軍が布陣する魚鱗の形をほぼ変える事なく、台地の頂上から駆け降りてきた敵軍とぶつかる。

 良晴が元々いた世界では千葉県市川市内にある国府台は、渡良瀬川と坂川という川の合流地点の辺りにある河岸段丘で南北に細長い作りになっている。今回、晴氏らが攻め寄せたのはその段丘の北側にあたる所である。

 勢いはあったが、寒中水泳を終えた直後であり、坂を駆け上がるため疲れている不利な状態での攻撃のため、遠山綱景も富永康景も本陣に来れる可能性は低いと思っていた。

 

「さあ、来やがれ! 晴氏様はここにいるぞ!」

 

 しかし、古河公方である足利晴氏が参戦した事で、そして駆け降りてきた部隊の中に太田桔梗の旗印があったことで、遠山・富永両軍の士気はうなぎ登りとなり、ぶつかりあってもまだ足利側はその足を止める事は無かった。

 その晴氏を守るのは、武蔵で名を馳せるために鍛えぬいた肉体をもつ永盛率いる元義賊衆。現役の古河公方の首を狙わんとするその時点で勇気ある者達を、彼らは手前で阻んでいた。

 そして、我らが相良良晴はというとーー。

 

「へへっ、さすがにつええな」

 

 1人の武将を相手に、白千代と2人で戦っていた。

 

「貴様も中々の者よ。名を聞こう」

「俺は相良良晴! 北条幻庵宗哲長綱様の新参者だ!」

「私は……風魔と言えばわかるでしょうか?」

 

 新参者と忍者。

 その通称もない者達の組み合わせに、槍を振り回して2人を牽制してから、三つ引両という主とは少しだけ違う家紋を旗印に掲げる男は大笑いをした。

 

「我は里見刑部少輔義尭様が家臣、正木大膳亮時茂である!」

 

 まさかの大当たりだった。

 

「槍大膳か!」

 

 避けるに特化した良晴と、攻撃に特化した白千代。

 その2人のコンビネーションは、槍に優れた時茂が苦戦していると自覚するほどの物だったが、3人の一進一退の攻防より先にその周りが崩れた。

 

「時茂ー! 下だ!」

 

 乱戦の中に聞こえてきた己を呼ぶ声に、呼ばれた時茂はその声の主を確認することなく、坂の下を見て、そして少しばかり目を見開いた。

 直後、里見の方から法螺貝が鳴り響く。

 

「撤退だ!」

 

 叫んだのは時茂。渾身の力で白千代を槍と刀越しに飛ばし、それに良晴が飛び付くのを驚きつつも見てから、同じことを何回も叫びながら、さ迷っていた馬に飛び乗り自身も撤退していく。

 少し転がりながらも白千代を守った良晴が、時茂を追うのを諦め、彼が見ていた方を見やる。

 

「大丈夫か!?」

 

 目の前で、姫武将が馬に乗って自分達を見ていた。

 どこかで見たことのある家紋をした旗印を背中に差している男達を引き連れる少女に、返事をしようとした矢先に、悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 

「公方様!」

 

 砂煙の向こうで、見えるは一際きらびやかな旗印を背中に差し、感情を放出させている馬に乗った男。

 それを見た瞬間、良晴の理性は吹き飛んだ。

 

「晴氏ーーー!!!」

 

 叫び、白千代を傍らの地面に置き、間近の馬に飛び乗り、その馬の手綱を握り、最後に馬の腹を蹴る。

 それを思わず白千代や男達が惚惚(ほれぼれ)とする流れと速さでした良晴は、無心に馬を操り、一目散に晴氏の元へ向かう。

 数秒経ってから男達が良晴の後を、いや良晴と馬の間にいる主君を追い掛けはじめ、息を整えたが顔が赤いままの梅千代も走って良晴を追い掛ける。

 一方、良晴に無意識の内に籠手の上に手を乗せられている荒武者・佐竹義重はというと。

 

「あわあわあわ……!」

 

 初めての感覚に、その力を使えていなかった。

 体は固まり、甲冑越しに重みが伝わり、防具をつけてない足は自然と良晴に譲ってしまい彼の上に乗せているので暖かさが直接感じれた。

 擬似的に義重を抱き締めてしまっている良晴だが、もちろん誰であるかは気付いてなく、後で謝ろうと思っているだけだった。

 

「晴氏!」

 

 成長中の佐竹家の新当主である義重が乗る馬なのでその馬は駿馬であり、晴氏が里見軍の殿に達するまでに彼が乗る馬に並走する事が出来た。

 呼び捨てに驚き、2人羽織に驚いた晴氏だが、良晴が寄り添ってきても馬を止めようとはしなかった。

 恐らくは俺の言葉は届かないだろうと考えた良晴は、葛西城を出たときに梅千代から直接渡され、裾の中にしっかり入れていた紙を取り出す。

 

「御父様、この文を相良良晴が読んでいる時は、恐らく命を捨てようとしている時でしょう」

 

 梅千代が文を書いている時にわざわざ口で言ってくれたので、記憶の棚からその部分をまるごと引き出して良晴は話す。

 

「御父様、私は御父様にこのような所で死んでほしくありません。戦場で散るという言葉は武士の美しき死に様と讃えられておりますが、私や母上などはそう思いません」

 

 その言葉ははっきりと、砂煙が舞い、法螺貝の音が鳴り響き、悲鳴その他諸々の声が響く戦場の中でも晴氏の耳に届いていた。

 

「私を拐われたという生き恥にかられている事も存じています。確かにそれはあるでしょうが、それも元をたどれば、御父様に覇気が無かったからでは無いでしょうか? 御父様は、太田のクソ野郎に公方職の譲渡を迫られた場合にどう答えていましたか?」

 

 そして、良晴の真横で馬のスピードを落としてきた晴氏より近く、良晴の真下にいる義重の耳にも。

 

「私は御父様に生きてもらい、私が成長し、この戦乱の世が終わるのを見てほしいです。我らが祖先である等持院(足利尊氏)様も和歌を残しています。

 秋風に うきたつ雲は まどへども のどかにわたる 雁のひとつら

 秋の雲のように死に急がず、ゆったりと雁のように自分の意志で飛ぼうでは御座いませんか?」

 

 願わくば、この手紙の返事が私の下に来ることを。

 足利晴氏が長女、足利梅千代。

 

「これでも、あんたは、死に急ぐのか?」




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