相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第9話 佐竹と遠山の話

氏幹(うじもと)! 政景! 殿を頼むぞ!」

『御意!』

「永盛! 頼んだ!」

「おう!」

 

 良晴は晴氏を説得させ白千代に彼を任してから、戦況を見ていた義重が撤退を決断したので、それに準ずる事にした。

 彼を説得させてから馬を操れなくなったので、佐竹家家臣からしてみれば何時もより声が高い義重の後ろに乗せてもらい、白千代の代わりにこっちに来た永盛に殿を任せる。

 義重も真壁氏幹と梶原政景という2人の猛将に殿を任せた後、そのままではぶつかるので斜めに傾かせて良晴を見る。

 

「遠山殿と富永殿は……」

「富永殿の旗印が見えない!」

「くそっ!」

 

 悪態をついてから、良晴は自分の下に馬をよせてくる自分と同じくらいの少年の武将を見やる。

 

「富永康景様が長男、富永政辰様より派遣されましたーー」

「撤退だ! 康景殿も一族総出は撤回しただろ!?」

「有り難きお言葉!」

 

 富永氏の『木爪』の家紋の旗印があったので富永一族の誰かである者と良晴の短い会話の意味を、義重は視線で聞く。

 

「遠山もそうだが富永も一族総出で太田を討ち取ろうとしてたんだ! それを俺が幻庵様と晴氏様の言い付けとして撤回させただけ! 恐らくは富永の長男もーー!」

「きゃっ!?」

「くっ!」

 

 良晴の話をよく聞こうと義重が馬のスピードを緩めた隙を狙い、里見の弓矢が通り雨の如く降り注ぐ!

 良晴が義重を抱きよせ、義重から弓矢を守るが、彼女の顔を覆う右腕に激痛が走り、その直後には体から重力が無くなった。

 

「殿!?」

 

 甲冑は少なくとも15キロ以上の重さがあると言われるが、その2倍の重さに耐え、坂を転げ落ちても義重を抱き抱えたままで気を保つ事が出来たのは、良晴のタフさと過去の経験からであろう。

 手持ちの刀で弾いた佐竹義昭の弟で義重のおじにあたる男に、気絶した義重を任せた良晴は、首の上に浅く矢が突き刺さっているが気にしてない義重の愛馬に乗り、1度後方を見てから、義重の見よう見まねに馬をかりはじめる。

 

「良晴!?」

 

 永盛が防ぐ最前線の更に先へ。

 

「どけどけー!」

 

 攻撃された事に怒り狂う馬と、姫武将とはいえ女の子を矢で射ってきた事に怒り狂う良晴。

 奇しくも感情で人馬一体になり、良晴が柄だが両手で槍を振り回しながら突進していく様は、敵のみならず味方さえも(おびや)かしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「父上! 法螺貝が鳴っています!」

「黙れ!」

 

 晴氏様は最初に撤退を始め、富永様も援軍の佐竹様もそれを見送ってから同じく引き始めた。唯一、父上が率いるこの遠山軍だけが引いていない。三者が坂を降り始めたのは戦局から言って妥当であり、むしろ引いていない我らが可笑しいのである。

 そして、父上が引こうとしない理由は簡単。

 

「康資ー!」

 

 この遠山軍にぶつかってきた太田桔梗。それを散らそうと躍起になっているからである。

 太田康資は冷静に対処し、しかし押し込もうとも引こうともしていない。その理由は、さっきから近付いてくる複数の馬音だろう。

 

「隼人佐!」

「はい!」

 

 理性は失ってーー。

 

「お前だけ撤退しろ!」

 

 いたようだ。

 怒り狂う父上をここから退かすためには力ずくしか無さそうだが、俺を含めた全員が誰かと戦っている。

 撤退した誰かが一刺しを。

 

「殿!!」

 

 その叫び声を耳にするまで一瞬。

 耳に入れて理解するまで一瞬。

 それが誰を指すか考えるまで一瞬。

 そして、総合的に判断するまで一瞬。

 

「覚悟ー!!」

 

 合わせて四瞬の間に、自分では逃げれない所まで危機が差し迫っていた。

 

「待ちやがれー!」

 

 そう、自分では。

 

「遠山の者か!」

「は、はい!」

「大将は!?」

「あそこに!」

 

 太田軍に一番深く突っ込んでいる父上を見たその少年は両手の真反対の向きに持つ槍を握り直し、彼が乗る馬は指示もされていないのに勝手に父上の方へ走り始める。

 その勇姿を、私は駆け寄ってきた家臣に声をかけられるまでずっと見送っていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 結局、第2次国府台合戦の1日目は、史実通りに北条軍の攻勢失敗に終わった。

 しかし、古河公方である足利晴氏が前線で剣を振り、佐竹義重がそこに救援にやって来たことは、史実より少し多く里見軍に犠牲者を出す結果に繋がった。

 また、それは義重の氏康に対する敵対心を作る事になるが、それを良晴が見ることは無かった。

 

「大丈夫?」

「この通りピンピンしてますよ」

「ぴんぴん?」

 

 史実とは違い、良晴が隼人佐と共に説得した結果、次の機会にけりをつける事に考えが転じた遠山綱景。彼の軍が最後尾にあたるので、必然的に殿となる。

 渡良瀬川の対岸に移動した北条氏尭の軍勢の弓矢の射程範囲に入るまで、遠山軍+元義賊衆+佐竹軍殿部隊の撤退戦は続き、その中で良晴は主に義重の愛馬の動きによって右腕の矢傷以外は大きな怪我は負わなかった。

 しかし、わずか2回目の実戦にして先鋒の一員になり、『槍大善』正木時茂と渡り合い、足利晴氏と遠山綱景を説得させ、佐竹義重を守り、渡良瀬川を渡るまで殿の一員になったのだ。彼の疲労感は凄まじく、川を渡った直後に気絶して、夜が深くなった今までぐっすり眠っていた。

 目が覚めた事を配下の忍から聞いて一目散に来た義重と話し込んだ良晴はこのあと遠山綱景・隼人佐父子と白千代、そして永盛と相次いで話すことになり、昨日よりかは遅く寝ることになる。

 

 時を同じくして、数百メートル離れた所。

 北条家・佐竹家・足利家の旗印がはためく本陣で、明日のための会議が行われていた。

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