相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

45 / 256
第18話 雪ノ下の八幡宮前と、由比ヶ浜の話

北条 氏康

 

 冬の夜は早い。だから私達が雪ノ下にある白旗大明神(源頼朝)様の墓や、月輪寺(北条高時)殿ら前北条家一門の墓、それに鶴岡八幡宮から由比ヶ浜海岸まで真っ直ぐ伸びる若宮大路の沿道の屋台を巡っている内に、太陽は山の向こうに消えていった。

 そして、鶴岡八幡宮の鳥居の下で、私達は別れる。相良と共に鎌倉に繰り出そうとしていた義重、それを耳に入れて自分を含んだ3人でまわる事を認めさせた梅千代が順番に名残惜しそうに別れて、自分の家へと向かう。

 

「初めましてになるわね、相良良晴」

「そうでございますね、御館様」

 

 うん。気持ち悪いわね。

 

「義重や梅千代の前のように敬語じゃなくて良いわよ」

「……良いのか?」

「何回ぐらい虫酸(むしず)が走ったか聞きたいかしら?」

「いや、いいわ」

 

 私の言葉に、ずっと2人を気にかけてた良晴の肩の力が降りたのがはっきりと分かった。 

 

「少しぐらい主の主を気にかけないのかしら?」

「…………あんたの目的は俺の観察だっていうのはわかってたからな。(こび)を売られるよりかは良いだろ?」

「そうね」

 

 相良の私の呼び方に殺気の密度が上がったけど、私が微笑みを浮かべながら答えると少し下がった。

 

「海岸まで歩くわよ」

「そろそろ左腕が痛いんだが?」

「あら。私があなたの側を離れていいのかしら?」

 

 今度は舌打ち。どうやら自分に向けられていた殺気と、私がいるから牙亜土幡の密度が上がっていたのも気付いてたようだ。

 感情を受けるのは敏感で、感情を出すのは極力しようとしない者。そんな結論を出しながら隣を歩く彼を見上げていると、それに気付いた彼が口を開く。

 

「感情を出しすぎて刺された事があったからな」

「視線だけで相手の言いたい事がわかるなんて、本当にこの時代のための性格ね」

「自覚してるよ。だから病院にいるとき、この時代の本に熱中してしまったんだな」

 

 そしてその時代は、例えば下総や信濃のような戦に明け暮れる事もなく、例えば鎌倉の周りの山を越えた先にある村や京みたいに明日生きれるかさえわからない不安感が覆ってるわけでもない、私達からすれば極楽浄土と言われても信じると思う世界が広がっている。

 それを作り出したのは何人もの努力の賜物らしいけど、生憎(あいにく)私の直系の末裔はそれに名を刻む事は無かったらしい。

 

「相良。豊臣秀吉ってどんな奴なの?」

「織田信長……じゃなくて信奈の草履取りから、関白まで登り詰めた史上最大の出世を遂げた男だよ」

「…………その男って藤原家の末裔なの?」

「祖父の名前さえはっきりしない男さ」

 

 ……驚いた。そんな奴が足利将軍家に次ぐ天下人になり、小田原城の門を開けるなんて。

 

「やっぱし混んでるなあ」

 

 絶句している間に、私達は由比ヶ浜の海岸に着いた。

 相良が考案して、綱成が指揮をとり、雇われて『早く終わったら報酬は他の班の倍』というのに目の色を変えた男達が1週間の突貫工事で作り上げた建物の1つである長屋づくりの宿が海岸沿いに広がり、寒風が吹きすさぶ中で多くの人が外に出ていた。

 未来語で言う『観光客』だけではなく住民が出ているその訳は、7つの切通と小町大路みたいな主要な道を『舗装』する材料に使った石の近くにあった山菜を、目の前の海水を濾過(ろか)して作った汁や、海の幸山の幸をふんだんに使った食べ物だ。

 

「こんな大層な物を安い値段で食えるとはなあ。人生を諦めずに生きてきた甲斐があったっていうものよ」

「俺もだよ! 北条家の人が『いつも作って貰っているお礼だ』って(ただ)で薬を貰ってから、ばあさんの病気もたちどころに良くなったんだぞ!」

「私なんか、30年以上前の新井城の戦いでこの通り足が無くなってから(ただ)で寺子屋を営んでいたんだが、上総介(綱成)様と片足の青年が寺子屋に来てくださって、老いた私をこの町の財政の役人にしてくれたぞ。良いことをすれば報われるというものよ」

 

 そして、男達が話すことは私が聞いたことのない物ばっかりで、隣の相良を見ると、視線を何処かに向けていた。

 

「道理で、最近、綱成と風魔の帰りが遅かったわけね」

「……提案したのは俺だけど、まさか完全武装で違法な輩を引っ捕らえに行くなんて想像出来なかったからな」

「どっちにしても元凶はあんたじゃない」

 

 そして、北条家は容易に鎌倉を手離せなくなり、それは足利公方家をまもる事に繋がっていく、か。

 相良から晴氏に宛てられた書状のその文言の意味も悟り、梅千代の相良へのなつき具合が増した事にも納得がいった。

 

「そんなことをすれば、更に離れられなくなるわよ?」

「…………落ちようとしている全ての実を拾いたいからな」

「……善人のお調子者ね」

「自覚してるよ」

 

 豊臣秀吉とやらが攻めてくるまでに、関東に目の前の世界を作り出して、向こうが攻めにくくするのも一手ね。

 そんな夢物語みたいな事を考えていると、ある騒動が私達の目に入った。

 

「お二人さん。俺らの家に来ないかい?」

 

 屈強な男達が、行人包を被る美少女と長い髪を束ねた美少女の2人を引っ掛けようとしている光景が。




初めての一人称視点は氏康です。

*源平合戦で源氏は白旗を、平家は赤旗を掲げて戦い、頼朝は白旗の源氏の総大将だった事から、死後に妻の北条政子が彼を神格化して、鶴岡八幡宮の中に白旗神社を創建しました。
 その白旗神社に、頼朝の座像があり、彼が常設の武官の最高位である右近衛大将に任じられて400年後に、1人の戦国武将が話し掛けました。

「微小な身の育ちでありながら天下をとったのは、御身と(われ)だけである。しかし、御身の先祖は関東で威をはり、挙兵すれば多くの兵が従い天下をとるのも容易であったろうが、吾は名もない卑属から天下をとったのだから、吾の方が出世頭である」

 そう言って、座像の背中を叩いた者こそが、小田原城を落とした後に鎌倉を訪れた豊臣秀吉でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。