相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第19話 難破の話

 それを見たとき、私が考えたのは関係ないから早くここから立ち去ろうという物だった。

 けど「この時代でも難破(もど)きはあるのか」と恐らくは未来語を呟いた相良は、私に助けに行って良いか? という視線を向けてきた。

 私はもちろん首を横に振るけど、どうやら私が考えた相良の考えの中身は違ってたらしく、私の答えに微笑みを浮かべながら頷いた彼は、左手の杖を持ち直してから、2人の美少女が断り続けている現場へと歩いていく。

 

「……(あなど)られたものね」

 

 どうやら、ついていくかどうか聞いていたらしい。

 不思議と苛つきは無く、一寸(ちょっと)した優越感に浸りながら相良の後ろを歩く。彼は杖なので、すぐに追いつく事が出来た。

 

「俺達の家に泊まれば(ただ)だぞ?」

「義の意味は知りませんが、私達が泊まってるそこの宿はあなた達とは違い働いている人々も良く、あなた達とは違い畜生では無いので大丈夫です」

「ああっ!?」

 

 あら、良いこと言うじゃない。

 

「俺らはなあ! 間宮豊前守様の筆頭家臣なんだぞ!?」

 

 残念。康俊の家臣にも会ったことあるけど、あんたらみたいなのはいなかった事は断言出来るわ。

 けど、康俊に会ったことはあるけどそこまでは詳しくないであろう相良が私を見てきたので、最大限の薄っぺらい笑顔をする。

 

「おい」

 

 私の答えに盛大な溜め息をついた相良は、2人の美少女の引っ掛け役の男の肩を右手で掴み、普通の人なら足がすくむぐらいの低い声を出す。

 けどその男は肝っ玉は座ってるらしく、少し驚きながらも肩に置かれた手を払う勢いで振り向こうとして。

 

「がっ!?」

 

 片手1本に押されて、地面に叩きつけられた。

 

「本当に武士(もののふ)か?」

 

 嫌な音が鳴った鼻を抑える男の背中を杖と足で踏みつけて、相良は2人の美少女の前に立ち、右手を行人包の少女の右腕を掴む。

 それに何故か美少女が両方驚いているけど、その間に男が大声をあげて、近くの仲間が持っていた刀を奪い取る。

 

「この野郎ー!!」

 

 上段からの袈裟(けさ)斬り。筋は良い男のその振りにーー。

 

 

「昔々、今から未来に刺された事があってな」

 

 体の支えにしていた杖を、自分の頭の上に持ってきて、利き手ではないはずの左手1本で男の袈裟斬りを防いだ。

 

「刺してきたのが、俺なんかに惚れてくれた女の子でな」

 

 男は、明らかに金属同士がぶつかる音に驚き。

 

「許してやる代わりにそいつが培ってきた武術を学んだんだよ」

 

 力を込めて押し込もうとも押し込めない事に、段々と冷や汗をかきながら(おのの)いていき。

 

「まあ、知らんよな」

 

 そして、右腕で男を攻めようとしていた2人を抑えている相良に、刀を持つ両手が震え始めた直後。

 

「初めて話すんだからな」

 

 敵をやる事しか考えていない瞳をした相良が動く。

 まずは杖をずらして刀を下に下ろさし、その勢いに男が前につんのめった時には、既に彼の体は回っていた。

 そして、鈍い音が鳴り響き、男の体が崩れ落ちた。

 

「さて」

 

 白目を向いている男に既に目線を向けず、相良は目の前の男の仲間達を見据えていた。

 

「どっちにする?」

 

 首を傾げながら、平坦な声での選択肢を言わない質問。それに対する男達の回答は言わずもがなであろう。

 少し経ってから、歓声が沸き上がった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 結局、最後まで私が北条氏康だと気付くことなく『小田原城下の商人兄妹』という事で通すことが出来た。

 

「ありがとうございました!」

 

 牙亜土幡(ガードマン)の鎌倉を統轄する詰所の所長の見送りで、鎌倉館の隣にあるそれから出る。

 囲炉裏の部屋からすっかり夜も深まり、小町大路に交互にありこれからは有志の寄付で増えていく予定の提灯ぐらいしか明かりがない外に出る。

 

「数時間ぶりです」

 

 その提灯の1つの横に、2人の美少女は立っていた。

 私と同じくらいの紫がかった髪色の少女が私達に頭を下げるけど、私達はそれどころでは無かった。

 

「氏康は知っているはず」

 

 提灯の淡い灯りに照らされるは、行人包をおろした少女。

 その肌は真っ白で。

 その髪も真っ白で。

 

「あなたの風魔が越後に時々来てたという」

 

 けれど、その瞳の色は真っ赤で。

 

「私の名は長尾景虎。彼女は樋口六代」

 

 上杉憲政がのこのこと来ているならば、密かに来ているかもしれないと考えていたが警戒網に引っ掛かっていなかった仇敵が目の前にいた。

 そして、私とは別の意味で呆けていただろう相良は、ようやく回復すると、私と景虎を交互に見てから、突拍子も無いことを提案してきた。

 

「晩御飯、一緒に食べるか?」

「ええ」

『えっ!?』

 

 景虎のすぐの承諾に、私だけではなく六代という少女も驚き、異形の彼女を見る。

 その彼女は微かに微笑みながら同年代であろう相良をじっと見ていて、見られている方は純粋な喜びの表情を浮かべていた。

 

「龍虎相()つ事以外を話そう」

「そのつもりだよ」

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