相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第25話 玉縄と長尾家の話

 境川というのは日ノ本一円に多くあるが、その中で南関東を流れる境川は、マイナーなのかメジャーなのか迷う知名度の川である。

 全長は50キロあり、南に流れるその川は長い長い相武国境のほんの一部を成してからは、西端が相模川である高座郡と鎌倉郡の境を成し、そして河口の近くに江ノ島がある。江ノ島を知っていれば、相武以外から来ている人も名前を聞いたことのあるかもしれない川である。

 その川の支流に鉄路の東海道の藤沢駅から戸塚駅の近くまで寄り添う川があるが、それはちょうど玉縄城下の前を通る。

 

「うーー千代!」

 

 その柏尾川の緩やかな流れの中に、氏康の義妹である北条綱成が袴を捲った状態でいた。氏康と言いかけた彼女だが、すぐに幼名に変えた。

 公魚(ワカサギ)を桶に入れ、家臣に渡された物で足などを拭いて、柏尾川にかかる橋を渡り終わった一行の所に走る。

 氏康が綱成の実家(福島家)の縁戚という口裏合わせは玉縄衆と一行の間に知られ、玉縄城下の民には知られてるので、騒ぎがあることも無く城内に入る。

 

「上杉家の話か! だったら景虎殿の実家も巡るのか?」

「そのつもりで玉縄に来たのよ」

 

 豪快な綱成が城廻にある玉縄城を仮想敵である景虎や義重と一緒にめぐり、3時のおやつを食べて城を出る。

 玉縄城を出て北に歩き、城と同じく柏尾川の右岸にある高台に向かう。長尾台と呼ばれるその台地には、御霊神社があり、これは藤沢の御霊神社から分霊した神社でもある。

 

「長尾家は元を辿れば、平家の一族である鎌倉家に繋がる」

 

 そう語るのは、良晴が来てから自分の城の周りの歴史を調べ始め、教育係を泣かせた綱成。

 見かけた時からやたらと良晴に距離が近い景虎に雑に許可をとって、主に氏康と良晴の間を視線で往復させながら彼女は話す。

 

「その鎌倉家は、更に村岡権五郎景正殿という英雄に繋がる。片方の目に矢が刺さりながらも、戦闘で刀を振り続けたお人だ。

 景正殿の孫の1人である景行殿の息子である景弘殿が、この細長い尾根になっている台地に居館を構え長尾次郎と称した事から長尾家は始まる。

 その子の定景殿は鎌倉殿(源頼朝)の挙兵の時に最初は平家方についていたけど、後に許され同族の三浦党の一員になり、老齢ながら3代将軍の大慈寺(源実朝)様を殺した奴を殺害する大功をあげる」

 

 だが、三浦党の頭領である三浦泰村が執権・北条時頼と敵対し、その時頼に三浦党ごと滅ぼされる宝治合戦が起きる。長尾氏のほとんども主君に殉じるが、一部は生き残って血筋を伝える。

 ちなみに、長尾氏と同じ三浦党の一員だった毛利季光の4男である経光は越後にいたため生き残り、越後に残った嫡男の血筋は景虎の家臣の1人である北条(きたじょう)高広に、新たに与えられた領地がある4男の血筋は毛利元就に繋がっている。

 

「長尾氏の生き残りである四郎景忠殿の孫の景為殿の世代には、既に越後にやって来た上杉家の家臣になり、次第に上杉家の筆頭家臣の立ち位置を占めるようになる。

 景為殿の長男の末裔が享徳の乱を引き起こした長尾景仲、結果的に享徳の乱を終結に導き宗瑞公(伊勢盛時)が武勇を讃えた長尾景春に繋がるが、景虎は景為殿の次男の末裔にあたるのよね?」

「ええ。景為様から見れば、私は8代子供にあたるわ。ありがとう、北条家の者が敵の事を話してくれて」

「…………やっぱり来るの?」

「ええ」

 

 自分の祖先の故郷。

 その地で、長尾景虎は敵の当主もいるなかで宣言する。

 

「川中島の決着がついた後。場合によってはつく前かもしれないけど、私は関東管領としてこの地に戻るわ」

 

 宣戦布告は微笑みと共に。

 彼女の生きざまを聞き、本編での安土のように景虎に話した相良良晴は、その宣言に笑顔を浮かべる。

 史実通りに景虎を迎え撃つ総大将になるであろう、ニュー鎌倉府の初代執権・北条氏康は、苦笑いを浮かべながら溜め息をつく。

 史実においては景虎に同調しながら北条家と争いあう佐武義重は、獰猛な笑顔を浮かべ、良晴に教えられたサムズアップを早速実践する。

 そして、史実においては鎌倉どころか古河と関係ない所を転々として生涯にわたり北条家の傀儡だった、ニュー鎌倉公方の足利良氏は何回か頷く。

 最後に時代がずれている樋口六代と、時代はずれていない北条綱成は、偶然に顔を見合わせ、真剣な表情で頷きあった。

 

 その後、良晴・良氏・氏康・義重の4人は鎌倉に戻り、景虎と六代の2人は玉縄城()で1泊してから、鎌倉にある上杉家ゆかりの地を巡り帰路につく山内上杉憲政の一行と合流して越後に帰る。

 その年の年の瀬、景虎から小田原の氏康、鎌倉の良晴、太田城の義重に贈り物が届く。

 越後の名産品にして景虎を金銭面から支える代物であり、麻布では最高級品として知られる越後上()で織られた袴である。

 

「来ていた、か」

 

 そして、良晴だけには越後の近況を知らせる六代からの手紙が添えられていて、良晴はそれを燃やしながら呟いた。

 史実通りに進んでいる事に溜め息をつきながら見上げた鎌倉の空からは、白い物がちらちらと舞い降りてきていた。

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