第26話 新しい話
元旦、鶴岡八幡宮。
元旦は1日の午前中だけを指すことを最近知って驚いていた良晴は、午前0時にあたる
やがて、空は段々と明るくなっていき、白く光る大きな丸の端っこが地平線の山並の奥から出てきた。それを見て、まずは良氏が手を合わせ、1拍遅れて良晴らも手を合わせる。
「やったるでー!」
御来光を見れば、次は餅つきである。あらかじめ用意されていた
それを良氏を筆頭にまわしていき、後半は大晦日にあった
『そーれ!』
鎌倉公方も、玉縄城主も、鎌倉郡司も。
誰もかもが渾身の力で臼の中の餅米をつく人の動きに合わせて掛け声を出して、それは最後にずっと遠慮していた晴氏がつくまでずっとあった。
つき終わると職人が餅を小さく切り分けていく隣で、良氏ら公方衆が作る赤味噌の
民達から見れば、自分が住む地域を統べる
「良晴」
「んっ?」
「一緒に大事にしていこう?」
「……そして、関東にこの笑顔を広げていこう」
「うんっ」
そして、領民達は『大衆食堂』やまだ波は穏やかな由比ヶ浜の海岸で三ヶ日が過ぎるまで宴会に浸るが、良晴らは鎌倉府に向かい、明日の準備をする。
翌日の昼過ぎになって、
「執権の北条相模守氏康、ただいま参上いたしました」
「大儀である。摂政殿下もご機嫌麗しゅうで御座いますな」
「ほほほ。麿が予想していた以上にここの住み心地が良くてな。この年賀の挨拶も見ようと思っただけよ」
「ごゆるりと拝見くださいませ」
「うむ。武家の話に口出しはせぬつもりだから、麿など元々いないように話してくれて結構じゃ」
鎌倉公方・足利良氏が上座、初代鎌倉府執権・北条氏康が良氏の目の前の下座に座り、部屋の両端に鎌倉公方衆や北条家臣がずらーと並び、摂政・二条尹房は部屋の後ろの方にいた。
3ヶ月毎に1回、つまり季節がかわるごとに行われる事になっている定例会議の第1回なので、それを記念して全員が参加している。
「では、はじめさせてもらいます」
司会進行を勤めるのは、小机衆筆頭の北条時長。幻庵の嫡男であり、氏康からすると従兄にあたる。
まずは、良氏を始めとしての出席者の紹介。それが終われば、鎌倉公方にあだなす勢力の討伐について、公方の補佐役で別には管領と呼ばれる事もある執権の北条氏康が、壁に貼られた絵図を使って話す。
「公方様に反逆した主に下総西部に広がる勢力の討伐についてですが、まずは
そして……」
執権、といっても今回の執権が持つのは、鎌倉幕府のように『将軍が持つ全権』にならないように軍事権だけだと明文化されているので、良晴の時代で言えば『国防大臣』という役割になる。
その執権が立案した作戦の許可を出すのが、政所の幹部で行われる『会議』と公方になる。
「……以上でございます」
「説明ご苦労。政所よ、執権が立案した事の可否を取れ」
「はっ」
良氏の言葉に答えたのは、政所別当で『総理大臣』にあたる佐竹義重。
その結果に氏康が礼をして、次の議題に移る。
「では内政について話させていただきます」
政所執事の1人であり「提案者でしょ?」と氏康に首を傾げられた良晴が、各城や砦、それに風魔からもらった資料を頼りに郡・国・全体で、北条家の伊豆・相模・武蔵と佐竹家の北常陸の事を話す。
その中で、良晴が未来知識を頼りに、大雑把に今年は東国を中心に飢饉が起きる可能性があることを言うと、評定の間はざわついた。
「敵の討伐に関係してくるほどかしら?」
「農作業の人手を大事な時期に徴兵していたら、恐らくは最悪の事態になると思う」
「そう。兵は拙速を尊ぶになるわね」
「ああ」
そして、自然な調子で2人が喋っている事に、主に北条家の者達がざわついた。
後は北条家の同盟相手である武田信玄と今川義元、佐竹家の同盟相手である宇都宮家などからニュー鎌倉府発足を祝う書状が届いたといった外交の話をして、1時間に及んだ定例会議は終わる。
それが終わった後、良晴は氏康に呼ばれる。
次から『綱成の過去話』を登場人物と第1話の間に毎日午前0時に投稿していくので、話数がずれます。