1月10日の朝、和泉・堺。
紀伊水道の辺りで海賊に襲われ襲い返した以外は何事もなく、黒潮を逆に進みつつも南岸低気圧の後の移動性高気圧の風に乗れて、予想より1日早くジャンク船『小田原号かっこ仮』は、堺の港に着く。
堺の人々はそのジャンク船の大きさに驚き、帆ではためいている『
当然ながら、野次馬が続々と増えていく中で、ジャンク船は無事に止まり、陸地に乗船していた人々が降りてくる。
「お待ちしておりました、摂政殿下」
「うむ。出迎えご苦労でおじゃる」
主君に裏切られた三好家を建て直し、更にその主君を協力していた将軍共々追放し、良晴が国府台で勤《いそ》しんでいた頃に、将軍方から和平をお願いされそれを受けた名将・三好長慶。
40代前半ながら既に頭には白髪がちらつき、足取りも少し覚束ないが、大阪湾を越えて畿内と四国東部を制覇した者の覇気はまだ強い。
そして、三好家がここまで発展出来たのは、彼の弟妹やある女性の活躍も大きい。
「今日はこの堺でお休みになられ、明朝に上洛したいと考えていますが
「それで良いぞ。近衛らは南蛮
「有り難きお言葉でございます」
そして、堺の町を取り仕切るのは会合衆と呼ばれる36人の集まりで、案件が堺の命運を握るほどの大事となれば36人だと纏まらないので10人に絞った納屋衆になる。その納屋衆の代表として、関東から帰ってきた摂政を出迎える役割の中心を担うのが片眼鏡をかけた大柄な壮年の男性である今井宗久である。
畿内の武家の事実上の筆頭と言える三好長慶と、堺の商人の筆頭と言える今井宗久の案内で、色々と引き連れて尹房が宿へ向かっていく。
一方、北条家から任じられた商人頭は、出港前から陸路で連絡を取り合っていた堺や近江の商人との商談のため、部下と一緒に町へ繰り出す。
「栄えてるなあ」
となると、船内に残るのは一息ついている航海士や漕ぎ手達、それに明日になるまでは用事はない良晴、そして招かれざる者達だけである。
甲板から堺の町並みを見下ろしていた良晴の横に無言で海賊のような外見の男が並び、港からは見えないように良晴に手紙を渡した。
良晴はそれを受け取ってから、自分の船室に戻る。
「きぃー! タヌキ娘にわらわが!?」
「義元様ー!」
「…………喧嘩は駄目」
港に着いてもずっと百人一首をやっている3人に苦笑いを浮かべながら床几に腰を降ろし、北条家と今川家の家紋が隣同士にある手紙の中を見る。
今川家現当主の義元は、太原雪斎が迎えにいくので京都まで連れてくるように。織田家から奪還した松平家からの人質である竹千代も同様で、北条家からの人質である助姫は里帰りさせよ……という内容だった。
「助姫って……やっぱり氏規の事かな」
関東の事を北条家を中心に見てきた、という事は北条家の人もそれなりに知っている。
流石に幼名までは覚えていないが、幼少の頃に今川家の人質として竹千代と遊び、成人後は外交が得意で、小田原征伐では穏健派だった事からその子孫が
この世界では綱成と同じく氏康の妹である彼女を無意識に見つめていると、やり手と読み手を交代するために義元と場所を交換しようとした彼女が気付く。
「どうかした?」
氏康によく似ているが、髪は氏康のように長髪ではなく肩で切り揃えている彼女の言葉に、十二
対して良晴は、畳んでいた書状をかざして、その内容を3人に言う。
「では堺を今日中に巡りますわよ!」
義元の発言に、後の天下人とは思えないほどおどおどしている竹千代が護衛の事を聞くが、義元は「助姫に任せれば大丈夫!」と一蹴した。
そして、堺の民達がジャンク船に見飽きて密度が減った具合を見計らい、竹千代を除く3人は船員の格好をして、船員にしてはちっちゃい竹千代は助姫が担ぐ大きな箱の中に入って堺の陸地に降り立つ。