相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第29話 町歩きとキリシタンの話

 今川義元の発案による堺の町歩き。

 それは、彼女に師匠のように接すると同時に、父親のように接してきた太原雪斎にとって簡単に予想出来る事なので、彼は良晴宛の手紙を届けると同じくして三好長慶にも護衛を頼む書状を送った。

 父を元主君に謀られ我が子を溺愛している長慶も、花倉の乱と呼ばれる家督継承の末に予期せず巻き込まれた義元を懸命に守り抜き今川家を生まれ変わらせた子煩悩な独身の僧侶の手紙に心打たれ、堺に頼れる者がいないか会合衆に聞いてみた。

 

「私が傭兵を雇い、ついていっても宜しいか?」

 

 その会議に、いの一番に声をあげた商人がいた。

 

「二条家との商談に参加出来ないが宜しいのか?」

「ええ」

 

 宗久が驚き半分で発言した薬屋の商人に聞くが、彼の答えは即答だった。

 関東の大大名・北条家、摂政or関白になれる5つの家の1つ・二条家、畿内と四国の大大名・三好家、そして西国の大大名・大内家の間で行われるであろう貿易の中間を担える大事業を無視した彼の答えに、会合衆はざわつくが、彼に替わる者や反対意見も出なかった事から、その中年の男に任される事になった。

 それを笑顔で承諾した彼は、堺で手に入れる薬を売っている京都の店に舞い戻り、家の者にそれを告げてから、しっかりとした傭兵を雇う。

 

「相良良晴様ですね?」

「…………そうだが?」

「申し遅れました。私は堺で薬屋を営む商人であり、太原雪斎様から堺と京における今川治部太輔様の護衛を頼まれました、小西弥十郎隆佐と申します」

 

 そして、ジャンク船から降り立ち、港の目の前にある団子屋で団子を食べていた一行に、隆佐は小声で挨拶する。

 祖先は藤原家の中で珍しく武勇で知られ下野では那須氏など、常陸では江戸氏など、下総では結城氏、近江では蒲生氏など、九州では大友氏や龍造寺氏などが末裔を称している藤原秀郷で、その間には相模から丹波に移住した波多野氏がある。その同族の中で、関東の3つの家が北条家か佐竹家と敵対して挙兵した。

 彼は、自分の人生を大きく変えてくれたあの方が言っていた隣人愛の精神から、二条家というどうでも良い家ではなく、北条家と繋がりを持とうと考えたのだ。

 

「小西さんか。よろしくな」

 

 そして、良晴はそれを知っていた。書状に添えられていた、恐らくは風魔が書いた紙で。

 だが、知った上で頼る事にした。主の氏康から、藤氏以外の敵の落とし所を探る糸口を探れないか暇があったら探ってきなさいと言われていたのと、彼を知っていたのもある。

 

「小西さんもその一族もキリシタンなのか?」

 

 それぞれが同じような服を着てワガママな長女、寡黙な次女、長女が起こす事の罰を代わりに受ける3女のような3人が、南蛮菓子が売られている『塩屋』という店で騒いでるのを後ろから見ながら、自分の横に立つ隆佐に聞く。

 藤原家の末裔ながらも身一つから僅か3ヶ月で鎌倉郡を任されるまで出世したという話から想像出来る姿・性格ではない彼からの質問に、隆佐は「その通りでございます」と返しつつ、()()首にかけるようになった十字架を触れる。

 

「この十字架のお陰で遠い同族の者達を助けようと思えました」

 

 良晴が自分の真意をわかっている事は気付いていたので、腹を割って話した方がやりやすいと判断した彼は、いきなり本題に入る。

 しかし、隆佐の気持ちはわかるが、ここでは余り騒ぎ立てない事を決めていた良晴は「家族もか?」と聞く。

 

「……はい。私はジョウチン、妻はマグタレーナ、長男の弥十郎はベント、長女の弥九郎はアゴスチノという洗礼名を授けられました」

「そうか。3人の後ろにいるのは?」

「弥九郎でございます。弥十郎は京の店にいます」

「なるほど、な」

 

 良晴らが見ている前で、彼が教えたじゃんけんに何故か参加していた弥九郎が一人勝ちして、最後のカステラを嬉々として食べるーー。

 

「こらっ!」

 

 直前に、隆佐に怒鳴られ、カステラを手離してしまう。それは放り投げられる形になり、見事な弧を描いて飛んでいく。

 

「おっ」

 

 良晴の両手へと。

 久しぶりのカステラの感触に、ちゃんとした昼飯をまだ食べてない良晴の体が反応して、流れるような動作で口に持っていく。

 

「駄目ですー!」

 

 だが、カステラが良晴の口元に触れるより先に、彼の腕を弥九郎の右手が掴んで下ろす。だが、途中で彼女の手が離れ、バネのように良晴の手が跳ね返り、その上に乗っていたカステラは再びテイクオフする。

 今度は、楕円のような弧を描いたカステラは、余り横に飛ぶこと無く、良晴の隣の人の(てのひら)に落ちる。

 

「…………」

「あわわわ」

 

 弥九郎の父親、隆佐の上へと。

 蒼い瞳をした異国人風のその少女は、黙ったままの父親の視界に入らないようにと、近くの良晴の後ろに隠れる。

 

「弥九郎」

『ひっ』

 

 その隆佐の声は、近付いてきていた3人さえ思わず怯えるような声をあげ、彼に雇われた傭兵の隊長も本当は自分と同じ筋なのか? と思ってしまうほどだった。

 

「やはり甘えは駄目だったようだ」

 

 ゴゴゴゴゴ……と擬音がつきそうなほどの怒気を出しながら、隆佐の声はどこまでも平坦だった。

 

「備前へ、行きなさい」

 

 そして、その隆佐の言葉を聞いて、1人冷静だった良晴は微笑みを浮かべた。

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