最初は良晴が未来から来たという事を信じようとしなかった隆佐だが、良晴と宗教の師であるザビエルの雰囲気からやがて信じるようになり、1つ大きな息をついた後、やはり彼は良晴に聞く。
自分ではなく弥九郎を供に指名したのはそれ故か? と、良晴が首を縦に振った事を。
「わいを見て驚かなかった、という事はわいは平凡な人生を送った商人なんでしょう。せやけど、弥九郎の事は知っておるという事は…………」
「ああ。彼女は……いや、俺が元いた世界では彼になってる小西弥九郎行長は激動の人生を歩むことになる」
「行長……。良い名前ですな。……聞いてもよろしいでしょうか? 我が愛娘の未来を」
意を決した良晴は話す。
本来なら備前に養子に出され、そこで宇喜多直家の目に止まり家臣になることを。
今は尾張すら統一出来ていない織田家と毛利家がぶつかる争いの最中に、後の天下人に仕官することを。
そして、その天下人の死後におきる天下分け目の戦いで負け、切腹=自殺はキリシタンだから出来ないので処刑されるという悲惨な最後を。
「……そうですか。最後に負けるのですな」
良晴は知らないが、史実では天下分け目の戦いの8年前、朝鮮攻めの最中に発病して京都で亡くなる隆佐は、良晴が語ってくれた未来を聞き終わった後、一人心地に呟く。
しばらく瞑目した彼は、話の中で気になり、やはり聞いておくべきだと思った事を問う。
「その2人の天下人の名を聞いても?」
対して、良晴は首を横に振り、悲しげな笑みを浮かべながらその理由を答える。
「俺は関わった女の子の全ての実を拾いたいっていう野望を持っている。だから、2人の天下人が女の子だったら俺は後悔して、あんたを八つ裂きにすると思う」
2人目の天下人を殺し、その罪で斬首させられるという未来を考えていた隆佐は目を見開き、そして何かを諦めたような笑みを浮かべた。
「相良様には
「ああ」
隆佐と自然に固い握手を交わしてから、良晴は聖人のような笑みで自分達の方を見ていたザビエルの方を向く。
「知りたいか?」
「…………ええ。秘術がどこまで効力を持つか」
「長くはもたない。京にいたっていう事は、これからインドに帰るんだろ? そこで、貴方は病死する」
淡々と、しかし何かを懇願するような良晴の答えに、ザビエルは「そうですか」と淡々と返した。
「私が帰らなければ明が危ないのです。例え私の命が散ろうとも、私1人で明の方々が救われるならば安い物です」
「…………好い人だよ、ザビエルさんは」
「サガラ様こそ、隣人愛の固まりですよ」
「そうかな?」
自覚していない良晴に、隆佐とザビエルが苦笑いを浮かべていると、障子が開け放たれ、肩の所が着崩れ始めた利休が少し泣きそうになりながら、一目散に良晴の背中に隠れる。
少し遅れて全く息切れしていない義元と助姫、少し息切れしている竹千代が束になって部屋に押し寄せる。
「遂に追いつめましたわ! その声を聞かせなさい!」
主旨変わってるじゃねえか、と思わず良晴は口に出して突っ込むが、目が血走ってる3人はそれに反応せず、ジリジリと近寄ってくる。
「……助けて!」
愛らしい右の耳元にかかる声、背中に感じるお年頃の女の子の感触に、心臓が跳ね上がった良晴だが、すぐにヤンデレの事が思い浮かんだので今度は心臓が締まる。
忙しない心臓をなだめながら、無意識に右手で利休の紫色の髪をポンポンとして、感情をおさえた声を出す。
「義元?」
「なんでーーひぅ!?」
「正座」
「ひゃい!」
後に、義元は雪斎に同じような事を竹千代にして怒られた時、貴方より凄い鬼がいましたわ! と叫んだとか叫んでないとか。
そして、その良晴の声に3人だけではなく大人の男2人も正座する中、床几に座る良晴に抱きついていた利休の紫色の瞳は、怒っているけど優しい雰囲気を出す良晴の横顔をじっと見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の夜。
互いに連絡しあい、二条尹房ら主役は堺で一番大きな旅館で、良晴ら脇役は利休が営む魚屋さんの住居スペースにある部屋で寝ることになった。
その中で義元ら3人に加えて隆佐に頭を撫でられて困惑していた弥九郎が一緒の部屋で寝て、良晴は1人であてられた部屋に寝ている。ちなみに、ザビエルは小西邸で寝ている。
「色んな人に出会ったな」
ここ数日の事を思い出しながら、良晴は呟く。
見ていないが武田信玄、山本勘助、太源雪斎。数日一緒にいた今川義元、松平竹千代、後の北条氏規?、堺に来てからは小西親子に千利休、そしてフランシスコ・ザビエル。
戦国時代を少しでも詳しく知っている者なら、いやその内の5人は詳しく知らない者でも知ってる有名人ばかりである。
「3人とは明日でお別れ、か」
少しでも室町幕府の権威を上げようと頑張っている剣豪将軍・足利義輝と、その足利将軍家の義元曰く「鬱陶しい」
今で言う総理さんと県知事さんの会談かな? と、本編でも果たせなかった会談の事を呑気に考えてから目を閉じる。
「…………起きてる?」
しかし、その直後に、愛らしい声が聞こえてきた。