相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第35話 建仁寺と二条家での話

「良晴さん!」

「おわっ!?」

 

 前代未聞のしばらく尹房でさえも(ほう)ける姫巫女との謁見があった日の昼御飯の後、良晴ら4人は待ち合わせ場所である建仁寺にいた。

 かつての平家の館であり、鎌倉時代は京の監視のために設置した六波羅探題であり、今は寺がある六波羅と祇園祭で有名な八坂神社の間にあるその寺は、太原雪斎が若い頃に修行していた寺だった事から、3人の引き取り場所に選ばれたのである。

 本堂に案内された良晴らを待っていたのは、さっき着いたばかりの太原雪斎と今川家の人、それに北条家の人だった。

 

「姫巫女さまと話したって本当ですか!?」

「お、おう」

「ため口で話したのも!?」

「おう!」

 

 北条家の家臣の一員である少女の勢いに自棄になって同じくらいの音量で叫び返すと、色んな所から声と音が上がった。

 襖越しに「早く消せ!」という声が聞こえてくるのも気になっていたが、それより目の前で尹房のように顔を赤らめながらぷるぷる震えている少女の方を見ることにする良晴。

 

「どれだけ凄いんですかぁ!」

「…………すごいのか?」

『はい!』

 

 少女の声に壮年の男性の声が重なり、義元や竹千代もしきりに頷いている。

 足柄峠の近くの山村に住んでいた大きな斧を武器とする少女・志木千代と、村八分にされていた彼女を拾った上野出身の元山内上杉家家臣だった男性・石井貞光。良晴が小田原の商店街でぶらついている時にいきなり仕官してきた2人は、何時も親子のように仲良く、今も息がピッタリと会っていた。

 やっぱり凄かったんだなあ、と良晴が呑気に思っていると、彼に近付く影が1つ。

 

「まずはお礼を言いますわ」

 

 今川正五位上治部(じぶの)大輔(だゆう)義元。

 尹房に就きます! と言わなかった事を感謝された良晴が、彼に何か望みは無いか? と聞かれ、少し考えてから言った望みで念願の正式な官位を貰えた内の1人である。

 そして、何時ものような十二単ではない。

 

「官位も、この服も」

「おう」

 

 二条家のぼろぼろの屋敷で駿河湾の海を想像した藍染めが施されたフリル満載のドレスを着て、腰まである長い黒髪を総髪(ポニーテール)にし、お歯黒なども公家っぽい化粧も無くす。

 その格好で、この本堂の扉を勢いよく開けた時、太原雪斎も数分間口を開いていたほど見違えった雰囲気を今もしている義元は、最後にもう1回良晴に微笑んでから、雪斎と共に本堂に出ていく。

 

『ありがとうございました!』

 

 本当に珍しく静かに部屋を出た義元を、矢車草と鉄を使ってタヌキの毛色に似た(にび)色に色付けされた彩飾は無いドレスをまとう松平竹千代あらため松平従五位下元信と、北条家の家紋である『三つ盛鱗』のモデルとされる龍の中の1つである赤龍にあやかり紅花染めされたドレスをまとう北条助姫あらため北条従五位下右衛門佐元規が、しっかり良晴に一礼してから去っていく。

 その改名の現場にも立ち会った良晴は、歴史変えちまったなあ、と今更の事を考えながら、4人のその部下達が去っていく光景を見る。

 

「よし! 後は届けるだけだ!」

 

 寂しい気持ちが沸き出たが、それを払拭するように良晴は自分の頬を叩いて叫ぶ。そして、色んな感情の視線達には気付かず、今川家の支払いで修繕される事が決まった二条家の屋敷へと向かう。

 同じ頃、堺ではザビエルが活発な女の子と出会って別れ、次いで後輩と会っていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 二条家、九条家、そして近衛家。

 あまり知られていないが、五摂家の内の過半数の家は、この時代は足利将軍家と関係があった。その家の当主が、歴代の将軍の誰かの名前の1字を賜り、自分の名前に組み入れていたのである。

 例えば摂政の二条尹房の『尹』は10代将軍の足利義尹から、九条禅閣稙通の『稙』は義稙と名前を変えた義尹から、そして今は越後にいる近衛()()()()()()前久の最初の名前・晴嗣の『晴』は叔母の夫でもある足利義晴からであるといった風にだ。

 その縁から、この日の夜、二条尹房は自分の義兄(嫁の兄)にあたり出家している九条稙通(同年代)、三好家とようやく和解した足利従三位左近衛中将義輝、自分の娘婿の十河讃岐守一存をプライベートの晩餐に呼んだ。

 

「そなたが郡司であるな」

「はい!」

 

 相良良晴も一緒に。

 プライベートながら公家の宴会なので、北条家のお金で買った服やとんがり帽子を見にまとい、ぎこちなく歩きながら床几の上に座っていたが、座主の尹房の宣言で無礼講になると、さっそく義輝が来る。

 自分と同年代のイケメンで、幼少の時から(義晴)(義昭)と共に修羅場を潜り抜けてきたためか、覇気は国府台合戦の時の正木時茂以上にあった。

 

「姫巫女様と話されたそうだがどうであった?」

「…………寂しそうでした」

 

 良晴は知らなかったが、剣豪の塚原(ぼく)伝から奥義を伝授された『剣豪将軍』とも異名がある将軍である。

 その義輝から出される覇気に、良晴は思わず姫巫女と話し合った時の事を素直に言っていた。

 

「寂しい?」

「はい。御簾の向こうにずっと1人でいて、会える人も限られた者しかいないと聞いています。それに、お……私と話している時は楽しそうでした」

「なるほどの。そなたは、姫巫女様の役割を知ってるか?」

(まつりごと)は“すさのお”さんに任せ、神事のみを司ってきたと」

「そうじゃ。神事は“けがれ”が無いのが大切。それゆえに、必要以上の他人との接触は忌避される」

「その姫巫女様の神事が無ければ……」

「魑魅魍魎が蔓延る事になり、遅かれ早かれ終わる。それ故に姫巫女様の何百年と続くそれは無くてはならない物。しかし…………ふむ。姫巫女様の末裔の1人ながら考え付かなかった。良晴、礼を言うぞ」

 

 そして、頭を下げる征夷大将軍・足利義輝。

 自分以外の全員が驚いている中、彼は父親と同じ読みの目の前の少年に問い掛ける。

 

「良晴。我の傘下になり、京を統べぬか?」

 

 と。

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