相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第39話 3女の話

 歳久からの問いかけ。

 

「あなたは誰なの?」

 

 その質問を聞かれた時、良晴は最初は実家の相良家に与している者と答えようかなと考えていた。そうすれば、島津を日向に向けさせるための策略だと考えるかもしれないからだ。

 だが、根本的な解決にはならないだろう。何より、尹房さん曰く『相良家の当主である義陽(よしはる)は、朝廷によく献金してくれる姫武将でおじゃる』と言ってたから、女の子を窮地に陥れるのは流儀に反する。

 ザビエルに次いでながらほぼノーヒントで俺が異質な者である事に気付いた歳久に感心しながら、良晴は1度開きかけていた口を開く。

 

「俺は未来からこの世界に来た者だよ」

 

 その言葉の歳久の反応は、やはり(いぶか)しげで、まったく信じていなさそうな表情だった。

 

「薩隅を統一したら、琉球に対して強く出る気だろ?」

 

 だから、良晴は畳み掛ける。

 最初の言葉だけなら、歳久は良晴を妄想癖のある男だから言葉には意味は無いと考えていたのに。

 

「…………本当なの?」

「ああ」

 

 関東の戦乱を北条家の視点で本で読み終えた後、良晴はまだ入院していなければならないのでゲームで出ていた日本全国の有名な武家の事も知ろうと思い、関東ほどでは無いがそれぞれ読んだ。

 その中で、島津家の所に『義久は薩隅を統一すると、これまでは強気に出ていなかった琉球に対して強く迫り、やがてそれは関ヶ原後の薩摩藩=島津家の琉球侵攻へと繋がった』と書いていたのを、彼は覚えていたのである。

 

「他は? 他は何か無いの?」

 

 いけないとは思いつつも、歳久は良晴に聞いていた。

 良晴は、少し考えてからある史実に思い至る。

 

「統一したら、妹の家久ちゃんを伊勢に詣らせるつもりだよな?」

 

 ああ、彼は本物だ。

 琉球の事は推測出来るけど、家久を上洛させる事は私達4姉妹しか知らない秘中の秘。

 そして、彼の瞳は嘘をついたりはしていない、家久のような純粋な瞳をしている。

 

「島津家は……家久はどうなるの?」

 

 そして、私は聞いていた。

 相良は……あの の顔を思い出すから良晴は、私の問いかけにというよりかは私の表情にだろうが驚きの表情を浮かべてから、初めて私から視線を()らした。

 その嘘をつけない彼の動きに、胸が締め付けられながらも、目線はずっと彼を見る。

 

「……この戦乱の時代は急速に終わりに向かってる」

 

 根負けした良晴は、少し溜め息を吐いてから言う。

 

「今の三好家や足利家とは違う天下人の勢力が現れて、九州にやって来る。なしくずし的に九州統一に動いていた島津家と、その天下人の勢力が争い、そして敗れる」

 

 純粋な瞳は、それは嘘や作り話を言っていない事だ。

 島津家が敗れる。それは、彼の世界の未来なのだろう。

 

「…………私達はどうなるの?」

 

 島津家が敗れた時のその責任。

 義久姉さんは家長だから取ることになったら、最後の最後になるまで島津家は戦い続けてしまう。それは、その天下人にとっても厄介な事だからしないはず。

 義弘姉さんは今でも『武神』と讃えられているから、天下人は味方にしたい存在だし、責任をとることになれば義久姉さんと同じ結末になる。

 残るは、私と家久の2人だけでーー。

 

「まず、家久が死ぬ」

 

 まだ会ったことも無いはずなのに、父上の葬儀の時の私達のような顔の良晴を見て、私の思いは溢れた。

 

「どうして!?」

 

 妹なのに私より胸が大きいのが一生相容れない所だろうけど、家久は私達の大事な大事な妹。

 思わず、茶器を挟み、左足をのばした格好で座っている良晴に詰め寄っていた。

 

「囮をひかして、追い掛けてきた敵を左右から挟み撃つ」

 

 私を見下ろしている格好になっている良晴は、悲しげな瞳のまま1つの戦法を口にした。

 それは、九州の修羅達が時々使う危険な戦法で。

 

「釣り野伏を完成させた家久は、圧倒的な大軍の前に白兵戦を拒んだ義久、次いで義久に説得された義弘、最後まで拒んでいた君より早く降伏する。けど、戦後処理が終わるまでに急死する」

 

 家久が釣り野伏を完成させる。

 私達に認めてもらいたいがために、家久は奮戦する。

 けれども、義久姉さんの降伏の切っ掛けを与えるためにいの一番に降伏する。

 そして、敗戦の責任をとってーー。

 

「私のせいだ」

 

 良晴は知らない。

 彼が武蔵に来た直後、本編より大分早い時期に島津家の4姉妹の間であの馬追いがあった事を。

 そして、それを義弘が薩摩統一戦の最中から試し、家久は死兵として島津家の役に立とうとしていたために、それを結果的に義弘を連戦で死地に導くような作戦になってしまった事を後悔している事を。

 最後に、義弘から家久が書いた釣り野伏の手引き書を見せられた時に、家久に嫌われる役を担い続ける事を決心した事を。

 

「私があの馬追いを考えたばかりに……」

 

 俯いた歳久が呟いた事を、良晴ははっきりとは聞き取れなかった。だが、彼女の体が震えているのを見て、既に捨て身のあの戦法が考えられた所まで進んでいるのを直感した。

 

「何があったんだ?」

 

 左肩は痛むが、良晴は彼女の背中に両腕を回していた。

 父親しか無かった男の暖かさに戸惑いながら歳久は、島津家どころか九州人ではない彼に話すのを躊躇(ためら)う。

 だが、良晴が意図なしに追い打ちをかける。

 

「誰にも話さない。だから、俺に話して、歳久の苦しみを和らげてほしい」

 

 ヤンデレにも、それに対応するために色々と教えてくれた友達にも、より好かれるようになった原因。

 逃げのヨシと言われていたが、刺された事を切っ掛けにどっしりと構えるようになった彼の心を感じ取った歳久は、良晴の着物を濡らしながら話すことにした。

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