武人の俺に詰め寄られた武任は、ぺらぺらと真相を俺に話してから1人で出奔して、肥後で出家しやがった。
不義の子だとわかった亀童丸。当然、隆房にしたがって亀童丸を寺に追いやろうとしたさ。だが、大宮家の奴等は悪知恵は働くらしい。
「侍従殿に男のやや子が産まれた事。真に自分の家の事のように嬉しく思うでおじゃる」
亀童丸が産まれる少し前に、幕府を介した日明貿易の交渉のためにやって来た摂政の二条殿下に、亀童丸を男だと家中に武任の出奔騒ぎで広まってない頃に、あいつらは告げ口をした。
実権を持たない家とは言え、俺は『やまと御所』からの官位を貰って権威付けしてきた。だから、殿下のお言葉を無下にする事は出来なかった。
さすがに殿下の面前で騒動を起こすわけにはいかないから、大内家が独占していた明との勘合貿易を幕府によるものに復活させようとしたが、その頃から幕府では細川家の奴等の内紛に加えて、三好家も加わってややこしくなっていた。
「それをおさえるために妻も京に行ってくれたが、その最中に問田にやや子が出来た。それで産まれたのが、俺の初めての男子である
だが、その亀鶴丸をどうにかしようと俺が考えている間に、大宮家の奴等は動きやがった。
「どうしたと思う、隆元? お前なら知ってるだろ?」
「…………義尊……様への官位は、大宮家が勝手に?」
「ああ。尼子を介してな」
『なっ!?』
くくっ。さすがに良晴も知らなかったか。
この頃は、備後の
大内家の重大な秘密を知れ、更に後押しをして、内部対立を煽れる。そんな餌に晴久が飛び付かないはずが無いだろう?
俺が備後の覇権を巡る城の戦いに注目している間に、無垢な殿下をも動かして、大宮家は義尊に3歳にして従五位下周防介にさせた。
「それに、その間に義尊は成長して、実父ではない俺になついてきた。それに愛情が湧いてきた。月山富田の時のように、即決っていうのが出来ないようになってしまった」
だから、俺は武任を呼び戻して義尊の後ろを、隆房から狙われないように後押しさせた。
まあ、お前の親父らと共に神辺城攻めには参戦していた隆房は、そんな事情なんて知らないから年明けにすっ飛んできたよ。
「どういう事でございますか!?」
お前の妹の2人の元服を認めた事に対する返礼として、山口に来て、そこで仮病にかかる。元春だったか? 一方の妹と意気投合していた事は公然の事実だった隆房は、元就の見舞いと称してここへの滞在を長くする。
そんな元就の策にのっかかった隆房の剣幕に、武任は
だが、その納得は元就の策だったのさ。
「隆元」
「は、はい!」
「去年、お前の所で大きな事件があったな」
「……井上一族の抹殺、ですね」
「ああ。そして……この書状が去年の結末を招いた」
去年にあいつが討たれたと聞いてから、大内家の深き謎を解けた者が現れた時のために、ふやけないようにしながら懐に入れていた書状を開くと、隆元だけが目と口を大きく開いた。
これは……大友義鑑殿からの書状だ、となんと書いているかわからなかったらしい良晴に、隆元は呻くように教える。
「大内家が前の月山富田城のような一撃だけではなく、山並みを赤く染める全面戦争に踏み切るには、尼子と反対側にある九州の修羅達と対立してない方が良い。
まず肥前には有馬家がいるが、俺と同盟を組んだ隆信に任せれば事足りる。家督継承の具合から、隆信も当分は反抗出来ないだろうしな。
問題は筑後と豊後を直轄地にして、肥後北部の阿蘇家を事実上の家臣にしている大友家だった。俺の妹が義鑑に嫁ぎ、その間に嫡子の塩法師丸っていう女の子が産まれていたんだが、義鑑を何を狂ったのか側室との間に産んだ奴に家督を継がせようとした」
まあ、その側室の子供と珠光が同じくらいだったのが一因かもしれないがな。
とにかく、俺は武任がいた肥後南部の相良家を介して、義鑑に同盟を提案してみた。だが、尼子の奴等が先手を打った。
「俺との同盟に傾いていた義鑑を、その側室と子供ごと殺した。いわゆる二階崩れの変よ」
その二階崩れの変で塩法師丸は家督を継いだが、時期が良すぎる事に加えて、かつて反大内で大友と連携していた尼子が、彼女を親殺しだの弟殺しだの広めた。
その変の翌日に、義鑑が書いた返信が届いた。
「私は馬鹿な親だった。母親を早くに亡くした塩法師丸の孤独感に気付かなかった。嫡子は嫡子であり、それをひるがえすという事は家の衰退に繋がるという事も。私は九州統一へ邁進する。その間に尼子家を滅ぼしておけよ? とな」
そして、息絶え絶えになりながらも、義鑑の命を受けて海を渡ってきた者は、元就に敗れた安芸の武田家の一族の者だったから、故郷に送った。
後はわかるな? 元就が、井上一族の抹殺に乗じて
だから、義尊の一件を除けばよくやってくれている武任を俺が保護してやると、何も知らない隆房は怒り、派閥対立も激化して、元就どころでは無くなる。
「武任も美貌で知られた自分の娘を隆房の嫡男である長房に嫁がせようとしたりしたが、これも元就が元春を使って失敗させ、あいつは2度目の出奔をした。
その直後に鎌倉の事が届き、殿下は逃げるようにそっちに行ってくれた。そのお陰で隆房らをなだめる事ができ、武任も帰ってきたが、昨日の夕方に武任はついに襲われた」
そして、武任は3度目の出奔をして。
そして、隆房は自分の諫言を聞かない俺を二階崩れの変のように討って、大内家を浄化しようと準備している。