相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第49話 城&屋敷の話

2日目 夜

石見・津和野城

宮ヶ瀬 梅千代

 

 津和野から吉田郡山城へ。

 安芸の山奥の城に行くには、安全な道筋なら鯨海の海岸線沿いに行く物があるけど、ほとんどが尼子の領土だし、海に出るまでの途中に敵の益田がいるので駄目だ。

 だから、自然と山あいを進む事になるけど、その道筋も限られてくる。

 

「雪は大丈夫、か」

「はい」

 

 さいわい、雪は大丈夫なようだ。

 後は、道筋の途中にまた周防国内に入る事だがーー。

 

「国境までは協力がとれた、か」

「ええ。その先から安芸国内に入るまでは、隆房の勢力圏の範囲内であり、国境の所には多くの兵がいたと」

「ふむ」

 

 安芸灘へ流れる錦川の上流部にあたる玖珂郡の山代地域は、確か陶の家臣で高森城主の宮川房長がおさえているはず。私達ではなく、吉見家の人が南下するのを防ぐのが目的なのだろう。

 しかし、私達はそこを通らなければならないので、その山代地域の詳細な事を聞いていく。

 

「どちらも、(あい)路で大人数となると、通り抜けるには時間がかかるでしょう」

「山奥を、こんな季節に、大人数で横断していくのは珍しいから、すぐに止められるだろうし、検分されるから強行突破しか無いが……」

 

 毛利殿が地図を見つめたまま黙りこんでいる殿に視線を移し、つられて吉見殿も殿の方を見る。

 殿が首を動かしたのはそれから幾分か後の事で、吉見殿の方を見る瞳は、活路を見出だした者のそれだった。

 

大蔵大輔(吉見正頼)殿、1つ質問が」

「はい」

「高森城と繋がりはありますか?」

「はっ?」

 

 ああ……やっぱり殿は、私達の主だ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2日目 夜

伊予・喜多郡 (ひじ)川河口部の庄屋の家

細川 藤孝

 

『郡山についたら連絡するから、それまでは待っててくれ』

 

 相良良晴殿は大内家の大騒動が表面化した直後にやって来た私にそう言って、名前しか名乗っていないのに、私に全権を渡して何処かに去っていた。

 それで良いのか? と自問自答していたが、良晴殿が引き連れてきた関東衆の中で船の方を任された石井貞光殿という剛力の男は、大笑いしながら親指を立ててきた。

 同じく剛力の少女・志木千代は良晴殿に任せた貞光殿は、その力で船を何時もより速くさせながらも、今も見張りの1人になっている。

 

「良晴は大丈夫じゃろうか?」

 

 私の膝の上に乗っている義昭様が、不安げに私を唐突に見上げてきたので、また出かけた物をなんとか堪える。

 良晴殿に少しだけの怒りと最大級の感謝の念を送りながら、すぐに笑顔を心掛けながら答える。

 

「…………心が落ちつけられる歌を詠んで」

「はい」

 

 さっきの念に、もう1つ別の気持ちを付け加える。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2日目 夜

筑前・遠賀(おんが)郡 花屋城

周防相良家家臣 多良木 頼()

 

「確かに、総出でうってでて散るというのも一手であろう」

 

 意見が出し尽くされた後、上座でずっと目を(つぶ)りながら考え込んでいらっしゃった御館様は、そのまま口を開かれた。

 

「されど、相手はあの野郎ではなくその腰巾着。巾着は取り換えが出来るから、例え討てたとしても、あの野郎に大きな影響はない」

 

 評定の大勢を占めていた考えを否定する御館様の言葉にざわつくが、御館様が静かに目を開けると途端に静まり返る。

 

「ならば、謀略をもってして苦しめれば良い」

 

 獰猛な御館様の笑みに、私は歓喜に震えていた。

 

「頼美」

「はっ!」

 

 その笑みのまま、御館様は私に懐から書状を取りだしわざわざ手渡してくれた。

 

「これを持って、築城(ついき)郡と陶に流してこい」

「命に代えましても」

「そして、生き延びて、京の都で義教様と合流しろ」

「はい!」

 

 杉重矩、尼子家と大宮家と謀り、今を作り出した。

 更に、毛利元就が兵部卿(大内義隆)様と尼子家に二重間者(スパイ)になり、自分の娘にさえ嘘八百を並べる者なので注意されたし。

 また、晴賢は大友家の者を当主に擁立し、尼子と協調して九州を攻めんとせん。

 これは、全て尼子家の策略である。

 

「同族の若者よ、貸し1つだ」

 

 書状の中身を見たとき、呻くように言った御館様の言葉を、そしてその時の表情をはっきりと思い出す事が出来た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2日目 深夜

周防・吉敷(よしき)郡 大内家館

大内家家臣 冷泉 隆豊

 

「御館様、隆豊でございます」

「入って良いぞ」

 

 公家一同や良晴殿が去っていった後の始末をようやく済ました私は、新しい服に着替え、自分の家の者達に明日以降の未来は自分で選べと言い渡してから、御館様の部屋へ参上する。

 夜遅くでも良い、というのでこんな深夜になったが、すぐに返ってきた言葉ははっきりとしていた。

 

「ご苦労。あいつらは押し込めたか?」

「はっ。蔵の中で(わめ)いておりまする」

「そうかそうか」

 

 久方ぶりに見る御館様の武人の笑みは、かつて隆房さえも惚れ込みこの大内家が一丸となっていた頃の事を彷彿させるような笑みで、嬉しいという感情は来なかった。

 明日にも二手に別れてやって来るであろう陶軍への対処の詳細を詰め、天候を予測して最後の場所も決めた後、最後の遅い晩餐を過ごすため、部屋から出る。

 

「隆豊」

 

 正式な離縁届けを送った正妻は京に。

 実子を産んだ側室は実家に。

 元々は尼だった側室は再び尼に。

 血を妻とわけた嫡子と、何も知らない長子は東に。

 

「済まなかったな」

 

 1人になった御館様は、あまりにも寂しそうで、この時代の家長の(ことわり)が見えた。

 襖を閉めるまでが、涙を流すのをこらえられた限度だった。

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