3日目 夕方
石見・鹿足郡 規模の大きな農村
毛利 隆元
暖かかったからか、足も軽かったと思う。
正頼の使者から前日に教えられたためか、農村もあまり歓待の準備などは出来ていなかったが、密かに進むにはそっちの方が良い。
津和野の近くを通って益田で鯨海に出る高津川という川を見下ろせる小さな高台にある村長の家を借りた俺達は、少しだけ一息ついてから明日以降の動きについて話す。
「
「ああ。何時でも大丈夫、だとさ」
「そっか」
最大の難関とも言える『山代越え』。強行突破しか無いかと思っていたが、公家の人々も危険に巻き込ませない作戦が進んでいる。
「それじゃあ、改めて確認していくか」
「ああ」
周防に入って峠を降りていった所は錦川という川が流れていて、集落も主にその川沿いにある。
そして、ここから安芸に入るには2つの主要な道筋がある。一方が、東に国境沿いに進んで、川が境界を成している国境をこえて周防に入り、峠を降りてから一路北東へと歩いていく道筋。もう一方がこのまま南下して周防国内に入り、途中で方向を変えて北東へと進んでいく道筋である。
他は雪で閉ざされているため、この2つのどちらかを選ばなければいけないのだが、前者は周防国内の時間は少ないものの道は狭く、後者は道は広いが周防国内の時間が長いという五十歩百歩の具合になっている。
「見張りの数は変わらず、か」
「ああ」
前者は奥深いので少なく、後者は逆に多い。しかも、少ないといっても完全武装だと勝てるかどうかは五分五分くらいという数だからめんどくさい。
だから、良晴は撹乱作戦を提案した。
「夜明けと一緒に出るぞ」
「ああ。…………成功するだろうか?」
「するさ。俺はあいつらを信じてるよ」
眩しすぎだな、良晴は。
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3日目 夜
周防・
棚沢 与一
「今までご苦労であった」
「有り難き……お言葉で……」
月夜と
「多良木も気を付けるのだぞ」
「は、はぃ!」
なんとか大声をあげるのを抑えた俺の娘ぐらいの歳の少女も、俺達の方へと走りよってくる。
最後に、俺も礼をして、この場から去る。
「目指すは郡司様の下」
闇夜の中へ入っていく。
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4日目 未明
周防・玖珂郡 山代地域
この日も陶晴賢の挙兵から変わらず、主に3つの所に見張りの部隊が展開していた。
1つは、周防と安芸の国境付近。
1つは、その国境から山代地域への主要なルートである道と、石見から山代地域への道の交差点。
1つは、山代地域の警備の総責任者になった宮川房長がいる高森城より北にあり、道を見下ろせる山の山頂にある
この3つであり、昨日から津和野の吉見家を挟んで北にある仲間の益田家との連絡が途絶えた事から、警戒レベルはどれもあがっていた。
「火事だー!!」
その最中、
正規兵や歴戦の傭兵の多くは厳島近辺や山口へ駆り出されているため暇だった近くの農民が主の男達は、寝起きの頭で叫び主を「まだ会ったことのない
「ひぇー!」
しかし、道から少し外れた高所にあった2つの本陣の中で、彼らの隊長は喉を切られていた。
城の方は何もなかったものの、自分がいる場所ではなく安全であるはずの高森城が燃えているという『何処かから』の情報に、ほぼ全員が目を見開いた。
「妻は!? 子は!?」
厳寒の最中に、昨日は村への焼き討ちが規模が小さい代わりに同時多発に起きていたので、妻子は戦場になるかもしれない所から着の身着のままに高森城かその下に逃げていたのだ。
彼らは知らなかったが、その全員が
妻、両親、子供、その者達に預けた宝……。それらが心配になった、ほぼかき集められた農民で構成される部隊が、自分達を誘導する者の声で高森城へと向かうのは致し方ないだろう。
「ぐっ!?」
しかも、成君寺城では城代の武将が殺され、そして3ヶ所同時に火の手があがったのだから。
「どうしますか!?」
「明らかに敵の策略だ! 押し止めーー」
数少ない正規兵の兵士の首に、次々と矢が刺さっていく。
「高森城が奇襲されたぞー!」
後に残されたのは、情報の真偽はわからないが、烏合の集団になった正規兵達だけだった。一方で、2人の男は、神速で後1人がいる場所へ向かう。
そして。
白い粉が、濁った赤に染まる地面を静かに覆っていく。