4日目 夜明け前
周防・玖珂郡 高森城
3つの要所から徴兵した農民達が逃げ出し、虚報に惑わされ、この城に押し寄せようとしている。
その報告が高森城に来たとき、城主の宮川房長を含む城の者達は、評定の間にいた。
「爺の策略かっ!」
4つの城を挙兵してわずか1日で落とした毛利元就にどう対応するか夜通しの軍議が行われている最中の一報に、房長は叫びながら肘掛けを力任せに拳で割った。
ギラギラした目で、目の前の安芸と周防西部の絵図を見た房長は、少ししてから汗が床に染みを作っている者に、その目を向ける。
「集合だ」
「……はっ?」
「街道の合流部に集合させろっ!! 降りてくる奴等を討ち、毛利一族を葬るっ!」
「は、はいぃ!」
転げるように部屋から飛び出していった方をしばらく見ていた房長だが、やがて荒い息を整えることなく、音を立てて腰を降ろす。
「おい」
「はい」
「安芸や備後の奴等とは連絡は?」
「とれています」
「なら、最低限の者だけ残せ」
「……御意」
毛利元就、吉川元春、小早川隆景。
まずは、てめえらを滅ぼそうぞ。
それから30分も経たない内に、宮川軍は城から出る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
4日目 日の出直前
周防・玖珂郡 寄江神社の近く
毛利 隆元
「後少し、か」
高森城に派遣されていた良晴の忍の報告から計算していくと、そろそろ眼下に敵が見えるはずだが…………。
「敵発見!」
物見の報告が、戦いの始まりを告げた。
「全軍、目標はわかってるな?」
後で毛利家が立て替える事で譲り受けた石見の馬の上に乗る良晴が、俺達に振り返りながら言う。
まだ、
「誰も死ぬな。それが、この戦の最も重要な事だ」
六尺前後の棒を持つ少年が、そう自分にも言い聞かせるように言って。
軍配を振り降ろす。
『おー!!!』
俺達&吉見軍300vs宮川軍600。
後世、『錦・宇佐の戦い』と言われる戦いは、寡兵が迎え撃つのではなく打って出る事で幕を開けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
4日目 日の出
周防・玖珂郡の戦場など
雪がちらちらと舞う中で始まった戦い。
その戦いは、宮川房長にとって誤算が幾つも重なっていたため、全てを予測出来ていれば完勝であっただろうと言われるが、どだいそれは元就直轄の忍か、義隆から貰った良晴の忍か、関東から来た良晴の与力の忍を捕らえても、無理な話である。
誰が、4つの城が1日で落とされると予測出来たか。
誰が、公家を抱える集団が攻勢に出ると予測出来たか。
「始まった頃かの」
「ですな」
誰が、公家とそのお供の方が多い集団を、忍達の護衛のみで別行動させると予測出来たか。
「眠いか!?」
「大丈夫です!」
「同じく」
誰が、独断で忍をリーダーとする部隊が、
「これぐらい、かな」
「ええ」
「じゃあ、戻ろっか」
「いとしの幼馴染みの所へ?」
「んなっ!?」
誰が、成君寺城が山口と小田原の忍の連合軍
「見えた! 旗印だ!」
そして、誰が、良晴らの目標が、房長ただ一人の首であると、どれだけ数で討ち取ったかが重要視される時代の中で予測出来たか。
「頼むぞ!」
「はい!」
片や、歓喜に震えようとする体を抑えながら、鎧兜など重い物ではなく黒装束を身に纏う少女が、戦場の空気に興奮する馬を止め、弓を振り絞る。
「迎撃だっ! 押し潰せ!」
『うおー!!』
片や、驚いたがすぐに立ち直った房長も軍配を振るい、自分達と同じ宇佐川の左岸を走る敵を迎えようとして、注意力が減る。
「おおっ!」
そして、分厚いはずの雲の隙間から一筋の光が、房長の兜に差し込み、少女の横にいる声のでかい物見が歓声を上げた直後。
「っ!」
少女は、宇佐川と錦川に挟まれた平地の突端から弓を放つ。
「当たれー!!!」
良晴の叫び声で、三本松城で金色に塗られた弓矢が放たれたのがわかった隆元は、横目で弓を追いかける。
一直線に進む弓は、曇り空の下でも金色に輝き、川を越え、足軽達の頭の上を飛ぶ。
「がっ!?」
金色の矢は、吸い込まれるように光の下へ達した。
「敵のおん大将が宮川甲斐守房長の首、北条家の忍・棚沢十兵衛が討ち取ったりー!!」
物見が叫ぶ前に。
相良良晴が叫び、まだ衝突していないのに総大将を討ち取られた宮川軍は浮き足立ち。
「突入ー!」
『おおー!!!!』
北と西、二方向から攻められる。
結果は火を見るより明らかだった。