4日目 昼前
安芸・
毛利軍吉川隊
「公家達と合流したとさ、お嬢」
「そうか」
「素っ気ねえのう」
隆元らへ先に派遣された
桜尾城を落とすまで同行していた元春だが、そこで隆房の本体とかち合う為に準備する元就に代わり、隆元らの迎えを頼まれた。
出陣前に優しかった庄屋にある言葉を言われてから、何処かおかしい彼女は、桜尾城までの4つの城や態度をはっきりしなかった発坂城を落としていく間にしっかりしてきた。
「今の元春どのは、しっかりしてるようでおかしい。目附、よろしく頼んだぞ」
毛利家や熊谷家と関係が深い佐東銀山城を攻める時は、兵が圧倒的に少ない城主の粟田……なんだったけ? 城主の男に詰め寄り降伏させるほど急かされていた。
で、次の
3つ目の草津城の時は、元に戻って羽仁有繁が守る城を速攻で落としたけど、落ち着かない様子は変わりなく。
4つ目の桜尾城の時には、俺が適当に出した調略の案に乗っかり、天変地異の前触れかと御館様も俺も騒いだ。
「御意」
その一貫しない娘を心配する親の顔で自分に任してくれた事に喜びを感じながらも、俺はそれを引き受けて発坂城攻めを見守った。
石見から山間に進んで吉田城に行くには通らなければならない道を見下ろす事ができ、この辺りをおさめる元は厳島の神主に仕えていた栗栖の者を攻める。
厳島の神主だった男が
「栗栖家一同、吉川様に付き従いまする」
今は毛利家の勢力の方が優勢であり、兵部卿様によって代わりに入れられた神主を追放したばかりというのに、俺らに従ってきた。
城内に揉めた形跡が無かった事に不信感を抱いた。
「ではこの辺りの監視を任せるぞ」
「ははっ」
だが、元春が即決で認めたので口をつぐむ。
代わりに、猪突猛進でもなく状況を鑑《かんが》みて突撃していく娘を見守るために父親から預けられた忍達に、周辺の監視を言い渡すことにした。
危惧するような事へ繋がる報告は来ていないので、どこかそわそわしだした目の前の少女を元に戻そうか。
「お嬢」
「……なんじゃ」
「別に心配せんでもええぞ」
「あっ?」
「嫌われてないかどうか心配なんだろ?」
「だ、誰が!」
おうおう、可愛いのう。
「散々と
しかも、御館様は仕方ないとして、備中守様は裏ではあの手この手で軍資金の調達に奔走して、御館様にさえ素知らぬ顔でそれを知らないようにしとった。
そんで今回は、自分の岳父を討たんとする隆房の反乱の敵に毛利家代表みたいな立場でおる」
「……うるさい」
「じゃけど、お嬢は『隆房様の毛利家の代表』として動き回り、せやから商人達と一悶着起こした」
「五月蝿いんじゃ!」
っと。さすがに、お嬢の刀は痺れるぜ。
「普通なら絶交ものだ。じゃけど、あの商人から言われたんやろ? 備中守様の言葉を」
ようやく止まったか。
「『元春と隆景の姉妹は早くから養子に出されて、実家っていうのを知らずに育ってきたやつなんだ。それに、元春の養父である興経殿も、隆景の養父である興景殿も早くに殺されたし死んだ。子供は産めるがガキはガキで、俺の大事な妹だ。あいつらの罪は俺が代わりに背負うから、あいつらが自由奔放に動けるように支えてくれないか?』
商人に言っとって、俺らに言っていない訳ないだろ?」
まあ、ここまでされて惚れん女はいないやろな。
そして、今のお嬢は……いや、お嬢達は、急に目の前に構えてきた大きな背中に、どう反応すればいいか困っているところか。
「甘えろ」
ここは、年の功で言っといた方が良いか。
「今度は気持ちをこめてな」
「…………キモいんじゃ、ぼけ」
俺もそう思ったぜ。
「だが、老いぼれの助言に従ってみようかの」
…………お嬢の笑顔で、こんなに良いものだったっけ?
これからはずっと死ぬまでお嬢についていこう、と心を落ち着かせたと思っている信直が、首を振って邪念を追い払った直後、本陣の外から大声が響いてくる。
その敵意が籠った声に、2人や本陣にいた者達は臨戦態勢をとり、陣幕の中から出る。
『なっ!?』
そして、一様に声を上げた。
吉川隊が栗栖家とは別にそれとなく独自に敷いていた防衛線に、敵の旗印があったからである。
「栗栖ぅ!!」
元春が何時もの叫び声をあげる一方で、信直はいつの間に忍が殺られたか考え、そしてすぐに結論に至った。
元相からの書状の後ろの方にあった、今回の反乱の一端を担う家であり、元就の主君だった家。
「尼子ぉ!!」
彼が声を上げると時を同じくして、もう1つ別の家の旗印がひるがえる事になる。