4日目 正午
周防・安芸国境 松ノ木峠
毛利 隆元
1つの節目である元相との合流を果たして、どこからでも見下ろせる峠の上に建つ茶屋で休憩していた俺達に、元春らが襲われているというのが飛び込んできた。
すぐに安芸を見下ろせる所に座っていた地面から飛び上がり、良晴が公家達と話しているであろう茶屋の中に駆け込む。
「良晴! 元春が!」
「十兵衛!」
「はいっ!」
「半数を率いて
「御意!」
「戦況は!?」
「わからない! 栗栖と福屋に襲われてるらしい!」
「……誰だ?」
「栗栖は元春がいるところの、福屋は石見の……」
「どうやら暇は無さそうだな」
くそっ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
4日目 昼過ぎ
安芸・佐伯郡 戦場
安芸国内の主要な山の1つである冠山とその一帯に降り注ぐ雨を源として、安芸西部を流れる大河。佐伯郡から出ると佐東川と呼ばれるその川の上流部、つまり佐伯郡では太田川と呼ばれる。
声を枯らしながら信直は突破口を見
「これが
何より、血走った瞳で刀を振りまくる元春を抑えれる自信が、彼には無かった。
味方さえ近付いたら切り刻もうとするものだから、止まることなく動き続ける彼女の周りの地面は、白から赤に染まっていった。
まさに修羅である彼女を止めれる者はーー。
「備中守様か御館様かっ!」
まるで役に立てていない事に憤慨した信直の隙を、1人の男は見逃さなかった。
「っ!?」
「信直!」
直前に体を捻らせたが、ドスッ! と音をたてて右腕に弓矢が刺さり、捻った勢いのまま雪を撒き散らしてしまう。
「ああーー!!」
舞い散る赤い点々を見て、元春の中の何かが焼ききれた。
大声をあげながら、乗り手がいなくなったのかさ迷っていた近くの馬に飛び乗り、そのまま走り出させた。
『お嬢!!』
弓矢が放たれた方向、つまりは敵の方へと。
「邪魔じゃー!!」
目の前に飛んでくる弓は『姫切』で跳ね返し。
目の前に構えられる槍は馬が飛びながら蹴る。
そして、両側から迫った刀は人馬一体となる。
「ひぃ!?」
さっきまで勝利を確信し、とっておきの酒を城から持ってこさそうかとさえ考えていた福屋隆兼が、思わず床几から腰を浮かせる。
「そこかぁ!!」
幕の向こうにも関わらず、元春は隆兼の動きに気付く。
隆兼に狙いを定めた元春と馬は、川の対岸に達する。
「なっ!?」
しかし、直後に彼女の視界が真っ白に染まる。
元就や隆景ならすぐに煙幕だと気付いたかもしれないが、忍を毛嫌いする彼女は、突然の事に対処出来ず動きが鈍る。
それを待っていたのが、尼子から福屋につけられていた暗殺を得意とする忍だった。
「このっ!」
視界を塞がれても、直感でその忍に『姫切』で一撃を加えたが、直後にぐらりと視界が揺らいだ。
頸動脈をいきなりやられた馬体が、走ってきた勢いのまま崩れ落ち、元春も投げ出される。すぐに受け身をとった彼女だが、右足が嫌な音をたてた。
「と、ちょらえよ!」
起き出そうとする元春を見て、腰が引けていた部隊長の1人が声をあげ、それを号令にして、褒美目当ての足軽達が恐る恐る近付いていく。
「どけー!!」
信直ら吉川隊が、総大将の女の子を守るために、寡兵をもろともせず一丸となって動き出すが、元春を見ていた敵も通さぬように応戦してくるので、その動きは遅かった。
一方、元春は「兄じゃっ!」とうめきながら、さっきまでの勢いの反動で諦めかけていた。
そして、彼女の後ろでは足軽の1人のような装いをしている忍が肩から血を流しながら近付き、彼女の前の本陣の中では隆兼が震える手で幕を開けようとしていた。
「後ろだー、お嬢!!」
信直が叫び、元春が振り向く。
一足先に足軽達より着いた忍が、刀を大きく振りかぶっている光景を見て、彼女の目が見開かれる。
「お嬢ーーー!!!!!」
あらんかぎりの声で信直が叫んだ直後。
刀が勢いよく降り降ろされた。