相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第55話 決着の話

4日目 昼過ぎ

長門・大津郡 戦場の少し後ろ

 

 安芸の方で刀が振り降ろされたまさにその時、大寧寺の本堂で1つの首が転がっていた。

 

「ご苦労」

「はっ」

 

 うるさかった部屋はまた静かになり、後に残されたのはそのほとんどが白い綿の服を身に纏い、表情は穏やかな顔の者ばかりだった。

 その異様な集団の中心にいる男は、最も穏やかな心のまま、お邪魔したこの寺の住職に話しかける。

 

「異雪、迷惑をかけたな」

 

 フルの 名を異雪慶珠というその住職は、首を横に振り、さっき戒名を授けたばかりの男に答える。

 

「この寺は、大内一族である鷲頭(わしず)家の弘忠が開基して、長門の中心寺院として栄えた」

 

 男は語る。

 

享徳元年(1452年)に大内家に来た『疲れはてたお人』は、文正元年(1466年)にこの寺で亡くなられた。

 長享3年(1489年)には、血縁から出羽の寒河江(さがえ)知弘殿が領地を寄進し子院として澄江院を建立した」

 

 寺の歴史を語る。

 

「そして、私というこの人生に疲れはてた者が、憲実殿とはまた違う形で死のうとする」

 

 静かに開かれた彼のお腹はまだ腹筋が少し割れていて、動きも文化人ではなく武人の方が近い。

 

「済まぬな、このような悲劇に巻き込んで」

 

 異雪を含めた本堂の中の者全員が思わず平伏するのを見て、微笑みをより深くした男は、目の前に置かれていた真っ白な奉書紙を白鞘の短刀から抜く。

 

「討つ者も、討たるる者も、(もろ)ともに、如露亦如電(にょろやくにょでん)応作如是観(おうさにょぜかん)

 

 討つ者も、討たれる者も、人生は露や雷のように(はかな)いものだ。

 そんな意味の辞世の句を言い、目を見開き、短刀を持っている左手を自分の体へ押し込む。

 

「ごめん!」

 

 大内従二位兵部卿義隆、大寧寺本堂にて44歳の生涯を終え、ここに大内家は事実上の滅亡を遂げる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

4日目 義隆逝去のほんの少し前

周防・佐伯郡 戦場のど真ん中

 

 ギン!!

 

 目を閉じた者達に聞こえたのは、そんな音だった。

 ()しくも信直の大声で敵味方関係なく、とどめを差そうとした者さえも、戦場のある一点に注目していた。

 そして、一目見ただけで素人でも太刀筋の良さがわかる男が振り下ろす日本刀と、地面に斜めに突き刺さる元春のそれを見て、ほぼ全員が同じ結末を予想できて、そんな光景を見たくないと目を閉じる者がいたのは仕方のない事だった。

 

「ふぅ」

 

 しかし、赤い液体が白い地面に飛び散る事は無かった。

 

「ギリギリ、だな」

 

 元春は、雪が舞った後にそれを見た。

 鎧兜を身に纏う大きな背中を。

 その先にいる男がいなくなっていたのを。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ。頼むぞ」

「はいっ」

 

 代わりに、自分と同じくらいの少女が、大きな背中からの声に笑顔をこぼしながら、左へと走り去っていく。

 その直後に響き渡った連続する音に元春は反射的に音源の方を見て、男と少女が自分が毛嫌いする忍の武器で戦っているのに目を見開く。

 だが、その光景の事を深く考える前に、何処かに飛んでいっていた兜が無くなった頭から、微かな衝撃と心地よい暖かさが響く。

 

「大丈夫か?」

 

 自分の大事な武器であるはずの日本刀を傍らに置き、それの鞘を持っていた右手は、自分の頭にある。

 真横から射し込んでくる太陽に照らされた横顔は、左手から血が流れ出ているというのに笑顔で、心のそこから自分を心配してくれているのがわかった。

 

「だ、大丈夫じゃ」

 

 兄の事を本当に知ったときとはまた違う感情が涌き出てきた元春は、思わず視線を相良良晴の顔から逸らすが、そこに黒装束の青年が静かに立っている事に驚く。

 そして、この頃になってやっと周りの時間が動く。

 

『うおー!!』

 

 まるで物語のごとく主の絶体絶命の危機が救われた事に対する吉川隊の大声から。

 一方で、良晴の周りに静かに集ってくる黒装束の者達に、実物の忍なんぞはじめて見る足軽達は、自分達のエリアのど真ん中に現れた事も加わって、足が後ろに下がる。

 

「突撃ーーー!!!!!」

『おーーー!!!!!!』

 

 その直後。

 西側に構えていた福屋軍の本陣に、男達が突入する。

 予期せぬ急襲に、福屋軍はもちろん栗栖軍も大混乱におちいり、勝利を確信していた者達は一転して生きるために奔走する事となる。

 

「兄じゃ…………」

 

 突撃を宣言して、最前線で敵の本陣の中に消えていき、今は馬上から荒いながらも必死に刀を振るう兄。その背中は、視界が滲むほどに大きかった。

 そして、大事な時に自分の力が震えない事に気付き、元春は思わず自分の右足を拳で打とうとするが、それを止める手があった。

 

「吉川元春、だよな?」

「……今は毛利元春じゃ」

「……元春、おんぶされて刀を振るえれるか?」

「…………お主に体力があったらの」

「鍛えてきたから大丈夫さ。まあ、鎧兜を脱いでくれると助かるんだけどな」

 

 そして、一刻(2時間)経って戦が終わった頃。

 おんぶされながら愛刀を振るう元春と、彼女の指示に従い黒装束の忍達に守られる良晴の2人は、妹を殺そうとした敵に最前線に立って突撃した隆元以上に周辺にしれわたるようになる。

 だが、時々首を絞められながらも浅い雪原の上を動き回った良晴は、戦の余波で無血開城した近くの城まで自力で城門を潜った後に、雪原の中に倒れこんだのでそれどころではなかった。

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