6日目
安芸・高田郡 吉田郡山城
雪中の中の大戦。
農民が本来の仕事をする時期を避けるために秋から春にかけて行われる事が多い戦国時代でも、その戦は珍しい。
城を囲む籠城戦の途中でも、雪が降ると、焚き火や地元の商人が開いた臨時の町で寒さをしのぎ、動物の冬眠のようにほとんど動くことは無い。
それ故に豪雪地帯であり米の収穫もその冬に近い東北地方では婚姻関係が重視されたかもしれないが、それは横に置いておくとして、この日の城の周辺も、だいたいはその常識にのっかかり思い思いに寒さをしのいでいた。
「元就は引き返してこぬ、か」
「はっ」
例外は、裏で一進一退の攻防を繰り広げている忍と、郡山城に並々ならぬ執念をもつ者達ぐらいであろう。
庄屋の家を勝手にぶんどって自分の所の本陣にした男は、物見を下がらせ、囲炉裏の前で考えにふける。
「勝てるが……単調すぎる」
祖父から嫌というほど毛利元就とその子供達の事を聞かされたその男は、佐東銀山城が攻められていない事に不信感を抱いていた。
行きに4つの城を落としながら1日で踏破した距離を、帰りに出来ぬ道理はない。捨て駒は雪だからだとわめいていたが、全速力なら降り始める前に全軍で動いていても佐東銀山城に達しているはず。
そして、もう1つ気にかかる事が、目の前の城に向かっていたはずの公家達だった。保護という名目で人質にして山陰制覇への布石にするはずだったが、いまだ見つかったという情報は来ていない。
「油断大敵」
最後にそう呟いた男は、厳しい警戒を厳にさせてから、明日ーーというより今日の戦に向けて眠りにつく。
「雪で見えないのが残念であるが、酒は旨いのお」
「まことに」
同じ頃、より安芸の海に近い所の『四つ割菱』の旗印が揺れている本陣では、夜遅くだが2人の男が呑みかわしていた。
少し顔を赤らめた中年の武将が、安芸武田家の当主であり、元就に追われた佐東銀山城を奇襲で奪回した武田信実。
呑むペースは何時もより遅い老将が、眠りについた今の尼子家当主・義久の曾祖父・経久の頃から、尼子家のために動き回っている牛尾
尼子軍が吉田郡山城を攻めている時に、一旦は佐東銀山城を奪回した時からの知り合いである彼らは、義久が考えた策略の最後の段階が予定通りに終わった事を聞いて簡単に呑み交わし、昔話に花を咲かせてから眠りにつく。
次に彼らが起きたのは、安芸武田軍の陣地が襲われるその前後だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
6日目 丑三つ時
安芸・安佐郡
紡錘形をした、急峻で高さのある山の上に建てられた熊谷信直の居城の下に、小さな、だがしっかりとした火の集まりがあった。
その集まりの中心にいるのが元就から隆景救援を任された隆元であり、その周りには毛利軍+アルファの武将達が
「やっぱり親父どのは謀略をしてたのか」
苦笑いを浮かべながら呟く毛利隆元。
「じゃな!」
「…………」
兄の呟きに大声で答える吉川元春とその隣の相良良晴。
「それ故に熊谷家を任せれると思いましたからな」
元春の言葉に大きく頷きながら熊谷信直。
「同じく」
短く同意したのは、佐東銀山城の城番を任されていた福井元信。疲れた表情が滲み出ている。
「お主もありがとな」
「こちらこそ有り難き事でございます」
「拙者も間違った事を正せただけで有り難き事です」
そして、隆元に労われた僧侶と少女。
「………………」
2人を複雑な感情で睨む男。
その男を、隆元は勝者の表情を心かけながら言う。
「迂回しての尼子攻め。これで許そう」
少し目を見開き、そして閉じた男は口元を
「やはりあの爺とは違うな」
本陣の全てに聞こえる声で言うと、目前の隆元を見上げる。
「1つお願いがありまする」
「……なんだ?」
「もし我等の働きが一番ならば、そ……小三郎様へ領土を拝領していただきたい」
「…………最終的には親父どのが判断するが考慮しておこう」
「ありがとうございます」
そして、佐東銀山城を落とした彼らは、少し進んでから別れていく。
復讐に燃え地の利がある毛利の忍に率いられ、ほとんどが慢心している城を囲む敵達を挟撃する配置をとる。
「さて、俺達の家の玄関を乱暴に叩いている奴等を追い払うぞ」
『おうっ!』
夜明け。
風は弱くなったが、まだまだ雪が降りしきっている中、2つの旗印が動いた。