相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第61話 第二週吉田郡山城の戦いpart 3

6日目 朝

吉田郡山城 尾崎館()

小笠原 (あき)

 

 俺が悪かった、と祖父上は念仏のように父上と別れるまで呟いていたらしい。

 燃え盛る城とそれを見上げる旗印の光景を俺に絵の才があれば細かい所まで書けると豪語していた父上は、石見銀山を巡る戦いの最中にあっけなく討死した。

 後に残された僕達家族は引き続いて養父様の庇護を受けさせてもらい、それに報いるために、そして元就に追われた城を奪い返すために僕は武術を磨いた。

 

「吉田郡山城を中から落とす」

 

 だから、その作戦を聞いた時にいの一番に参加することにして、御館様の冴え渡る知謀から陶の反乱が始まる()に準備していたこの部隊に参加した。

 戦国の世の(ことわり)と頭でわかっているが、心では納得できない者達は、戦いを聞いて参じた地元の足軽として、簡単に城に入れた。

 こば……いや、毛利隆景は憎き爺の頭を受け継いでいる、と言われる割には大した確認もせずにこの城に入れた事に、同郷の者は「毛利の終わりの証よ」と笑っていたが、しかし隆景の姉がやって来た。

 

「ここら辺で良いだろう」

 

 その者は今ごろ外で戦っているだろうが、僕はなんとか混乱に紛れて、この館の中に入れていた。

 自分の家より格が高い跡取り息子が溺愛する女のために作られた館は、思った通り大きく、そしてその女と赤ん坊に先導した男は、だいぶ奥まった所でようやく立ち止まった。

 女が赤ん坊を抱えながら部屋の畳に倒れこむように座り、女中があわてて駆け寄る。一方で、男達は部屋の外から来るものに対して警戒する。

 だからーー。

 

「誰だ!?」

 

 隊長の男の声に女は弾け上がるように起き上がり、針は首に届かなかった。

 心の中で舌打ちしながらも、女の後ろの位置を保って、開かれたままの障子の方を向く。

 

「も……治部少輔(吉川元春)様についてきた相良良晴という者だ」

「久しぶりだな。この相良についてきた三次(みよし)だ」

「おお、三次か!」

「尾崎局様はこの部屋か?」

「ああ、そうだ」

 

 入ってきたのは僕と同じくらいの年の猿顔の少年と少女が1人ずつに、巷では人気をはくしていそうな男。

 そのうちの猿顔の少年が少し左足をかばいながら膝を折り、赤ん坊を更に強く抱き締めた女に視線をあわせる。

 

「初めまして。相良良晴という者です。元は関東の北条家の家臣で、山口からた……備中守(毛利隆元)様と一緒にここまで来ました」

「まあ!」

 

 相良良晴……どこかで聞いた名前だと思っていたけど、山口の最後の晩餐に招かれた者の1人だったか。

 

「隆元様は? 今はどちらに?」

「城下の方で武田を蹴散らすために奮闘しています。そろそろ終わるらしいので、館の前の奴等を倒せば、この戦は終わりです」

 

 武田もか……情けない。

 ならば、多少強引でも使命を成し遂げるのが、父上一同が望む最良の結末。ここで、毛利家の跡継ぎを殺し、混乱している間に尼子と陶が挟み込む。その(いしずえ)となろう。

 たんまりと鳥兜の毒が塗られた針を両手に持ち、笑顔を貼り付けながら喜びに湧く女の下にーー。

 

「っ!?」

 

 近付く前に、目の前を何かが通り過ぎた。

 

「あなた、女中じゃないわね?」

 

 ちっちゃな苦内……という事は忍か。

 

「まさか忍がこんな所にいるとはね」

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 このまま女に突撃してもその前にやられるためにいらなくなった針は捨て、代わりに懐から刀と黒く丸い物を取り出す。

 

『ひぃ!?』

 

 女達が後ずさるがもう遅い。

 男達が動き出すがもう遅い。

 

 僕は、迷いなく手元の炮烙(ほうろく)玉の導火線に火を付けた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

6日目 昼

安芸・高田郡 吉田郡山城の本丸

 

 所々傷ついているところはあるが、建て直すほどの物ではないので、戦後処理を本丸の評定の間で行う事になった。

  日前とは違い元就の代わりに隆元が上座に座り、下座の一番上座に近い両端に元春と隆景が座っている。そこまでなら驚くほどの事でもないのだが、2人の隣の者が異質だった。

 

「てるは良いと思うよ?」

 

 隆景の隣で声を上げたのは、母親に抱えられてご機嫌な元就の次の次の当主になることが内定している三代目こと毛利輝元。

 

「…………」

 

 その輝元の賛同に、声は上げなかったが体がピクリと動いたのは、元春の()に座り、熊谷信直に横目で睨まれている相良良晴だ。

 

「……ふむ。良晴。その者()を2度と中国の地を踏ませない事、確約できるか?」

「もちろんでございます」

 

 山口から公家衆を引き連れて隆元と共に落ち延び、4連戦で大活躍した良晴の返答に、隆元も笑みを浮かべる。

 そしてキリッとしてから、彼は目の前の下座でずっと平伏している者達になるべく威厳を持って言う。

 

「良晴の寛大な(おぼ)し召しにより、お前らは助命する事にした。だが、2度とこの地には踏み入れるな。破ったら、どうなるかはわかっているはずだ。

 そして、一番年長である繁平を家長とした郡山家を立ち上げ、良晴のために励め」

『はっ!』

 

 そして、今から陶の決戦までの事を簡単に決めてから、隆元の無礼講宣言付きの少し遅い昼御飯となる。

 すると、早速「いやじゃ!」とごねる元春を隣の床几の上に置いた良晴に、人が殺到するが、いの一番に滑り込んだのは繁平だった。

 

「……大丈夫か?」

「…………」

 

 そう、文字通り滑り込んだのである。

 少ししてから復活した繁平は、何回か頭を指先で触った後、良晴の方に正座で座る。

 

「郡司様。此度の寛大な思し召し、真にありがとうございます。郡山家一同、誠心誠意尽くしていきたいと思う所存でございます!」

「おう。後、同じくらいの年だし敬語は無しで」

「は、おう!」

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