相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第62話 姉妹と彼女達の実家の話

6日目 酉戌の刻(午後7時頃)

安芸・佐伯郡 厳島とその辺り

 

 吉田郡山城、ぎりぎりで落城せず。

 その速報は尼子の大軍が帰っていったという物と共に中国地方のみならず四国や畿内や九州、更には南関東にも広がり、多かれ少なかれ衝撃を受け取った者達に衝撃を与えた。

 その中で、一番複雑な心境になったのが、その尼子を呼び込んだ陶隆房だった。

 

「決戦しか無い、か」

 

 ぎりぎりでの公家達の山口からの出奔。

 ぎりぎりでの毛利嫡男の鞍替えと覚醒。

 綿密に計画してこの変を実行に移した自分と同じだと思っていた毛利家は、ほとんど即興の作戦でここまで生き残り、更に続々と安芸・備後の者達の大親分になろうとしている。

 対する自分は、房長を失い、義教を逃してしまい、九州から攻めこまれないために迎えた大友の少年からは嫌われる。

 

「宮尾城はどうか?」

「依然として落ちる気配はございませぬ」

 

 安芸北東部の割譲を代償にして呼び込んだ尼子と、なけなしの軍資金を与えた武田・小早川・吉川の奴等はあっさりと三兄妹に敗れ去った。

 毛利との戦は、元就を討てれば仲良くない3人を各個撃破していく簡単な戦いと侮っていたが、相次ぐ戦とその結果にその価値観はどこかに飛んでいった。

 長房からの手紙には、ぽつりぽつりと防長の味方の中で距離を取り始めている者もいる。

 

「明朝、総攻撃で宮尾城を落とし、上陸しようとする毛利の奴等の後ろを長房らがつくと各将に改めて伝えよ」

「御意!」

 

 昼よりも激しさを増す風と雪。

 この中を渡ってくるはずは……。

 

「ふふっ」

 

 隆房が暗い笑みを浮かべたその頃。

 厳島の北西側にある厳島神社と宮尾城の対岸の城では、猛吹雪の中の軍議が大詰めを迎えたところだった。

 

「よし、この作戦で良いな? 後は先鋒だけだが……」

「この出羽隆綱にお任せくだされ」

「いやいや、この隆家にこそ」

「熊谷家に佐東銀山城の汚名を晴らせてくだされ」

「なればこの吉見家も尼子の進軍を察知出来なかった事の汚名を」

 

 一生に1度かの大戦の先鋒。それをつとめあげたい者はやはり多く、元就も苦笑いを浮かべる。

 そんな中で隆景が静かに手を上げたので、明るくなった元就は次代の毛利家の謀将の判断を尋ねる。

 

「一番の汚名は、吉田郡山城の中に敵の侵入を許した私にございます。私に先鋒を」

 

 元就は口を開きながら、軍配をぽろりと落とす。

 

「いやいや、隆景には戦況の判断をしてもらなければならん」

 

 元就の代わりに隆景に反論したのは、下座の一番上座に近い所に座っている隆元。

 次期当主の反論に、また元就は回復するがーー。

 

「だから俺が代わりに行ってやるよ」

 

 今度は心の臓を掴まれた気がした老将だった。

 

「……自分は良晴をまた危ない目に遭わしたくないし、後を追い掛けるぞ?」

 

 父親にすがるような視線を向けられた兄と妹の間に座る元春は、血で汚れたまま使ってる『毛利上等』の鉢巻きを手でこねながら、ごく自然に上目使いで答えを返す。

 その仕草に評定の間にいたほとんどの者がダメージを受け、そこから回復すると隆景と穂井田(ほいだ)元清の間に座らされている相良良晴を見る。

 側室の子として父親からは嫌われているがそのぶん兄姉達からは大事にされている元清も、彼が自発的に村上水軍に入った事を喜んだ隆景も震えるくらいの重さのある視線に、思わず良晴も冷や汗が流れた。

 

「ごほん」

 

 その空気をなんとか変えたのが元就だった。

 鼻の下を拭いた彼は、回復するまでの間に知識をフル動員させ、事態を解決する案を思い付く。

 

「隆綱の祖先は同じ読みである佐々木左衛門尉(高綱)殿。信直の祖先は蓮生(熊谷信実)殿。佐々木殿は宇治川で、蓮生殿は一ノ谷で先鋒をつとめ、見事に成功なされた事から2人が先鋒じゃ。

 正頼と隆家の祖先はそれぞれ鎌倉殿(源頼朝)を支えた者であるので副将軍を、隆景どのの祖先は鎌倉殿の平家討伐の折に吉備や防長の惣追捕使に任ぜられた者なので、追手の副将軍になれ。

 ……良いな?」

『はっ!』

 

 ふう、と珍しく自然に溜め息をついた元就は、親心が働き、それを頭がまだ熱かったので止められず、少し不満げな隆景に聞く。

 

「隆景どの、なぜ今回は?」

「…………よ、良晴が姉者の方を向いてたから」

『……………………』

 

 姉妹となると好きになる人も似通ってしまうものなんだな、と現実逃避が働いた良晴だった。

 後に『毛利家の未来を二重にも三重にも決めた』と言われる会議が終わると、良晴はニコニコとしている元就に呼ばれる。

 

「良晴どの」

「はい」

「毛利と北条の架け橋となる気は?」

「……御館様と相談してから返事いたします」

 

 親バカの謀将・毛利元就。

 鉢巻きを握り締め、上目使いで自分を見てくる元春。

 握っているのが自分の服の袖になっている隆景。

 今までで一番覇気を出している隆元、吉田郡山城の時から気にかけてくれる尾崎局、なぜかなついてくる輝元。

 更に「自分の右腕じゃ!」と元春に笑顔で言われて大粒の涙を流した熊谷信直と、隆景の雄姿に惚れ込んだ元春に並ぶ勇将である乃美宗勝。

 そんな者達に囲まれた中で、元就に聞かれた良晴はそう返すのが精一杯だった。

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