相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第64話 最終決戦の始まりの話

7日目 夜明け

安芸・厳島北部 最後の戦場

裏から表へ来た者達

 

 雪はようやく止み、代わりに(もや)が静かに島と本土の岸辺とその間の海を白く覆おうとしていた。靄が出てきたという事は、風もおさまってきたという事で、村上武吉は「天に恵まれてやがるぜ」と呟いた。

 標高30メートルの丘の上に建つ宮尾城を囲う陶軍2万は、落城確実の目の前の標的を前にして英気を養うために寝ている者、一番乗りを果たすために鍛練している者、同じ目的で周りの者達と交渉している者など様々だったが、奇襲を警戒している者はほぼいないというのは確実に言えた。

 そして、この冬一番と言える大嵐を乗り越えた毛利軍本隊と小早川軍は全員が目をぎらぎらと輝かせ、比較的冷静なのは東から来た者達ぐらいである。

 

「もう、そろそろだな」

 

 その冷静な者の1人である兄の言葉に、横で静かに弓の調整をしていた妹は頷く。

 山口の戦いから吉田郡山城の戦いへの連続した4つの戦いを切り抜けた風魔は、地元にいた頃とは違い『相良良晴についている表の部隊』とも認識され、裏を好む者以外はその現況に言い様のない快感を得ていた。

 伊勢盛時、北条氏綱、そして北条氏康と北条幻庵。歴代の北条家当主とその3代に仕える御老体は、丹沢の山中で差別させられ暮らしていた自分達に領土と食糧を保障し、その代わりに自分達は北条家の目となり耳となる。

 その関係は、早雲様に大恩を感じる世代が現役な頃は良かった。しかし、世代が変わり、北条家も風魔が本良を発揮出来る相模や西武蔵より外となると、様々な弊害が起きていて、一部には武士として表で活躍したいという次子以下の者達が現れる。

 次男坊である兄と長女である妹もその中の1人だったが、一族の中に長老からそんな奴等を引き抜こうとする者もいなかったし相模では小山田、西武蔵では三田(みた)など表裏を使い分ける者達も多い外様には、こっちから行こうとしなかった。

 そんな中で現れた根なし草である相良良晴は、御老体からつけられた宮ヶ瀬らと国府台で戦い抜いた後に鎌倉とその周りを任せられ、御館様は私達を郡司様につけた。

 

 郡司様が失敗すれば自分達も終わらさせられる。

 

 それを肌で実感して固まっていた彼らに、相良良晴は裏だけではなく表の一部も任せた。 

 鎌倉という特殊な地域を統べるから、という理由からの一時的な措置だから期待は無駄、と守旧派の老人達は言っていたが、正月前後の行事や今回の事でも自分達に任してくれた。

 

(かなめ)はお前達だが……行けるか?」

 

 終いには、戦いの左右を決めるまでの、本来なら表の者が任されるべき事まで任された。そして、これ以降だと思うが、裏に徹する先輩達も動きが俊敏になってきた。

 1ヶ月か2ヶ月であっという間に自分達を変えてくれた頭領は、今は自分の右足を気遣いながら吉川の娘をおんぶして、自慢の回避能力を充分に発揮できない状態だから、自然とその周りの闇に溶け込んでいた者のやることは決まる。

 

 太鼓が1つ鳴る。

 足軽の格好に扮した自分達は、各々の武器を構える。

 

 太鼓が1つ鳴る。

 頭領は腰を低くして、瞳を更に鋭くする。

 

 太鼓が1つ鳴る。

 元盗賊の者達は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 そして、太鼓が鳴った。

 

「突撃ーーー!!」

『おおーーー!!!!』

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

7日目 夜明け

戦場

陶軍

 

 陶軍2vs毛利軍。

 数だけ見れば陶軍が圧倒的に有利に見えるが、実態は毛利軍の方が優勢と言えるだろう。

 

「敵襲! 敵襲じゃ!」

「城からか!?」

「ちゃう! 横からじゃ!」

「はあ!?」

 

 陶軍のほとんどの将兵は、嵐の翌日という事もあって奇襲など宮尾城からぐらいしか予想していなかった事。

 

「どけどけー!!」

「ひぃ!?」

 

 殆どが山という厳島に申し訳程度にある宮尾城と神社の間に2万という大軍が密集していたから、満足にすぐに動くのが出来なかった事。

 

「勝手に逃げるな!」

 

 かき集めに加えて、陶隆房が新当主から嫌われているという噂が広がり、不信感が漂っていた事。

 

「野郎共! 暴れまくるぞ!」

『おう!!』

 

 昨日の海戦は小早川水軍だけだという情報が広まり旗印もそうであったため、瀬戸内の王である武吉自身が参戦する意気軒昂な村上水軍がいるとは思っていなかった事。

 

「行くぞ!」

『おー!!』

 

 そして、陶軍の本陣が置かれた場所。

 現在では本土から船でやって来た時に降りる港の左側に宮尾城、右側に神社などがあるが、その右側の神社の手前にある小高い所に本陣は置かれていた。現在は豊国(とよくに)神社や五重塔がある塔の岡という所である。

 当然、毛利軍本隊はそこへ向けて突撃していき、逃げたりしない陶軍の勇士は隆房を守るために殺到しようとするが、突如後ろの方が大声が上がった。

 

「合流するぞ!」

『おおー!!』

 

 夜明けから少し経ってれば、昨日の『筑前から来た者達』の正体をわかっていただろうが、そこは元就が許すはずがなく。

 狩る側は、いとも簡単に狩られる側となった。

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