相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第66話 戦いの終わりの話

7日目 朝

厳島・戦場 死地

 

 陶軍は崩壊し、後は殲滅(せんめつ)していくだけ。

 小早川隆景にはそんな思いと慢心があった。

 

「突撃ー!」

『おおー!!』

 

 だから、隆房の家臣の1人である三浦房清が手勢を率いて攻めてきた時、すぐに対処出来なかった。

 奇しくも自分と同じ水軍の将である房清らの最後の意地に追撃の勢いは止まり、すぐに乱戦となる。

 

「あぶねえ!」

 

 (はや)って追撃の最前線に近い所を駆けていたため追い詰めた鼠に噛まれるのをなんとか防いでいた彼女の耳に聞こえたのは家族に次いで忘れたくない声で、目にしたのは自分に迫る1本の矢だった。

 姉のようにすぐに動けず、その一瞬が致命的な時となり、射手は心の中で歓喜しかけた。

 

「頼む!」

「おう!」

 

 だが、矢の前に現れた甲冑が隆景をまもり、空を飛んだ自分と同じ特徴的な髪色の甲冑がその矢を叩く。

 目の前の甲冑を着る相良良晴は、刀と矢がぶつかる音が聞こえると、再び半回転して、左の片足で地面に降り立とうとして、やっぱり失敗した吉川元春を自分に引き寄せる。

 そして、射手はそれを見る前に、どこからか飛んできた矢に眉間(みけん)を射ぬかれていた。

 

「何しとるんじゃ、隆景!」

 

 唖然とする隆景を叱咤したのは、良晴を挟んだ先にいる元春ではなく、良晴に(はべ)っていた刀を赤く濡らす郡山()平。

 自分との一騎討ちで勢いあまって転んだ事で何とも言えない空気を生み出した彼の大声に、隆景も冷静さを取り戻して、固まっていた体に深く空気を入れる。

 空気を吐き出す時には、姉も元の位置に戻り、良晴は自分の隣にいてくれていた。

 

「反応なしかよ!」

 

 わめく声に少しだけ口角をあげた少女が最初の1歩を踏み出す。

 

「毛利の者共よ!」

 

 ーー前に、甲高い声が響き渡った。

 

「此度の作戦は見事であった! 私は負けを認めよう!」

 

 その声は、少し離れてしまった消火中の神社の者達や、まだ荒い海の上にいる男達の耳にも聞こえた。

 

「武器を下ろした者達は助命してほしい! これが私の願いである!!」

 

 その声の発信源には、甲冑を綺麗に横の荒い地面に置いた者がいた。そして、その者を見下ろせる所にいた少女が呻くように声をあげる。更に少し遅れて、良晴が反応した。

 

「兄上!」

「……えっ!?」

 

 元春の言う『兄上』は陶隆房の事。

 それは毛利家の兄妹や兄の話を聞いていれば簡単にわかる事で、だから良晴も隆房の事を男だと思っていた。

 

「自分は毛利隆元の妹、吉川元春じゃ! 兄上の介錯をお頼みもうしたい!」

「おお、元春か! お主に介錯されるなら本望よ!」

 

 隆景さえ思わず耳を塞ぐ大声同士の会話に少し遅れて追い付けた良晴は、真横にある元春の視線に気付く。

 年ごろの少女の複雑な表情を見た良晴は、開きかけた口を閉ざし、代わりに動きが止まった戦場の一部分を歩く。

 

「おうおう、奇っ怪な事になっとるの、元春」

 

 おんぶされた元春をそう評した隆房は、これから死に行く者とは思えない顔で、全ての準備を終えた所だった。

 

「お主が相良良晴か?」

「……ああ」

「猿顔だと聞いてたが本当にそうなんだな」

「余計なお世話だ」

 

 男友達のような感覚を彷彿させる会話の間にも、地面に降り立った元春は隆房の横に歩き、刀を鞘から出す。

 それを横目に見ていた隆房は、大きく深呼吸してから、目の前の の上に置かれていた短刀を手に持つ。

 

「何か言い残す事はありますか、隆房殿」

「千法師か。……そうだな、既に辞世の句は隆(かね)に言ったから…………勝手だが俺の愛娘達を頼む」

「出来る限りやってみましょう」

「うむ。……元春、この陶()()の死の準備は良いか?」

「……おうっ」

「では、行くぞ」

 

 そして。

 主君に愛された女傑・陶隆房は、ここに自害する。

 

 数刻後。

 最後まで(あらが)い、そして笑いながら主君の後を追った弘中隆包の死によって、山口から始まった戦いは厳島で終わる。

 戦後、少なからず色々と飛び散った厳島神社の社殿は、細かい所まで塩水で洗い流し、あくる日より七日間、神楽や龍頭納楚利の舞を奉納した。

 さらに、戦いの翌日には敵味方双方のために万部経会を催してその冥福を祈ったが、その中には残された隆房の遺児と『妻』もいた。

 

「隆房どのは厳島で自害なされ、もはや貴殿の後ろ楯は無きに等しい。毛利が望むは防長2ヶ国であり、尼子と戦うために九州に用はない。潔く豊後へ帰られよ」

 

 そんな内容の書状を、陶軍の生き残りを介して受け取った大内義長は、それに返事をすぐに(したた)め控えていた者達に次なる行動を言い渡す。

 村上武吉が自分で操る舟が周防灘を縦断した時、彼らに加えて更に神妙な表情になったザビエルもいた。

 

「良晴どのには、悪鬼がついておるのかの」

 

 主無き2ヶ国を合わせるために厳島を出た元就は、村上水軍を介した良晴からの手紙を見てそう呟いたという。




これにて、予告なしだった西国編前編の完結です。

真に勝手ですが、4月から恐らく秋ぐらいまで仕事で半端なく忙しくなることが確定しましたので、毎日投稿どころか1ヶ月ほど空く場合が出てきたので、ここで少し筆? 指? を休ませていただきます。
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