相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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1ー1.5上

2月5日 朝

相良 良晴

 

 朝早く、堺を出た俺達は公家達を護衛しながら西国街道を通って、2週間ぶりに京の地に足を踏み入れた。

 予定通りの場所で公家達とそれぞれ別れ、彼らを見送ってから、この日ノ本の中心部を散策する。

 

「ガードマン、か」

 

 三好家に雇われた、京の中のみの警備員。その制度に、良晴はその事を知った時に「まさかな」とは思っていたが、実際見てみると俺が元いた世界では警察と呼ばれるような機能を持っている事に気付く。

 出航までは暇だろうし調べてみようかなと考えつつ、賑わいを見せる下京と上京を結ぶ唯一のしっかりした道である室町通りに入る。

 

「……前よりヤル気に満ちている?」

「ですね」

 

 良晴の隣にいるのは、周防で宮川房長を討ち取った棚沢十兵衛与一。風魔内での会議で渋る梅千代から、良晴の『表』での護衛役を勝ち取った猛者である。

 見た目は『育ちの良い武家の兄弟』である2人は、2週間前より不思議と活気に満ちている京の都を首を傾げながら北へ歩いていく。

 そして、賑わいは町人の下京だけかと思っていた2人は、公家の上京もまた別の賑わいを見せている事に驚く。

 

「機能していますね」

「してるなあ」

 

 所々ほつれや汚れはあるが体裁を保てる服を着た公家達が、時には真剣な表情で、時にはやり遂げた表情で歩き回り、小田原や山口とは違う正真正銘の『国の中心』という空気が感じ取れた。

 その独特の空気に気圧されながらも、2人は連絡をして了承もとっている場所に向かう。

 

「誰だ」

「北条家家臣の相良良晴とその護衛だ。将軍様からの書状もある」

「相良様でしたか! 失礼しました!」

「お、おう?」

 

 そこからは丁重なおもてなしをされながら、良晴は若き将軍である義輝の自室まで案内される。

 

「相良だ!」

 

 良晴に最初に気付いたのは、公家達よりも早く細川藤孝によって連れて帰られた義輝の妹・義昭である。

 

「兄じゃ!」

 

 彼女は最近になって増え始めたが「充実感がありまくる」仕事をこなしている兄の方を向いて、さっき考えついたのを宣言する。

 

「兄じゃの仕事が終わるまで、良晴と源氏物語を巡っても良いかの!?」

「ああ、藤孝も連れていくならな」

「もちろんなのじゃ!」

 

 断ったら……わかるな? と、シスコンの兄に目線で言われた良晴は頷くしか無かった。

 兄と遊び相手としてのお兄ちゃんから許可をとった義昭は、目を爛々に輝かせて藤孝がいる部屋へ1人で走っていく。

 

「……荷物少ないですね」

 

 その間に、良晴は義輝に気になった事を聞いてみた。

 

「ああ。三好の援助で建てている二条城に引っ越すからな」

「……良いのですか?」

「前の所を捨てて、という意味なら是《ぜ》さ。そもそも、武家の頭領が飯盛山や小田原のような城に住まず、このような屋敷に住んでいる事が可笑しかったからな」

「なるほど」

 

 手のひらに墨がまだ残っている藤孝を連れてきた義昭は、兄の義輝に「行ってくるのじゃ!」と言い、良晴の手も引っ張って『花の御所』と呼ばれる屋敷を出る。

 

「で。どこに行くのじゃ?」

『…………』

 

 結局、義昭の希望は「元気になってきた京の都を巡りたい!」なので、ぶらりぶらりと歩いていく事にする。

 北と西は主に三好家の邸宅、東は相国寺なので、南に伸びる室町通りを4人は歩いていき、その沿道に軒を連ねている屋台や店に義昭は興味を持ち、藤孝と良晴は彼女が自分の正体をばらそうとするのを抑えていた。

 いつしか、下京の近くまで歩いていた一行は、そこで良晴を呼ぶ声に引き止められる。彼を呼んだのは、所々ほつれてはいるが上品な貴族の服を着た中年ぐらいの男。

 

「俺が相良良晴だけど……どなた?」

「申し遅れました。武家伝奏を勤めております勧修寺(ただ)豊でございます。今後ともーー」

「お主が兄じゃと時々会ってる勧修寺か!」

 

 藤孝が義昭を紹介している間に、良晴は視線で与一に問い、知恵袋みたいな役割もある所を勝ち取った彼は「武家の申し出を姫巫女様などにお伝えする役職です」と小声で返す。

 重要な人か、という認識に至った良晴は、義昭にも挨拶した尹豊に用事を丁寧に聞いてみる。

 

兵部卿(大内義隆)様からの上奏の結果をお伝えに」

「ああ、亀鶴丸の…ですか」

「はい。姫巫女様は諾でございますが、公家達は否となっています。特に正親町と西の分家の者が『他の筋の者より我の方が。閑院流嫡流の家ならばなおさら』と」

 

 三条家はれっきとした藤原家だけど、大内家は百済(くだら)の王様の末裔を称してるからなあ。

 

「しかし、ここである申し出がありました」

「……とは?」

万里小路(までのこうじ)家が養子に迎えたい、と」

 

 万里小路、万里小路……。

 

「よ…兵部卿さ…様の正室さんのご実家、でしたけ?」

「左様。今は出家されているが、実家との関係は保られており、それゆえにその申し出が来たという次第です」

「万里小路家全体としてはどうなのですか?」

「現当主は兵部卿様の義兄にあたられる権大納言(万里小路惟房)様であり、子息は権中納言(輔房)様でございます。されど、権中納言様は体が弱く未だ跡継ぎがおりません。それゆえ、亀鶴丸(義教)様を迎える準備があると」

「なるほど。……で、それをなぜお…私に?」

「兵部卿様が亀鶴丸様に託された書状を覚えていますか?」

「姫巫女様に見せるための物、でしたけ?」

「それです。そこには兵部卿様からの遺言が書かれており、朝廷はその通りに実行するとしました」

 

 ……嫌な予感が。

 

「権中納言様にやや子が出来た場合などに備え亀鶴丸様を、そして武家の道を歩ませるために亀童丸(義尊)様を相良()()()とする、と」

「……2人は」

「相良様の決断次第と」

 

 ………………子持ちかあ。

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