記憶をなくしてしまった主人公は偶然出会った少女八神ヒカリと共に病院へ向かう。
そこへ突如現れたディアボロモンを撃退してしまった主人公は、警察を名乗る男と自衛隊に連行される。
「待ってください」
拳銃を持った男に連れられ護送車に乗ろうとする僕にヒカリちゃんが声をかけてきた。
「あなたは八神ヒカリさんですね」
「なんで私の名前を」
「あなた方は自分が思っている以上に有名なのですよ」
スーツ姿で目つきが悪い男は、睨むような目でヒカリちゃんを見て言った。
「安心してください、彼が抵抗をしなければ、すぐに会えますよ」
「私は櫻井という」
護送車に乗り込み、座席に着くと男はそう名乗った。
「あなた、警察じゃありませんね」
一緒に乗り込んだ武装した迷彩服に視線を移す。
「いや、身分は警察官だ。ただ今回の計画の準備のために駆り出されているだけだ」
櫻井の差し出した警察手帳は、素人目には本物に見えた。
「計画とは」
「君は記憶がない上に、デジモンと生身で戦って、混乱していないのか」
「逆ですよ、あまりに混乱が大きすぎて、何が起きても驚かないだけです」
いつの間にか消えていた剣に関して言えば、あれが現れた段階で、過去の自分は普通ではない存在だと確信した。
「過去の僕が何をしていたにせよ、僕は誰かに迷惑をかける人間にはなりたくない」
「その心意気はこちらとしても助かる、ところで君はヒーロー番組を覚えているか」
「いえ、ヒーローという言葉の漠然とした意味は分かりますが」
「テレビの中の人彼らは人々を守るために日々見返りを求めず戦い、傷つき、そして最終回を迎える」
「それが、どうかしましたか」
「私は不思議に思うんだよ、彼らの行ける範囲に悪者は現れるし、彼らは悪者に対して躊躇なく力を振るい、いつか終わりが来る」
櫻井は話している内容の割に、真剣な表情だ。
「こうは考えられないか、彼らヒーローがいるから、悪者はやってくる」
「そういった可能性もあるのかもしれませんね」
「君は先ほど現れたデジモンに対して、本能的に力を振るった。そして、一見すると君は渋谷を守ったヒーローな訳だ」
そういう見方ができなくもないのか。
「君が自身が何者か分からない以上、さっきのような行為を好き勝手許すわけにはいかない、それを取り締まるのが我々だ」
「ごもっともです」
自分が災害の原因だとは思いたくないが、自分の所為でヒカリちゃんや見知らぬ他の人に迷惑はかけたくない。
「かといって、君の人権、もっとも現時点で君はどの国の人間でもないわけだが、それを無視して殺すこともできない」
「なぜですか」
「我々には先ほどのようなデジモンに正面から対抗する力はない。自衛隊の出動に関しても、総理大臣を始めとした様々な人の承認が必要となる」
統治された社会の欠点。
「そこでだ、現状の法律を変えている時間もない今、いつ現れるか分からないデジモンに対して取れる選択が二つあった」
「僕を使うことは分かります」
「賢い子供、いや君の年齢は分からないが、そこまでたどり着けるのは助かる」
「もう一つはなんですか」
櫻井は手元にあったノートパソコンをこちらに向けた。これも旧型に見える。
「八神ヒカリを始めとした、デジモンを使い、デジモンと戦い得る存在、通称、選ばれし子供たちに頼るかだ」
画面には、10人ほどの学生らしき顔と名前、現在地が並んでいる。
「現在地情報はまずいのでは」
個人情報の観点からして、未成年の動きを監視するのは国家権力としてどうなのか。
「そうだ、これは権力の乱用といっても差し支えない。そして今後、デジモンの出現が増加すれば、彼らを戦略として取り込まざるを得ない」
見ず知らずの自分を助けてくれたヒカリちゃん。彼女たちが、国家の戦力。
「しかし残念なことに、彼らの持つパートナーデジモンはここ数年、この世界に現れてはいない、研究によれば、ゲートと言うものが閉じているから、らしい」
「そこで、取引だ」
「選択肢のない取引は、脅迫と言うのでは」
櫻井はそこで初めて、口の端を釣り上げた。
「もちろん、見返りは十分に用意した。君に新しい戸籍を用意する、そして我々の知りうる君の情報を確実に提供しよう」
「それが果たされない場合は」
僕の言葉に、櫻井は僕のポケットを指差した。
「そこから出せるさっきの剣で、私たちを皆殺しにするといい」
「さっきは櫻井が申し訳ないような事をしたようだね」
打って変わってどこかの執務室に通された僕の前には、初老のスーツ姿の男性が座っていた。
僕の椅子も、シンプルなソファにしてはどことなく風格がある。
「いえ、私としても現状を把握する良い機会でした」
思わず敬語になる。
「彼は少し単刀直入すぎるきらいがあってな」
老人の言葉に、部屋の隅に待機している櫻井が身体を強ばらせる気配を感じた。
「私の名前は相馬竜也という、この国の総理大臣を務めているものだ」
「事の重大さを尚更痛感しました」
一介の学生らしき男に対して、総理大臣をぶつけてくるのか。
「なに、出来上がったシナリオを演じる党内の審議など、一度くらい欠席しても構うまい」
「聞かなかったことにしておきます」
「君は見た目の割に、随分と肝が座っているようだね、では、本題だ」
相馬総理は先ほどの櫻井の説明より詳しい状況を語った。
「現状の分析では、ゲートの出現する場所は主に都心の、通信量が密な地域に多い」
「今まではどう対処していたのですか」
「特殊な電波を被せてゲートを妨害することで、ゲートを閉じていた。しかし、頻度が上がれば現状の体制では対処が追いつかない場合もある」
そして、残念なことに、と相馬総理は続けた。
「三日前、ついに犠牲者が出た」
都内に住むOLが、ディアボロモンによって連れ去られかけたらしい。
「その方は」
「どうやら君が助けたらしくてな、連れ込まれたゲートの中で、君があれを退けたらしい」
それもまた記憶にない。
「彼女の証言と君の顔が一致して、今回君をここに呼ぶことができたというわけだ」
相馬首相は、安心した様子で用意されているお茶を飲んだ。
「我々の推測では、君はあちら側の存在なのではないか、そして君しかあれを退けられない以上、我々は君にお願いする形で、協力を要請したい」
そついって相馬総理は頭を下げた。
総理に頭を下げさせる若者というのも、歴史にそうそういないだろう。
「分かりました、協力します」
選択肢などないが、別段嫌な気はしなかった。
「戸籍や住居はこちらで用意するし、監視も最低限に抑えさせるだからどうか、我々に力を貸してほしい」
何者でもないより、何かやることがある方がマシだろう、そしてそれが人のためになるなら、迷う必要はない。