デジモンアドベンチャー Alt   作:しゃらく

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あらすじ: 現実世界に現れるデジモンを討伐することを条件に新しい生活を始めた主人公。
偶然か政府の意向か同じクラスになった太一や空、月島総合高校に在籍する選ばれし子供たちと知り合い、昨日の少女が太一の妹だと知る。
そして、夕暮れの公園で再開した彼女から、危機を救ったお礼に夕飯に招待されるのだった。


第六話 ゲート

「ごちそうさまです」

 

僕は太一とヒカリちゃんの家で夕食をいただいていた。

「あらもういいの?」

ヒカリちゃんより早く、太一より遅く食べ終わった僕に、お母さんがお代わりを訪ねてくる。

「とてもおいしかったです」

記憶を失ってから初めて食べる家庭の味は、とても温かく、なんだか懐かしい感じがした。

「太一は?」

「ご飯のおかわり」

これで太一は3杯目だ。

「よく食べるね、太一」

「運動してるとこんなもんだって、亮もなんかやってみたらどうだ?」

デジモンが出現した場合の事もあるし、あまり課外活動には興味を持っていないのだが。

「…お兄ちゃん、サッカー部に入れようとしてるでしょ」

「そ、そんなことねぇよ、でも何がきっかけで記憶が戻るか分からないだろ?」

太一のいうことも一理ある。新しい名前や戸籍は手に入れたけれど、記憶を失う前の自分に興味がないと言ったらうそになる。

「う~ん、明日から気が向いたら部活も回ってみようかなぁ」

「桜井さん、それ行かない人のセリフだよ」

ヒカリちゃんが食後のアイスを食べながら笑った。

「そういうつもりじゃないって、どこから手を付けたらいいか分かんないだけで」

「何か今日一日で思い出したことはないんですか?」

 

「一つだけあるとすれば、勉強に関しては、今の範囲を一度習っているかもしれない」

 

「え!そうなのか?」

太一がお代わりのご飯を口に運びながらこちらに顔を向ける。

「なんでそんなに目を輝かせているのさ」

「教えてもらおうかなーと、空はあんま教えてくれねえし」

「お兄ちゃんはもう少し自分でやってから聞くべきだと思うの。もともとそんなにできないわけじゃないんだし」

「わかってるよ、で、どんな感じにできたんだ?」

「数学とかに関しては問題は解けるんだよね」

「なんだか不思議な忘れ方よね」

太一のお母さんも不思議そうに言った。

「自分でもそう思います。手法とかは思い出せるんですけど、勉強していた思い出はないんですよ」

「あんまりイメージできませんね」

「う~ん、例えば、折り紙の折り方は知っているけれど、教えてくれた人が誰なのかは思い出せない、みたいな感じ」

伝わるかは分からないが、漠然とした例がそれだった。

「それなら、なんとなくイメージできました」

「そうねぇ、私くらいになるともう何十年前か…年を取るって嫌ね…」

お母さんは別の事でため息をついてしまった。

「今後もこういうことがあるかもしれないし、ゲートやデジモンにあったとき、少しでも考えて対処ができるように、二人にはデジタルワールドの事、教えてほしいんだ」

こうして、八神兄妹の冒険についての講義が始まった。

 

 

「一度目の冒険の時、太一は小学5年生だったんだね」

「私は二年生でしたね」

「ヒカリがデジタルワールドに来たのは、少し遅れてからだったな」

「最初のころ、お兄ちゃんすごく心配してたよね」

「そりゃ、危ないときもあるし」

「そんなこと言ったらお兄ちゃんも5年生だったじゃない、それに考えもなく走って行っちゃうんだから」

こんな感じで二人の思い出を聞きながらの話は新鮮だった。

「私はなんだか悪いデジモンたちにも惹かれてしまうことがあって、怖い思い出が多かったな」

「ヴァンデモンに、アポカリモン、ピエモンか」

「亮はデジモンの名前にこだわるんだな」

「うん、デジタルワールドの仕組みも気にはなるんだけれど、例えば現れたデジモンの予備知識があれば、対処の仕方も変わってくると思って」

「そう考えると、俺たちはアグモン達に頼りすぎてるのかなぁ」

太一がしみじみとつぶやく。

 

「それぞれの世界の問題が別世界に波及しちゃうっていうのは、少し困ったことだね」

デジタルワールドが先か現実世界が先か、という問いはあるにせよ、ネット社会の普及が二つの世界の距離を近くしてることに疑いはない。

「それを防ぐためにも、ゲートは閉じられているはずなのだけど」

ヒカリちゃんもつぶやく。

彼らにとってデジモンは、家族のようなものなのだろう。だからこそ現状のようにデジモンが敵となってしまう状況を何とかしなければならない。

「みんながパートナーに早く会うためにも、ゲートの仕組みやデジモンとの付き合い方について、研究しなくちゃいけないね」

「うん、本来はデジモンたちも優しい子が多いのに」

僕はそこに引っかかった。

「そこだよ、政府の人から聞いた話だと、この世界に現れるデジモンは何故か攻撃的なんだ」

「考えてみれば、俺たちのパートナーデジモン以外にこっちに来た奴らは攻撃的なことが多い」

「最初から悪意を持ってこっちに来るようなデジモンが多い気もするけど…」

「そうでない場合には、ゲートを通る過程や、こちらに来てからの混乱で攻撃的になってしまうのかもしれない」

「そうかもしれないな」

太一も過去を思い出して頷いた。

「そこの仕組みさえなんとかなれば、きっとデジモンと人間は分かり合える」

僕は妙な確信を覚えてそう言った。

 

「お邪魔しました」

八神宅の玄関で靴を履くと、三人に向かって頭を下げた。

時刻は午後9時を回ってしまっている。

太一やヒカリちゃんとデジタルワールドについてすっかり話し込んでしまい、こんな時間になってしまった。

「またいつでも来てね、一人暮らしじゃ栄養も偏っちゃうから」

「今度は料理も教えますから」

ヒカリちゃんが微笑む。

「え?ヒカリの料理?」

「お兄ちゃん?私の料理だっておいしいでしょ?」

「まぁな…最初の方はひどかったけど」

太一がそういうと、ヒカリちゃんは顔を赤らめた。

「そういうことは言わなくていいの!」

「楽しみにしてるよ。じゃあ、おやすみなさい。太一はまた明日!」

そう言って別れを告げ、エレベータに乗った。

 

 

政府から渡された携帯電話が鳴ったのは、家に帰ってシャワーを浴びてすぐの事だった。

「はい、桜井です」

『櫻井だ、まったく、紛らわしい苗字になったな』

「それで、用件は」

『新宿区に災害発生だ、下に車が来ている、すぐさま迎え』

 

適当なジャケットを着てマンションの玄関に降りると、黒塗りのジープが停まっていた。

「お願いします」

素早く助手席に乗り込むと、女性の運転手は車を出した。

「状況はどうなっていますか?」

「対抗電波で押さえていますが、長くは持たないでしょう。レベルⅣの個体だと推測されます」

「たしか成熟期でしたね。そこまで分かるんですか」

「例外はありますが、情報量によって分類しています。成熟期と呼ばれる段階で概ね間違いないでしょう」

思った以上に研究は進んでいるらしい。

「ちなみに、僕の情報量ってわかっているんですか?」

「あなたは情報の質が異なりましたが、便宜的にレベルⅢとされています」

「成長期ですか」

「ですが、レベルⅥ相当の災害を一方的に倒したということから、あなたは普通の災害ではないということです」

「分かっていましたが、災害扱いなんですね」

「気分を害したなら謝ります。他意はありません」

「いえ、僕自身その辺りにこだわりはないので」

「そうですか、危険だとは思いますが、無事を祈ります」

それきり会話は打ち切りになった。

車は赤いサイレンを鳴らし、首都高を疾走している。現場まで後5分ほどらしい。

右手に握ったひび割れたデジヴァイスを見ると、前回のような熱を感じる。

やはり、デジモンに反応して機能が立ち上がるのだろうか。

ゲート、デジヴァイス。

僕は突如としてあることを思いついた。

「すいません、パソコン、持ってませんか?」

「突然何を、そこのダッシュボードに一応入っています」

僕は指示されたダッシュボードから重たいノートパソコンを取り出して開いた。

そしてデジヴァイスを近づける。

「入った」

僕の右手はすっかり画面の中に入っていく。

「すいません、現場の人にノートパソコンを開くように伝えてもらえませんか!」

「え、ええ」

運転席の人は何が起きているのかわからず、慌てて無線で指示を飛ばす。

「準備できたそうです」

「ここまでありがとうございました」

そういって、デジヴァイスのボタンを押す。

 

Gate...open

 

「なんだここは」

これがデジタルワールド現実を結ぶゲートなのだろうか。

大きな配管の中にいるような構造で、ところどころに出口らしき穴があり、目では追い切れない情報が行き来している。

その中をデジヴァイスに引っ張られるようにして進んでいく。

どれくらいが経っただろう、目の前を通り過ぎていく情報量に頭がくらくらする。

遠くに見えてきた一つの穴がひどく損傷している。恐らくあそこが、開いてしまったゲートだろう。

ということは、すでにデジモンは外に出てしまったのだろうか。

僕はデジヴァイスに導かれるまま、その穴に飛び込んでいった。

 

グォォォォ・・・。

目を開けた先ではどこかの公園で黒い恐竜のようなデジモンが自衛隊員を威嚇していた。

「大きいな」

ゆうに5メートルはあるデジモンの後ろに着地した僕は、すぐにデジヴァイスを押した。

 

--Realize

 

手の中にはこの前と同じ、白銀の剣が握られている。

「あれ?」

この前より重く感じる、さらに発光も前回よりも弱い気がする。

「特務の桜井亮です、これより情報災害の討伐を開始します。みなさんは距離を取ってください」

とにかく自分が戦うしかないのだ。

手順通りに隊員に後退指示を出す。

恐竜型のデジモンもこちらに気付いたようで、振り返り、鋭い歯を見せつけて威嚇してくる。

「なぁ、ゲートの向こうに帰る気はないか」

デジモンは人間と分かり合える、そんな望みを抱いて話しかけてみる。

「いきなりこんな世界に来て、戸惑うのも分かる、僕もそうだから。でも君たちがこの世界で生きるにはまだ早いんだ」

聞こえているのかいないのか、恐竜デジモンはこちらを見たまま攻撃はしてこない。

「僕はゲートを開けるらしい。だから帰ろう」

剣を地面に突き刺し、右手を伸ばす。

デジモンが地面を揺らしながら一歩ずつ歩いてくる。

あと5メートル。

「?」

その距離が3メートルを切ったところで、突然恐竜デジモンが苦しみ始めた。

目が赤い。

またしても体が反応したらしく、右手が勝手に白銀の剣を握り、目の前にかざした。

そこへ黒い炎が襲い掛かった。

 

ある程度は剣が防いでいるようだが、防ぎきれない炎が肩や脚を焦がす。

「くっ…」

剣を取り落としそうになるが、何とか握りしめたまま、膝をついた。

「どうして…」

先ほどまでとは比べ物にならない敵意を感じる。

公園の木々にも炎は及んでおり、自衛隊員たちが消火を始めている。

 

『桜井亮、それを倒せ!』

どこからか櫻井の声が聞こえ、僕は仕方なく攻撃に入ることにした。

これ以上周囲に被害を出すわけにはいかない。

被害が広がり、デジモンに悪い評価がされれば、太一たちが描いた共存の可能性も遠のく。

「くそぉぉ!」

思い切り炎を薙ぎ払う。

デジモンに向けて走り出し、そのまま返す手で斬りつける。

確かな手ごたえ。

下腹部を思い切り引き裂いた剣を、今度は斬り上げる。

グォォォ!

断末魔と共に、デジモンが再び炎を放とうとする。

「もう、やめてくれ!」

右手に持った剣を思い切り頭部に向け、力を籠める。

爆発的な力と共に、僕の体は宙に舞った。

代わりにデジモンは情報を霧散させ、消滅していった。

「こんな…」

先ほど経っていた位置から10メートルは飛んだだろうか、ますます人間でない実感が湧く。

 

「よくやった、と言いたいが」

いつの間にか隣にいた櫻井が肩に手を置く。

意外と優しいところもあるんだろうか。

「やはりヒーローの戦いじゃないな、現実は」

そう言って、後処理に向かっていく。

残された僕は、立ち上がることもできず、ただ焼け焦げた地面を見つめていた。

 

 

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