ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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朝食を食べに行こう。その1

 太陽はすっかり昇り、東から燦々(さんさん)と朝陽が窓より絶えず、流れ込んでくる。鳥が囀り、何処からか風が吹く音が聞こえる、穏やかで何て事もない、気持ちの良い朝だ。

 

 

 定助はやっとの事でルイズの部屋へと帰って()れた。

 

「寮とは真逆の方へ行っていたのか……」

 

 シエスタと別れた後、記憶を頼りに進んでいたのだが、良く良く考えてみれば学院探索の半分以上をベッドでの睡眠に費やしていた人間が、広大で複雑な道を覚えきれる訳がなかった。

 

「今度……暇な時はゆっくり散歩しよう。地図とかご主人に貰えないかな」

 

 迷路のようなスークに、初見で挑めば普通に迷子にもなる。逆に詳しくあれば、追っ手から逃れられる事も出来よう、地理を掴んでいて不便になる事ない。ここの作りと道ぐらいはゆっくりでも良いので、覚えていた方が良い。これから長い間、お世話になるのだから。

 

「……腹へった」

 

 朝早くに起きたのに、何も口にしていないので、彼の空腹は限界の一歩手前まで来ていた。さっさとルイズを起こし、朝食を頼まなければ。

 

 

 

 

「さて、ご主人はー…………」

 

 ベッドの上の光景は、時間が止まったようにそのままだ。

 

「くぅ…………」

 

 朝陽が顔に直撃しているのにも関わらず、ルイズは幸せそうな顔で寝息を立てて、丸まった胎児型の姿勢で眠っていた。寝言で喋っていた通り、クックベリーパイを食べている夢でもまだ見ているのだろう。涎が枕を濡らしている。

 

「…………まだ寝ているかぁ。そろそろ起こさないと遅刻するよなぁ?」

 

 外からザワザワと、人の声が聞こえて来た。窓から覗いてみれば、この学院の制服を来た人たちがぞろぞろと学舎へ向かって歩いている。起床時間に到達したようだ。

 

「おーい、ご主じーん、朝だぞー起きろー」

「んぅ」

 

 肩を掴んで揺すってみた。強さで言うならば、サラリとした彼女の桃色の髪が滑らかに揺れるほど。

……だのに、彼女は小さい声で(うめ)いただけで、また元の寝息に戻った。

 

「……おーい、おいおいおーい、新しい朝が来たぞー」

「ふぁ……」

 

 再度、揺すってみるのだが、空気の抜けるような声を出したと思えばまた寝出した。一瞬、起きたかと思ったほどだ。

 

「…………おいおい、遅刻するぞー、希望の朝だぞー」

 

 更に強く揺すって、全身が左右に大きくぶれるほどの強さにした。

 

 

 

 

「ふにゅ……はぁ、このクックベリーパイおいし~い…………えへへ……すぅ……」

 

 そこまでしても寝言を喋るほど、彼女は熟睡している。

 

「……マジィ? どんだけ寝付き良いんだよ…………」

 

 一度寝たら二千年は絶対目覚めない闇の一族が如く、彼女の睡眠は地底奥深くまで意識を落としている。そこまでの寝坊助なルイズに、最早(もはや)尊敬の念すら現れるのは錯乱ではないだろう。

 

「もう知らないからな、ちょっと手荒くなるからな」

 

 揺すっては起きないと踏んだ定助は、やり方を変更させる事にした。彼女の体を包む白い絹のシーツを掴んだのなら、

 

「すぅぅ……」

 

息を大きく吸い込み、

 

 

 

 

「おはようございまぁぁぁすッ!!」

 

大きな挨拶と一緒に、一気にシーツを剥ぎ取った。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!??」

 

 大きな声とシーツを取られて急速に落ちた体温に驚き、流石の彼女の頭も緊急信号を点灯させ、意識を空高く持ち上げた。起きたとは思えない大袈裟(おおげさ)な悲鳴が、部屋いっぱいに響いた。

 

「ななななななに!? 何事なの!?」

「おはようございます、ご主人」

「あんた誰よ!?」

「……………………」

 

 まだ寝惚けているのか、寝るまでにたくさん怒鳴りつけていた自分の使い魔の存在を忘れている。あまりの寝起きの悪さは、わざとやっているのではと思うほど。それに開口一番「あんた誰」と言われた定助は一瞬、誰の事を言っているのか分からなかった。

 

「………………オレェ?」

「そう! あんたよあんた!」

 

 間の抜けた自分の主人を見て、定助は溜め息を()きそうになった。

 

「オレは昨日、キミの使い魔になった、東方定助だろう。忘れてどうする?」

「ヒガシカタ…………あぁ……」

 

 使い魔と、定助の名前を聞いて記憶が甦ったのか、寝惚け眼のジト目で定助を一瞥すれば、納得したように声を出した。そして、暢気(のんき)に大きなあくびを一つ。

 

 

「ふぁぁ……そう言えば昨日、召喚した使い魔がいたんだっけ…………」

「本当に忘れていたのか……ギャグかと思った…………」

 

 昨日の大きな出来事をさっぱり忘れ去るとは、正直頭から記憶を円盤にでもされて抜かれたのかと思うだろう。まぁ、そんな事は記憶のない定助が考えてしまえば、自身への皮肉になり得ないのだが。

 

「相変わらず失礼ねぇ、あんた……平民の顔なんか、いちいち覚えないわよ」

 

 今朝、シエスタとの会話を思い出した。この世界のパワーバランスについてだがなるほど、貴族はトコトン平民を見下すスタイルなんだろう。キツい毒舌だ。

 しかし、その毒舌の内容が昨日と繋げたものなので、彼女の記憶は元に戻ったと安心した。

 

 

「…………で? あんた、なにボーッとしてんのよ」

「え? オレェ?」

「あんたしかいないでしょうが…………」

 

 早速、ルイズから動くように言われるのだが、まだ彼女に対して何をすれば良いのか把握しきれていない定助は、ポカンとルイズを見るだけだった。

 すると、彼女はクローゼットを指差した。

 

「早く、私の制服と下着を取りなさいよ。このままじゃ朝食に遅れちゃうじゃない」

「あぁ、そう言う事か……」

 

 頼まれ事を理解した定助は、せっせとクローゼットの方へと向かった。後ろでルイズが「言わなくても出来るようにしてよ……」と悪態付いていたので、「貴族にとってこれは当たり前の事なんだな」と思い、覚えておく事にした。

 

「どの棚に何があるのか、聞いていなかった」

「右上の引き出しにブラウスと制服で、その隣がスカート。下の引き出しには靴下と下着よ、覚えておいて」

 

 言われた通りに、引き出しから一式を取り出す。それを丁寧に重ねて、ルイズの手前まで持ってきた。

 

「はい」

 

 ちゃんと取りやすいように、腰を曲げて差し出す。

 

「あら、気が利くじゃない。昨日より成長したんじゃないかしら?」

 

 そう言いながら下着だけを取れば、定助の前で何の恥ずかしげもなくスルスルと穿くのであった。しかし定助は直視するのは失礼だと思い、そっと目線を逸らす。当たり前の反応だ。

 下着を穿き終えれば、次は制服だろう。彼女が手にするまで、岩にでもなったようにじっと制止しておく。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………え、着せるの?」

「当たり前じゃない」

 

 何もしないのと、意味深な沈黙が、定助に察させた。しかし、下着を取るまでだったら妥協出来たが、流石に着せるのは抵抗が出来るだろう、正直やりたくない。

 

「それぐらい自分では無理なのか?」

「知らないのなら教えてあげるけど、貴族は目の前に下僕(げぼく)がいる時、自分で服は着たりしないものよ!」

 

 これほどまでの格差だとは、と思った以上に両極端的なパワーバランスに定助も参ってしまう。

 

「…………やらなきゃ駄目なの?」

「別にしなくてもいいけど、主人の言う事を聞かない生意気な使い魔には『オシオキ』ね! んー、そうねぇ……例えば朝食抜きにしたりぃー……」

「分かった! やる、今すぐやるッ!!」

 

 空腹が限界まで来ていた定助は、脅しに似た(寧ろ脅し以外の言葉はない)ルイズの『オシオキ提案』を聞いて有無を言わさずルイズの着替えをする事に決めた。

 

「ふふん、早くしなさい」

 

 したり顔のルイズだがこの時定助は、シエスタが貴族を恐れている理由が分かったような気がした。

 

 

「じゃあまず、上着から……」

「ちょっと!? なに寝間着の上から着せようとしてんのよ!!」

「寝間着だったのか、それ……」

「見てわからな…………あぁ、記憶喪失なんだっけ」

 

 記憶喪失のせいかは知らないが、始めてなら下着に見えかねないネグリジェを、彼は知らなかったので間違えるのは仕方がない。とりあえず、まずはネグリジェを脱がしてやるのが先だろうか。

 

「手を上げて」

「ん」

 

 ネグリジェを脱がしてみれば、彼女の白い肌の露出が大きくなる。これもまた気恥ずかしい。人によっては役得(やくとく)と思う者がいるとは思うのだが、定助にはシンプルに拷問だった。

 

 さっさとネグリジェを脱がして次は、ブラウスを着せに入った。人に服を着せるのは全くやった事ないので、少しもたつくが、ルイズから何か言われる前に腕を通させて、キチンと羽織らせる。

 

「じゃあ、次はスカートに……」

「まだボタンが留まってないのだけどー?」

「…………」

 

 黙ってブラウスのボタンを一つ一つ留めに入る。ただ、留めれば留めるほど、露出がなくなって行くので、視線の向ける先と言うのが楽になるようになった。女性の下着姿は目に毒、という訳ではないがキツい。

 

 

「これで…………よし」

 

 最後にスカートと靴下を着せてやれば、昨日見た彼女の姿になった。これが、この学院の制服であり、いつもの姿なのだろうか。定助は、この作業だけでドッと疲れたように感じた。

 

(今日一日を乗り切れるのだろうか……)

 

 そんな事まで考えたのは、空腹である事を相乗してだろう。

 

「はぁ……まだまだ遅いわねぇ。もっとちゃっちゃと行動しなさいよ」

「…………以後、気を付けます」

「よろしい!」

 

 朝食をエサにしているのだが、昨日よりか従順な定助に対して機嫌が上行くルイズ。一方で定助は、どんどん疲れが溜まって行くばかりである。

 

 

 ルイズは鏡で髪の毛をセットしたり、ちゃんと服を正したり、マントを羽織ったりして今日一日の準備を済まして行く。そしてマントの懐に『魔法の杖』をしまうのだった。

 

「なぁ、それが、魔法を使う為の杖なのか?」

「うん? そうだけど?」

 

 定助の目には、ルイズの部屋に入った時の好奇心が宿っていた。

 

 

「ちょっとで良いんだ、貸して欲しい」

「貸して欲しい、じゃないわよ!? よく平民が貴族にそんな事頼めるわねぇ!?」

 

 予想していた事だが、貸してもくれなかった上に怒鳴られた。でも、定助は沸き上がった好奇心が抑えられなかっただけであった。

 

「良い? 杖は、メイジが魔法を使う際に必要になってくる、ある意味で『必需品』なの。そりゃ、あんたたち平民にとってはただの棒キレになるだろうけど、これの価値はあんたが思っているよりも高いのよ!」

「杖を持ったからって、オレは魔法を使えないのか?」

「当たり前じゃない!? 平民は魔法を使えない! 常識中の常識よ…………って、あぁ……あんた、忘れてるのよね……はぁー、面倒臭い……」

 

 つまり、『平民』は根本から魔法を使う能力を持ち合わせておらず、杖を持とうが貴族の服を着ようが、魔法を行使出来るのはその才能を持っている『貴族』のみと言う訳だ。段々と掴めて来た『平民と貴族の境界線』である。

 

(力のある者が、力無き者を支配する……うん、よくある構図だな)

 

 そう思いながら、一人納得した定助だった。

 

 

「んー、まぁ……ちょっとなら良いわよ?」

 

 しかしどういう風の吹き回しか、なんとルイズから杖の使用を許可されたではないか。考え事していた定助は、バッとルイズに向き直る。

 

「えぇ!? い~のぉ~!?」

「特別よ、有り難く思いなさい…………壊したら承知しないわよ」

「うん、うん、うん」

 

 ルイズから杖を手に取った。なるほど、ただの棒キレかと思えばスベスベとしており、触り心地が良い。確かに高そうな感じがする。

 

「どうするの? やっぱ、呪文を唱えるのか?」

「そうよ。じゃあ、『ファイア・ボール』と唱えてみて。あぁ、万が一があるから、窓を開けて、そこから外に向かってやりなさい」

 

 そう言われ、さっさと窓を開けて準備に入る。かなりテキパキとしていた為に、「その手際の良さを私に回しなさいよ……」と呆れられた事は内緒だ。

 

「杖を構えるんだよな?」

「えぇ、真っ直ぐに構えてから、唱えるの」

 

 窓は開けたし、前方に障害物なし。どうやら、何かを飛ばす魔法だと分かった。

 

「それじゃあ、やってみなさい」

「よぉぉし!」

 

 そして定助はルイズの許可を受けると、待ってましたとばかりに杖を持つ手に力を込め、

 

 

「『ファイア・ボール』ッ!!」

呪文を唱えたのだった。

 

 

 

 

 結果、何も起こらないし、何も出てこなかった。

 

「…………」

 

 定助は、ブン、ブンと杖を振るのだが、それでも何が起こると言う訳でもない。そしてもう一度呪文を唱えたりするが、結果は依然、変わらず。

 

「ふーん、やっぱあんた、『平民』ね」

 背後から手を伸ばし、定助から杖を取り上げた。

 

「分かった? あんたは『平民』なの。貴族なら始めてでも、杖から火がちょびっと出る程度は兆候が出るわ」

 

 ここでようやく、ルイズが定助に杖を使わせた理由が分かった。彼を『平民か貴族か』見極める為だったのだ。その意図に気付き、「試されただけか……」とガックリ肩を落とした。

 

「ほら、満足したなら窓を閉めて。早く朝ごはんを食べに行くわよ」

「…………うん」

 

 自分が開けた窓を閉めて、身仕度の済んだルイズに催促されて、さっさと定助は彼女の為に扉を開けた。




ジョジョ特有の『間』を意識する事にしました。そしてライトノベル特有の『台詞の多さ』も意識する事にしました。
『間』を取る、『台詞』も増やす、両方やらなくちゃあいけないってのが作者の辛い所だな。覚悟は出来ているか、俺はそんなに出来ていない(爆弾発言)
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