ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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合間の話のようなもんですので、少し短めです。
更新が早いので大丈夫かって?大丈夫、僕は毎日が虚無の日だと思っていますから。


使い魔と戯れ、自分を知る。

 食堂の扉を開け、まだ全開ではないのに隙間へ滑り込んでそこから逃げた。ルイズが杖を出した時、強い殺意を感じたので、定助は逃走に至った。

 階段を駆け下り、本塔からの脱出まで生きた心地がしなかった。

 

「ゼェ……ゼェ……しゃ、洒落にならなかったか…………」

 

 ほんの一分間、それだけの時間なのに汗が出て止まらない。この一分間だけで、彼の中では色々と規則を立てる事にした。

 

「前歯で噛むな、ご主人を本気で怒らすな…………と言っても、怒りのツボが今一分からないんだよなぁ……」

 

 しかし、何かしらのトリガーが多いとあっては、貴族は本当に平民を見下し、性格的にも気難しくなるのだなと分かった。あぁ、なるほど、シエスタちゃんが怖がる理由が分かったと、一人納得していた。

 

 

「…………おぉ?」

 

 心拍数も落ち着いて来たので、視界もクリアになる。すると目の前には、塔の前の原っぱには様々な生き物たちが、まるでエデンの(その)のように展開しているではないか。恐らく、ルイズ以外の貴族たちが召喚した、『使い魔』たちだろう。

 

「すげぇー!」

 

 様々な生物たちが、エサを食べたり、眠ったり、じゃれたり等して主人の帰りを待っている。それらの中には、知っている動物だとか、見た事のない生物だとかが入り交じっている。

 

「カラス、フクロウ、犬、猫…………は分かるが、コイツはなんだ?」

 

 空中にフヨフヨ浮かぶまっくろくろすけに近付いた。その黒い煤のようなものの真ん中には、キョロリキョロリと一つだけ目がくっついていたのだ。

 

「へぇ、見た事ない生物だぁ…………触感も見ておこう」

 

 その(すす)おばけに触ろうとした定助だったが、手の間をスルリと抜けて、まだフヨフヨと浮いている。

 

 

「あ、おい」

 

 また触ろうと手を広げたが、まるで軌道を予測するかのように逃げる。

 

 

「こ、こいつ……」

 

 最終的に躍起になり、何度も掴もうと試みるのだが、銃弾を中継する能力を持った帽子みたいに、スルリスルリと腕を抜けて、終いには腕の届かない高い所まで逃げて行ってしまった。

 

「あぁ…………マシュマロみたいな感じかな……」

 

 もう無理だと諦めて、どんな触感か予想するだけに終わった。煤おばけは上昇後、ゆっくりと滑空して木の上で居場所を落ち着けさせた。

 もちろん、追い掛ける気力はもうない。

 

「同じ使い魔のよしみなのに」

 

 そうは言うものの、この動物たちのサファリパークの中を見渡してみても、自分以外に『人間』は使い魔たちの中にいかなかった。確かに噂の的になるほどの珍しさなのだろうが、勝手ながら疎外感を持ってしまう。

 

「本当に珍しい事なんだなぁ」

 

 この場に理解者はいるのだろうか。ふとそんな事を考える。

 

 

「……………………」

 

 テチテチと足元を、猫が歩いた来た。人間に慣れているのか、警戒している素振りがない。

 

「こいつは……『サイベリアン』だな…………」

 

 長い毛が特徴的な、ブラウンの小さな猫だ。春の陽気に当てられたのか、眠たそうにアクビを一つ、かまして丸まった。

 ゆっくり、定助は腰を落として、サイベリアンに手を伸ばす。逃げる様子はない。

 

「……………………」

 

 とろりと微睡(まどろ)むサイベリアンの顎を、優しく撫でてみた。

 

 

「…………よぉーしよしよしよし…………」

 

 相当、人懐っこいのか、抵抗する事もなく身を預けて、ゴロゴロと、不気味な音を喉から気持ち良さそうな顔で鳴らしている。

 

「…………なぁ、キミにも親はいたんだろうか……目一杯、甘えていたんだろ…………」

 

 サイベリアンは何も答えない。ただ、定助の愛撫(あいぶ)に身を預けているだけだ。

 

「オレはオレが分からない。誰も知らない。そして、教えてもくれない」

 

 小さく「にゃあ」と鳴いた。サイベリアンの閉じかけの目がパチリと開いた。

 

 

 

 

「オレは何者なんだ…………家族はいるのだろうか…………」

 

 ポツリ、寂しげに呟いた。

 すると目を開けたサイベリアンは定助に飽きたようで、パッと離れてどっかへ行ってしまった。猫は気紛れである。

 そこで、サイベリアンに触れていたハズの手は、空中で宙ぶらりんになった。神経にくっついたふわふわとした触感が溶けて行く。

 

「…………オレは、『この世界』で生きて行けるのだろうか…………」

 

 アンニュイな気分になるも、頭を軽く振ってそれらを払拭する。思い出せない自分への煩わしさと、むず痒さ。そこに、知らない常識の世界が重なれば、定助で言えど気も落ちて来るだろう。

 

「止めた止めた」

 

 暗い考えを、ストップさせる。

 

「向かって行けば、いずれ辿り着けるハズだ」

 

 腰を上げて、立ち上がった。空は相変わらず高く、春風がそよそよと定助、原っぱの使い魔たち、そして草木に安息を与えた。

 

「よし」

 

 決意したハズの思いを固めて、彼は使い魔たちに絡んでやり、良く観察しよう前に出た。

 

 

「うわぁ!?」

 

 そしたら何かに躓いた。定助は盛大にスッ転ぶ。

 

「イテテ……な、何に(つまず)いたぁ?」

 

 上半身を起こし、何かぶつかった辺りを見てみれば、何かがぽつんと地面にどんと置かれていた。かなり大きく、自分の胸いっぱいに抱けるようなもの。こんな物、さっきはなかった。

 

「…………なんだこれ?」

 

 ちょっと触ってみれば、モフモフしている。それに、その物体の周りに土が隆起している所を見れば、置いてあるのではなく地中から生えていると見た。そう言えばなんだか土臭い。

 ツクシか何かの、植物の(たぐ)いだろうか、この世界は何でもありだから感覚が麻痺してくる。気になって両手で掴んでみようとした瞬間、それはクルリと回転し、

 

「どべっ!?」

 

何か、長くて柔い感触のものが顔にぶつかったのだった。

 

「イッタイッタ……な、な、なんなんだこれ!?」

 

 ぶつかって痛む箇所を押さえながら、その何かをキッと睨む。

 

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 目の前には(つぶ)らな瞳。

 

「…………モゲッ?」

「…………うぉう」

 

 植物か何かかと思っていたら、意外、それは生物。見た目としては、ヒヨコのようにふわふわした、デカイ土竜(もぐら)と表現出来る。

 

「こいつも……誰かの使い魔か?」

 

 顔からみょんっと、長い鼻が伸びている。恐らくこれが、定助の顔面にヒットしたものの正体だろうか。何かをかぎ分けているように、フガフガと動かしている。

 

「それにしてもデカイ土竜だなぁー…………やっぱ、ミミズとか好きなんかな」

「モッ、モッ」

 

 じぃっと定助を見つめながら、鳴き声と一緒に鼻を動かしている。土竜は、地中の生物なので弱視だと聞く、これで対象の匂いを嗅いで、状況を把握しているのだろうか。

 

「モゲッ、モゲッ」

 

 すると土竜は、長い鼻をひくつかせながら、定助の腰辺りにくっ付けてくる。

 

「おぉ……さっきのサイベリアンより積極的だな…………」

「モッモッ!」

「あ、こら、土が付いたまんまじゃあないか! 服が汚れるだろ!」

「モッモッモッモッ!!」

 

 甘えて来ているのか、グイグイと鼻先を腰に押し当ててくる。しかも、土竜の大きさが大きさなだけに、その力は強く、踏ん張っていないと押し倒されてしまいそうだ。

 

「おい! 止めるんだ! おいおいおいおい!?」

 

 押し返そうとしても、完全に力負けしてしまっているようだ。

 

 

 しかし、甘えてじゃれているだけにしては、何か違和感がある。

 

「…………ん?」

「モゲッモゲッ!」

「……何か、気になるのか?」

 

 ずっと一点だけに鼻を付けてくる。定助から見て、右手の大きく弛んだポケットの所。ここをずっと、擦っている。

 

「ポケット? ポケットの中?」

「モゲッ!」

 

 そう言えば、ここまで一回もポケットに手を突っ込んでいない、色々な事が一気にあったから。そして、そのポケットに、この土竜が何かを嗅ぎ取っている訳だ。「どれどれ」と、定助は取っ付く土竜を片手で押さえながらポケットに手を突っ込んだ。

 

 

「いてっ」

 

 何かが指に当たった。尖ったもののようで、軽い痛覚がする。大きさは手のひらサイズ程度。

 

「………………ん……」

 

 人差し指と親指で摘まんだ何かは、ポケットから顔を出した。

 

 

 

 

「…………クワガタ?」

 

 額に星のシールが貼られた、頭部だけのクワガタの死体が入っていた。体はあるのかと、ポケットを更にまさぐってみても、あるのはもう、それだけのようだ。

 

「モゲぇ…………」

「あ、何処行く…………」

 

 土竜の方は、クワガタに興味ないのか、匂いの正体を確認すると、さっさと穴を掘って地中に潜ってしまった。

 

「…………なんだったんだ、あの土竜……にしても…………」

 

 指で摘まんだクワガタの頭部を見る。残念ながら、クワガタには詳しくないので、どんな種類かは分からないのだが、平たい頭と、大きな顎をしている。

 

「これはハサミ? 口? どの部位だっけ……あぁ、確か顎だ、顎だった」

 

 くるくると回して更に見てみるが、星のシールと体がない事以外は変わった所のない、普通のクワガタのようだった。この頭の大きさなら、全長はなかなかのものだったろう。

 

「何でクワガタなんて、入ってんだ?」

 

 朝からの出来事を思い出すも、クワガタに関係した出来事は起こっていなかった。それに誰かの嫌がらせにしても、地味なものだし、誰がやったのか。

 ルイズか? キュルケか? いや、あの二人はこんな事する(たち)じゃない。そもそも、何故、頭だけなのか。

 

「…………とりあえず、捨てずに持っておこうか…………」

 

 定助は、頭だけのクワガタをポケットに直した。

 

 

「あ」

 

 同時に、鐘の音が高々と響けば、多くの雑踏が聞こえた。食堂への扉が開かれ、ぞろぞろと朝食を終えた貴族たちが出てきたのだった。これから授業だろうか。

 

 

「…………おぅっと……」

 

 その中で一人、桃色の髪を見つけた時は戦慄した。何と言うか、纏っているオーラが負に満ち満ちていたのだ。その状態で近付いてくる際の存在感は、最早恐怖の帝王の到来である。

 

「……………………」

「あ、えっと……ち、朝食は終わりですか? これから、授業ぉー…………」

「……………………」

「…………ですよね」

 

 近付くにつれて、その表情が見えて来た。あぁ、あの時の鬼の形相そのままだ。その状態のままズンズンと、吸血鬼との一騎討ちに入る紳士のような、ある意味で迷いなき堂々とした足取りで来られては、無意識的に後退りするだろう。

 

 

 そして目の前まで一気に迫られると、

 

「…………あんたッ!!」

「はい!」

 

指を勢い良く差され、非情な事を宣告される。

 

 

「今から一週間ご飯抜きッ! 絶対ッ! 何が、あってもッ!!!!」

「はぁ!? 嘘だよなぁ!?」

「返事ぃぃッ!!!!」

「はいぃ!」

 

 貴族を怒らせると怖い。それを今、体験したのだった。




毎日が虚無の日って、やだ、かっこいい。
次回も、どうぞ宜しく。
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