ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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六部が好きと言ったら、異端に見られる風潮止めて欲しい。私は六部が大好きだ。
それよりも、お気に入り登録者数が100人超えかつ、調節平均の所に赤いラインが付いていました。どちらも始めての事なので、激しく動揺しております。
前置きにて、感謝を申します。ハッピーうれぴーよろぴくねー!!


魔法の授業を受けよう。その1

 教室への移動中、定助は気が気でなかった。隣で歩くルイズが、殺しにかかって来ないか心配だからだ。

 一方のルイズは、ブツブツと不満げに文句を呟いているようで、聞こえた内容では「朝食が台無し」や「この腐れ脳みそが」とか言っている。立ち止まって長い説教に入らないのは、授業の時間が差し迫っており、急いでいるからだと思われる。

 

「えーっとぉ…………」

「…………なによ?」

 

 何か言わなくては、と思って口を開いたのだが、殺気を感じるルイズの視線がモロに直撃し、言いたい事が頭から飛びかけた。

 

「…………」

「なんで黙るのよ…………」

「あぁごめん、喋る喋る!」

「手短にして」

 

 彼女、どうやら怒りの頂点を突破すると冷淡になるタイプとみた。あの激情家の彼女が突然、無口気味になるのだがそれが一番恐ろしい。

 

「本当にすいませんでした…………」

「どうして謝るのか」

「え」

 

 ゾッとした。あぁ、何から何まで追求する気なんだなと、ルイズの黒い所に(おのの)きながら、言葉を起こす。

 

 

「……その、朝食の件については非常に申し訳ないと思っている…………なんせ、あんな広い所で食事したから…………ちょっと浮かれていたよ」

「なら以後気を付けて」

「すいません……」

 

 今、彼女の自分への好感度はアンダーランドもビックリの地の底へ落ちている。何言っても機械的に淡々と返しているので、定助の方も会話をどう繋げようか大変なのだ。

 

 

「広い所で浮かれたって…………馬鹿の象徴じゃないの…………」

「本当にすいません」

 

 しかも毒吐けば、かなり切れ味のある鋭い言い方。自分の口から刃物が出てくるかと思った。

 

「……………………」

「……………………」

 

 そこからまた暫く、押し黙ってしまった。

 

「……………………」

「……………………」

 

 ルイズはずっと前方を見て、こっちを見向きもしない。最早、定助を透明人間か何かだと扱っているのだろうか。だとすれば血で染まってでも存在を示したいのだが。

 

「……………………」

「……………………ごほん……」

 

 咳き込むだけでもかなりの覚悟。この行為だけでも、輝く朝陽よりも美しい覚悟ではないか。少なくとも今はそう思わせて欲しい。

 

 

「……………………」

(き、気まずい…………!)

 

 超重力の重い空気の中、早速彼は潰されてしまいそうだった。潰されてそのまま、隣の世界にでも行けたらどれほど楽だろうか。

 

 

 沈黙は恐怖。黙れば終わる。いや、終わりなんてない、この緊張は最後に到達する事は決してないだろう。自分への鎮魂歌(レクイエム)でも歌いたいほどだ。

 

「あ、あのさぁ!」

 

 覚悟を決めて、会話を作ってみる。声が少し震えた。

 

「まだ喋るの? 今度はなにぃ?」

 

 今思えば、この状況で会話を繋げると言う発想自体が狂っていたようだ。二回目ともなると、ルイズの機械的な口調に棘が出てくるようになった。

 

「これから授業なんだろ?」

「それは分かりきった事じゃない……平民は知っても損な魔法の授業よ」

「あぁいや、魔法の授業ってのは分かるんだけど……ほら、授業と言っても色々あるじゃあないか…………歴史とか、国語とか」

 

 ここでやっと、ルイズが…………ギロリとした鋭いものなのだが、視線を定助に当ててくれた。だからと言えど、状況は変わっていないのだが。

 

「なんで平民のあんたが興味を…………あぁ、忘れているのよね」

「知らない事はなんでも吸収したいと思っている」

 

 それを聞くとルイズは、教えてやりたい欲望でも出てきたのか「えーと」と言いながら、今からの行われる授業を思い出す。

 

 

「四大系統の授業よ。確か……今からあるのは【土】の授業ね」

「あ、キミが昨日、話してくれた……【火】【水】【土】【風】だったかな……」

「良く覚えているじゃない」

 

 少し空気が柔らかくなった気がする。勉学に真面目な彼女に、勉学についての話をして和ますと言う作戦は成功だったかもしれない。

 

「ちょっと好奇心が沸くな……【土】の魔法ってのは、どんな感じかな? 粘土でもこねるの?」

「そんな稚拙(ちせつ)なものじゃないわよ…………」

 

 相変わらず頓珍漢な定助に、溜め息が出てくるルイズ。しかし、やっぱり教えてくれるようだ。

 

「まず、【土】の系統の中心的な基本魔法は『錬金(れんきん)』よ」

「なに? レンコン?」

「レンコンって何なのよ……『錬金』!」

 

 訂正する時の声色が強いものになっている。ツッコミをいれる時の、ルイズの声色に戻っている。とりあえず、最低の状態からは引き揚げられただろうか、まるで百年ぶりに復活したような気分だ。

 

 貴族のプライドはダイヤモンドよりも固い。

 しかし、逆に考えるのだ。対抗するのではなく、そのプライドを良質的に発揮させてやろうと考えるのだ。この場合、勉学の話をして質問をする、そして無知な定助に自らの知識を教えてやりたいと言う、ある意味で彼女の自己顕示欲を煽ってやる。こうすれば、貴族のプライドを「教えてあげる」と言う良質的な結果に反映させるのだ。

 良い気分と言うのは、悪い気分よりも優先される。過剰に褒めて()(へつら)うよりかは、自然な『流れ』になるだろう。

 

 

「…………『流れ』?」

「だから錬金だって!」

「え? あ、あぁこれは違う…………これはつい…………錬金だったな」

 

 何だろうか、『流れ』と言う言葉に強い引っ掛かりを覚えた…………が、今はルイズのご機嫌取りだ。

 

「錬金って言うのは、元の物質を別の物質に変化させる魔法の事よ」

「なんだそれは、凄いなぁ…………」

「【土】の錬金を極めたメイジなら、そこの石ころを金にする事だって可能だわ。それでも簡単には出来ないけど」

「うお、金属加工の夜明けだなそりゃ」

 

 ご機嫌取り、とは言ったが、素直に定助自身も楽しんで聞いている。元より知的好奇心が強いタイプだったのか、興味深くルイズの説明を聞く。

 

「その他にも【土】のメイジは様々な事に役立っているわよ。例えば石を切り出して建物を建設したり、農作物の収穫に貢献したり、色々と汎用(はんよう)性が高い魔法なの」

「へぇ、【土】を会得したら一生食っていけるな」

「いや、メイジは貴族だからよっぽどの事がないと破産する事はないけど…………それに、他の系統もなかなか汎用性が高いわよ」

 

 こうやって聞いて行くと、魔法が使用出来る貴族が平民より優位に立てる事は、当たり前だけれども納得のいくように思える。強いプライドと、平民を落として見る慢心さえなければ一生仕えても良いのだが。

 

 

「さてと……そんなに興味があるなら、授業を聞いていれば良いわ。先生方が実践してくれるし、口頭(こうとう)で教えるより頭に入りやすいわ」

 

 ルイズは、ある一室の扉の前で立ち止まった。どうやらここが教室のようである。

 

「入り口も立派だなぁ」

「先に言っておくけど、中は貴族たちだけ」

 

 出入り口の扉に関心を示す定助に、ルイズは注意を促した。

 

「人によっては、キュルケみたいに甘いのもいるけど…………兎に角、貴族としてのプライドが高過ぎる奴だっているわ、威張り散らしているような。そんなやつに今みたいな態度取ってみなさいよ」

「……………………」

「平民のあんたは、四肢(しし)を使い物にされなくされても『文句言えない』し、最悪殺されても『悪人になるのはあんたの方』よ」

 

 ここに来て、把握していたハズの貴族と平民のパワーバランスに、強い『疑問』と『戦慄』が生まれた。なるほど、貴族にとって平民の命とはそんな程度に見られているのか。

 しかし、プライドと言うものは貴族の物だけではない、と定助は思っている。その定助の『プライド』が、『疑問』を抱かせたのであった。『同じ人間である平民を、どうしてそこまで踏みつけられるのか』。

 

 

 この『疑問』さえも、心の内に隠していなくてはいけないのか。何て言えど定助は、『力なき者』であるから。

 

「それじゃ、粗相(そそう)のないようにしてよね。私に恥かかせるのはもう、これっきりにして」

「大丈夫、大人しくしているよ…………」

「あぁそれともう一つ……」

 

 ルイズの為に開けてやる為、扉に手をかけた定助に、その彼女が一言つけた。

 

 

「勉強を私に教えて貰って、機嫌を取ろうなんてしないでよね。どんな事があろうと、あんたは『一週間ご飯抜き』なんだから」

「……………………」

「……………………」

「……………………バレてた?」

 

 流石は我がご主人と言った所か、思惑は勘づかれていたのだった。しかし、定助の本質的な思いとしては、あの沈黙した重い空気からの脱出であり、別に罰の回避は考えていない。

 

 

……まぁ、弁解する気はないのだが。

 

「えぇ、すぐに分かるわ。分かりやす過ぎるのよあんた!」

 

 したり顔のルイズを見た。

 機嫌は良くなったようだ、キミも本当に分かりやすい少女だなと、定助は何だかおかしくなった。そして、教室の扉を開いてやる。

 

 

 

 

 場面は変わって、ここは学院内の大図書館。今は殆どの学生が授業であるので、非番の教師や、授業が休講の少数の生徒がここを利用している。

 やはり、国を代表する名門学院とだけあって、図書館の広さも本のバリエーションも膨大なもの。恐らく、生きている内にここらの本を読破する事は不可能かと思われるほどの、超大型図書館だ。それもそうだ、他国からの生徒も多いこの学院であるからこそ、様々な国の書物がここに集結している訳である。

 

 その図書館の中、ルーン文字解読書中心の書物が並べられている本棚の前で、これじゃないあれじゃないと、本を選んでいる男が一人。背表紙を見て、本を選び、「これじゃない」とキチンと戻す作業をずっと繰り返している。

 

 我々はこの男を知っている。寂しく毛髪が抜け落ちたこの頭を知っている。そう、召喚儀式の際に生徒たちの監督役を担っていた先生であった。

 

「うーん…………ここの本棚でもないのか……」

 

 眼鏡を少し上げて、高い高い本棚を見上げる。先生の右手には、小さな紙が握られていた。

 

「あの青年の左手に刻まれたルーン……何処かで見た覚えがあるんだが…………どの書物だったかな」

 持っている紙とは、あの時にスケッチした定助の左手のルーン。

 

 

 

 

 この教師…………『ジャン・コルベール』は、気になって仕方なかった。言うのは、彼が教師として年数を重ね、たくさんの生徒の使い魔召喚にも立ち会っている。しかし、それまでに『人間を使い魔にする』なんて事には遭遇した事はなかったし、そんな話は他でも聞いた事がない。更に、彼でさえも見た事のないルーン文字が表れたとあっては、気になって気になって仕方がないのだ。

 それに、彼が大いに期待を寄せるルイズの使い魔であるだけあって、調べて教えてやりたいと言う思いもある。召喚された使い魔で、本人の得意系統が分かる事は常識だ。これが判明したら、彼女の得意分野もおのずと分かるかもしれない。

 

「見た事ないけど、見覚えはあるのだがなぁ…………」

 

 奇妙な違和感に苛まれつつも、その見覚えを頼りに昨日からこの本棚の前で調べものをしているのだが、全く合致した情報は得られなかった。

 

「うーむ……ルーン文字の解読書じゃあないのか?」

 

 何年も使い魔召喚に立ち会っただけあり、ここらの解読書は穴が開くほど読んだ。その中で見覚えがあるのだと思っていたのだが、いざ読んでみても違うものだらけ。

 

「はてさて…………何処で見たか……ふーむ…………」

 

 スケッチした定助のルーンとにらめっこし、記憶を掘り起こそうと繰り返して繰り返して熟考する。その際にじっとしていられない性格だろうか、うろうろと書庫内を歩き出している。

 

 

「うーん…………ん?」

 

 コツンと、爪先に何かが当たった。目線を下げてみれば、一冊の本が落ちていた。それを見たコルベールは、溜め息を吐く。

 

「はぁ…………誰だ、本をキチンと本棚に戻さない人は……読み終わった本は本棚に戻す、誰だってするし、私だってする。常識がなっていない」

 

 ブツブツと言いながら本を拾い上げ、一番近くの本棚を見る。すると、自分の目線の高さの位置に、ぽっかりと空洞が出来ていた。恐らく、ここに挟まっていた本であろう。

 

「ここは…………伝承書物か…………」

 

 持っている本も、トリステインの地方伝承について纏められた本である。この本棚の本だと、コルベールは落ちていた本をゆっくりと、隙間に入れてやった。

 

 

「…………ふむ」

 その本の隣の本に、コルベールの目が行った。『始祖ブリミルの使い魔たち』と言うタイトルであった。

 

「……………………」

 

 ずっと使い魔のルーンについて調べていたので、『使い魔』と言う単語に反応してしまうのは仕方のない事だ。コルベールは何気なしに、その書物を手に取って読んでみた。

 

 

「『ヴィンダールヴ』…………神の右手…………」

 

 更に、次の項目へページを進める。

 

 

「『ミョズニトニルン』…………神の頭脳…………」

 

 そして、次の項目へ。

 

 

「『ガンダールヴ』…………神のひだ……あっ!?」

 

 

 コルベールの時間が止まった、衝撃が下された鉄槌のように全身を震わせたのだった。コルベールの読んでいるこの伝承の本に、『彼の探していた事の答え』が載っていたからだ。

 思い出した、見覚えと言うのは、前にこの本を読んだ事があるからだった。コルベールは自身のスケッチと、本の内容を食い入るように見比べ、そして、一つの結論へと辿り着いてしまった。

 

「まさか…………そんな…………ッ!!」

 

 本を持つ手が震える、脳内は様々な感情で氾濫状態。我も忘れてコルベールは、叫ぶのだった。

 

 

 

 

「なんだってェーーーーーッ!!??」

 

 まるで、護衛対象の少女が物入れの中へ吸い込まれて行くのを見た、ギャングのチームリーダーのような驚き様で、彼は静寂な大図書館の真ん中で叫んだのだった。

 

 その後、報告に行きたい彼を、司書の無慈悲な説教で足止めされる事は、言わずとも分かる事だ。




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