掃除は終了し、教師から自由の身となったルイズと定助。ちょっと急ぎ気味に食堂の方へ移動している。
「ちょっと遅れちゃったわね……食べられるかしら?」
「腹いっぱい食べたいなぁー」
「あんたは昼食抜きだって!」
昼食抜きの現実が定助には突き付けられているのだが、あの
「腹減ったー…………減ったー…………減ったら減ったー」
「何の歌よそれ?」
「知らない。適当に出てきた」
「……………………」
しかしそれにしたって、朝から殆ど何も食べていない定助の胃はカラカラの砂漠のように、何も入っていないのだ。このまま夕食まで我慢は、しようと思えば可能なのだが『侘しい食事』が夕食にでも出るとしたなら、最早拷問だ。
更に、定助の空腹は絶頂を迎えたせいか、少しおかしくなっている。
「なぁ、四大系統の内、隠し事の上手い系統はどれだと思う?」
「は?」
「正解は【風】! 風の別名は【ハガラース】、『はぐらーかす』ぅぅぅ~」
「……………………」
これがさっき、自分を認めて、励ましてくれた定助だとは思いたくなかった。空腹を拗らせ過ぎて、この状況でイカれてしまったのだろうか。
「四大系統の内、重さを予測ばかりする系統はどれだと思う?」
「………………どれよ、さっぱりだわ」
「答えは【水】!」
「あぁ……なるほど…………推量(水量)するって事ね…………」
「うんうん」
定助に乗ってやったのも束の間、暫し沈黙。彼はまた何かを考えている。
(どうすりゃいいのよ、これ…………)
ルイズは何をすれば良いのか分からない。
「四大系統……」
「しつこいわよッ!? 何を私に訴えてるのよあんたは!!」
仏の顔も三度まで。三度目に入ろうとした所で、ルイズの我慢が溶けて消えて爆発した。
「あぁいや……そのー」
定助の目がツツーッとそっぽを向いた。何か見ているとかじゃなくて、何か言い訳を考えているようだ。
「これから長い付き合いになる。互いに『はぐらかし』も『推量』も無しにしようって事だ」
「絶対それ、後付けで纏めたでしょ!?」
考えていた仕草から、すぐに分かるだろう。
「……バレたのぉ?」
「モロバレよッ!!」
このツッコミも何だか、久し振りな気がする。授業中のルイズは真面目モードに移行する為、定助がボケても突っ込んでくれなかった……いや、定助もそれなりに真剣に授業を受けていたからボケていなかったと言うのもあるが。
兎に角、さっきと今の変わり様に驚きと困惑通り越して、呆れになっている事は事実。
(さっきのあんたは…………何処行ったのよ)
心の中で毒吐いた。食堂まではあともう少しだろう。
「でもキミに隠し事はしないし、キミの力を推量しない。これは本心だ」
「……………………」
こんな台詞をすぐに言える定助は、純粋なのかアホなだけなのか。兎も角、彼にルイズは救われているのも事実だ。
「…………あんたって、卑怯者よ」
「え、どういう事かな?」
「自分で考えたら? ジョースケ」
定助の名前をまた言ってくれた。それだけでもだいぶ嬉しいものだ。
しかし何だか、馬鹿にされているような隠されたような。
本塔に入り、食堂の前に到着した。話し声やフォークなどを鳴らす音が聞こえてくる所、もう昼食は始まっているようだ。
「さてと……悪いけど、お昼ご飯は抜きだからね、あんたは」
「夕食まで待つのか?……はぁ、朝から何も食べてないに等しいのにぃ?」
しょげる定助を無視して、ルイズは「ほら?扉は誰が開けるの?」と言って、定助に扉の開閉を催促させる。空腹と、朝からの疲れからか、定助は溜め息を吐いた。
「残念。朝食の時、私に恥かかせた分は清算して貰うから……これでも甘い方なのよ? 感謝なさい」
「確かにアレは悪かったと思っているけど…………ご飯抜きはやり過ぎだと思うなぁ」
「一週間からこの昼食までになったのに、ワガママなんだからあんたは」
それもそうか。一週間に絶望するより、この昼食で朝の事を許して貰えるのならお得な感じがする。どの距離行っても千円均一のタクシーのようだ。
少なくとも、そう考える事にした。
「…………分かった分かったご主人……甘んじて受け入れるよ…………」
「『甘んじて受け入れる』なんて、『妥協しました』って意味よね? 朝の事は何とも思ってないのねぇ?」
「…………お心遣い、感謝致します」
「よろしい!」
あの後でも相変わらずキツいルイズ。しかし、不機嫌になっている訳ではなく寧ろ逆だ。定助に向ける笑顔の数が多くなった気がするし、声も棘が少なくて明るい。
これは心を開いてくれていると言う意味で、裏返しなんだろうか。だとしたらもう少し優しくしてほしいと、定助はほんのチョッピリ思ったり。
「ほら、いつまで主人を扉の前で立たすのよ? 早く中に入れなさい」
ルイズに促され、定助は彼女の前に立って、扉を開こうと取手を掴んだ。
「うん? 何か付いているわよ、あんた」
後ろ姿を見たルイズが、定助に言った。定助は取手を掴む手を離し、ルイズに向き直る。
「え? 何処に何が付いている?」
「えーっと……あんたから見て左の首筋の所かしら?『星形』のものがくっついているわよ」
そう言われて、左首筋を擦ってみるも、何かこれと言って剥がれただとか、くっついただとかの感触はしない。
「取れた?」
確認して貰おうと、再び彼女に背中を見せたのだが、ルイズは『星形のもの』があった場所を眺めて首を振った。
「取れてないわよ…………あれ? 妙に立体感がないわね…………」
「取れてないの? いや、どの辺かな?」
「いや待って……ちょっとしゃがんで」
ルイズの倍はある身長の定助は、膝いっぱいに曲げなければ定助の首筋まで届かない。定助をしゃがませ、『星形のもの』がくっついた所を見る。
近くで見て気付いた。これは、くっついているのではなく、一体化している。いや、一体化と言うより、染み付いているような。
この『星形のもの』とは、薄く紫色で形成させた『星形の
「ゴミかと思っていたけど……あんた、ここに星の形した痣があるわよ?」
「へ? 痣? そこもぶつけたかな…………」
思い出すのは、教室での爆発だが、左首筋が痛んだ覚えはない、殆どが腰に来ていたからだ。
「いや、ぶつけて出来たにしては不自然よ……だって『星の形』よ? どうぶつけたら、こんな痣が出来上がるのかしら?」
「んー……」
限界まで首を捻ってみれば、なるほど、ギリギリだが自分の左首筋に『星形の痣』があるのが見えた。
「あ、ほんとだ……確かに奇妙だなぁ…………」
「えいっ」
ルイズが親指でグイッと、スイッチを押すかのように痣を押した。
「……………………」
「痛みとか、ある?」
「……いや」
医者から触診をされている気分だ。
それは兎も角、痣なら刺激を受ければ痛むだろう。それがないとすれば、ホクロのように生まれつき出来たものなのだろうか。
「
「じゃあ生まれつきかな?」
「分からないわよ。でもまぁ、そうじゃない?」
もういいと思い、定助はスクッと立ち上がると再度、扉の取手を掴む。
「どうするのあんた?」
「ん? どうするってぇ?」
「別に入ったって食事無しよ」
「……………………」
確かに用はないのに、食堂に居座るのも嫌らしいだろ。何もないのなら、外で待つかブラブラしている方が良いだろうか。
それに腹ペコだ。こんな状態で貴族の昼食なんて見たら、我慢しきれず飛び付いてしまうかもしれない。今でさえも扉越しに、フンワリと良い香りがしているので理性がブチ壊し抜ける寸前だ。
「……うーん、ちょっとここらを歩こうかなぁー。道とか覚えたいし」
早朝に出来なかった事をする。昼食だからあまり長い事出来ない訳だし、この近くを散歩程度なら空腹も紛れるだろう。この学院、原っぱがあったり花壇があったり、自然も多いので、ここを知らない今の内は散歩だけでも楽しめそうだ。
「じゃあ、昼休み終わりまで自由行動にさせてあげるわ。鐘が鳴ったらすぐに戻って来なさいよ」
「了解です」
扉を開ける。中は見ないし、匂いも嗅がない。
「少しでも遅れたら……夕食も抜きね」
「了か…………え?」
すっとんきょうに鳩が豆鉄砲食らった顔をする定助の反応を堪能し、ルイズはにやにやしながら「冗談」とだけ言って中に入った。
「だけど遅れたら承知しないから、ジョースケ」
「…………はぁ……分かりました、ごゆっくりぃ~」
扉を閉めて、暫しルイズと別行動。しかし、空腹は紛れるかもとは言ったが、直後に腹の虫が盛大に鳴いた所を見て、とても夕食まで待てるか不安になった。
「……………………」
空の腹を無理矢理満たす為に深呼吸をして、何処か適当に歩こうかと一歩踏み出した。その時、無意識に左首筋の『星形の痣』をさすってみるのだった。
「…………この痣……何か大事な事を忘れているような…………」
痣と何かが繋がっているのだが、それを掘り起こすのに材料が足りないと言った感じか。絞り出すように頭の中をまさぐろうが、痣に関連した記憶は思い出せなかった。
「…………ふーむ……」
考えても考えても出てこないのなら、同じ事を二度言わせるように無駄な事だと思い、考えるのを止めた。
「あっ!」
「あ…………」
熟考から戻ると、廊下の突き当たりの所で誰かと遭遇した。誰かとは言えど、定助も相手も良く知っている人物であった。
「こんにちは、ジョースケさん! ミス・ヴァリエールをお待ちですか?」
黒髪とソバカス…………早朝の時、洗濯をしてくれた親切なメイドさんのシエスタだ。
「あぁこんにちは。んー、そんな所かな…………シエスタちゃんは仕事中なの?」
「いえ。私の仕事は一段落つきましたので、これから昼食を食べに行く所です」
ここで働く人々はどういった生活をしているかも、実は興味のある所。やはり社員食堂のような所があるのだろうか、暇な間はシエスタに密着するのも面白いのかもしれない。
「昼食? 食堂で食べるの?」
そう言った所でルイズの言葉を思い出す。確か、『アルヴィーズの食堂』は普通に平民は入れないとの事だった。シエスタはメイドだから入れるとは思うが、もちろん配膳・
撤回する前に、シエスタから返事が来る。
「ふふふ! ご冗談を! 平民は貴族の食堂で食事なんか出来ませんよ!」
それは知っているのだが、冗談だと思われているので今更発言を取り下げる意味もない。
「何処で食べるの? まだここの事、分からないから……ご主人から暇貰ったからブラブラしようと思っているけど」
それを聞いたシエスタが何故か嬉しそうに、両手をパチンと叩いて提案した。
「それでしたら、一緒に厨房へ行きましょうよ!」
「厨房? 調理室で食べるのか?」
「えぇ。料理長の『マルトー』さんが
「つまみ食いでもするのかと思った」
定助が率直に思った事を言えば、冗談だと捉えたシエスタがまた笑い出した。
「ははははっ!! もう……ふふふ……そんな訳ないじゃないですかぁ! 本当に面白い人ですね!」
冗談を言おうとした訳ではないのだが、シエスタのツボに嵌まったようで、年相応な感じの明るい笑い声を出している。そんな彼女の様子を見たら、こっちまで楽しくなるのは彼女の魅力だろうか。
「そお? そぉう?」
さも、打算して言ったようにおどける定助はお調子者だ。
「きっとマルトーさんも、ジョースケさんの事気に入ってくれますよ!……そう言えば、マルトーさんも会いたがっていましたよ、ジョースケさんに!」
「オレェ?」
「はい!……どうですか?」
そこまで言われたのなら、もう行くしかないだろう。いや、最初から決めていたが。
「もちろん行くよ」
「それなら、付いてきて下さい! 食堂の裏手にありますから」
空腹の時間を紛らわす為にシエスタと一緒に、厨房へ行く事になった。先導する彼女の後を定助はテクテク歩いて行くのだった。
(…………厨房って事は……結局、料理のある所になるじゃあないか…………)
これは空腹を紛らわす所か、空腹を助長させるのではないかと、もっと考えて行動すれば良かったなと後悔した。しかし、シエスタの放つ陽気に当てられれば、無下にしても後悔しそうだったし、どっちもどっちだろう。
四大系統ジョーク流行らせコラ
1/26→「!」「?」「!?」の次に、空白を入れました。また、全体的に少し加筆して部分もあります。