ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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先に言っときますが、ジョジョ色強めです。
更に言えば、始めて日間ランキング乗りました。有り難う御座います!!


お昼時には薔薇を掲げるな。その3

 少し先の席にて、何やら騒がしく雑談を繰り広げる三人組がいた。言えど、話題の中心は金髪の、キザっぽく薔薇を持つ少年のようだが。

 

「ナアナアナアナアナアナア……教えてくれよ『ギーシュ』。結局君はぁ、誰と付き合っているんだ?」

「俺がいる限り、嘘は通じないと思え」

 

 かなり個性の強そうな二人に「誰と付き合っているのか」を聞かれている、キザっぽい少年…………『ギーシュ』は、手元の薔薇をヒラヒラとさせながら、まるで舞台の主人公のような大袈裟な動作で質問に応じる。

 

 

「付き合う? 何を言っているんだ君たちは…………僕は特定の女性と付き合っていない」

 

 そのまま薔薇を顔の近くまで持って行き、いとおしげに眺め出す。

 

「薔薇は……みんなを楽しませるものだ…………そんな僕が、一人だけのものにはならないのさ」

 

 返事を聞いて、やっぱ納得いかない二人は、まだまだ追求する。

 

「オイオイオイオイ……噂が立っているんだぞ?」

「お前が『虚無の曜日』の時、そこの森へ後ろに女性を乗せて、馬で遠駆けしたらしいじゃあないか」

「これは情報通の僕が取材した、リアリティある情報だッ! ナアナアナアナア? これについて、何か反論はあるかね?」

 

 二人は手を組んで、ギーシュに恋人の有無を確かめてやろうと、持っている情報で攻め立ててくる。しかし、ギーシュは全く動じない。

 

 

「……それは誰の話かな?」

「たまたま通り掛かったドミニコが、お前と誰かが馬で森へ行く所を俺たちに教えてくれたんだ。だから、ちょいと聞いてみようと思ってね…………」

「ドミニコ……はっは! あのドミニコかぁ!!」

 

 噂の発信源の名前を知ったギーシュが、安堵したような笑みで、反論し出した。

 

「オイオイ……余裕そうじゃあないか……」

「君たちねぇ……ドミニコは酷い『弱視』だと言う事を忘れていないかね? 何でも噂じゃ、今かけている眼鏡でも一メイル先が見えないらしいじゃあないか!!」

 

 痛い情報を突き付けられて、動揺したのは二人の方だった。まさかギーシュが、ドミニコの事を知っているとは予想外だったようだ。

 一方で、余裕の笑みをしながら二人の動向を伺うギーシュ。二人対ギーシュの情報戦が、ここに開幕した。

 

 

「…………馬の種類も判明している……『トラケナー』だ……こいつは軍用馬で、持久力・耐久力に長けた馬だ…………」

「…………それで?」

「実を言うとな、『トラケナー』を持つ生徒を調べた。何でも『グラモン家』は、軍人の家系であるからか『トラケナー』を好むらしいじゃあないか」

「……………………」

「君、なかなか良い『トラケナー』を飼っているね…………」

 

 質問者のオカッパ頭は、席を立ち上がり、わざわざ反対にいるギーシュの所にまで近付く。その様子に、「勝った」と薄ら笑いを浮かべる、情報通が成り行きを見ていた。

 

「…………それも、ドミニコ情報か?」

「あぁ、ドミニコだ。しかし、ドミニコはただの生徒じゃあねぇ。『馬の専門家』なんだぜ…………家が、馬の売買を行う最大手商人の家系なもんでな……お前の『トラケナー』も、ドミニコの家から買ったもんだろ?…………馬の事なら、例え二リーグ先からでも分かるそうだ……動きと色でな…………」

「……………………」

「それについて……何か、反論は?」

 

 ギーシュの表情に、動きなし。そして、言葉も止まった。

 

 

 

 

 しかし、次の瞬間、また「ふふふふふ」と押し殺すように笑うのだった。

 

「…………何がおかしい?」

 

「…………『トラケナー』? 僕は『虚無の曜日』に『トラケナー』は走らせていないよ」

 

 ピクリと、オカッパの右瞼がひくついた。

 

「……どういう事だ?」

 

「君たちはその日、僕のトラケナーがないと言う情報だけで攻め立てているようだが…………馬の管理人には聞いたのかね?」

「だからどういう…………ッ! まさか、きっ! きさま…………は!!」

 

 何かを察したオカッパ。その様子をニヤニヤしながら眺めるギーシュは、反論をいい放った。

 

 

「あの日、僕の『トラケナー』は、『手入れ』されていたんだよ…………僕から言っておいた、『今日はこの子の毛並みを手入れしてくれ』ってな、じっくりと! 管理人に聞いてみてくれたまえ、正午から夕方に僕が迎えに行くまで、トラケナーは『手入れ用の馬小屋』に預けられていたのか?……とね」

 

 二人は電撃に打たれたような、歪んだ顔をしていた。馬を保管しておく『馬小屋』と、手入れを命じられた馬を保管しておく『馬小屋』の二種類があり、一方の馬小屋にいないと言う情報だけを、二人は持っていた。

 これでは不十分。この余裕、間違いなく管理人を問い詰めても、本当の事を言うだろう。

 

「ぶ、ブラッシングは! 馬の持ち主であるお前が行うものだろう!? 何故、その日は管理人に任せた!」

「それぐらいどうでも良いじゃあないか……『気分じゃなかった』。これを覆す情報は持っているかね?」

 

 二人はグウの音も出なくなった。オカッパはヨロヨロと、ギーシュの二つ向こうの席に座り、ガクリと項垂れた。まるで死んだように見える。

 

 

「美しき薔薇はみんなの為に咲き誇る……僕は、一人だけの物にはならないのさ…………」

 

 もう一方の方は、ギリリと下唇を噛んで、この屈辱に耐えている。しかし全体的に見ると、アホみたいな情報戦だろう。ギーシュが誰かと付き合っているか、いないかを、まるでギャングが構成員を殺ったと思われる人物を問い詰めるような、真剣さで行われた。最早茶番劇である。

 

 

「さて……僕はデザートを頂いたら去らして貰うよ…………それまでなら、君たちの話に付き合おうじゃあないか」

 

 王者の貫禄、帝王の誇り……そんな雰囲気を醸し出しながら、目の前にいる情報通と、椅子の上で死んでいるオカッパに挑発する。

 ギーシュは、勝ち誇ったように笑ったのだった。

 

 

 

 

「すいません……あの、これ、落とされましたよ?」

 

 ピタッとギーシュの動きが止まった。スッと横を向いてみれば、綺麗な紫色の香水が、シエスタの手の上に乗せられていた。

 

「……………………」

 

 コッソリ、手をポケットに忍ばせる。

 ない、ない、何処にもない。ギーシュは凄い焦った。この香水こそ、『決定打』なのだ。

 

「……………………ぼ、僕のじゃあないね…………」

「え? しかし、貴族様のポケットから落とされ…………」

「い、い、いや? 知らないね? 僕の香水じゃあない…………」

 

 その香水を見た情報通が、生き返ったように立ち上がって指差した。

 

「それは! その独特な色合いの香水は! なるほど…………君の恋人はズバリ、『モンモランシー』だなぁ!?」

 

 余裕の笑みを保っていたギーシュの顔が、グニャリと歪んだ。ここで始めて彼は、動揺してしまったのだ。汗が滴る。

 

 

「…………汗をかいたな……」

「うわぁ!?」

 

 いつの間にか生き返って、隣に立っていたオカッパ。そして驚くギーシュの頬へ近付くと、ベロンッと舐めた。

 

「ひぃぃ!?」

 

 突然舐められたギーシュは、間抜けな声で叫ぶ。

 一部始終を傍観していたシエスタは、生理的嫌悪を催しドン引き。貴族だとか関係なく、一歩後退りした。

 

 そんな状態に関係なく、オカッパは宣言した。

 

「人が本当の事を言っているかどうか、顔の皮膚を見ると分かるんだ。汗とかでテカるだろ? その感じで見分けるんだ…………汗の味を舐めればもっと、確実に分かるかな?」

「ナアナアナアナアナアナア!! どうなんだ!? その香水は、ギーシュの物じゃあないのかッ!?」

「いいやッ!! この味は嘘をついている味だぜ! ギーシュ・ド・グラモンッ!! その香水は、貴様の物だッ!!」

 

 ピクピクと表情筋を震わせるギーシュだが、何とか取り繕って平然を装う。

 

「き、君たちねぇ……いいかい? 彼女の名誉の為に言うが、僕は…………」

 

 彼が言葉を紡ぎ出した時に、「横にいるのは誰だ」と指差す情報通。その視線の先は、ギーシュの左隣を見ていた。何だろうかと、そこを見てみれば、シエスタの背後に茶色のマントの少女が立っていた。

 

「…………え、えーっと……け、ケティ? 違うからね?」

 

 シエスタが下がると、茶色のマントの少女……ケティがツカツカとギーシュの近くまで歩み寄った。

 

 

 

 修羅場。予想外の展開。二人は気まずい表情で、黙って成り行きを見ている事にした。

 

「…………ギーシュ様……」

「……だ、だから違うんだケティ…………彼らは誤解をしているようだ…………」

「…………やはり、ミス・モンモランシと…………関係を…………」

「いやいや? 何を言っているんだい? 僕の心には、君だけ……ぶふぉッ!?」

 

 甲高い音と、ギーシュの頬に出来た痛そうな赤い手形。ケティが彼にビンタを食らわせたのであった。

 

「その香水が証拠です! さよならッ!!」

 

 ギーシュに背を向け、涙を流してその場から立ち去った。

 

「ま、待ってくれケティィィィ!! 君は勘違いをして…………」

「オイオイオイオイ、ギーシュ…………その辺にしといた方が…………」

 

 ケティが食堂から出たタイミングで、情報通が汗だくでギーシュに忠告をする。今度はギーシュの右隣を見ていた。「まさか」と思い、バッとそこに振り向いたギーシュ。

 

 

 そこには少し離れているが感じる、空気を震わせるほどの怒りのオーラを放った金髪巻き毛の少女……モンモランシーが立っていたのだった。

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………や、やぁ、モンモランシー…………」

 

 ズンズンと近寄るモンモランシーだが、その近寄る様は吸血鬼に挑む不良が如く。

 

「落ち着けモンモランシー! 一旦落ち着こう!」

 

 流石にかわいそうだと思ったのか、オカッパがモンモランシーの前に立ちはだかった。これにはギーシュも感激したのだが、

 

「邪魔よッ!!」

 

…………モンモランシーの無慈悲な手の甲ビンタがオカッパの左頬から抜けるように直撃。有り得ないほど顎が外れて歯が飛んだ。

 

「うぐぇぇッ!?」

 

 吹っ飛んで、テーブルの上に野垂れるオカッパ。ギーシュに絶望とオカッパへの失望が満たされる。

 

 

「弱くないか!?」

「オイオイ……あいつに喧嘩なんてやらすな…………鳩にすら勝てないんだぞ……」

 

 そんなこんだで、モンモランシーがギーシュの目の前まで迫った。その際に一瞥された情報通は、モンモランシーに何か言うのを止めた。黙って座って目線を逸らす、薄情者。

 

「……………………」

「……………………」

「…………ハァイ、ギーシュ」

「……はいモンモランシー…………良い天気だね」

 

 背筋をピンッと張り、怒れる女性の瘴気に当てられたギーシュは畏縮してしまうだけだった。ついでに、天気の話をしたが今は屋内だろう。

 

「…………さっきの、一年生の子よね。茶色のマントだったし」

「…………はい」

「……………………やっぱり、付き合っていたのね?」

 

 モンモランシーの静かな問い掛けに、ギーシュは必死に手振りを交えて弁解に入った。これでしか、何か言うチャンスを失うと思ったのだろう。

 

「モンモランシー待ってくれ! か、彼女……あー…………ケティが誤解しているんだ!」

「…………ふぅーん…………」

 

 そう来たか、と言わんばかりに睨むモンモランシーだが、次の瞬間キッと、情報通を睨んだ。気付いた情報通はビクリッと体を震わし、何故か立ち上がった。

 

 

「………………あなた」

「オイオイオイオイ…………何でしょうか?」

 

 巻き込まれた情報通は、今頃「下痢腹抱えてトイレ探す方が幸せ」だなんて思っているのだろう。元凶はギーシュだが、彼はこの事態のキッカケを作り出したので、それに後悔した。

 

(ナアナアナアナア! 僕はただ、この色男の出鼻かいてやろうと思っただけだぞ!?) 

 

 

 そんな強気な言葉は飲み込まれ、胃液に昼食と共に溶けた。

 

「裏で聞いていたけど…………ギーシュが、何していたって?」

「も、モンモランシー……彼らのは噂だよ? 信憑性に欠け」

「黙りなさい」

「すいません、はい……」

 

 止めようとするギーシュを封殺し、再度、情報通に聞いた。

 

「噂で良いわ…………言いなさい」

「え、えーっと…………ギーシュが前の『虚無の曜日』に馬で森に、誰かと遠駆けを…………」

「…………私じゃないわね……それは誰?」

 

 今度はギーシュに聞いた。ギーシュの顔中には、汗がポタポタと流れ落ちている。

 

「も、も、モンモランシー……僕はその日、遠駆けには」

「私との約束は断っていたわね、『用事がある』って。その日、何かあったの?」

「え、えーっと…………僕の馬で……ま、街へ買い物へ……」

 

 その言い訳に対して、情報通がポツリ呟いた。

 

 

「オイオイオイオイ……馬は正午から夕方まで『手入れ中』で預けていたんじゃないのか…………」

「なっ!? そ、それは、その……えーっと…………!!」

 

 ここで自分の話が首を絞める事になろうとは思わなかった。と言うか、情報通が暴露するとは思わなかった。彼もまたモンモランシーの瘴気を食らい、口が軽くなってしまったようなのだ。本人も「あっ!」と言って口を塞いだ、もちろん遅い。

 

「…………ギーシュ」

「はいぃ!!」

「……誰の馬で何処に行っていたの?」

 

 

 

 

 ギーシュは思い出した。それは、この前の『虚無の曜日』。

 その日はケティとの約束があった。

 

「二人で森林浴でも……どうでしょうか…………?」

 

 ケティからのお誘いだった、無下に出来ない。

 万全な馬でこの日に望もうと、馬を借りた。同じ馬種だったのは誤算だったが、別に何と言う事はなかった。

 前日に馬術を習っていたので、この日一日は休ませようと手入れに出した。

 そして、ケティを後ろに乗せて……森へ。

 

「ギーシュ様……愛しております…………」

「僕もさ…………ケティ」

 

 二人は夕方まで、愛を囁き合うのだった…………

 

 

 

 

「要するにあの子と一緒に行ったのね、遠駆け」

「…………はい」

 

 白状するしかなかった。これ以上嘘を重ねても仕方ないと踏んだのだろう。重ねて、モンモラシの『絶対に言わせる』凄味に圧され、逃げられないと思ったのだった。

 

「し、しかしモンモランシー!! その、僕は彼女に誘われて……こ、断れなくて仕方なくねぇ……」

「…………そう……」

 

 一言、それだけ静かに言うと、流し目でテーブルに置いてあった、ワインの入ったワイングラスを見る。そしてそのまま、ワイングラスを掴み、椅子に座ったままのギーシュの頭上に、持っていく。

 

「も、モンモランシー? 君はまさか…………」

 

 

 ワイングラスに入った、赤い赤いワインを、ギーシュの頭にぶっかけた。ドボドボと滝を作ったワインはギーシュの頭で飛沫を上げる。もうギーシュは何も言えなかった。

 

「…………ギーシュ」

「……………………」

「…………嘘つきッ!!!!」

 

 それだけ叫んだ後、モンモランシーは踵を返して、ツカツカとその場を離れて行った。凄まじい修羅場に、周りがポカンと注目していたのだった。

 

 

 ワインでボトボトになった彼は、少しの間静止していた後、取り出したハンカチで顔を拭いた。

 

「…………彼女たちは……薔薇の美しさに気づかなかったようだね…………残念だ……」

「…………オイオイオイオイ……まだ言うのか…………」

 

 またキザなギーシュがすぐに戻って来たので、呆れる情報通だったが、そのギーシュの表情を見てギョッとした。

 怒りに燃えた目をしていた。ガタリと、ギーシュは椅子から立ち上がる。

 

 

「君ぃッ!!」

「は、はい!?」

 

 ギーシュの怒りの矛先は、情報通でもオカッパでもなく、『この修羅場の大元な原因』である、香水を拾ったシエスタに向けられた。

 貴族に怒鳴られ、ビクリとシエスタは飛び上がった。

 

「君が軽率に香水のビンなんぞ拾ったせいで、二人のレディーの名誉が傷付いた!」

 最早当て付けだ。しかし、今のギーシュは沸き起こる怒りを、誰かにぶつけないと仕方なかったのだ。その際、格下のシエスタを選んだのだった。

 困惑するのは、シエスタである。

 

「そ、そんな……わ、私は…………」

「どう責任を取ってくれるのだねッ!?」

「ひぃっ!?」

 

 ギーシュにとったらただ、怒っているだけだが、平民のシエスタにとってはとんでもない。今一番、『死』に近いのは彼女なのだ。

 どんな理由であれど、貴族に歯向かえばどうなるのか分からないのだ。

 

「いいかい? 彼らとの話を聞いて察せないものなのか? もう少し場の空気を読む機転が、君にはないのか?」

「あ、いぁ…………も、申し訳ありません!!」

 

 頭を大きく下げて、ギーシュに謝罪をするシエスタ。だが、それで腹の煮えくりが収まる訳がない。

 

「君ねぇ…………君が謝ったって、二人の傷付いた名誉は戻らないし、僕の名誉も戻らない…………とんでもない事をしてくれたな、平民がぁ…………!」

「申し訳ありませんでした! せ、責任は取ります!」

「ほぅ、じゃあ、どう責任を取るのだね?言ってみたまえ」

 

 ここでシエスタの唇が、動かなくなった。どう責任を取るか、考えずに言ってしまったのだ。ガクガクに震えながら、下げた頭を上げられなかった。

 

「どう責任を取る?」

「そ、そ、それは…………私…………!」

「…………言えないのか?」

「あ、あの……えと…………!」

 

 何も言えないし、何も考えられない。シエスタの全身は、全て恐怖に侵食されていたのだった。

 

 

「そうだな……ここのメイドを辞職するなんてどうだ?」

 

 非情なギーシュの宣告。シエスタの息が、詰まった。

 

「自分から責任を言えないような、始末の悪いメイドはこの学院にはいらないよ。なんなら、僕から先生方に言ってやろうか?」

「……あ…………あぁ……!」

「それともお金かね? まぁ、君が一年間働いた所で賄えるものではないとは思うがね」

「……………………ッ」 

「で? どうする? 他に何かあるのかね?」

 

 シエスタは何も言えない。反論したいが、しようものなら責任を『死で償う』事態となる。

 

 

 周りのギャラリーも、その様子を楽しんでいる。状況は、『ギーシュの二股』から『平民への責任』へ移行している。もう当て付けとかそんなものではない、メイドが恐怖に震える様を見物するのが楽しいのである。

 

「さぁ? どうする?」

「ぁ…………ぇと…………ぅぁ…………!」

 

 小声ながらも何か言おうとする。唇が震えて言葉が出ないし、その前に言葉が頭に出来上がっていない。

 状況はシエスタへの罰を求める。彼女の心は、深く深く絶望へと沈むのだった。

 

 

 

 

「お前、なにやってんだ?」

 

 すると聞こえた、誰かの声。ギーシュの背後より聞こえたその声は、誰かを呼んでいる。

 振り返れば、ケーキの乗ったワゴンを運ぶ、妙な服来た給配役の男の姿。

 

「…………そのお前ってのは、このメイドの事かい?」

「いや、お前だよお前」

 

 今度は指差しで言われた。『お前』とは、男の前に立つギーシュに決定した。

 

「……………………」

 

 貴族に対して二人称呼び、ため口、指差し……してはいけないタブーを三つも破ったのだ。これには場もざわついた。

 

「…………君、僕が誰か知っているかい?」

「知らない、お互い初対面だろうな」

「……じゃあ、僕が貴族ってのは理解しているかい?」

「している。その制服みたら分かる」

 

 知っててやっている上に、表情には変化がない。そこがギーシュの怒りに火を付けたのだった。

 

 

「で、お前……シエスタちゃんになにしてんだ?」

 

 名前を呼ばれたシエスタは、顔を上げた。

 ギーシュの前に堂々と立つその男は、シエスタが先程一緒に仕事をしていた男であった。

 

「…………まず、君は何だね? 名前は?」

「オレェ? オレか?」

「あぁ君だっ!」

 

 挑発にも似た言動に、平静を装い紳士ぶっていたギーシュの表情に歪みが生じる、言葉も強い。

 それに構わず男は、ギーシュの前に立ち歯向かうように近くまで寄った。身長が高いので、自然とギーシュを見下す形になった。

 また自尊心を傷つけられた彼の前で、男は堂々と名乗ったのだった。

 

 

「オレは『東方定助』だ。お前のような『アホみたいな奴』より高潔なミス・ヴァリエールの使い魔であり、そこのシエスタちゃんの友人だ、ゲス色男」

 

 その男は定助。シエスタの目には、金色に輝く気高き雰囲気を纏っているように見えるのだった。




でも言うじゃなあい?ランキングの命は短いって。
この快進撃も、いつかは果てるのさ(泣き声)
失礼しました

1/28→『モンモランシー』を『モンモランシ』と間違えていました。
いや、実際は『モンモランシ』が家の名前で、『モンモランシー』がファーストネームですな。あぁ、ややこしい(人間の屑)
 
 最後の行が何故か消えていたので、入れました。
 くそう、コピーミスだぜ…………
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