ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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強固かつ青く、柔らかく濡れている。その3

 ルイズの足が止まった。

 何処から流れて来たのか、地面にひれ伏す定助の真上に『シャボン玉』がふわりふわふわと浮かんで弾けたのだった。いや、そこまでは何と言う事はない、彼女自身も定助からだいぶ離れた場所にいたので、視認していなかった。

 

「…………それって……」

 

 ルイズも、絶句していた。

 

 

 

 

「ね、ねぇ、タバサ……あれって……なにか分かる……?」

「……?」

 

 ギャラリー側のキュルケは、放心したような声で本に夢中のタバサに聞いた。タバサは、周りが沈黙した事による空気の変化に気付き、本から顔を上げて定助を見た。

 

 始めて彼女から、動揺の色が眼鏡越しの瞳に宿る。

 

「……分からない…………」

「た、タバサでも分からないの……?」

「……見た事がない…………」

「そ、そう……」

 

 タバサの動揺に気付いたキュルケは、そこでピタリと会話を切った。二人は食い入るように、一点だけを見ているのだった。

「……ゆ、幽霊とかじゃ……ないわよね?」

「もしくは……『使い魔の使い魔』か……」

 

 そこで本当に会話を止めた。

 

 

 

 

「……平民……!?」

 

 余裕綽綽だったギーシュの表情に、また最初のような動揺が見られた。近付いていたワルキューレの動きも、自身のキザなポーズを止めて、まるで怪物にでも遭遇したかのような顔で定助を……正確には『定助の体の上辺り』を凝視していた。

 観衆からも、どよめきが立つ。

 

「お、おい…………なんか……いるぞ……!」

「なんだ!? あの平民、メイジだったのか!?」

「オイオイオイオイ……僕には理解不能だ……!」

「なぁ……見た事ねぇよあんなの……」

 

 困惑。そんな声が聞こえている。

 最前列の動揺に、良く見えない後方が「なんだなんだ」と騒ぎ立っている。

 

「おいギーシュッ! アレもお前のか!?」

 

 そんな訳がないだろう、ギーシュも困惑している。あまりの驚きに、杖を落としかけたほどだ。疑問を投げかける観衆を完全無視をして、ジィッと、彼は『それ』を見ていたのだった。

 

 

「……嘘……でしょ……ジョースケ…………あんた……!?」

 

 一番定助に近いルイズでさえも、驚くほど。ギーシュを止める役割も忘れて、彼女もずっと見ていた。

 見た事のない、教科書にも乗っていない、そんな不可解と摩訶不思議な光景が、彼女の……この場にいる者全ての目線の先で起こっていたのだ。

 

 

 

 

「思い出した……『柔らかくそして濡れている(ソフト&ウェット)』……」

 

 定助が、小さな騒めきに揺れる広場にて、呟いた。

 

 

 彼の真上に、壁から半透明的に浮き出るようにして『黄色い人型の生物』が出現していたのだった。

 

 

 それは、胸に錨のマークを刻み込んだ上半身部分を、壁から出すようにしていた。細く、長い腕は定助を守護するかのように広げられ、両肩部には己を象徴するかのように『星』が描かれている。面長な顔には、丸い目のような部分が付いており、ジッとギーシュを睨み付けているかのようだった。

 人、と言うより『人形』と言う表現が合うほどに、無機質な『来訪者』は何も喋らず、定助の上で君臨している。

 

「おい……答えろ……平民…………!」

 

 ギーシュは動揺から震える唇で、『来訪者』の正体を知っているであろう定助に問いただそうとした。

 

 

「答えろッ!! それは何だ!? 何者なんだッ!!??」

 

 

 

 動けないハズの定助が、ゆっくりと、上半身を持ち上げた。

 

「いッ……!?」

 

 立てないほどに痛めつけたハズだった、もう定助は再起不能のハズだった。彼は定助に完全なる勝利をしたハズだった。

 

 

「……不思議だ……さっきまで気がおかしくなりそうなほど痛かったのに…………」

 

 左手のルーンが、黄金の輝きを放っていた。

 

「今は痛くない……寧ろ、体が軽い……」

 

 定助は、傷だらけの体を、二本の足で支えられている。立っていたのだった。

 

「ジョースケ!? なにしてんのよ!? 立っちゃ駄目……!」

「ご主人……問題はない……大丈夫だ」

 

 定助の声は、ルイズに遠過ぎて聞こえなかった。

 そして、定助の復活を待ち望んでいたかのように、『来訪者』は壁からその全貌を晒す。

 

 

 腰の部分は鉄の棒が入り組んだようになっており、恐らくそれらが骨組みとして駆動しているのだろう。しかしその堂々たるフォルムは、ある種の『美』を持っている。間接部分は球体間接となっており、それがまた『人形』のような見た目に仕立ててあるようだったのだ。

 地面から少し浮遊し、定助の傍に佇むその存在の出現に……この場にいる誰もが驚愕からか、話す事もなく『来訪者』に注目していたのだった。

 

 

「これはなんだ?……と、言っていたな、『ギーシュ』……」

「……ッ」

 

 定助に初めて名を呼ばれた事により、少しの動揺を与えた。それ以前に、謎の『来訪者』を従え、満身創痍の状態で直立した定助への『得体の知れない者に対する恐怖』を抱えていたのだった。

 

「オレにも良く分からない。良く分からないが、これは『スタンド』と言う存在だ。今、思い出した」

 

 顔を上げ、帽子を直し、定助の目は再び、ギーシュの姿を捉えた。

 

 

「オレを守ってくれる存在だ……そして、唯一無二の存在……」

 

 人差し指の先を鼻先にくっ付け、下目遣いでギーシュを睨むと、『スタンドの名』を静かに言う。

 

 

 

 

「『ソフト&(アンド)ウェット』。思い出したんだ」

 

 自分の名前に呼応するかのように、『来訪者』…………『ソフト&ウェット』が構えの体勢を取った。

『ソフト&ウェット』の行動開始にハッと我に返ったギーシュは、薔薇を定助と『ソフト&ウェット』に向ける。

 

 

「わ、ワルキューレッ!!」

 

 ゆっくり、いたぶるように歩かせていたワルキューレを、急速突進させて定助へと先制攻撃を仕掛けた。強固に握られた拳を構え、定助に強烈な一撃を再度、与えてやろうと近付いて行く。

 

 

 

 

 だが、

 

「んんんッ!?」

 

ワルキューレが定助の前方数メートルの所で盛大にすっ転んだのだ。それは滑るようにして、足を前に背中から倒れる形だった。

 

「お、おいワルキューレ!? 何をしている!?」

 

 再度立ち上がろうとするワルキューレだったが、上半身を上げて足で踏ん張ろうとした時にまたすっ転んだ。そしてまた起き上がろうとした時も、また同じような手順ですっ転ぶのだった。

 ギャラリーからザワザワと困惑する声があがる。

 

「ギーシュ! 落ち着けよ! 凡ミス凡ミスぅ!!」

 

 誰かがそんな風に気遣うのだが、それとは違う。

 

(こ、コケるなんて凡ミス……僕のワルキューレがする訳ないだろ……ッ!?)

 

 ワルキューレの制御は完璧だ。恐らく、人間相手の統率より規律正しく正確に動いてくれるハズだ。しかし一体のワルキューレがこうやって、無様にも地面に倒れているのは悲しき事実。原因を探り出そうと、躍起になるが、その原因は『一つ』しか思い付きまい。

 

 

「貴様ぁ!! 僕のワルキューレに何かしたなぁぁ!?」

 

 当て付けにも等しいギーシュの問い掛けに、定助は惚けるまでもなく普通に答えるのだった。

 

 

「あぁ、『した』」

「何をした!? 後ろのソレがしたのか!?」

「その通り、『ソフト&ウェット』が『した』」

 

 定助は、軽い足取りで転び続けるワルキューレの元へ歩き出した。ダメージは極限まで与えたハズなのに、一歩一歩を踏みしめるように歩いている。またギーシュに動揺が起こったのだが、流石は軍人の家系と言う訳か、自身の背後に立たせていた残り二体のワルキューレを、槍を持たせて向かわせたのだ。

 

「ワルキューレ!! 再び足腰立たせなくしてやれぇ!!」

 

 槍を構えて定助に突撃するワルキューレたち。定助は倒れているワルキューレの傍に近寄ると、『ソフト&ウェット』に踏ませた。ワルキューレは倒れていながらも、敵を捕らえようと『ソフト&ウェット』の足を掴むのだが、確かに触れているハズなのに掴めないのだ。

 

「『スタンドはスタンドでしか触れない』……が、『スタンド自体は物を一方的に触る事が出来る』」

 

 向かってくるワルキューレたちを見据えながら、定助は首筋の『星形の痣』に右手を差し向けた。

 

 

 プワッと痣から『シャボン玉』が出現し、それを右手で払えば、シャボン玉は真っ直ぐ二体のワルキューレの足元へとふわふわ飛んで行った。

 

「……ギーシュ、ここでお前は一つ『失敗』した」

「なにぃ!?」

 

 シャボン玉はワルキューレの足元へ到達すると、儚くパチンッと弾けた。

 

 

「それは、『何が何だか分かっていないのに行動させた事』だ」

 

 今度は二体のワルキューレが仲良くすっ転んだ。

 

「はぁぁぁぁぁ!!??」

 

 しかも、ただ転んだのではなく、芝生の地面を『ツルツルーッと滑り出した』。

 これは広場にいる者が「はぁ!?」と間抜けな声を出した。凍らした訳でもないのに、ワルキューレがまるで氷の床を滑るようにツルツル滑っている事実に、思考が完全に追い付いていないのだ。もちろん、それはギーシュもだし、ご主人様のルイズもだ。

 

「な、な、何なのよこれぇ!? 何したのよ!?」

 

 ルイズはギーシュを止めるだとかはもう、今起こっている状況に手一杯で忘れてしまった。そして代わりに、定助に「何をしたのか」を聞いてしまっている。

 

 

 その疑問に定助はニヤリとして答えた。

 

「『ソフト&ウェット』が『奪った』んだ」

 

 能力を打ち明けるが、困惑の声はあがる。

 

「う、『奪う』!? どう言う事だ!?」

 

 今度はギーシュが聞いた。理解し切れていないようだが。

 

 

 

 

「『ソフト&ウェット』の能力は、放ったシャボン玉が弾けた時、『そこから何かを奪う』スタンドだ」

 

 ツルツル滑って、定助の所へ向かってくるワルキューレを見た後、『ソフト&ウェット』を一瞥すると、スタンドは足元で倒れるワルキューレを踏み付けていた足を大きく後ろに引いた。

 二体のワルキューレは止まらない。

 

 

「今、地面から『摩擦を奪った』」

 

 構えていた『ソフト&ウェット』が渾身の力を込めてワルキューレを蹴飛ばした。するとそのワルキューレも、地面を高速に滑って行ったのだ。

 

「んな馬鹿なぁ!? ワルキューレぇ!?」

「おー、滑って行くなぁ〜」

 

 高速で滑り合うワルキューレ同士が衝突、強固な体とスピードとが相まって衝撃が強まり、三体は粉々に砕け散った。

 

「そ、そんな……魔法……聞いた事がない……!」

「これは魔法じゃない、もっと違う能力だ」

 

 舞い上がった青銅が、土に変わり、ハラハラと舞い散っている。その中でもギーシュと定助は、互いから視線を外す事はなかった。

 

 

「これが、『ソフト&ウェット』。そして宣言する」

 

 定助の代わりに傍へ寄った『ソフト&ウェット』がギーシュを指差した。スタンドに指を差されてギクリとするギーシュ。

 そのポージングは体を斜めに向けて背筋を伸ばした、ギーシュのやるような貴公子風のキザな指差しだった。しかし、ギーシュより優雅に見える。

 

 そのまま宣言を言い放った。

 

「……お前の所まで二十メートルか……この決闘、『残り五分で終わらせる』」

 

 大胆な宣言、困惑に浸っていたギャラリーの興奮はまた舞い戻って来た。

 

「アレがなんなのか分からんが、良いぞぉぉ! 平民!!」

「あれはゴーレムか!? 精霊かぁ!?」

「うおおお!! 普通の決闘よりおもしれぇぞぉぉぉ!!」

「いけぇぇ!! 二股ギーシュをやっつけろぉぉ!!」

 

 定助へのアウェイは、ギーシュへと移った。ここの連中は、楽しませてくれる存在なら貴族だとか平民だとか関係ないのだ、『どっちかが滅多打ちにされる様が見たい』のが本音。

 

 

 空気の流れが定助へと移ったのを実感したギーシュは焦る。

 

(ふ、ふざけるなよ平民がぁ!!……しかし、認めよう……!)

 

 ギーシュは、定助が行動するよりも先に薔薇の花弁を一気に散らし、七体のワルキューレを作り出した。前衛に三体、中衛に二体、後衛に二体の、動揺している割には冷静な隊列だ。

 

「むっ……」

「……このギーシュ・ド・グラモン……君を見くびっていたようだ」

 

 ギーシュの目は、キッと凛々しいものとなる。彼の家は軍人の家系と聞いたが、まさにこの目は若いながらも立派な『軍人の目』である。ここで彼は定助を、『好敵手』として認識したのだ。

 

 

「ここからは、君のファイトに敬意を払い、敬意を以って君を倒す!! 僕が操れる限界の、七体だッ!!」

 

 ワルキューレたちが、一斉に構える。臨戦態勢はバッチリだ、いつでも突撃出来る。

 

 

 数で言えば圧倒的不利。そして、ギーシュは圧倒的有利。しかしギーシュは決して油断しない、カッコつける事は止めにして真剣に戦いと向き合っていたのだ。

 

「………………」

「………………」

「……先にどうだ? ギーシュ」

「……それじゃあ、お言葉に甘えて!!」

 

 前衛のワルキューレ三体が定助に襲いかかる。

 合わせて定助も『ソフト&ウェット』を自身の前に立たせ、守護させた。




一日投稿しなかったからとて、失踪したと失望しとらんですよね?
いやはや、申し訳ありませんが、毎日投稿・感想返信が難しくなるかと思います故、善処願います。
あと、ランタンポップスだ!!二度と間違えるな!!
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