ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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関係ないんですけど、弟が「めだかボックス」にハマりました。
原作者の西尾維新さんが、ジョジョ小説「オーバーヘヴン」の作者だと教えたら読んでハマりました。
この通り、ジョジョを引き出しにしたら単純なんです。


寝起きと気付きと焦がれ。その1

 部屋に入って来たのは、洗濯カゴを持ったシエスタであった。

 

「………………」

「………………」

 

 彼女と視線が合わさった。驚き顔の彼女の目は、奥から押し寄せたように涙で潤い出している。定助はどうして良いか分からないので、手を上げて挨拶した。

 

 

 

 

「じょ、じょ……!」

「あぁ……シエスタちゃん……おは」

「ジョースケさぁぁぁぁん!!」

「おふッ!?」

 

 するといきなり彼女は、手元の洗濯カゴを放り出し、定助目掛けて抱き付いたのだった。首筋に顔をくっ付けて泣く彼女を、どうすれば良いのか分からない。

 

「あぁ、ジョースケさん! やっと目が覚めたのですね!! 私、私……!」

「落ち着こう、落ち着こうかシエスタちゃん……」

「もう、あの日のお詫びをしないまま……もしかしら、一生ジョースケさんとお話出来ないかと思っちゃいましたぁ!」

「あー……うん」

 

 参ったとばかりに頭をかく定助。ここで、いつもの帽子を被っていない事に気付き、辺りをキョロキョロと見渡した。枕元にポツンと置かれていたのでさっさと被る。なんだか、被っていないと落ち着かない。

 

 

 帽子は兎も角として、シエスタを落ち着かせねばなるまい。このまま泣かれては、こっちの気が悪いだろう。

 

「と、とりあえずシエスタちゃん、離れよう。抱き付いてるの、怪我人……」

「……あっ!!」

 

 ハッと我に返ったシエスタは、一転して頭を杖で叩かれた猫のように飛び上がって離れた。その顔は、燃え盛る屋敷のように真っ赤っかだ。

 

「す、すす、すいませんッ!! つ、つい、感極まっちゃいまして……! あぁ、私ったら……」

 

 後からジワジワ熱する電化コンロのように熱くなる頬を冷やそうと手を当てつつ、乾いていない涙目のままオロオロとする。その姿が存分に面白かったので、定助はジーと見ていた。

 

「あ、あの! お怪我に触るような事は……」

「いや、大丈夫かな……思いの外、痛まない……」

 

 両腕をゆっくり上げたり下げたりと、ストレッチをする。しかし、殆どの傷は塞がっているようで、極度な痛覚は感じなかった。

 

 

「イテッ!」

「わわ! 安静にしていて下さい!『治癒』の呪文でも治しきれなかった傷もあるのですよ!?」

「そ、そうなのか……」

 

 痛んだ脇腹辺りを摩りながらも、こうなるまでの経緯を思い出そうとした。

 

(何で怪我、したんだっけ?)

 

 そのまま怪我の原因を記憶の帯をなぞって辿る。

 

 

「そうだ、ギーシュだ……あいつと決闘して……あれ、記憶がない?」

 

 見事ギーシュを打ち負かし、決闘後にルイズに叱られて医務室へ行こうとして……そこからの記憶がないのである。

 

「あの! ジョースケさん!」

「え?な、なに?」

「本当に申し訳ありませんでした!!」

「………………」

 

 記憶を起こそうとした時に、『ギーシュ』と言う言葉に反応したシエスタが頭を大きく下げて平謝りした。定助は吸血鬼になった男を見て動揺するチンピラのように、何があったのかさっぱり分からないと言った顔でそれを眺めた。

 

「……シエスタちゃん? 何で謝るの?」

「だって、私のせいで、ジョースケさんが貴族と決闘して……こんな酷い目に……!」

「んー……あ、そだそだ」

 

 記憶は決闘前まで遡った。シエスタが「貴族が落とし物をした」と言って定助から離れ、その落とし物が元で二股がバレた貴族がシエスタを当て付けで叱り、貶めようとしていた。それを助けようとして喧嘩を自分が吹っ掛けたのだった。

 確か、シエスタはその後酷く動揺し、自責していた。それをまだ引きずっているのだろうか。

 

「あの後どう? ギーシュは謝罪した?」

「は、はい! ミスタ・グラモンより、大きな花束を添えて謝罪されました! しかも、私の前で跪いて……」

「そこまでしたのかあいつ……」

 

 そのオーバーな様を想像して、こっちが恥ずかしくなって来た。そんな事を普通に出来るから、二股だなんて事になったのだろうに。

 

 

 

 

 ともあれ、彼の真摯さと誠実さは本物のようで、そこら辺も流石は貴族と言うべき所なのかもしれない。何やかんやだったが、彼も二股が露呈して狼狽していたのだろう、だからあんな事態を引き起こしたのだろうか。結果的には良い薬だ。

 

「そ、それで……ジョースケさんに……助けられた事をまだ感謝出来なくて……有り難う御座いました」

「いや、良いよ。シエスタちゃんが気負いする必要はない。元を辿ればあのナルシストが悪いんだし……こうしてオレも無事で済んだし」

 

 無事では済んでいないようだとは思うが、兎に角結果的に誰も欠ける事なく良い方向へと物事が運ばれた訳だ、終わり良ければすべて良しでいいではないか。

 

「……ジョースケさんって、強いですね……」

「オレェ?」

「はい……私、怖かったです……あの時はただ、恐怖で頭がいっぱいでした……」

 

 てっきり自責に苛まれているのかと思っていたが、違ったようだ。彼女の表情は、決意を固めたようにキッとしたもの。

 

「魔法を使えない平民は貴族に勝てないと……もう、ジョースケさんに会えないのかと……恐ろしかったです……私、決闘も見に行けませんでした」

「………………」

「……でも、ジョースケさんは果敢に挑んで、媚びる事もなく貴族に勝ったのです……それを聞いた時、どれほど嬉しかったか……!」

 

 次に見えた顔は、とても安心したような優しい笑み。あのメソメソとしていた彼女はいなくなっていた。

 

 

「……私、ジョースケさんから勇気を貰いました! 希望を貰いました! 貴族に屈しないその『真っ直ぐな意思』から…………だからもう怖くありません!」

「おぉー」

 

 自分の行動が、一人の少女を救ったようだ。それを実感した定助は、素直に嬉しくなる。それに、定助はシエスタの為に犠牲になろうとは思っていない、勝って謝らせてやると覚悟を持って行動し、それこそが願いだった。

 今回の事は、自分も含めて様々な事が、一歩前へと進めたのだ。

 

 

「私、ジョースケさんと一緒なら何でも出来る気がするんです!!」

「……ん?」

「今度は私がジョースケさんを助ける番です!……ジョースケさんが仰る事なら、何でもしますよ……!」

「……シエスタちゃん?」

 

 グイッと近付かれ、肩を掴まれた。しかも片膝をベッドに乗せているではないか、こんな事、初対面の時の、廃棄のベッドにさえ恐れを抱いていた時のシエスタだったら考えられない事だろう。しかしこれは成長だとか生長だとかとは違う気がする。何だか雲行きが怪しくなって来たような。ちょっと、何処かが暴走しているようだ。

 

「ジョースケさん……! 何でも、仰って下さい……!!」

 

 何だか分からないがヤバいと思った定助は、大袈裟に動いてわざと大きな声で指示した。

 

 

「タイヘンだーシエスタちゃん!! ほらキミ、洗濯物落としてる!! 皺になっちゃうぞー!!」

「え?……あ! す、すいません!!」

 

 目覚めた定助に感激して放り出してしまった洗濯物が、床に落ちていた。それに気付いたシエスタは、メイドの使命感を思い出して定助から離れた。

 ホォッと息を吐き出し、安心する定助。シエスタの背中を見て、最初に持った疑問……なくなった決闘の後について聞こうと思った。

 

 

「なぁシエスタちゃん、オレって、決闘の後どうなったの?」

 

 床に落とした洗濯カゴを拾いつつ、シエスタは答えた。

 

「ジョースケさん、ミスタ・グラモンと決闘して……えぇ、勝った後に気絶したそうですよ」

「気絶かぁー……何時間くらい?」

「えーっと……ですね……」

 

 シエスタは少し言いにくそうに、定助の気絶時間を言ったのだった。

 

 

 

 

「……三日です」

「三日ぁ!?」

 

 てっきり一時間か、長くても一日中かと予想していたので、これには定助もすっ転んだ。そう言えばかなり体が怠い、長い期間動かしていなかったので鈍ってしまったのだろう。

 

「三日……三日も寝てたのかぁー……」

「最初は医務室のベッドをお借りしていたようでしたが……『貴族に勝った平民』って、野次馬が医務室に来たり、逆にベッドで寝ている事に目くじら立てたりする貴族が出たので、昨日よりミス・ヴァリエールが自室に移動なさったのです」

 

 平民には治療さえも許さないのかと、少し嘆かわしくなった定助であると共に、ご主人に迷惑かけたと申し訳ない気持ちになった。

 

「ベッド……あ……」

 

 

 そう言えば定助は、ルイズのベッドの上で眠っていた。椅子に座る事さえも許されなかった自分が、彼女のベッドで眠っていたのだ。

 

「……これ、ご主人の……」

「ミス・ヴァリエール、凄く心配されていましたよ……今は授業ですので、私にジョースケさんを任せていますが……」

「………………」

「それ以外はずっと付きっきりでしたよ? 体を拭いたり、秘薬を使ったり」

 

 定助は穏やかな表情で目を瞑って、今はいないルイズに感謝した。

 

 

 

 

 次に開いた目には、涙が溜まっていた。

 

「じょ、ジョースケさん? 泣いて……?」

「……いや、ごめん……こっちも感極まった」

 

 グシグシと目を擦り、落ちる前の涙を腕に擦り付けて消した。そして照れ隠しに、下唇をかいた。

 

(オレを思ってくれている人は……いるんだな)

 

 

 ここまで彼は、『助ける事』に注いだ。何者か分からない自分をみつける為に、糸口を探す為に必死だった。そんな中で不安もあった事も認めなければならないだろう、『自分を思う人はいるのか』と。

 だからこそ、自分を見失いかけたルイズを助けたかった。記憶喪失後に始めて友と呼べたシエスタを助けたかった。彼は暢気に過ごしていたのだが、心の底では『得体の知れない自分』が怖かった、知りたかった。

 

 しかし、盲目になっていたようだ。周りを見ればいつの間にか、自分には居場所が出来ているし、支えてくれる人もいる。

 

 

「……その……これも聞いたのですが……」

「………………」

「……ジョースケさん、自分の事を忘れているようですね……」

「……まぁ……」

 

 ルイズが話したのだろう。いや、今更隠す必要もないとは思っていたのだが。

 

 

 洗濯カゴを持ったシエスタが、立ち上がって定助を見つめる。目の奥には哀れみの色はない、変わらない決意の赤だ。

 

「……私もジョースケさんの居場所になれたらな……と、思っております」

「……シエスタちゃん…………」

 

「ジョースケさんは私に分けて下さいました!私にも、分けさせて下さい!」

 

 

 

 

『おまえのことを思っている人が、この世に誰もいないと考えるのは違う……オレとかもいるだろ……』

 

 誰だか分からないが夢の男の一人は言っていた。思ってくれている人はいたのだ。

 

(……一人で頑張り過ぎたかな)

 

 そんな反省をする。一先ず、彼には心地の良い安心が溢れていた、一息つける空間が存在していた。救われていたのは、自分もだった。

 

 

「それと……はい!」

 

 シエスタが洗濯カゴから出して広げた洗濯物とは、定助の服であった。汚れは取られ、穴は縫われ、元通りの綺麗なセーラー服に戻っていたのだった。

 

「あ……オレの服……」

「ボロボロでしたし、かなり珍しい作りなので……二日かかっちゃいましたが、丁度良かったです! 私が修理しましたよ!」

「…………有り難う………色々と……」

 

 服を受け取り、頭から被って袖を通した。いつも通りと言う安心が、また戻って来たのだった。

 何だかフワリとしている気がする、良く洗濯されたのか、ウール百パーセントになったからだろうか。

 

「やっぱり、ジョースケさんのトレードマークですからね! その服は!」

 

 ニコニコと笑うシエスタの前で、両腕を広げて寸法を確かめた。ピッタリ、元通り。

 

「……手間かけさせた」

「いいんですよ、マルトーさんの言葉を使うなら、『お互い様』で!」

「あぁ、そうだったそうだった…………あ」

 

 

 グゥッと、腹の虫が鳴いた。そうだ、三日も気絶状態の男が、ちゃんとした栄養状態な訳がないだろう。クスクスと笑うシエスタに、照れる定助……この光景は、厨房の時のようだ。

 

「何か、持って来ましょうか? 病み上がりですので、あまり重い物は出せませんが……」

「うーん……あぁ、決めた」

 

 定助はシエスタに、今なんだか無償に食べたい物を注文する。

 

 

 

 

「フルーツ……果物が食べたいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは本塔前の広場。たまにここでは野外席を設けて、外で昼食を食べられるようにしてあるのだ。

 

「ふぅー! 外で食べる昼食も、格別よねぇ!」

「………………」

「……食事中くらい、読書は止めたら?マナー違反よ」

 

 その席の一つ、キュルケとタバサが相席で食事をしている。相変わらずタバサは本に夢中だが、食べる物は食べるようだ。と言うより、さっきから食べつつ読んでばかりだ。

 

「……いいわね、それだけ食べても太らないなんて……」

「…………体質」

「……そう、羨ましいわ……」

 

 何だか色んな意味で暗い話題へと移ってしまいそうなので、さっさと話題を切り替えた。もちろん、定助についてだろう。

 

「……今日で三日目よね、彼?」

「……今は主人のベッドの上」

 

 彼を運んだのは、また彼女らであるので、事情を知ってはいる。

 

 

「はぁー……早く目覚めないかしらぁ……」

「…………なんで?」

「何って、気になるでしょ?『泡の精霊』よ!」

 

 ギーシュとの決闘後、定助が従える精霊の噂が広がり、シャボン玉を飛ばしていた目撃談から『泡の精霊』と呼ばれていたのだった。これについては、様々な所で憶測が飛んでいる。ある者は「使い魔の使い魔」と定助メイジ説を唱えるし、ある者は「始祖ブリミルの情け」と奇跡説まで唱えている。つまりは、誰も知らないのだ。

 

「……気になる」

「でしょお? 彼からいの一番に問いただすの!」

「………………」

 

 しかし、流石は親友タバサだ。キュルケの目的は『泡の精霊』ではなくて『定助』だと言う事を看破している。と言えど、彼女の自由だし、とやかく言うつもりはないのだが。

 

「……どうせ飽きる」

「ん? タバサ、何か言った?」

 

 タバサの小さな声は、キュルケの耳に入っていなかった。一言「なにも」とだけ付けて、タバサは会話を区切った。

 

 

「あ、ルイズがいるじゃない」

 

 ふと後ろを見てみれば、コルベールとロングビルがランチをしている席のも一つ向こう側に、ルイズが一人昼食を取っていた。

 

 しかし、目の前にある料理には殆ど手を付けてないようだが。

 

「ちょっと、行って来るわね」

「………………」

 

 本から目を離さず、モゴモゴと咀嚼しながら手を振ったタバサであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

 ルイズは何だか、食事所かナイフとフォークにさえ触れたくない気分になっていた。彼女の肌は白い為に良く目立ってしまう故に化粧をしているようだが、目の下の隈は薄らと見えている。

 ここ三日は、定助の看病に尽くしている。秘薬も家から届いて使用したし、包帯を取り替えたりした。

 

「………………」

 

 昨日より自分のベッドで寝かせている。医務室だと、暇潰しにやって来る野次馬が鬱陶しい。更には医務室を貴族の物と勘違いしている奴が、定助がベッドで気絶状態だと言うのに引き摺り降ろして問いただそうとしていた。先生がその生徒を叱って、ルイズには気にしないようにと言ってくれたのだが、これ以上迷惑はかけられないと判断して、自室に移した。

 その際、目くじら立ててた生徒のしてやったり顔を見た時は心底腹が立ったのだが、定助の事に専念する為に問題は起こせない。

 

(使い魔の癖に……主人を使うってどう言う事よ……)

 

 心の中でそうは言うものの、一発だけの裏返しに考えれば、目覚めを高く希望している事になろう。

 

(……早く……起きなさいよ……)

 

 ボンヤリと、空を見上げた。

 

 

「あらルイズ、今日も一人?」

「……えぇ」

「相席して良いかしら?」

「……別に、文句はないわね」

 

 ルイズから許可を貰い、彼女の向かい合わせに座るのは、キュルケであった。

 

「残しているじゃない……根を詰めたって、良い事ないわよ?」

 

 近付いてみれば、思いの外残していたので、心配になる。しかもデザートは彼女の好物であるクックベリーパイだ。

 

「……誰が根を詰めているって? ほどほどよ、ほどほどにしているわ……朝食べ過ぎたからねー」

 手をヒラヒラさせて、誤魔化した。腹部に手を当てて、満腹を演じる。

 

「ふーん、男でも出来た?」

「……なんでそうなるのよ……」

「化粧、濃いわね、今日は」

「………………」

 

 

 キュルケにはバレているようだ。やはり化粧では、隈は完全に消せないし、同じ女性は騙せないか。

 

「……大丈夫よ……こんなの、筆記試験前の勉強と同じ同じ……」

「……ルイズ、大変なら手伝うわよ」

「大丈夫」

 

 鬱陶しげに、キュルケを睨んだ。

 

「……私は……あいつに助けられたし……平民でも、恩は返さなきゃ」

「………………」

「それに……私がご主人様……主人が使い魔の面倒も見れなくてどうするのよ」

「………………」

 

 

 ルイズの言葉が終わって一段落した時、キュルケは溜めていた物を吐き出すように溜め息を吐いた。呆れたような溜め息だ。

 

「全く……あなたも使い魔くんも、やっぱ似ているわねぇ」

「どう言う事よ?」

「恩義に忠実過ぎる所……無駄に」

「………………」

 

 キュルケは足を組み、机に肘を立てて頬杖しながら話した。

 

 

「二人とも、他人に尽くし過ぎなのよ。で、何でかあたしには分かったわ」

「……なにが?」

「共通点。あなたも使い魔くんも二人とも、『抱える物が少ない』のよ」

 

 ルイズの残したクックベリーパイの一切れを掴み、口元に持って来た。別に食べる気がしないので、ルイズは何も言わない、彼女の言葉を待っている。まだ食べない。

 

「使い魔くんは、『記憶が少ない』。記憶が少ないから、『繋がりに頼りたい』の。人って、不可解な事に遭遇すると、嫌でも他人に委ねてしまうものよ。で、あなたは、『認めてくれる人が少ない』」

「あ……」

「認めてくれる人が少ないから、認めてくれる人に執着しちゃうのよ。だからあなたは『繋がりに尽くしちゃう』って訳」

 

 そこまで言って彼女は、クックベリーパイを口に放り込んだ。美味しそうに微笑みながら咀嚼する彼女の前で、ルイズは口を開く。

 

 

「……じゃあ、ジョースケを切り捨てろっていうの?」

 

 ゴクリと、飲み込んだ。

 

「……何もそこまでは言ってないわ。ただ面白いのは、『繋がりに頼りたい人』と『繋がりを過剰尊重する人』が出会った事ね。頼りたい人は、作った繋がりを守る為に無茶するし、過剰尊重する人は、その恩を倍にして返そうとするの」

「………………」

「要は、『等価にならない関係』よ、恩義の上乗せ(レイズ)。別に言い換えたら『共倒れ関係』……利他的は良い事だけど、限度を知らなきゃ自分も相手も潰す事に繋がりかねないわ?……あ、も一つ貰うわね?」

 

 キュルケは再びクックベリーパイに手を伸ばした。

 

 

 

 

 クックベリーパイはお皿ごと離れて行った。ルイズが離したのだ。

 

「偉そうに言うわね……良い事言ったフリして、残り物に集るんじゃないわよ」

「あら。そう思われたかしら? 何も感じなかった?」

「……大当たりよ、あんたは」

 

 ルイズはクックベリーパイを一切れ手に取って、それを食べた。

 ゆっくりゆっくりと咀嚼し、ゴクリと飲み込んだ。キュルケはそれまで、彼女の答えを待っている。

 

 

「……思っているのは、私だけじゃないって事よね。それで安心したけど、あいつは身を挺して私の為に無茶してくれた……その感謝を、行動で示したいだけよ……そこは譲れないわ」

 

 クックベリーパイを、ルイズはもう一切れ続けて頬張った。

 

「その分、あいつには働いて貰うけどね……あ、美味しい」

「……はぁ、分かっているのか、分かっていないのやら……」

 

 失笑顔で呆れ顔のキュルケは首を振った。

 キュルケは、二人の繋がりを試したのかもしれないし、本当に心配して忠告したのかもしれない。その本心は、モナリザのように微笑む彼女の表情から読み取る事は出来ないだろう。

 

 

 でも結果として、ルイズの食欲が戻った事は良い事だ。『終わり良ければすべて良し』である。

 

「一先ず、あなたはキチンと寝なさい。体はあっためる事ね、お腹は冷やしちゃ駄目よ」

「あんたはお母さんか!……まぁ、休息は必要ね……」

「ベッドは彼が使っているんでしょ? あたしの使う?」

「死んでもごめんよッ!!」

 

 いつも通りの風景へ、戻って行く。




哲学は難しい……だから気に入った!
だから僕は、難解な六部が大好きです。小四の弟も六部好きです。
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