更に言えば、暇潰しにゼロ魔外伝の『タバサの冒険』も購入です。
ボク、満足!
天気は快晴、絶好のお出かけ日和だ。青空は澄み渡り、風は南風寄り、春を蔓延させる太陽光が気持ちの良い昼下がり。
窓からの景色を眺め、そんな事を定助は思っていた矢先にルイズから声がかかる。
「支度しなさい、出掛けるわよ」
マントを羽織り、外出の準備を始めた彼女の横で「おっ」と、嬉しげな反応を見せた定助。正直、学院の外を見てみたいと思っていた所であった為にタイムリーである。
「何処へ行くの?」
「街へ行くの。トリステインの城下町、【トリスタニア】……ここからちょっと距離があるけど」
「城下町かぁ……いいな!」
行き先を聞いて更に、定助の好奇心は刺激された。
思う所、街と言うのはその土地の文化を表しているもので、人はどういった服を着て、どういった物を買い、どういった物を食べるのか……それらを見るだけで風習やら状態を見る事が出来る。
特に王族のお膝元である城下町。城下町を見れば国の様子が分かると言われるほどに、人にとっても国にとっても重要な街だ。定助は内心、この世界の事を知る一歩目となると、期待していたのだ。
「城下町行って、何するんだ? 昼食は済ましたから、お買い物?」
「そうよ、お買い物。あんたの為に行くんだから、感謝なさいよ」
「え? オレェ?」
自分の為と聞き、間抜け顔になった定助を眺めてルイズは楽しげにニヤニヤと笑っていた。
定助も定助で、『昨日の今日』なものだから少し耳を疑った。
昨夜は、定助はキュルケの色仕掛けに屈服しそうになっていた、あの夜である。最後にキュルケと軽い取っ組み合いになっていた時に、お手洗い帰りのルイズが聞きつけて突撃して来たのが、その後の話。
制止しようとするフレイムを抜け、ロックされた扉をひと蹴りでこじ開ける彼女の爆発力は、今思っても冷や汗が出てくる。
結局は脛を蹴られ、痛みに悶えている所を自室へ強制連行。怒りの取り調べと、改めてヴァリエール家とツェルプストー家の因縁をみっちり教え込まれた所で就寝した。
助かったのは、こっちの言い分をルイズが授与してくれた事か。と言えど、キュルケに情が高まった事で抱き掛けた事は隠したのだが。バレなきゃいいのだ。
そんな昨日であるだけ、今日のお出かけは定助への『ご褒美』に近い。今日一日は行動制限を命じられると高を括っていたので、失礼だが意外だと思った。
「まぁ、私の護衛人をして貰うけど。物騒だからね、今の世の中」
「それなら行くよ、大丈夫」
「だから好き勝手やんないでよね。あんた、すぐハシャぐし」
「……善処します」
「本当、普通にしてて」
ともあれ街へのお出かけである。記憶を失ってから始めて行く街だ。この世界の事が全く分からないだけあって、好奇心と期待は唐突に上がる牢屋の温度のように、定助の中で鰻登りであった。
「じゃあ、準備はいい? 私は出来たけど」
杖と財布を手に持ち、ルイズが定助に聞いて来た。正直、定助には持つものがないのだが、コクリと頷いて準備完了の意を表明させた。
「行くわよ……あぁ、そうだった」
「ん?」
思い出したかのように、彼女は言った。
「あんた多分……いや、絶対に馬、乗れないわよね?」
「……馬? 馬に乗るのか?」
「その様子じゃ、乗れないで正解ね……」
勿論記憶のない彼には、馬に乗った経験がない訳である。
いや、乗馬と言う概念は知っているが、自分はやった事がないのが正解だろう。
「だから少し、レクチャーしてあげるわ。馬二頭を借りるって申告しちゃったし、乗って貰わないと損よ」
そう言って、誇らしげに胸を張るルイズ。見た感じからして、「ほら、感謝しなさい」と言っているような高飛車素振りである。
対しての定助は、手を叩いて普通に喜んでいた。
「おぉ、そりゃいい! グッド!」
「これでも私、馬術なら先生より賞賛されたほどなのよ!」
「ヴァリエール先生、宜しくお願いしまッス!!」
「調子いいわねあんた……ふふっ」
少しテンションがおかしい定助にタジタジとなりかけるが、兎に角彼から慕われると言うのは悪い気しないので、思わず笑ってしまうルイズだった。
「ほら、ドア開けなさい。出るわよ」
「分かった。よし行こう」
部屋の扉を開け、二人は外出した。
因みに部屋から出た時、ルイズがキュルケの部屋がある方をギロリと睨んでいたので、昨日の事はまだ根にあるようだ。
(キュルケちゃんに……会わなきゃいいけど)
少なからず殺気のあるルイズの様子にヒヤヒヤしながら、今日一日は平和である事を祈った。
今日は『虚無の曜日』だ。
晴れ渡る昼下がりの空、そよぐ風が開いた窓より流れ込み、心地よさが芽生えて来る。
淹れた紅茶は湯気と共に香りを漂わし、リフレッシュした頭で本を読む事が出来る。静かで、優雅な昼下がりの読書時間……彼女にとって、休日とはそんな時間なのだ。
ここはタバサの部屋。
「…………」
静かな部屋に、ページをめくるパラリとした音が鳴る。彼女にとってその音は、音楽隊の演奏のような価値を持っている。
そう、タバサにとってこの時間は高い価値にある。本と言うものは閉ざされた世界だ。その世界を紐解き、次へと進んで行く『本をめくる』と言う行為はちょうど、抑鬱からの解放を起こす英雄的な側面が存在すると思っていた。
物語は庭の散歩のようで、歩けば移り行く景色に目を留める、過ぎ行く時間を表現している。ゆったりとした物語を、ゆったりとした時間の中で、ゆっくり時間をかけて読むのが彼女の拘りである。
何もない時は平和に、静かに過ごしたい。それがタバサの休日である。
「タバサッ!! いるでしょ!?」
そんな平和な時間は一人の来訪者によって、時計塔への射撃のように破壊され、停止するのだ。
扉をノックもせずに勢いよく開けた来訪者とは、紅い髪を振り乱した親友、キュルケであった。
「…………」
キュルケを確認したタバサは傍らに置いてあった、ロッドを手に取りすかさず魔法を行使した。
するとどうだろうか。突然キュルケの口から声は出ず、靴底から足音は聞こえず、静かな時間へと逆戻りしたではないか。
「……!! …………ー!!」
「…………」
困ったような表情で、手を合わせて懇願するような仕草をするキュルケ。何を言っているかは聞こえないが、そのジェスチャーからして「話したい事があるから、魔法を解いてくれ」と伝えているのだろう。
しかしそのジェスチャーは、本へと目を落とした彼女に見られる事はなかった。
何度もジェスチャーを繰り返すが、一向に目は上向かない。伝える事は不可能だと分かったキュルケは、少々手荒な手段へと移行した。
「………ッ! …………ッ!!」
「わっ」
「………………〜ッ!!……!!!!」
「…………」
タバサの肩を掴み、ガクンガクンと揺さぶるのだ。これには流石の彼女であっても、キュルケに注目せざるを得なくなり、やっとこさ魔法を解いたのだった。
魔法が解けた瞬間、キュルケはスイッチの入ったウォークマンのように、声が突然出て来るのであった。
「ねぇって……ん? あーあー、やっと解いたわね。もー! お願いだから『サイレント』をいきなり使うのは止めてよぉ!」
「善処する」
「あー! 本に視線を戻さないで! 大事な用があって来たの!!」
また本を読もうとしだしたタバサに、齧り付くように本を掴んで取り上げ、キュルケは話し出した。
「ノックも無しに入った事は謝るわ、礼儀がなってなかった。でも仮に、『ノックしてもしも〜し』ってした所で、『サイレント』かけるでしょ!」
「常識」
「常識的観点から見ればそれは非常識よタバサぁ!……まぁ、それは良いとして……」
依然として表情のない彼女だが、その胸中は女に喧しく騒がれている不良の気持ちがあるだろう。
それよりも激しくはないと思うが、クールに「やれやれだぜ」とは絶対思っているハズだ。そんなタバサの気持ちを分かっているのは親友であるキュルケなら当然で、だからこそこうやって騒ぎ立てるのは余程の用事なのだと思う。
言えど、次に言うであろう台詞はタバサには分かっていた。
「支度して、タバサ! ジョースケがヴァリエールと出掛けたのよ!」
「…………」
案の定とも言うか、少し違うと言うか。彼女が定助に恋していたのは察していたので、どうせルイズ関係で使い魔関係かとは読んでいたが、出掛けるとはこれまた予想外。
だが出掛けるとあって、余計に行きたくない衝動が沸き起こるのは、静かな読書時間が好きな彼女なら当たり前の欲求だ。
「今日は『虚無の曜日』」
タバサの言う『虚無の曜日』とは、一種の休日の事。この日は授業もお休みで、生徒は皆、思い思いの時間を過ごす安息日であるのだ。
そのワードを聞いたキュルケは、目を覚ました守銭奴中学生のように申し訳ない思いに駆られた。
「えぇ、分かっているわ、ホントーに申し訳ないと思っている! あなたにとって『虚無の曜日』とは、静かに暮らす日だって事は知っているわ、心で理解している。納得もしている!」
「じゃあ」
「でも、でもね!? これはもう、退っ引きならない事態なのッ!!」
「…………」
彼女の休日を尊重しているようだが、残念ながら己の欲が最優先のようだ。タバサにとったら良い迷惑だが、彼女が引く事はないと言う事も分かりきっていた事象であろう。
「一から説明するとね? ちょっとあたしの部屋が壊れちゃって、修理を頼んでいるの。その間の暇潰しにフレイムと中庭を歩いていたら、ルイズが馬術をジョースケに教えていた所を見ちゃったのよ! あぁ、忌々しい!!」
「過程」
「横槍入れてやろうって思ったら、二人一緒に出て行っちゃったのよ! 何処行くのか門番を問いただしたら、街へ行くらしいわ!」
「結果」
「馬で行っちゃったから『あなたの使い魔』じゃないと追い付けない! これでいい!?」
そこまで聞いて、彼女の首はやっと縦に動いた。
「分かってくれたわね!」
「理解した」
「じゃあ、頼まれてくれる?」
「…………」
理解はしたが、それはちょっと嫌だなと思ったのが本心。
しかし読んでいた本はキュルケに取られた。恐らく彼女の要求を飲まないと返してくれないだろうと思い、「致し方なきか」と頷いて了承した。
それにキュルケは唯一の親友だし、この前は美味しい思いもさせて貰った。別にしょっちゅうと言う訳ではないので、たまには言う事聞いてやろうと思い直したのだった。
タバサの許可が下り、キュルケは大喜びで抱き付いた。
「流石タバサちゃぁん!! 優しいわ! そこに痺れる憧れるぅ!」
「…………」
彼女の大きな胸が押し付けられ、少し息苦しいが、ともあれ了承したからには早速行動を起こさねば。
抱き付くキュルケの腕を抜け、マントを羽織ったタバサは机の引き出しを開けて財布を取り出した。
「あら? 何か買うの?」
「新しい本」
折角街まで行くのなら、何か買ってしまおうと考えたようだ。思い切りが良いと言うか、合理的と言うか。そこが彼女の良い所だとして、キュルケは好きな所ではあるのだが。
「ならあたしが買ってあげるわよ? タバサには世話になっているし!」
「大丈夫」
奢りを請け負ったキュルケの前で、布袋の財布から二枚のエキュー金貨を取り出した。
その金貨に見覚えのあるキュルケは、とりあえず苦笑いを返す。
「あー……こ、今度は負けないから!」
その金貨は二人でやった、決闘の勝敗予想の賭けで勝った、タバサの取り分である。いや、それを見せ付ける辺り、この事を誇示しているのは分かるが、読書時間を邪魔された事を根に持っているのだろうか。
「行こう」
金貨をしまい、口の紐を縛って懐に入れれば彼女の準備は完了。
換気の為に開けていた窓辺に近寄ると、窓枠に乗っかった。
吹く春風が、タバサのマントを波紋のように広げて、船の帆のようにはためかせた。火照る体を取り払って貰う心地良さの中で彼女は徐に曲げた人差し指を、口に咥えた。
そしてそのまま息を深く吸い込み、一気に吹けば指笛となり、高々と鷹の鳴き声のような音が空に鳴り響いた。
鳴り終わった後、代わりとして窓の下より大きな羽ばたきの音が鳴った。バサァ、バサァと聞こえるその音は徐々に徐々に近付いて行き、それから五秒後には巨大なドラゴンが現れたのだ。
「ヒュゥ! やっぱり凄いわねぇ、『ウィンドドラゴン』は!」
キュルケが賞賛する程に、その龍は荒々しいと言うより、惚れ惚れする程に綺麗であった。
青い鱗と円で大きな瞳、更には力強い骨格に膜を貼り付けたような翼……全長で言うならキュルケとタバサを足しても十分に乗せられる程に大きい。だがドラゴンとしてなら小さい方で、幼気を感じる顔からして幼生のドラゴンであるらしいのだ。
ドラゴンを確認するとタバサは窓枠からタンッと飛び、その背中に乗った。
「乗って」
「言われなくても! よっと」
キュルケも乗った所でタバサは、ドラゴンに命令を与えた。
「追跡。馬二頭、食べちゃ駄目」
人語を理解しているのか、ドラゴンは短く鳴いて了承の意を示し、羽根を大きくはためかせて大空へと昇った。
高度はグングンと上昇し、少し肌寒さを感じる地点まで来た。建物が米粒のように見える程だがタバサもキュルケも慣れているのか、恐怖を感じる事はなく、キュルケに関してはご機嫌よろしく鼻歌も混じらせていた。
「そう言えばこのウィンドドラゴン、名前は何て言っていたかしら?」
「『シルフィード』」
「へぇ、『
「…………」
キュルケの賛美を受けながらも、彼女が持ったままだった本を取り戻し、タバサはまた静かな……とは言えない読書時間へと舞い戻った。
暫くキョロキョロとしていたシルフィードだが、標的を見付けたのか、本格的に飛び始めたのだった。風が通り過ぎて、抜けて行く。
タバサの冒険を読んで構想が出来上がりました故に、こっちでは『ゼロリオン』の外伝として、もう一作ゼロ魔外伝の二次創作物としてやりたいと思いました。
題名は……ジョジョの英題から乗っ取って『TABITHA BIZARRE ADVENTURE』を構想中。
まぁ、タバサの冒険に関してはまだニワカですんでね。失礼しました。
と言うか、タバサは『TABITHA』と書くんすね。ローマ字読みだと、タビチャですな。
ん?タビチャ、タバチャ、タバ茶……あっ(発見)