ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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小5の弟が、「この二人、何やってんの?」と言って見せて来たシーンが、七部の「圧迫祭り」のシーンなので言葉を詰まらせました。


虚無の曜日は街へ行こう。その2

 引っ切り無しに往来する人々の波と、露店から飛ばされる売り文句が右から左からと、拡散される。

 山の頂より城が見下ろし、細やかな装飾で飾られた街路の風景は新鮮で清潔な印象を与える。やはり城下町とだけあって、石を主力とした風情ある街並みが何とも美しい。

 

 

 

 

「あんた、大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃないかもしれない……練習の時からヤバイとは思っていたんだ……!」

「やっぱ初心者に長距離を馳走させるのはハードね、普通ならさせないわ」

「なのにやらせたのか、ご主人はぁ!?」

 

 

 賑やかな街の中、腰を押さえながら、苦悶の表情で道端にて立ち止まっている定助と、何処か愉快そうな笑みを浮かべて彼を見ているルイズの姿があった。

 学院で乗馬をルイズから教えられ、慣れない馬の操作に四苦八苦しながらも走らせた定助だが、やはり慣れないものは慣れないものだった。

 

 

 馬の背中に乗せられた鞍に跨る、至って普通の乗馬スタイル……なのだが、幾許か固い鞍は初心者にとって拷問器具へと成りかねない訳である。

 走る馬の必然的な上下運動により、尾骶骨付近が浮き上がっては固い鞍にぶつかるを繰り返す。結果とすると、尋常ではない痛みがお尻を支配するのだ。

 更には尾骶骨より直上にある背骨まで刺激され、痛みが腰まで登って来る事態へと陥るのだ。

 もう定助は、歩いていられない。

 

「まっ、私の使い魔である以上は、乗馬は必修課目よ! 従者が乗れないなんて、主人である私に示しつかないわ」

「言うけどご主じぃん! 君が初めて乗馬習った時は、二時間も走らされたのかい!?」

「そんな訳ないじゃない、私のはスパルタ式なの。あと二人称呼びは止めなさい、衆目の前よ」

「り、理不尽……」

「だからって歩いたら日を跨いじゃうじゃない。乗れるようになるしかないの、この先苦労するわよ?」

 

 馬に乗り慣れたルイズは『痛くない姿勢』を知っているので平気な顔だが、全くの初心者である定助にはその苦しみが現れている。しかも現実は非情で、気の遠くなるような長距離を走らされたのである。彼の腰はもう、限界を超過していた。

 

 

 あれどここは【トリスタニア】、この王国の城下町である。

 思った以上の人々と、思った以上の活気に溢れており、悶絶の中でも彼は頻り見渡し、街を観察していた。

 前述の通り、綺麗な街並み。何の変哲もない、凡庸な商店でさえあっても売っている商品には、見た事もない物も売られており、彼に飽くなき好奇心を注ぎ続けるのだ。

 

「いつつ……ご主人、あそこの店で売っているあの蒼い石は……ラピスラズリかな?」

「良く分かったわね。因みに頭脳明晰の効果があるから、私も持っているのよ」

「あぁ、確か……パワーストーンだっけ。へぇ、面白いなぁ……」

 

 下半身の痛みはなかなか深く消えないのだが、好奇心が彼を突き動かしているかのように一歩、歩き出した。

 

「平気になった?」

「……とは言えないかなぁ……だけどまぁ、歩行にそれほどの支障はないかな」

「あんだけ大怪我したのに、痛いもんは痛いのね」

「人間の神経って、慣れること知らないよね」

 

 そんな事を言いながらも雨天時で関節が痛む、足の悪い老人のような歩き方をする定助。彼のお間抜けな様子に呆れつつも、彼に財布を預けているので速度を合わせて、ルイズはゆっくりと先導してやった。

 

「ちゃんと財布は見てなさいよ、ここらはスリが多いから」

「分かった。安心して、大丈夫大丈夫」

「その身なりで言われても安心出来ないわよ……」

 

 若干信用性に欠ける、情け無い格好の定助を連れて、二人は街の雑踏の中へと入っていったのだ。

 

 

 だがいざ入ってみれば人混みの凄さに驚かされた。今日は『虚無の曜日』、休日である。だから必然的に人の数が多くなるのは致し方ないだろう。

 気を抜いてしまえば、ルイズと逸れてしまいそうだ。

 

「人が凄いなぁ……」

「ここは『ブルドンネ街』で、トリステインで一番大きな街なのよ。お店も多いし、『虚無の曜日』だから人が多いのは当たり前じゃない」

「いや、それよりも道幅だと思うけど……」

 

 一番気になったのは道幅、と言うのは、この街路は狭く、せいぜい五メートル程度しかないと思われる。その狭い道に何百と言う人が入り混じるのだから渋滞しており、狭苦しくて仕方ない。

 

「この先にトリステインの宮殿があるわ。女王様が外遊される際はこの道を通るのよ、綺麗な街並みでしょ?」

「宮殿……あぁ、なるほど……だから狭いのか……」

 

 とどのつまり、敵に攻められた場合を考慮して、狭く作られていると言う事か。

 通り易い広い道にしてしまえば、敵兵が一気に城へ突撃してしまうのだ。なので敢えて通り難い狭い道ならば、ある程度は敵の侵攻を遅らせる事が出来る、少なくとも今のこの渋滞みたいな風になるハズだ。

 不便と言うのは、敵にも不便と言う事。万が一を考慮した造りであると分かる。

 

「攻められる事を想定……か……」

 

 利便性より守勢の造り。わざわざ女王の通る程の道でさえもこうするとは、余程この世界は国と国とが緊迫したような、不安定な情勢なのだろうか。

 何かの発端に対して明日にも戦争が起こりかねないような、そんな世界なのだろうか。

 

 

 

 

(オレの知っている所とは、やっぱり違う……)

 

 街へ出てみても、彼の中にある世界観との食い違いの差は開いて行く。露天商に石造りの街並み、そして大きな宮殿……全てが見た事のない光景であった。

 お洒落な商店街に、黒色の交通道路。このイメージは一体、何処から現れた物なのだろうかと、彼の中での疑問が彼を苛めるのだ。

 

「なぁご主人、『ごま蜜団子』って、何処で売っているかな?」

「え? なに? ゴマミツダンゴ? 聞いた事ないわ」

「あ、やっぱりね」

「やっぱりってね……売ってないって分かってるなら聞かないでよ!」

 

 ふと頭に湧いた食べ物は売っていないようだ。何の事か分からないのだが、何故だか定助は残念に思っていた。

 そして同時に、懐かしいような、ノスタルジックな気分になって行く。

 

 

「そう言えば、文字の看板が少ないな」

 

 目に映る看板は、全てがその場所を表す絵をあしらった金属製の看板である事に気が付いた。

 花屋なら『花』の絵看板、洋服屋なら『服』の絵看板。しかしたまに、バッテン印だったり、瓶だけだったり、歯車だけだったりと、何の店かが示唆出来ないような看板まで見受けられた。

 しかし割に、文字が目立たない看板ばかりだ。

 

「字が読めない平民が多いからよ。貴族は全体で言うとほんの一割しかいないのだし、街は平民仕様にするのが妥当でしょ?」

「成る程、ユニバーサルデザインだね」

「ゆにば……何て?」

「あー、でも分かるかも」

 

 また貴族と平民との格差を感じたが、この絵看板は分かりやすい。この世界の文字が読めない彼にとって、とても大助かりだ。

 人混みの中、ルイズの後を付いて行きながらも、絵看板を見て何の店か当てるゲームを彼は始めるのだった。

 

「あれは靴屋だ。で、三メートル先のは果物屋……その隣の、木が描かれた看板は何の店だ?」

 

 面白そうにあちこちを見渡しながら、絵看板探しをしてお店当てゲームをするのだ。実に楽しい、街の散策方法であると定助は乗り気であった。

 

 

 

 

 そんな事をしている時、前方確認を怠ったが為に、通りすがりの男と肩をぶつけてしまったのだ。

 

「いてっ」

「うぉっ!」

 

 男は若く、薄汚れたシャツを着た如何にも『平民』と見える格好であった。

 肩がぶつかると男はすぐに定助を睨み付け、舌打ちをする。

 

「気を付けろ……」

「……すみません、余所見していました」

「ケッ」

 

 謝罪した定助を確認したら男はすぐ、人混みを掻き分けて行ってしまった。

 前方にいるルイズは先々と行くので、思考するまでもなく定助はさっさと彼女の後ろへ急いで向かうのだ。

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 ふと軽くなったポケットに違和感を覚えた定助は、すぐさま手を突っ込んで弄った。両手の手首までをゴッソリ突っ込み、派手に動かして探ろうが、ポケットの裏地を出そうが、日光に当てられた吸血鬼のように影も形も消えてしまっているのだ。

 

 

「…………」

 

 ルイズから預かった財布は、まんまとスられた訳である。

 

 

「……あいつぅ!」

 

 思考を巻き戻せば、さっきぶつかった男の顔が真っ先に浮かんだ。

 このままではルイズに大目玉を食らわせてしまうし、恐怖のオシオキも確定する。焦燥感に駆られた定助はやや乱暴に人混みを掻き分け、来た道を逆行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへ、チョロいチョロい!」

 

 人混みを抜けた裏路地に、その男は潜めるように入り込んでいた。

 手には良い生地で作られたルイズの財布が男の手の上で転がされているのである。

 

「ほぉー! 妙な服の田舎モンかと思ったが何だ! なかなか上等な物持ってんじゃねぇか!……へへっ、どれどれ?」

 

 すぐに紐を取り、財布の口を開いて中を確認し出した。入っている硬貨を数えて行く度に、男は下卑た笑いを浮かべる。

 

 

「一つ、二つ……おぉ! エキュー金貨が一枚!!」

 

 エキュー金貨に関しては財布から取り出して目の前で光らせてみたほど。

 上品な輝きを纏わせたそれを間違いなく本物で、間違いなく高価な物だった。

 

「うおぉ本物だぜこりゃあ!! おぉスゲェ、あいつ貴族のお付きか何かだったのかぁ?」

 

 それにしてはヤケに腰の低いと言うか、謙虚な奴だなと、男は思った。ぶつかった時に文句よりも謝罪をしていた所を見れば、気の弱い平民だと分かるのだが、まさかなかなかの大金を持っていようとは思わなんだ。

 

「よぉしッ!!」

 

 今日は豊作だとばかりに、男はガッツポーズをして喜びを表している。

 

「よしよしよぉし! じゃあさっさと飲みにでも行くかなぁ。こりゃ、ダチに奢ってもお釣りがあるぞ」

 

 嬉しげに笑みで頬を綻ばせながら男は高鳴る歓喜を、関節をバネにでもされたかのように跳んだり跳ねたりで表現する。感情を隠せないタイプのようである、かなり陽気な性格のようだ。

 そして男は早速財布をひっくり返し、中にある硬貨を手の平に落とすのだった。

 

「さぁて、何処へ行こっかなぁ〜!」

 

 心地よい、お金の鳴る音が暗い裏路地に響く。

 

 

 

 

 パチンッ。

 

 

 

 

『ドロボーだぁぁッ!! ここにドロボーがいるぞぉぉぉ!!!!』

「んん!?」

 

 いきなり自身の隣から、大声が響き出した。咄嗟に身構え、声のする方へと目を向けるが、そこは裏路地の奥が見えるだけで、誰もそこにはいやしなかった。

 がめつい性格か、硬貨を握った手を懐に突っ込んだまま様子を伺っている。

 

『ここだぁ、ここにいるぞぉぉぉ!! 待てッ!!』

「ひぃ!?」

 

 また自分の隣から大声がした。

 だがやっぱりそこには誰もいない訳で、男は頭に『panic』の文字を幾つも抱える事となるのだ。

 

「や、やべぇ!? ど、何処からだ!?」

『オラ、待てよぉ!!』

「うぉお!?」

 

 逃げようとするのだが、見えない相手の声は依然として裏路地に響き、何処から現れるのかが分からない。表から来るか、裏路地の奥から来るか、音源の場所でさえも錯誤してしまい分からずに往生してしまう。

 

(と、と言うか、見つけるの早くねぇか!?)

 

 異常なまでの発覚スピードに困惑しながらも、どうしようかだけは頭に巡っていた。

 

『見つけたぞぉ!!』

 

 声は大きく、表からこちらを覗く人が現れ出した。しかも何か、ヒソヒソと話している、憲兵を呼ぼうか呼びまいか話しているのだろうか。

 これ以上はマズいと判断した男は焦燥感からか、財布を落っことし、慌てふためきながら裏路地の奥へと逃げ出したのだった。

 

 

 

 

「『ソフト&ウェット』、摩擦ゼロだ」

「どぉうえッ!?」

 

 奇声をあげて男は、乾いた石畳の路上にてすっ転ぶ。

 転んで盛大に倒れた所を、すぐさま近寄り襟元を掴み上げて捕獲した人物がいた。男にスられたハズの定助である。

 

「フザけんなよお前!? 誰からスったと思ってんだ!? ナメるなよぉ!!」

「あっ!? 何でお、お前が!? どうしてここが分かったんだ!?」

 

 

 平民である男に見える事はないだろうが、定助の背後には『ソフト&ウェット』が漂っているのだった。

 

 

 つまりはこう言う事だ。

 万が一スリに遭った場合の対策として、『ソフト&ウェット』で『ある物』を奪い、財布の中に仕込んでいたのだ。

 

 

「どうして分かったって? 声がしたんだよ!」

 

 奪っていたのは『自分の声』。

 街の中での雑踏でも聞こえるような声量で、自分の声をシャボン玉に封じておく。そして奪われた時にスリは中身を確認するハズだと読んでいた為、開いた時にそれは割れるだろう。

 割れた時、シャボン玉の中に封じていた声は解き放たれ、録音テープのように再生される仕組みとなっていた。あとはこの、自分の声がする方に行けば、犯人と遭遇出来る訳である。

 

「こ、声!? お前の声しか聞こえなかったが」

「そんな事はいいんだ! ほら、さっさとお金返せよお前!」

「こ、この!」

 

 大金を持ったんだ、引けるかよ、と言わんばかりに男は必死の抵抗。

 

 

 定助に拳をぶつけてやろうかと腕を振り回すが、それは『ソフト&ウェット』が男を羽交い締めにする事によって未然に防いだ。

 

「お、おぉ!? か、体が!?」

「動くなって!」

「ひぇ!?」

 

 いきなり見えもしない物に拘束された男の頭に『panic』は倍に増える。ジタバタもがくが、何故か体は動かずに恐怖だけが渦巻く結果となった。

 

「お金は何処だ? 何処入れた?」

「あんた、メイジだったのかぁ!? ひぃぃ!! 命だけはぁぁぁ!!」

「落ち着け、オレはメイジじゃあない! 取り敢えずお金さえ返してくれたら見逃してやるっての!」

「ほ、本当かッ!?」

「本当だから早く出せ! ご主人にバレたら終わりなんだよ……」

 

 返したら命は助ける(定助はそんな風で言った訳ではないが、男はそう解釈してしまった)と言われ、すぐに懐を指差した。

 そこを弄ってみれば、男がスったルイズのお金全額が入っているのを確認。手を突っ込み、全てを取り戻した。

 

 

「ひい、ふう、みい……うん、大体こんな枚数だった」

「こ、これで良いですか!?」

「よし。じゃ、帰れ」

「ヒィィィ!! すんませぇぇんん!!」

 

 恐怖でゲドゲドの泣き面になった男は、『ソフト&ウェット』が消されて体に自由が戻ったと同時に裏路地の暗闇へ逃げて行った。

 その慌てぶりは滑稽で、摩擦は戻ったハズなのに二、三回かすっ転んでいた。

 

「はぁー……油断ならないなぁ、この街は……」

 

 スリに遭ってしまった定助は、その点を反省しながら道に落ちているルイズの財布を拾い上げ、硬貨を入れて紐を締めて元通りにした。完璧である事を確認するとすぐさま、彼女の元へ急がねばと表通りの人混みに入って行ったのだった。

 

 

「……このやり方、いいな」

 

 シャボン玉に自分の声を仕込む方法を思い付いたのは、今朝だった。いきなり降って来たものだから、彼自身は大変喜んだ事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、もうすぐ着くわよ」

 

 その頃ルイズは、背後に定助がいるものだろうと勘違いしたまま、目的地の近くまで来ていた。

 何故気付かないのか、と命を惜しむ波紋戦士に対しての哀れに似た感情になる前に、聞いて欲しい。

 

 

 身長の低い彼女が、比較的大柄な人の多い街の渋滞を抜けて行く。これが如何に大変か、考えて欲しい。

 前方の人混みに飲まれないようにと必死になり、後方に気を配らせる余裕が無かったのだ。つまり、定助がいなくなった事に気付けなかったのは、人混みを抜ける事に手一杯だった為であると言っておこう、誰だってそうなる。

 

 

「何で今日はこんなに人、多いのよ……前はもう少し緩かったじゃない……だからこんな、下賤な所には来たくないのよ……」

 

 ぶつくさ文句を小言で言いながらも、表通りから逸れた所に出た為、渋滞から逃れられた。疲れた顔をして息を吐きながら彼女は、定助がいるかと振り返った。

 

「ねぇ定助、あんたは大丈夫だった?」

 

 

 

 

「うん、平気。スリにも遭わなかったし」

 

 人混みを掻き、定助が到着。

 まさに、崖に転落ギリギリでの救助の如し。またはラグビーでの友情のタッチダウン。

 抜けるのに手一杯なら、進行スピードも鈍化するもの。急いで行けば、何とかルイズの元へと戻れる事が出来たのだった。

 

「本当に財布は平気なの? 中身空っぽとかだったら怒るわよ」

「だ、大丈夫だって、ホラ!」

 

 疑うルイズに、定助はスられて取り返した財布を渡した。

 それを手の上に乗せた彼女は、安心したように息を吐く。

 

 

「まぁ、スリなんてとんだ間抜けじゃない限りやられないわよね!」

「…………そうだね、うん」

 

 心が抉られた気がした。

 しかし万事、何事もなく済んで良かった良かったと、定助もホッと一息吐いたのだった。

 

 

 

 

「……あれ? でも、なんか、お金増えてない?」

 

 

 財布の口を開き、中を確認したルイズが訝しげな声で定助に尋ねた。

 それを聞いた定助はギクリと、心臓を握られたような感覚に陥るのだ。

 

「そ、そうなの? いや、オレは見てないから分からないけど」

「ふぅん……気のせいかしら?」

 

 

 恐らく、あの男は定助の手前にも何人かスったのだろうか。そのお金をルイズの物も一緒くたにして、懐へしまっていたのを定助が根刮ぎ持ってきてしまったと言うのが妥当な考えか。

 この事実に結論付けしてしまった定助はギクギクと冷や汗を垂らしながら、狼狽えるのだった。

 

「……ん? どうしたの、ジョースケ?」

「お、オレェ? いや、何でもない何でもない! まぁ、お金が増えたと思うならいいんじゃあないか?」

「それもそうね、減ったよりかはマシだし。私の勘違いだったかしら?」

 

 そう言って再び彼女は定助に背を向け、目的地へと先導する。

 

「ほら、行くわよ」

「あぁ……うん、行こう」

 

 ルイズに呼ばれ、すぐに後ろを着いて行く定助。

 

(バレてなけりゃオーケー)

 

 内心は喜ぶべきか止めとくべきか、混沌としているが一先ず、自分に災難がおっ被らせられなかっただけでも良しとし、大いに喜んだ。

 

 

 

 

 暫く歩けば、綺麗な街から少し、薄汚い通りへと差し掛かる。

 

「……生ゴミ臭い」

「私だって、極力来たくなかったわよ……」

 

 石畳に妙なシミがあったり、異臭がしたりと、賑やかな表通りとは全く異なった場所である。

 この街のアンダーな所なのだろうか、貴族であるルイズはさっきから不愉快そうな表情で歩いていた。「さっさと帰りたい」と言いたげに、足を速める。

 

「所でご主人、何処に行くか、何を買うのか聞いていなかった」

 

 思えば「街に行く」「何かを買ってあげる」と聞いて有頂天になっていた為に、欠落していた疑問であった。スリに遭う、初乗馬で腰が痛いなどの要因が重なり、彼の頭はだいぶクールになっている。

 更にはこの汚い通り、最初の期待は正直、冷めていた。

 

「もうすぐ着くわ、確か秘薬屋の向かいだったような……」

 

 定助の問いに対しルイズは、キョロキョロと通りを過ぎ行く店々を確認しながら応えた。

 

 

「あ……あったわ。やっと着いたわよ、ジョースケ」

 

 目的地を発見し、彼女は定助に指差しで場所を教えてやる。

 ルイズの指の先を目線で追えば、とある一点へと到達する。その一点を定助は、まじまじと眺めるのだ。

 

 

 

 

「剣のマーク……ここは『武器屋』?」

 

 一本の剣が斜め置きされたようなデザインの、銅の絵看板がぶら下がっている店が目に付いた。




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