構えぇぇ、筒ッ!
ファイアぁぁぁぁぁぁぁ!!
遅れました事を、謝罪致します。
「本当にそれでよかったの?」
「喋る剣なんて、滅多に見ないんだろ? 良い買い物したじゃあないか」
「いや……珍しいは珍しいけど、喧しいのは御免よ……」
憎々しげに呟いたルイズに対し、定助に背負わされているデルフリンガーはガチャガチャと揺れ出し、抗議しているような風をしていた。しかしそのお喋りな口……と言うより刃には鞘がカチリと掛けられており、封じられているのだ。
「何か喋りたそうだけど、鞘から出してもいいかな?」
「駄目に決まっているでしょ!? 今、何処にいると思ってんのよ!!」
二人がいるのは、表通りにある綺麗な茶店。貴族が来る事は殆ど無いそうだが、この辺りでは『上の下』程のそこそこ格式あるお店である。その茶店の屋外テーブルに、ルイズと定助は向かい合いで紅茶を飲んでいたのだった。
武器を買うのに殆どの金貨は使ってしまったが、エキュー金貨が一枚あった。また馬に乗り、二時間の行程で学院に帰るのだが、その前に喉を潤しておこうと思い立ち、一つのティーセットだけで大丈夫なリーズナブルかつ綺麗なお店を探し求め、この店に入ったのが経緯である。
ただでさえ、貴族であるルイズの来店だけで店の人間をどよめかせているのに、ここで定助が剣を鞘から抜いてしまえば道行く人でさえ大騒ぎは確定であろう。
騒がれるのが嫌だから外の席に座ったが、店の窓から店員が時たまにこちらを見ている。それに紅茶だけを頼んだのに、マフィンも付け合わせられている所は優遇されている。これ以上、騒がせるのは止めた方が良い。
「あぁ、そうだった。じゃあ、寮までは抜かない」
背負われ、右肩から突き抜けるデルフリンガーの柄まで伸びた定助の手は、ふらふらとティーカップの取っ手へ移った。淹れられたばかりの湯気立つ紅茶は、琥珀色の波紋を作り水面でたゆたっている様。
小さな取っ手の穴に指を入れ、こぼさぬように遅々と持ち上げる。
するとルイズは、教鞭持つ学校の先生のように厳しい目で定助を睨んだ。
「ジョースケ、お行儀悪いわよ」
「……ん?」
言われた定助はピタリと停止した。何が悪かったのか、座り方なのか飲み方なのかを思案している。
そう言えば彼は今、木の椅子に座られている。椅子に座るのは禁じられていたハズだが、理由として、平民の店だから良しと許可を受けた所にある。言えど、ルイズの椅子だけ異様に豪華な物であるので格差を感じるのは多少の蟠り。
それだけに、椅子の座り方は十分に気を付けていたハズで、何が悪いのかが分からない。最終的には周りの事なのかと見渡している始末だ。分からない様子の彼にその内、痺れを切らした彼女の方から、拙い所を指摘する。
「指、取っ手の穴に入れちゃ駄目」
「え? そうなのか!」
ルイズの飲む姿を見ていれば、右手は受け皿を持ち、カップの下を維持している。そして左手の指を見れば、穴に差し込むと言うより取っ手を摘むように持ち上げているのが分かった。
「知らないなら覚えておいた方が良いわ。人によっては厳しく言及されるわよ」
「貴族には世間の目も当たるから?」
「そうよ、だからマナーは守る。貴族として当たり前だし、私の使い魔として当たり前よ……あら、美味しい」
成る程、貴族らしくエレガントな雰囲気のある飲み方だ。指を無闇やたらに曲げない所が更に良い……感じがする。いや、定助自身あまりこう言う拘りやらマナーやらは、上階級の衆目気にした上品な物は疎い。それは彼が庶民的な人間である事を意味するのだが、別にこれでも生きて来れた訳だし、気にも留めた事のない事。
マナーを守り切れば富豪になれる別荘を買えるのなら本気を出せそうだが、そうでも無い限りはただただ面倒。しかし、主人に指摘されたのなら改めるのが、ある種のマナーだろうか。
「摘むように、飲む」
定助も飲み方を真似してみる。慣れない持ち方な事もなり、摘む指がフルフルと震えていたが、元より手が大きいので致命的と言う訳ではなかった。ただやはり、飲み難い。
「……貴族のお茶って、疲れるんだなぁ」
「手全体で力込めてたらそうなるわよ…………まぁ、矯正する事ね」
ティーカップを置いた彼女は、潤った口内を乾かすかのようにマフィンを食べる。
野菜の上品な甘み、パンプキン味のマフィン。橙色の生地はふわりと入道雲のように上へ盛り上がり、カップの外へはみ出ていた程。丸くしっとりとしたその天辺を、小さく齧ったルイズは、どうやらお気に召したようで頬を綻ばせている。
「わぁ、これ美味しい!」
窓から覗く店員も、笑顔の彼女の様子を確認してホッと一息吐いていた。
「ご主人は、オレの事をどう思っている?」
そんな時、唐突に定助からの質問が入る。自身の存在を確かめて欲しいと言いたげな、奇妙な質問。
意図が読み取れず、困惑したルイズは、この奇妙な質問が耳に入るや否やすぐ定助と顔を合わせた。
「……いきなりどうしたのよ、定助?」
対して定助も何故か、驚いたような表情だ。
「あ、いや……あれ? 何で聞いちゃったんだろ?」
「はぁ?」
惚けた顔で目をパチクリさせる彼を見て、意識せずともつい溜め息が出る。
困惑したいのは、言っておくが彼女の方であろう。いきなり「自分をどう思っているか」と聞いて来たら、その真意を尋ねると「何で聞いたのか」と驚いている……この流れでは、振り回されているのはルイズ側である事は言わずとも分かる。
「何で聞いちゃったんだろってねぇ……聞いたのはあんたなんだから知らないわよ、私は!」
「そうなんだけど、いきなり降って来た言葉でさぁ」
「何なのよそれ!? はぁぁ……」
支離滅裂な彼の言動にほとほと呆れて頭を抱えるルイズだが、記憶喪失の定助が聞いて来たのには意味があるハズだと決めると、渋々と定助の評価を語った。
「……まぁ、そこんじゃそこらの平民よりは『やれる人』だと思う。自己評価を高めにしていても良いわ」
「…………」
「あとは貴族に対しての礼儀を弁えて欲しい所と、勝手な事は控えて欲しい所かしら? これでどう?」
「有り難うご主人、何か、安心したよ」
とは言うが、彼の顔からは憂心が払えていやしないのは、一目瞭然だろう。
何か気にかかる事でもあるのかと、心配する反面、鬱陶しい気持ちがルイズには湧き出ている。
「何よ。何か不満でもあったかしら? 褒めてあげたハズなんだけど?」
「え? オレェ? いや不満なんて、滅相もないよ。感謝している」
「それにしては辛気臭い顔するわね」
「…………」
表情を指摘され、不意に彼は顔を触った。
「どうしたのよあんた。明らかに様子おかしいじゃない、今」
「…………」
確かに、どうにも調子がおかしい。調子がおかしいと言えど熱っぽいだとか怠いとか、身体的な事ではなく、胸中にギスギスとしたサボテンの針が刺さるような、この水面下にある不快感の事を示す。
キュルケとの逢瀬の最中に起きた、妙なフラッシュバックとアベコベした感情。原因を挙げるとしたならそれしか思い浮かばないが、彼からしたら『誰の声』なのか『何者』なのかも確信の外側な訳であり、つまりお手上げ状態。
そしてこの謎は、彼に強い不安感を与えている事は一つの事実でもある。
「ねぇ、ご主人。昨日の、キュルケちゃんの時……」
「はい?」
片眉を上げて細い目になり、見るからに不機嫌な顔になった分かりやすいルイズ。流石にこの時にその話題は、言う所は手放せば吹き飛ぶ『地雷』のような物だろう。
しかし定助はどうしても、聞きたかった。
「気を悪くしたなら謝るけど、直接的な話じゃあないから……えっと、部屋に入る時に何か言ったりした?」
定助が知りたいのは、「大きい」やらと言った『少女の声』について。
問い掛けを聞いた彼女は、昨日の出来事を思い出すように仕草として、小首を傾げた。
「いや、何も? お手洗いから帰る時にツェルプストーの部屋の前を通ったら、あんた達の声がしてそのまま……って、何でこんな話しなきゃいけないのよ!」
「ごめんごめん……えっと、つまり何も言わずに突入したって事ね」
「そうよ! 何でこんな……変な事聞くわけ?」
「『大きい』とか言ってない?」
「言ってない! 寧ろその状況でどうして言わなきゃいけないのよ!」
「そうだよね」
言えど、聞こえた声はルイズと似ても似つかぬ声であった事は確かだった。もっとねっとりとした、昨日のキュルケのような熱の込められた声だったなと、今になって思い出す。言えど、キュルケにしては幼気のある声だったが。
それに、定助だけがハッキリ聞こえて、当事者であるキュルケとルイズの耳に入っていなかったのも気にかかる所。やはりあの声は、定助の内側……所謂、既視感のような記憶の突沸であったと判断した。
無くした記憶が、何らかの要因で這い出たのだろうか。考えれば考える程、自分に対して不安が生まれる。
特にこの『声』に関しての感情が、『闘争』と『焦燥』と『恐怖』であった。これがまた彼を悩乱へと誘う世界。
(全てを、抜き取られるような……嫌な気分だ)
思い悩む頭に、いきなりハンドクラップが鳴り響き我に返った。
鳴らしたのはルイズ、どんどんと辛気臭くなって行く彼に見かねて、手を叩き注目させたのだった。
「だぁーからあんたは……何でそんな顔になるのかなって……情緒不安定なの?」
「あ……ごめん」
「紅茶、早く飲んじゃいなさい。冷めたら美味しくないわよ」
「うん」
ルイズに催促され、持ち方もキチンと整えながら口元へ紅茶を運んだ。
あまり紅茶には詳しくないけど、良い紅茶だと分かるのは匂いのお陰だろうか。淹れ方もしっかりとされているようで、砂糖も何も入っていないのに美味しく感じられる。
「自分に不安を持っているなら……その…………私はあんたのご主人様なんだから……そ、相談なら乗るわよ」
するとルイズから、そんな声をかけられた。
ハッとして彼女の方へ視線を向けば、真っ赤な頬をこちらに見せて、そっぽ向いて紅茶を飲む姿があった。
そうだった、自分には思ってくれている人はいるんだ。
言い慣れない言葉を使って照れているルイズに対して、定助は微笑みながら頭を下げた。
「有り難う……ご主人。その言葉だけで救われるよ」
「ご主人様として当然よ!」と威張ったような風で返す彼女だが、それは照れ隠しである事は紛れもない事実だろうにと、またおかしくて笑ってしまう定助であった。
そんな二人の茶会を妬む、一人の視線があった事は気付かれなかろうに。
「ぐぎぎ……! にっくきヴァリエール! 物で気を惹くなんて、卑怯よ卑怯!!」
「…………」
その視線とは、定助を追っかけて来たキュルケと、背後で本を読むのは巻き込まれたタバサである。今は何処か、街の路地を歩いていた。
唇を噛み締め、幸せそうな(キュルケにはそう見えた)ルイズに対しての嫉妬を募らせていたキュルケは、無駄に鋭角な観察眼を発揮し定助の持つ剣を発見、武器を買いに街へ来たのだなと見抜いていた。
つまり、現在の二人は武器屋へと向かっていると言う訳だ。
「だけどルイズったら……安そうな剣を買ったのねぇ。ふふん! まだ勝機はあるわ」
「…………」
「タバサ、あそこかしら?」
「……そこ」
しかし着いた武器屋はあろう事か、ルイズと定助がデルフリンガーを購入した武器屋である。
「汚い所……もっと綺麗な所はなかったかしら?」
「仕方ない……武器屋だから」
「それもそうねー」
そもそも武器とは貴族はまず買わないし、一般市民も買う必要がない者が殆どだ。買ったとしても一本のみで、続けざまに購入するとしたら武器を多用する傭兵か盗賊かになる。
故に需要が低く、こう言う大きな街で営むとしたら安い費用で営業出来る、ダーティーな裏の方へと押しやられるのが普通だ。相乗して店数も少なげなので、この店に二人がやって来たのは運命とかでも何でもなく、必然的なのかもしれない。
「じゃ、さっさと買うわよ」
「…………」
意気揚々と店内に入るキュルケと対照的に、本から目線を離さず大人しく入るタバサ。
店の扉が開かれ、椅子に凭れてウトウトしていた店主は、二人の姿を確認しては起き上がる。
「や、やや! こりゃまたどう言うこったい……今日はどうかしとるぞ、また貴族だ! イワシの頭も信心なんだなぁ……」
ルイズに引き続き、またまた貴族たるキュルケとタバサの来店だ。頭に弾丸打ち込まれても何とか生きていた程の、滅多にない奇跡のような出来事に店主は、犬に帽子へガムをくっ付けられた不良のようにたまげるのだった。
そんな様子の彼を無視し、早速キュルケは話を進める。
「ねぇ、ご主人。唐突で悪いけど剣を購入したいのだけど」
「け、剣でありますか?」
「えぇ、とても良い剣を」
「い、良い剣ですね……」
あの饒舌な店主が受け身の姿勢で話している。
言うのはキュルケのダイナマイトレベルの色気。前屈みになり机へ肘を立てた彼女の胸はこれでもかと強調され、店主の目を釘付けにしていた。さらにやたら熱っぽい視線と語り口、これらが一気に畳み掛けて店主の脳に烙印を付けるのだ。
どうしてこんな色気を前倒しにして放っているのかは、彼女なりの打算があるからである。
「今すぐ持ってきやす! へぇ、良いのがあるんでさ!」
店主は早速、奥へ消えたと思うとすぐに剣を持って来た。
持って来た剣とは、ルイズにも紹介していたあの豪華絢爛とした大剣である。
「あら、綺麗な剣ね!」
「お目が高い! こちら、かの有名なゲルマニアの錬金術師、シュペー卿が鍛えた剣でありまさ!」
決まり文句なのか、前に紹介していた物と同じセールストークをかます。
そうこうしている内に気分が乗ってきたのか、受け身だった彼の口は次第に元の状態へと早変わり。
「恐らく従者に持たせるので? 剣とは、その者の象徴でなくてはなりませんでね、まさに若奥様に嵌った美貌の剣でありましょう!」
「そうかしら? ふふふ」
「えぇ、えぇ、お美しいですぜ! 更に魔法もかかっております、鉄だってバッサリでさ! 美と力を兼ね揃えた、文字通りグレートな代物でさ!」
兎に角褒めて煽てて、気分を乗らせるのが、対貴族のセールス術であるようだ。
見るからに気分を良くした彼女はさっさと値段を聞き始める。
さて、分かる通りこの男は、ぼったくりに関しては枚挙に暇がない、抜け目なき商人である。
煽てられ気分が乗り、ぼったくりに気付かず原価の二倍三倍、更にはもっとの値段で買ってしまう貴族もいたりする。このバレるかバレないかのギリギリのラインまで値段を吊り上げるのも商人の才能であるのだ。この男はその点では、かなりの目を持つ玄人だ、悪である。
だが、これは原価を知らず、ぼられた事に気付かず、そのまま買った貴族が悪いのだ。
しかし、そうならぬようにキチッと『作戦』を組み立て、逆に原価以下まで吊り下げて購入する、上手い貴族がいる。
今回はぼったくり商人に対する、キュルケ式値引き交渉を解説しよう。
「お幾らで?」
「へぇ! エキュー金貨で四千、新金貨で五千五百でさ!」
分かる通り、ルイズの時よりも倍の値段を提示する店主。しかもその顔に罪悪だとかの嘘のサインは出ない、絶対的な自信を持つ人間は、嘘のサインを出さないと言われている。つまり、表情から嘘を見抜くのは不可能だ。
「ふーん……これが、エキューで四千ねぇ……」
例えばこの場合、「あたしはふっかけられている事はお見通しよ」と言う態度を取り、
「ちょっと、お値段が張りませんこと?」
と、貴族らしく優雅に、丁寧な口調で聞こう。
すると、
「へぇ、名剣は釣り合う金額を要求するのでさ!」
何て、「ビタ一文まけんぞ、貴族の甘ちゃんが」と言ったような鋼の姿勢で決まり文句をぶつけてくるだろう。
しかし忘れてならないのは、店主は店の主人であり、武器のエキスパートであり、根源的な部分として言えば『男』である。
「ねぇ……ご主人?」
「はぇ!?」
ここで、ずっと放っていた色気を更に強めたような熱のある言い方で話し、店主の顎の下を猫にするように撫でてみよう。
やや強くなった色気のアクセル効果と、男としての悲しい性とが彼の理性を分断せしめようとするが、
「やっぱり少し、お高いのでは?」
「し、ししし、しかしですねぇ、この名剣に相当した値段でありまさ!!」
店主の鋼の姿勢はまだまだ溶解出来ないだろう。
だが、ここで焦って色気を強めてはならない。病人に肉や酒を与えては駄目だと、常識である。まずは、お粥からだ。
店主への熱のある視線は中断せず、
「……立つの疲れちゃったわ」
何て呟き、カウンターに座ってみよう。
それだけではない、店主が何か言う前に足を持ち上げるのだ。
「な、なな!?」
また一段強まった色気と、魅惑的な彼女の太腿に店主は釘付けになるであろう。
そこで一層、熱を込める。
「もう一度聞きますわ……お値段、張り過ぎじゃございませんこと?」
アクセル効果に相乗が付き、ここでとうとう店主の鋼の姿勢は溶解を始めるだろう。
「そ、そうですかい? じ、じゃあ……新金貨四千で……?」
ここでせっかちを発動してはならない、まだまだ下げられるハズだ。
今度は太腿を持ち上げてみよう、見える見えないの瀬戸際まで。
「き、貴族様ですから、特別に三千でどうでしょう!?」
「……暑いわね」
まだまだ下げられる。今度は胸元のボタンを一つ、取ってみよう。
値段交渉、開始。
「二千で!」
「シャツ、脱いでしまおうかしら」
ここで原価の辺りだろうか。
もう一つ、ボタンを取る。
「せ、千八百!」
「まだ暑いわねぇ」
おまけにもう一つ、谷間を露わにして色気のボルテージを上昇させるのだ。
「千四百!」
ここでスカートの裾を上げる。もう店主の脳内は興奮で理性的でなくなっている頃だ。
「千で! 千で如何でしょうかぁ!?」
向こうから破格の値段を突き付けて来た、が、満足してはならない。
「五百よ」
「ごひゃくぅぅ!?」
ここを境として、自分でもこんなに安く言っちゃって悪いなぁ、と思うくらいの値段を吹っ掛けるのだ。
「わ、若奥様!? ごごご……五百は流石に!?」
マジィ? 常識あんの? と小馬鹿にしてしまいかねない程の提示金額に、溶けかけの鋼の姿勢はまた凝固となるだろう。
だが安心して欲しい、何の為に色気をセーブしていたと言うのだ。
見える見えないの瀬戸際にあったスカートの裾は、その際どい所でぴたりと止まり、少し戻す。そう、焦らすのだ。
「あ、あぁ……」
興奮状態止まらぬ店主に容赦なし、この焦らしは爪を剥がされる如くの拷問に匹敵するのではないか。彼はフェロモンが奥から手を差し出しているかのような最大限一歩前の色気に当てられれば、
「五百」
「毎度有難う御座いましたぁぁぁ!!」
相手の鋼の姿勢は、一気に溶けてなくなるのである。
落として落として落とし尽くす、これが彼女、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの値切り交渉術である。
結果、彼女はこの名剣を半額以下で手に入れたのだった。
「やったぁ! ルイズに秘薬の援助しちゃったから手持ち少なかったの! 感謝致しますわ、おじさま?」
「いえいえ、滅相もございやせん!! あっははははは!!」
熱に浮かれたような雰囲気の店主が期待するご褒美は、キュルケがカウンターから降りた事により果たされなくなるのだが。
「……本、買いたい」
その後ろ、つまらなそうに呟くタバサの姿があった。
次でやっと、フーケ編でさ。
ヒヤヒヤもんですが、宜しくどうも。失礼しました