ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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かなり鈍化してしまいましたが、失踪はないと思って下さい。ちょっと、『fallout4』にハマりまして……
UA数90.000突破、恐縮です。


月夜騒動、双月と巨人。その2

 さて、この静かな夜の中庭にて、二人の淑女によるゲームが開始される所である。

 

「あなたが勝ったら、あたしはもうジョースケと関わらないわ。でもあたしが勝ったら、彼にあの剣を使って貰うし、一緒にいても文句は言わない事を約束してちょうだい」

「その条件なら飲むわ、さっさと始めるわよ!」

 

 条件提示に賛同し、乗り気の二人なのだが、この騒動の中心的人物でありながらもハイウェイスターもびっくりな程に置いてきぼり食らっている人物がいる。

 

「ちょっとキュルケちゃん、関わらないとまではやり過ぎだよ……そこまでしなくても俺はー……」

「黙ってなさい! これで決着付けてやるわ!」

 

 言わずもがな定助の事だが、本当に彼の意思は尊重されないようだ。ヒートアップしやすいルイズに一喝され、定助は渋々と従う事にした。

 

「えーっと……あぁ、この石がいいわね」

 

 キュルケが杖を振り、『レビテーション』で中くらいの石を持ち上げる。

 そしてその浮かばせた石を、背後に立っていたタバサの前まで移動させた。するとタバサは片手で本を持ちながら器用にロッドを石にくっ付け、『錬金』を行うのだった。

 

 

 タバサの魔法により、ただの灰色な石は、輝く真鍮へと姿を変えた。

 

「石のままだと見難いでしょ? 目立つように、真鍮にして貰ったわ」

 

 裏で打ち合わせでもしたのか、と聞きたくなるような段取りの良さ。今の準備が互いに無計画によるものなら、キュルケの進行上手とタバサの察しの良さに喝采を送れるだろう。

 

 

 そしてその真鍮が定助の前へ浮遊し、やって来る。

 

「ジョースケ。これをツルツルにして貰える?」

「……分かった」

 

 もう止める事は叶わないものの、怪我を双方どちらかが負う事にならなくなっただけでも良しだと考え直し、吐きたい溜め息を飲み込み首筋へ右手を差し向かわせた。

 

「仕方ないなぁ」

 

 星型の痣から吹き出すようにシャボン玉が膨らみ、人差し指と中指の間へスッポリと挟まり浮遊する。

 ふと、視線を感じたのでチラリと右側を見やると、タバサが本から目を離しこちらを凝視している。何事にも興味を示さない彼女が気になる程度には、この定助の能力は常軌を逸しているものなのだろうと、彼に思わせるのだった。

 

 

 右手を肩から離し、飛ぶ蝿を払うように振れば、指に挟まっていたシャボン玉が分離して『レビテーション』で浮かぶ真鍮にぶつかり弾けた。

 

「この真鍮から『摩擦』を奪ったよ。掴めば、濡らした石鹸のようにツルツルぅ〜っと」

「グッド! やっぱりあなた、面白いわ!」

「はは、有り難う」

 

 キュルケの賞賛に喜ぶ定助を、ルイズがギロリと睨み付けた。

 彼女も彼女とて、ここまでの流れが気に食わないようなのだ。言うのは、キュルケが石を浮かばせ、タバサが真鍮に変え、定助が摩擦を奪うと言うこの一連の流れに、ルイズが一切参加していないからである。

 

 

 ご主人を除け者にしてしまっかと、少しその辺に気負いを覚えた定助は全力でルイズを応援する事にした。

 

「準備万端なら、さっさと始めなさいよ」

 

 拗ねたようなぶっきらぼうとした話し方で、キュルケに開始を催促させる。

 キュルケは慌てる様子も宥める様子も見せず、ルイズの足元へ摩擦ゼロの真鍮を着地させた。

 

「ゲームの開始は、それを二十メイル先にある塔の壁に向かって蹴る所で始まるわ。蹴飛ばしても良いわよ? それで塔にぶつかる前に破壊、壁により近い所で壊せた方の勝ち」

「忍耐とタイミングを読む能力が必須ね。面白いわ、上等よ!」

「あたしは後攻で良いわ、ハンデよ」

「…………ふん」

 

 負けん気の強い彼女はまず、弱音は見せないだろう。しかし、表情に見え隠れする不安気な影は隠せないのだろうか、本当に分かりやすい性格をしている。

 

「ご主人! オレは応援してるぞー!」

「……ふ、ふん! 見せてあげるわ、ツェルプストーの負け様をねぇ!」

 

 声援を投げかけてみれば、やはり彼女の勝気な応答。もうそれで手一杯なのか、その後の言葉は出る事なく杖を握って足元に置かれた真鍮を眺めていた。

 もう少し後押ししてやろうか、そう思った時にキュルケから不満げな声がかえられる。

 

「あたしに応援はなしなの?『ダーリン』」

「いっ……! キュルケちゃん、ダーリンは止めようか!?」

「確かにご主人様は応援するべきだけど、あたし達にはあたし達の仲が……」

「分かった! キュルケちゃんも頑張れェーエイッ! オーイエスッイエスッ!!」

 

 

 この会話の隣に佇むルイズより、有り得ない程の禍々しいオーラが毒霧のように放たれた。その嫌なオーラを察知した定助は悪寒に肩を震わせ、ルイズの方へ視線を向けるのだった。

 彼女は静かに、真鍮を眺めていた。

 

「あー……ご主じ……」

「……そろそろ蹴っ飛ばすわよ……」

「あぁ……」

 

 ルイズの横顔を覗いてみれば、悔しげに歯を見せ食い縛っている口元が見えた。目は桃色の髪に隠れて確認出来ないが、間違いなくクゥッと吊り上っている事だろう。

 申し訳なさと、終わったらただでは済まないと言う自覚が定助に固唾を飲ませた。

 

 夜とは言え、光源である月が二つ存在するこの世界は存外、広い中庭がそれなりに一望出来る程には明るかった。

 双月に照らされた真鍮は、綺麗にテラテラと輝いている。

 さぁ、始めようか。そう考えたルイズは早速、真鍮蹴りに移行するのであった。

 

 

「……ふっ」

 

 息を吐き、大きく膝を曲げた。

 しかしその体勢は前のめりで、背後に伸びた足は踵の底を天に見せている状態だ。所謂、シュートをかまそうとするサッカー選手の体勢のそれである。

 

「え、ご主人、そんな思いっきり蹴らなくても真鍮は……」

 

 オーバーな構えで真鍮を蹴ろうとするルイズに、定助はすかさず忠告を入れるものの、キュルケへの怒りも相まって強く増している集中力は彼女の耳を遮断してしまった。

 そして彼女は、力を緩める事なく、真鍮をキュルケだとでも思っているようで、容赦なしの渾身の力で蹴り飛ばしたのだ。

 

 

「りゃぁあッ!!」

 

 

 勇ましい掛け声と共に、彼女の足は全力で真鍮を蹴り飛ばした。

 

 

「うわっ、吹っ飛んだ!」

 

 ルイズに蹴られた真鍮は、上手い具合に彼女の靴の踵に乗っかるような風で蹴り飛ばしを食らい、地面を滑って行くどころかツバメの上昇飛行のように前へ上へと飛ばされて行くのだった。

 

「これ、大丈夫かな?」

「自分からどれ程遠い距離で破壊したか、が大事だから問題はないわよ。タバサがちゃんと計測してくれるわ」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 定助が危惧する側でルイズは杖を空に飛んだ真鍮に向けた。

 真鍮は既に、二階か三階の地点まで登っている。しかし、月明かりに光る真鍮はこれでもかと目立ち、見失う事はなかった。

 

「そろそろね」

 

 キュルケが口元に笑みを浮かべ、そう呟いたのとほぼ同時にルイズは大きな声で呪文を叫ぶのだった。

 

 

 

 

「『ファイア・ボール』ッ!!」

 

 壁へと飛んで行く真鍮目掛けて魔法をかけた。

 杖先にも辺りにも何も起きていない。しかしこの後、どう言う事態が起こるのかを予想している定助たちは耳を押さえ、身構えている。

 

 

 

 

 ワンクッション置いた後、真鍮ではなく、その真鍮のやや上層の五階辺りの壁が盛大に爆発した。

 

「いっ!?」

 

 ルイズから血の引いたような声が出る、真鍮を外した上に学校の壁を爆破させてしまったからだ。言えど、学校の爆破に関しては『固定化』もあるのでそんなには思っていないのだが。

 

 

「……壁に衝突、測定不可」

 

 測定係になっていたタバサが結果を言った。

 破壊対象である真鍮は、塔にぶつかり落っこちてしまったようだ。

 

 

「……くふふっ! やっぱり『ゼロのルイズ』ね! あははは!!」

「くぅぅぅ……ッ!!」

「魔法も失敗しちゃうし真鍮も外す、どっちもしちゃうって、なかなか出来ない事よぉ?」

「煩いっての!! こ、ここ、この……くぅぅ!!」

 

 ケタケタ嘲笑するキュルケの前方で、ルイズが顔を真っ赤に染めて怒りで体を震わしているのが見える。相当悔しいようで、地団駄踏んで雑草を荒らしていた。怒り顔と泣き顔の、半端な所と言える表情なので、別の意味でヒヤヒヤとしたが。

 

 

 何はともあれルールはルールだ、悔しさで歯を擦らせながら後攻のキュルケに順番を明け渡す。

 

「それじゃ、あたしの番ね。うふふ! 見てなさいよっ、ルイズに『ダーリン』!」

「煽らない!」

 

 定助の注意も、乗り気の彼女には届いてないのか、それとも聞き流されているのか。笑い声はクスクスと、押し殺したようなものとなったが、余程に愉快だったようだ。

 対決の立会人であるタバサは、全く笑っていないのだが。

 

 

 キュルケはガックリ項垂れるルイズの隣へ立つと、すぐに足元の石を真鍮に変えて、定助を一瞥する。摩擦を奪って欲しいサインと分かったので、先程と同じ行程で真鍮から摩擦を奪った。

 

「それじゃあ、出来の悪い『ゼロのルイズ』にお手本見せてあげるわ」

 

 隣で忌々しげにキュルケを睨み付けるルイズに向かって、挑発の意思を込めて杖を指揮者のように回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でもう一人、彼女らを忌々しげに見つける視線がある。

 

「チィッ……! よりによってここでするなっての……!」

 

 塔の影より隠れていた、大盗賊フーケである。

 高所で起こったとは言え少なからず発生した爆風によるフードのはためきを押さえながら、彼女らを睨み付けている。

 

「しかし何だい、 あの魔法は……? 思い切り『ファイア・ボール』と叫んでいたが、明らかに違う類いの物だろ……」

 

 ルイズの行った『魔法』に対しての疑問を、フーケは呟いた。

 まず、爆発自体を引き起こす魔法など聞かないからであった。フーケは少なからず知的好奇心の強い性格なのだろうか、爆発の起きた地点を見つめて思考を傾けていた。

 

「……って、どうでも良いだろこんな事は」

 

 自嘲気味に小さく笑う。フーケが今、全身全霊をかけて思考を向けるべき事柄は、宝物庫の突破方法のハズであろうに。

 そう考え直したフーケは早速、注意がそれかけた思考を軌道修正させ、宝物庫の位置を見上げた。

 

 

 爆発時に発生した粉塵が舞っている、どうやらルイズの魔法は宝物庫の辺りに直撃したようである。

 真鍮を打ち上げてしまったばかりに、狙いは横ではなく斜め上へと行く。そしてその狙いを外してしまったが為に、斜め上方向の終点である五階の宝物庫部分に魔法をぶち当ててしまったようだ。

 

「騒ぎになられちゃ、困るってのに」

 

 辺りの気配に気を配りつつぼやきながら、粉塵が夜風に流れて行く様を見つめていた。

 

 

 

 

 だが粉塵の消えた壁が視界に映ったフーケは思わず、驚きの声をあげてしまう事となる。

 

「……なっ!?」

 

 

 強力な『固定化』を施されているハズの宝物庫の壁には、出来るハズのない『ヒビ』が入っていたのだ。

 

 

 見間違いしたかと、もう一度確認するがそこはさっきまで自分が立っていた五階の壁、つまりは宝物庫のある箇所。空間が歪んでいない限りは間違いない。

 

「あの『固定化』はスクウェアクラスだぞ……!」

 

 絶対に破られる事のない魔法が破られている。魔法の学については秀でていたフーケにとって、この事態は驚かざるを得ない。

 そもそも物理耐性のない(構造自体はその弱点を補っているが)魔法に対し、物理ではなく魔法による真っ向勝負でヒビを作ったのだ。あれ程の爆発でヒビと言うのもなかなか強固だが、それすら出来る訳のない魔法に打ち勝ったと言う点では重ねた意味で驚愕的だろう。

 

 

 頭の中で分析を進めるフーケだが、頭を振ってその思考を掻き消した。

 

「いや、何でヒビが入ったかはもういい。重要なのは、ヒビが入った事だけだろうに……これはまたとない機会だ……!」

 

 フーケは懐から、杖を取り出し不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にゲームを行うのは、後攻のキュルケ。

 既に摩擦ゼロの真鍮を見つめつつ、膝を軽く曲げて蹴りに入った。

 

「よっと」

 

 軽い掛け声と共に、彼女の足はピョコンと前へ出された。軽い力だけの蹴りなのだが、それだけでも摩擦が一切ない真鍮は随分と早いスピードで地面を滑って行く。

 竜巻のように回転しながら壁へと向かう真鍮は、アッと言う間に二十メイルの半分を突破した。

 

「頃合いね!」

 

 その時を見計らい、キュルケは杖を前に向けて呪文の詠唱を開始した。

 

「『ファイア・ボール』!」

 

 ルイズと同じ魔法のようだが、ルイズの時とはまるで違っていた。

 杖先に渦巻くようにして火球が出来上がり、赤い光で彼女を照らす。突然の熱気に手で顔を扇ぐルイズの隣で、キュルケの『ファイア・ボール』は発射された。

 

 

 火球の速さは真鍮のスピードよりも上回っており、確認するよりも先に真鍮の真上に並行する。背中にぴったりくっ付くような感じだ。

 

「あ、これは……」

 

 察したような定助の声と同時にそのまま火球は徐々に高度を落として行き、真鍮と接触。一瞬のフラッシュと爆竹を鳴らしたような音を響かせ、真鍮は四散した。

 

「きゃあ〜! 大当たりぃ!」

 

 キュルケの歓喜があがった。

 真鍮を破壊した地点は、火球の熱で黒く焦げている草が測定の目印となっていた。測定係のタバサは杖を地面に置き、本を小脇に抱えると、人差し指を上へ、親指を横へと広げて左手をL字の形にし始めた。

 

 

 それを腕を伸ばした状態で目線に合わせ、額縁に嵌めるように黒焦げの地点を囲むのだ。

 

「あ! それ、三角測量!」

「…………」

 

 定助の反応を無視したまま、暫くその状態で静止する。

 

 

 

 

「……距離、十六メイル。勝者、キュルケ」

 

 測定完了。

 別に当てたのはキュルケだけだから意味はないとは思うが、測定係となったからにはキチンとこなしたかったのだろう。

 

「………………」

「……な、ナイスファイト、ご主人……」

「………………」

 

 タバサが結果発表をしたと同時にルイズは黙ったまま、またガックリと項垂れる。案の定と言う事になるのか、勝者はキュルケで決定した。

 勝ったキュルケは得意げな表情でルイズを一瞥した後、ヒラヒラと手を定助に向けて振った。

 

 

「さて、ゲームに勝ったから、条件を飲んで貰うわよ?」

「うぐぅぅ……」

「じゃあ、『ダーリン』にはあたしの剣を使って貰うわ」

「み、認めてあげるからジョースケを『ダーリン』って呼ぶのだけは止めなさいッ!!」

 

 勝者決したとは言えそこは譲れない所なのだろう、キュルケに指差し、条件は飲みつつも講義するルイズ。

 この光景の蚊帳の外にいるタバサはまた本を読み出し、定助は困ったように口をへの字に曲げたのだった。

 

 

 

 

 さてこれから、また一度ルイズの部屋に戻り、置いてあるキュルケの剣を改めて授与する流れとなるだろう。

 しかし、その流れは一気に堰き止められてしまうのだが。

 

 

 

 

「……ん?」

 

 軽い地震と何かの気配。その二つを察知した定助は、パッと振り返った。

 

 

 異様な光景だった、背後の地面の土が急速に盛り上がり、人型を形付けて行くではないか。

 

「な、なんだと!?」

 

 定助の驚き声に反応したルイズ達も振り返った。

 

 

 目に映ったのは、あまりにも巨大な土人形。地面から土を吸い上げるように我が身に吸着させ、みるみると形と大きさを巨大な物へとして行く。

 キュルケから叫び声が出るが、それもそうだ。その巨大な土人形が二足歩行で立ち上がり、岩を無理やり接合させたような己が足を持ち上げたからである。

 

「マズい……!!」

 

 土人形は、定助達一行を踏み潰さんと、御構い無しに進行しているのだ。

 このままでは危険だと、逃げ出す定助だが、いきなり背中を何かに掴まれ、フワリと持ち上げられたのだ。

 

「うわ!?」

 

 何が起きたか理解するより先に上空へ吹き飛び、土人形の頭頂部上にまで一気に飛び上がった。

 次に地鳴りが響いたと思えば、土人形の巨大な足が定助達のいた場所を踏み付けていた。

 

 

 

 

「な、なにが……うぉ!? なんだコイツ!?」

 

 何故自分は浮かんでいるのかと、視線を持ち上げてみれば、蒼い鱗のこれまた巨大な生物に服を掴まれていた。もう片方の手にはポカンとしているルイズが掴まれており、その生物の背中にはタバサとキュルケが座っていた。

 

「ふぅ……危機一髪ね、二人とも」

 

 思考が追いつかないままの状態でキュルケの声がかけられる。

 

「危機一髪ね、じゃないわよ!? ちょっとこれ……あっ」

 

 その声にパブロフの犬が如く反応して怒鳴るルイズだが、今目の前にいるこの生物について何か思い出したようだ。

 

「これって、その子の使い魔でしょ? 召喚の時に見たけど……」

「…………」

 

 どうやらこの巨大な生物は、タバサの使い魔のようである。そう、この生物こそ、昼間にキュルケとタバサを街へ運んだタバサの使い魔、ウィンドドラゴンの『シルフィード』であった。

 

 

「うおぉ、凄い凄い、飛んでるよ飛んでる!」

「ジョースケ、何楽しんでいるのよ!?」

「あっ、ごめん、つい」

 

 空を飛んでいる事に喜びの声を出していた定助だが、今の事態を思い出した。

 一先ず、まずは助けてくれたタバサにお礼をかけるのが先であろう。

 

「助かった、本当に有り難う」

「…………どうも」

 

 初めて彼女が定助に応答してくれたが、喜ぶべきかどうかの感情はゴチャゴチャとしている。

 

 

 

 そうこうしている内に土人形は塔の前まで到着しており、腕を振りかぶっていた。まるでその仕草は、殴りかかるかのようなポージングだ。

 

「ねぇタバサ! あのゴーレム、塔を攻撃する気よ!」

「……どうしようもない」

 

 土人形……基、『ゴーレム』は振りかぶって力を貯めた腕を一気に前方へ突き出し、固められた拳で塔のヒビ目掛けて強烈なストレートをお見舞いした。

 盛大な破壊音と、空気を震わす衝撃。強固な造りの建物とは言えヒビのせいで脆弱となっていた事もあり、空けられる事のない宝物庫の壁に、大きな風穴が出来上がったのだ。

 

 

「そんな!? 塔に穴が空くなんて!?」

 

『固定化』の事を知っていたルイズが、愕然とした声をあげた。ヒビを作ったのは彼女であるが、自分の魔法がこの事態と生んだとは夢にも思わないだろうに。

 

 

「……! 待て、あの巨人の肩に誰かいるぞ!」

 

 定助は指を差しつつ、呼び掛けた。

 ゴーレムの左肩には、黒い人影が立っているのを確認したからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 肩に立っていたのは、フーケである。

 難攻不落である宝物庫に空いた穴の前でほくそ笑んでいた。

 

「まさかこんな利運が舞い込んでくるなんてねぇ……さしずめ、始祖は味方してくれているんじゃあないかな? くくくく……!」

 

 上空では、まんまとゴーレムから逃げ果せた定助達を乗せた(基、掴んだ)ウィンドドラゴンがいるのだが、フーケにとったらどうでも良い事である。あくまで第一の目標は、宝物庫に眠る『破壊の円盤』であるのだから。

 

 

「よっと」

 

 早速フーケは、自身のゴーレムから穴へジャンプし、念願の宝物庫侵入を果たしたのだ。

 だが、これで満足する訳ではないだろう。すぐさまフーケは宝物庫内の奥へと早足で突き進み、目的の品物へと近付いて行く。

 

 

「…………」

 

 大理石の台座の上に、ポツリと乗せられている銀のカバーを発見した。

 台座に付けられているプレートを見やるフーケはその目に、あの燃え盛る炎を宿している。

 

 

『破壊の円盤。持ち出し不可』

 

 そう、これこそがフーケの求めていた『破壊の円盤』を包むケージである。

 

「やっと、やっとこさご対面ねぇ!」

 

 感激の声を出したフーケは早速、円盤の頂戴に入る。ケージに杖をくっ付け、呪文を詠唱すると、それはただの土けらとなって台座の下に落とされた。

 そしてそこから、顔を出したのが『破壊の円盤』実物であった。

 

 

 

 

 確かにそれは、円盤である。

 フーケの手のひらいっぱい程度の大きさの、見ただけでは用途の分からない、薄く丸い物体だ。表面は鏡のように透き通り、テラテラと光っているものの、何故かフーケの姿を写そうとはしない。

 そして謎の『四つの文字』が貼り付けられている。

 

「触っても大丈夫か?」

 

 円盤の真ん中に空いていた小さな穴に人差し指を差し込み、親指で縁を支えるように持ち上げる。直感的にこの持ち方にしたが、どうやら異常はないようで、普通に取り扱う点では安全のようだ。

 

「……ふむ」

 

 裏面を覗き込む。裏はフーケの顔を写したのだが、傾ける度に虹色の光を面に這わしている。これは数々のマジックアイテムをその手中に収めた大盗賊『土くれのフーケ』でさえも理解出来ない構造であった。

 

 

 興味がある所だが、悠長にしてられないだろう。哨兵だかが来れば面倒になる、ただでさえ四人程の目撃者がいると言うのに。

 さっさとフーケは『破壊の円盤』を持ちだし、ゴーレムの元へと戻り始めた。

 

 

 

 

「……あの魔法学オバケ……」

 

 ふと、歩きながらもフーケは思い出した。

 

「……確か、表面に『男の姿』が浮かび上がると言っていたが……」

 

 気になったフーケは、円盤の表面を再び眺めた。

 

 

 

「…………これはこれは」

 

 円盤の表面に、それはくっきりと現れた。

 長い髪を振り乱し、隆々とした筋肉を晒した、人間とは違う存在。

 

 

 

 

 何処か虚空を見つめるように立つ、『白金の男』を…………




お前、ヤンデレは好きか?
特に正常と病みとの瀬戸際での駆け引きを……手に汗握るよなぁ!!
由花子さん、アニメで待ってます。


外伝の方を、目次の一番上へ持ち上げました。
これで本編最新話へはスムーズに行けると思います。外伝更新時には、あとがきにて告知しますので、宜しくどうも。
失礼しました
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