ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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前話が遅かったから速くしたよ。
どうだッ!思い知ったかッ!どうだッどうだッ!!


月夜騒動、双月と巨人。その3

 一夜明け、太陽光が眩いばかりに照らしている。

 春特有の霞の空だが、空気は全然透き通っており、深呼吸すれば美味しい空気が肺を満たして細胞を喜ばせてくれる。流石は貴族の学校だ、立地条件の良い所を選んでくれていた。

 

 

 

 

「いててて……」

 

 そんな春空の下、左頬にガーゼを引っ付けた定助が、井戸端でルイズの服を洗濯していた。

 いつの間に怪我をしたのか、頬のガーゼを頻りに触りつつ洗濯板でゴシゴシとブラウスを洗っている。

 

「大丈夫ですか? ジョースケさん」

 

 彼の傍、定助が未だに洗えないルイズの下着を洗濯してくれているシエスタが気遣いの声をかけてくれていた。

 返答として彼はガーゼを触っていた手を振って、良好である事をアピールする。

 

「ごめんねシエスタちゃん。大丈夫だよ、ちょっと擦っただけだし」

「そうですか? それだけでしたら良いんですが……」

「大丈夫大丈夫」

 

 手を休めずに洗濯しているシエスタを見習い、また定助も洗濯を再開した。

 この世界での洗濯は本日で三回目。一回目はシエスタと初顔合わせした時で、二回目はキュルケとの危ない夜の明け方。どちらともシエスタが指南と補助を請け負ってくれたお陰で、ブラウスとマントはややぎこちなくとも洗えるようになった。

 

 

 しかし何故か、下着だけはからっきしで駄目で、今回もシエスタに助けて貰っている。

 果ては、前世の自分は女性嫌いだったのか。または、少し苦手だったのか。そう考えるようになってしまった所、下着洗濯は諦めてしまっているようだ。

 

 

「あのジョースケさん……昨夜は大変だったそうですね……」

「うん、とても大変だった。出来る事なら二度とないようにしたいよ〜」

「でも無事で良かったです! ジョースケさんったら、無茶しちゃうし」

「言われちゃったねぇ、ははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜の出来事……それは、フーケ襲撃時まで遡る。

 

「穴に誰か入ったぞ! 多分あいつが主犯だ!!」

 

 シルフィードに掴まれた定助は、大穴が開いた宝物庫を指差し、大声で伝えた。

 ゴーレムの肩に乗っていた人影が宝物庫に浸入したのを、はっきりと確認したからである。

 

「タバサ、近付ける?」

「……多分」

 

 キュルケの問いかけに小さく呟き、直様タバサは自身の使い魔、シルフィードに命令を下した。

 

「ゴーレムに近付いて」

「キュイッ!!」

 

 主人の声に呼応し、シルフィードはそのまま急速に滑空してゴーレムの頭部へと一気に詰め寄った。

 

「うわわわ!? ちょ、ちょっと!? スピード出すなら言いなさいよぉ!?」

「おおおおお!! 時が加速しているぅぅぅ!!」

 

 まずドラゴンに乗り慣れていないルイズと定助の間抜けな声が聞こえたが、高速滑空中の空気の中で、声は遥か後方に置いてきぼりになってしまっている。

 それに二人は背中を掴まれた宙ぶらりんの状態、墜落中のセスナ機に乗っている気分のハズだ。

 

 

「ストップ」

 

 タバサの言葉に反応し、今度は急ブレーキ。

 瞬間、定助の目の前でゴーレムの大きな手が通り過ぎて行った。

 

「ッ!?」

 

 つい、息を詰まらせた定助。それは、隣のルイズも同じであろうか。

 向こうも定助たちの接近に勘付いたようで、ゴーレムを動かして退散させようと攻撃して来たのだ。

 

「やっぱり退却」

 

 そのタバサの言葉に反応するよりも先に、シルフィードは再び上空へ垂直に飛び上がった。

 

「うぐッ!? じ、Gが……!」

 

 伸し掛る地球の重力に思わず呻く。

 確かに今のは危なかった。如何に素早いシルフィードでさえも、あのような広範囲攻撃をすり抜けて敵の元へ向かうと言うのは些か、不可能である。

 それに今、乗っているのは四人だ。幼生のドラゴンであるシルフィードにとっては少し重荷である事も視野に入れなければならない。

 

 

 勿論、定助はシルフィードの事を知らないので重いのか軽いのかは分からないだろうが。

 しかし正義感のある彼にとって、このまま賊をみすみす逃がすと言うのも気に食わない所である。

 定助はチラリと、下に目を向けた。

 

 

 丁度、ゴーレムの頭頂部が見える。

 

「……高さは六.三メートル……何とか、なるか」

 

 

 

 

 ゴーレムとの距離が離れて行く前に、定助は『ソフト&ウェット』を発現。

 強靭な己のスタンドのパワーに物を言わし、無理やり背中を掴むシルフィードの前足を抉じ開けるのだった。

 

「キュイ!?」

 

 突然の事に驚いたようで、主人の命令があるとは言え流石にスピードを緩めたシルフィード。

 異変に気が付いたタバサであったが、時既に遅し。シルフィードの前足から自身を外した定助は落下を始めていた。

 

「じょ、ジョースケッ!?」

 

 ルイズの呼び声が聞こえたが、定助はそれに反応して声を投げ掛ける事は出来なかった。

 

 

 

 

 そのまま定助は元来た道を戻るかのように、ゴーレムの頭目掛けて落っこちて行く。

 比較的大きなシルフィードは兎も角、ちっぽけな定助までいちいちゴーレムも反応出来なかったようで、難なく彼はゴーレムの頭部に着地する事が出来た。

 

「わぇっ!?」

 

 しかし高所から落ちたのだ、衝撃をロールで和らげたとは言えやや不十分。肩甲骨周りをぶつけてしまい、少しだけ痛い思いをしてしまった。『難なく』とは行かなかったのである。

 ゴーレムの頭部はゴワゴワとしており、岩のように硬い。

 

「いっつぅぅ……と、取り敢えず、立ったぞ……!」

 

 頻りに動くゴーレムだが、歩行していないだけ振動はマシだ。

 手足四点を着け、頭部から宝物庫に入って行った襲撃者を捕らえてやろうと『ソフト&ウェット』を出現させつつ、気配に注意する。

 

「…………」

 

 向こうにも気配を悟られてはいない。

 今、定助の立っているここは敵のホームグラウンド。着地をバレてしまえばどんな目に遭うのか想像出来やしない。

 あまりこう言うのはしたくない質なのだが、敵へは『不意打ち』をする他はないと考えていた、

 

 

(……『ソフト&ウェット』の能力は絶対的なんだ……シャボン玉で『摩擦』か『視力』を奪ってやれば、一気に『再起不能』にさせられるハズ……)

 

 それに恐らく、敵は定助の事を知らないと思われる。その上に気付かれていない不意の内が、定助のチャンスである。

 別に不意打ちを恥じる事はない、騎士でさえも強大な悪に対しては暗殺に転ずる。正義のギャングも下衆に対しては約束を取り付ける振りをして仕留める。

 それに定助の目的は『拘束』であって、殺害ではなかろう。悪に対して然るべき対処だと、定助は考え直した。

 

「……よし」

 

 覚悟と決意を固め、定助を静かにゴーレムの頭部にて機会を伺った。

 

 

 

 

 そしてその機会は、次の瞬間やって来る。

 

「……ッ!」

 

 塔に空いた穴の奥、闇より浮かび上がるが如くヌラリと顕現せしめた、フードを深々と被った襲撃者の姿を確認する。

 先述の通り、フードが深く、それが影を作り上げある種の仮面のように素顔を隠していた。定助の位置からならもっと見えないだらうが、今は敵を捕らえるのが先決だ。

 

 

 このようなゴーレムを作り上げるとは、敵はかなりの手練れ。魔法を知らない定助でさえも、それは襲撃者の放つ『余裕のオーラ』を感じ取り直感として理解した。

 なら魔法で対抗するよりも、恐らく相手に知られていない『スタンド能力』で対抗するのがまだ分があるハズだ。だからこそ、定助はこうしてゴーレムの頭部に降り立ったのだ。

 

(目的はなんだ……泥棒か、こいつ……?)

 

 襲撃者の目的を考察しながらも、決して目は離さない。

 

 

 穴から出る前に襲撃者は杖を取り出し、室内の壁に向かって杖を振るっているのが見えた。何をしているのかは分からないのだが、すぐにまた前へと向き直り、ゴーレムの肩に飛び乗ったのだ。

 

 

「この時を、待っていた……!!」

 

 定助は振り落とされる事を恐れず二足歩行となり、襲撃者の立つゴーレムの右肩部に向かって飛び掛かった。

 

「『ソフト&ウェット』ッ!!」

 

 頭から肩への高さはせいぜい三メートルかそこら、定助の足の下には襲撃者の頭がある。

 あとは射程距離まで近付けば、襲撃者が『スタンド使い』でない以上こっちの勝利のハズだ。最悪、シャボン玉を正確に飛ばせられる距離まで行けば良い。定助は一気に畳み掛けた。

 

 

 

 しかし、残念な事が起きた。

 双月による明る過ぎる月明かりは飛び掛かる彼にとって逆光となり、影を作ってしまった。

 その影が襲撃者の体の上に掛かってしまい、定助の存在を悟られてしまう要因となってしまったのだ。

 

 

 焦り過ぎた。が、悔いた所で後の祭り。

 

 

「しッ……!(しまったぁ!!)」

「……っ!!」

 

 定助と襲撃者の視線が交差した。

 少なからず襲撃者は、『ソフト&ウェット』の存在に動揺を抱いたに違いない。だが流石は手練れか、感情を表す前に杖を手に取り、彼へと向けたのだ。

 

 

 すると、定助の真横……ゴーレムの側頭部より四発の石の欠片が矢のように吹き出され、定助に襲いかかったのだ。

 

 

「くっ……オラオラオラオラッ!!」

 

 定助は標的を襲撃者から石の矢に変更し、『ソフト&ウェット』を自身の前に向かわせ拳で迎撃を行う。

 素早く、精密な『ソフト&ウェット』の突きは石の矢を排除し、定助を守り切った。

 だが、襲撃者への不意打ちは失敗となってしまう。

 

「……ッ」

「……このまま行くッ!」

 

 定助はゴーレムの右肩に着地、そのまま一気に敵との距離を詰めてやろうと走り出した。

 

 

 だが、この進撃は襲撃者の魔法により停止を余儀なくさせられた。

 

 

 

「うおぉ!?」

 

 再三に渡り語るが、ここはゴーレムの上、術者のホームグラウンド。簡素に言えば、術中であり手の平上も同然なのだ。

 

 

 ゴーレムに着けていた足が、盛り上がった土により絡め取られたのである。

 

「そ、『ソフト&ウェッ……あぁ!?」

 

 既に射程距離だ、スタンドなら届く。

 しかし『ソフト&ウェット』を向かわせた瞬間、足を土で固めたまま、定助の立っていた箇所をゴーレムから『丸ごと切り離した』のである。

 

 

 もう指先が襲撃者の服へと届く距離であったのに、その距離はまた離される。

 

 

「な、なにぃぃぃぃッ!?」

 

 定助は再び、今度は地面に向かって落下してしまう。

 足に絡まり、固まっていた土は術を離れたせいもあり、通常の柔い土と化して空中に舞ったが、だからと言って定助の落下が止まると言う訳ではなかろう。

 襲撃者との距離がどんどん離れて行く、そして落下速度もどんどん速まって行く。

 

 

「ど、どうするか……ッ!」

 

 一先ず、『ソフト&ウェット』による防御姿勢のまま地面へと向かい打つ形にしているが、ゴーレムの肩から地面までは五階の高さ……とても無事ではいられそうにない。

 ならばゴーレムに拳を突き立て、勢いを消そうと考えたが、果たして腕が保つ物か。いや、そんな事より行動に移す方が先決だ。

 

 

 

『ソフト&ウェット』の拳を構えさせ、ゴーレムに入れようかとした所で、また何かに体を支配された。

 

「……え?」

 

 パッと場面が移り変わり、地面は何かに腰を付けて座っていた。

 何事かと困惑した彼は辺りを見回し、その正体を理解するに至ったのである。

 

 

「…………」

「え、あ、君は……!」

 

 横にいたのはタバサ。そして、定助が座っているここはシルフィードの背中。

 落下する定助を救ったのは、タバサとシルフィードであったのだ。

 キュルケとルイズを降ろし、少なからず負担が無くなったのかスピードが上がり、ゴーレムの足を縫って飛び進み落ちる定助を確保した。

 

「有り難う、助かった!」

 

 素直に礼をする定助に対して、タバサの目は何処か冷めた風だった。

 

「……無茶し過ぎ」

「へ?」

「『分』を弁えるべき」

「……すまない」

 

 ルイズとは違い、静かに諭すような厳格な忠告。定助はまた、迷惑をかけてしまったなと申し訳なくなり、彼女に謝罪を乗せた。

 確かにゴーレム上は敵のホームグラウンド、そんな所に飛び込むとは猪突猛進かつ暴虎馮河も甚だしい所だ。

 

 

 

 

 その時、シルフィードがゴーレムから離れた瞬間に、あの巨大なゴーレムは一気に崩れ始めたのである。

 

「なに!?」

 

 足からガクリと、体を地面に叩きつけるようにして崩したのだ。

 派手に崩した事により土埃が辺り一面に充満し、これが煙幕の役割を果たしている事を定助は察知した。

 

「あいつ、この土埃に混じって……!」

「……どうしようもない」

 

 タバサの言う通り、こうなってしまった以上はもうどうしようもない。

 土埃が立ち煙る庭園内、襲撃者はこの中に紛れて逃げてしまっているのだろう。あまりに広大な煙幕なので位置の特定が出来ず、とうとう定助は取り逃がした事を認めたのだった。

 

「…………」

「……不甲斐ないな……はぁ」

 

 

 己の至らずにより、取り逃がした事を悔やみ、溜め息吐く定助。その際、左頰を触った時に鋭い痛覚に体をビクつかせるのだ。

 

「いったぁ!?」

 

 ゴーレム着地時か、それとも破壊した石の矢の破片が擦ったのか、それとも落下時か……分からないが、定助はいつの間にやら左頰に擦り傷を作ってしまっており、流血している。

 アドレナリンが出ていたのか、いままで痛覚を感じなかった。だからこそ、この唐突な痛みの襲来に驚くしかなったのだった。

 

 

『おいおい、どうした相棒!?』

 

 背中にかけてあるデルフリンガーが、定助の声を聞いてとうとう沈黙を破った。鞘の中なのでややくぐもっているが、しっかりと定助の鼓膜まで届いている。

 

「あ、デルフリンガー……いや、軽傷だよ、大袈裟だった」

『そうか……って、何で怪我してんだ相棒? と言うかさっきから、どんちゃん騒ぎしとったようだが』

「どんちゃん騒ぎだ……痛い程の」

『は?』

 

 そうこうしている内に、土埃は晴れて来た。

 やはりそこは緑の草原のみで、人影など微塵も存在していなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はルイズとキュルケに散々叱られた。

 

「あんたは無茶し過ぎなのッ!! ギーシュの時で鼻高になっているんじゃないの!?」

「あたしを無視して単身突入だなんて、果敢だけど無謀だわ。ちょっと頭が足りなかったわよ」

 

 少し厳しい言われようだったが、それ程二人は定助の身を案じてくれている訳である。そこは素直に感謝したし、素直に反省もした。

 

 

 襲撃事件後すぐに衛兵がやって来て、更には先生方も到着。空くはずもない宝物庫の穴を見てみんな、ポカンとしているのが何とも新鮮であった。特にコルベールに関しては「そんなまさか!?」と狼狽え、興奮している始末。

 しかし時間帯は既に夜も深くなる頃だったので、ルイズ達への事情聴取は明日として自室に帰らされた。

 

 

 その後はルイズの説教の末に就寝。

 朝方、圧迫睡眠による快適な睡眠が出来ずに朝方目覚めた定助はルイズの着替えを抱え、シエスタと合流して洗濯をしていると言うのが、ここまでの大まかな流れである。

 

 

 

 

「ふぁぁ……眠いな」

 

 十分に眠っていない定助はあくびを一つ。

 暖かな春の朝なだけあり、頭に溜まった眠気を払拭させるのは少し無理がある。あくびの涙を指に擦り付け拭き取り、石鹸の泡が満ちる桶の中へまた手を突っ込み洗濯を再開する。

 

「それにしても学院に盗賊だなんて、物騒ですよね」

「うん、そうだね……えーっと、何て名前だったっけ……」

「『土くれのフーケ』ですよ、ジョースケさん!」

「あ、そうそう、それ……アレが『土くれのフーケ』かぁ……」

 

 昨夜の襲撃者について、宝物庫への攻撃方法からして周知となっていた。

【土】系統『トライアングル』クラスの魔法を行使し、貴族の宝を盗んだ上に、現場に残った『サイン』……この数々の要因により襲撃者は街を騒がす大盗賊『土くれのフーケ』で間違いないとされた。

 

 

 何でもフーケの侵入方法には、パターンがあるそうだ。

 こっそり潜入し宝物庫の壁を土くれに変え、沈黙の中にて盗みを働く場合と、今回のようにゴーレムを使役し、一気に進撃する場合。

 静と動の全く違った両面的なフーケの盗みは、そのせいもあって行動が読めないと言うのが悲しき現状。

 またそれ以外でも、場合によっては多種多様な方法を行使してくる為に、手の施し様が分からなくなってしまう。顔も分からず、男なのか女なのか……正体不明の盗賊である。

 

 

「シエスタちゃんさ」

「はい?」

「フーケって、どう思う? 誰だと思う?」

 

 定助の問いに、シエスタは困り顔のまま笑いつつ、首を振った。

 

「そんな、私に分かるハズがないじゃありませんかぁ。それに、一番フーケに近付いたのは誰であろう、ジョースケさんですよ?」

 

 何処から情報が渡ったのか……恐らく、平民である衛兵達が広めたのだと思うが、定助がゴーレムに乗り、死の崖に飛び込むが如く果敢にフーケに挑んだ事は平民達の間でこれまた、周知となっているようである。

 一夜しか経過していないのに、噂の力と言うのは恐ろしい物だ。

 

「そなんだけどね。でもオレェ、フーケとかの予備知識ないから」

「例え予備知識あったとしても、正体まで分かる訳ないですよー!」

「まぁ、そうか。それで分かったならホームズもビックリだよね」

「ホームズ? どなたですか?」

「名探偵だよ、本の世界のだけどね……まぁ、どう思う?」

 

 シエスタは顎に手を置き、「うーん」と唸りながら自分の考えを纏めている。

 

「やっぱり、盗賊ですから、泥棒はいけない事です。私は駄目だと思うのですけどね」

「そうそう! オレも同意見!」

「でも私達、平民の中ではフーケを『義賊だ』と言って英雄視している人もいますよ? フーケの対象は貴族だけなので、平民にとったら清々しい事だと……」

「はぇ〜……あぁ、そうなんだ」

 

 定助の中でフーケのイメージは、丁度『ロビンフッド』のような感じかなと思った。

 日々貴族に虐げられている平民達にとって、一人の盗賊にてんやわんやとなっている貴族達の様子が面白おかしいのだろう。こう言った事件を取ってもやはり、賛否は互いの立場によって分かれている。

 

「だとしても、盗みは駄目ですけどね」

「そうだ。盗みは絶対に駄目!」

「もう、ジョースケさんったら! さっきから『そうだそうなんだ』って、『そうそう』ばっかり!」

「あ、そうだった?……あぁ、また言った」

「あははは!」

 

 眠気で頭が回っていないのか、便乗と疑問の言葉しか出せていない。

 そんな彼のオトボケ具合を見て、シエスタはおかしくなったようで笑った。やはり彼女の笑顔は魔法だ、こっちもこっちで楽しくなって来る。

 

 

「良し、終わった」

「こちらも洗えましたよ!」

 

 話し終えた頃には、二人共洗濯を終えていた。定助は段々手際良くなって来たとは言え、シエスタにとったらまだまだ未熟であろう。

 

「昨日に続いて有り難う。ごめんね? また、お礼をするから」

「いえいえ、私も仕事でしておりますし!」

「うわぁ、アワアワ塗れだぁ」

「そこに溜めてある水で洗って下さいね」

 

 

 では何で、二人は同タイミングでフィニッシュしたのか。

 それはシエスタが洗濯の手を、定助に寄せるように合わせていたからだ。先に下着を洗えてしまえたら、定助が焦って手を早めてしまい、会話の時間が終わってしまう。

 シエスタは策士である、愛らしい笑顔の下には米国大統領のような打算に満ちた一面が隠れている。

 

 

 

 

「でも下着って難しいよなぁ。シエスタちゃんでもそこそこ時間かかっているようだし」

「……あはは」

 

 返答の代わりの苦笑い。

 シエスタは策士である。

 

 

「あ! ジョースケさん!」

 

 すると背後より、誰かの呼び声が聞こえて振り返る。

 そこには、剣を携え軽装の鎧を着た一人の若い男が、忙しない足で近付いて来るのが見えた。

 

「あれは……『衛兵』さんですね」

「そのようだけど……おはようございます! えっと、オレに何か?」

 

 近付いて来る衛兵に挨拶を加え、要件を聞く定助。それにしても衛兵にまで名前を呼ばれるとは、彼の事は『我らが泡』として学院内の平民達に有名なようだ。

 それはそれとし、衛兵は定助の前まで近付くと、二人を見てぺこりとお辞儀した。合わせてシエスタも定助もお辞儀をする。

 

 

「はい、貴族の先生より伝言を貰っています」

「え、貴族から?」

「すぐ、宝物庫まで来て欲しいと」

 

 宝物庫……昨日、フーケの手によって風穴空いた場所である。今頃、ルイズ達が聴取の為に招集されている頃だろうか。

 平民で使い魔の定助には特に声がかからなかったので、お呼ばれされないかと思っていたが。

 

「有り難う御座います。あぁ、じゃあ行くね? シエスタちゃん」

「えぇ。頑張って下さいね!」

「はは、それはお互い様だよ……また後で」

 

 シエスタに別れを告げた後、衛兵の青年と共に定助は宝物庫へと向かうのだった。




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