ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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来週、由花子さんだから今週は遅れます(漆黒の意思)


土塊のメソード。その1

 宝物庫には見事なまでの大穴が開いていた。

 完全密閉の宝物庫で拝める事はないであろう太陽光が、そこから中へと差し込み、保管されている金属製の宝に当たっては乱舞して庫の闇を晴らして行く。暗いハズの宝物庫は、隅から隅まで見渡せる程明るくなっている。

 

 

 そして大穴の傍に残っていた壁には、壁の表面を削り取ったかのような形跡が文字となって羅列していた。

 

『破壊の円盤、領収しました。土くれのフーケ』

 

 このサインこそ、大盗賊『土くれのフーケ』が獲物を頂戴した際に残しておくサインであったのだ。

 

 

「なんと言う事だ……こんな、事が……!」

「他に盗られた物はないか?」

「お、おのれ土くれのフーケめぇ……ッ!!」

 

 宝物庫の中には、フーケ襲来を聞き付けた学院の先生達が集結していた。

 中には空くハズのない壁の穴を見て呆気にとられている者、他の物が盗まれていないか目を光らせる几帳面な者、行方も知らぬフーケに対して怒りを募らせる者と、その反応は種々雑多たる有様。

 つまり、皆パニックの内に振り回されている状態と言う訳である。

 

 

 まだ学院長が来ていない内から、教師達より話が飛び交っていた。

 

「フーケめ! 城下を騒がす、不埒な賊ではないかッ!! とうとう学院を狙って来るとは、何て奴だッ!!」

「よくも! このクソ盗賊がッ!! 学院の神聖なる宝物庫を破壊してくれたなァああああッ!!」

「どー言う事だよ!? どー言う事だよッ!? クソクソクソッ!!」

 

 一人の教師が怒りを露わに怒号を飛ばしまくっている傍で、同じく怒号を飛ばす二人の教師がいる。だが、傍の二人の教師は口も悪く、ブチ切れる時に破壊癖でもあるのか一方は床を蹴り、一方は壁を殴ると言う意味不明な行動を起こしていた。

 

「衛兵は何をして……いや、所詮は平民だッ! 頼りにならんッ!!」

「なら当直は誰だッ!? 当直をサボったド畜生は誰だッ!?」

 

 学院の生徒達は皆、メイジだ。だがそれでも殆どの者が未熟の為、学院を熟練のメイジが襲って来たら太刀打ち出来るかと言われればそれはキツイ話だろう。

 なので、応対出来る熟練のメイジである教師達が寝静まり、蛻の殻も同然な状況となる夜間は、誰か一人の教師が詰所にて見張りをするのが規則である。異常事態を察知し、すぐに対応出来るようしておくのが、仕事でもある。

 

 

 しかしどうやら昨夜は、それが機能していなかったようである。

 

「み、ミスタ・ギトー……一先ず、落ち着かれては……」

「これが落ち着いていられますか、ミス・シュヴルーズッ!? 誰かが当直をサボったせいで賊の進入をみすみす許し、挙げ句の果てには『破壊の円盤』を奪われ逃がす始末ッ!! 失態にもほどがありますぞッ!!」

 

 あまりの『ギトー』と呼ばれる教師の剣幕が激しいので、シュヴルーズは萎縮してしまい「申し訳ありません」と後ろへ下がってしまった。

 そして彼は再び教師らへと目を向け、当直の教師は誰だったかと頭の中で巡らしていた。

 

「確か当直は……」

「誰だ、誰何だよッ!? 正直に言えよクソッ! クソッ!!」

「思い出した……って、あなたじゃないですかッ!?」

「お、おぉ!?」

 

 ブチ切れて、壁を殴っていた教師に、ギトーは人差し指を向けた。眼鏡をかけた、渦巻くような髪型をした男の教師である。

 

 

 この教師、人一倍キレていた割には当直をサボっていた張本人であった訳だ。

 

「自分ですか? 俺だったかァ〜?」

「すっとぼけないで下さいッ!? 間違いなく、あなたでしたぞ!! 何なら当直表を持って来ましょうか!?」

「あ、そうだったかも」

「どうするのですか! あなたの無責任のせいで『破壊の円盤』が盗まれたのですぞ!! 弁償出来るのですかッ!?」

 

 学院長が来る前に、この教師はいつの間にかこの場の議長となっているようだ。

 ここまでの怒号で原因者を糾弾せしめようとする彼の迫力に、他の教師が引き摺られる形となっていた。

 それにこの当直である教師の男の無責任加減、教師の心はギトーの方へと傾いて行く。

 

「弁償たって自分……こないだキレちまって、ここの備品の馬車壊しちまいましてよぉ、その弁償も控えてんですぜ!?」

「それはそれも含めて自業自得でしょ……というか何やっているのですか!?」

「『イーヴァルディの勇者』についてキレて、馬車の内装を殴り壊しました」

「どう言う事ですかそれは!?」

 

 すると男はギョロッとした目でギトーを睨み、自身が馬車を壊す程キレたと言う『イーヴァルディの勇者』について思う所を吐き出した。

 

 

「『ハイベリーの騎士』のタイトルの意味はスッゲェ良く分かる、ハイベリーに住む騎士の話だからな。けど、『イーヴァルディの勇者』はなんだよ!? イーヴァルディつったら、作中の主人公だ! この主人公が勇者なのに何で『イーヴァルディの勇者』ってタイトル何だよッ!? イーヴァルディは最初っから勇者じゃねぇか!? それなら『勇者イーヴァルディ』の方が妥当だろ!? 舐めやがってこのタイトルよぉ〜ッ! クソッ! クソッ!」

 

 良く分からない彼の怒りのポイントに、糾弾せしめてやろうかと踏んでいたギトーはポカンとなるしかなかった。殆ど接点のないハズの人間に突然愛の告白を受けたかのような、唐突に対する呆気とやら。

 

「えー……あー……ゴ、ゴホン! と、兎に角ですねぇ!? えーっと、何の話だったか……あぁ、そうだった!」

 

 勢いに飲まれて一瞬、議題が頭からトコトコと離れかけていたが、何とか彼はつまみ戻せた。

 

「当直をサボり、自室で呑気に眠っていたばかりに賊の進入を許し、まんまと宝を盗まれた事は事実ッ! 全ての責任はあなたにありますぞ!!」

「そんな殺生な事があんのですかァ!?」

「殺生も何もありません! もう『破壊の円盤』は戻って来ないのですぞ!! どう責任を取るつもりですかッ!?」

 

 ギトーの言及と、彼に憤怒と呆れの視線を送る教師達を前にし、少し焦燥を覚えた彼であったが、不服があるようで御家芸とも言えるマジギレを以て全教師の前でぶちまけた。

 

 

「何だ何だァ〜ッ!? 好き勝手言いやがってよぉッ!?」

「なに癇癪起こしているのですか!? 自分の責任を認めたらどうですか!」

 

 指差し、決め台詞が如く言い放ったギトー目掛けて、教師は言い返した。

 

 

「言うがよぉ、ミスタァ!! 当直なんてここにいる教師によォ!? まともにやった奴はいんのかよぉぉ!? おぉ!?」

 

 

 彼のその言葉に、殆どの教師がギクリと肩を震わせ、そっぽを向き始めた。「誰かいないのか?」と言わんばかりに互いを見渡し、「誰か反論しろよ」と押し付けんばかりにアイサインを送る者さえいた。

 ここまで飛ぶ鳥落とす勢いで糾弾を行っていたギトーでさえ、次に言おうとした言葉を飲み込む程に詰まっている始末。

 

 

 

 

「つまりは、そう言う事じゃな」

 

 液体が氷となって凝結したかのように静まり返った宝物庫へと、一言入れた人物が出入り口の扉を潜ってやって来た。

 その人物とは誰であろう、このトリステイン魔法学院の学院長であるオールド・オスマンだ。

 

「誰もが油断しとったと言う訳じゃ。それもそのハズ、ここはトリステインが誇る魔法学院……悪い言い方じゃが、メイジの巣窟。そのような場所に盗みを働こうなどと考える輩はおらんじゃろうに」

 

 口調は柔らかく、しかし真では尊厳は雰囲気を醸し出しつつ、オスマンは話して行く。

 

「だが、えぇと……『土くれのフーケ』じゃったな。フーケはその、『ここに盗みなどする者はおらぬ』と言うワシらの油断から脆弱箇所を突き、宝物庫を破壊し、『破壊の円盤』をまんまと奪って行ったと言う訳じゃ」

「し、しかしオールド・オスマン……彼が当直でして……」

「さっき彼が言った通り、油断をして当直を真面目に取り行っていた者はいなかろうに。つまりは誰もが、この責任をおっ被る事になっとった状況であって、彼がハズレくじを引いたに過ぎないのじゃ。根源的な理由は全て、ワシも含めた皆の油断による責任だと考えねばならぬであろう? ミスタ・ギトー」

「…………」

 

 

 オスマンの静かながらも厳格な語り口に、反論しようと思う者は出てこなかった。皆、恥じるように顔を伏せるばかりだ。

 責任を押し付けられかけていた、当直だった教師は心の錠前が消えたかのような清々しい表情で、オスマンに一礼し、感謝を申した。

 

「御慈悲の程、感謝致します! あぁ、この恩は一生忘れません!!」

「あ、でも君が壊した馬車の分は耳を揃えて弁償してもらうぞ?」

「ですよねェ〜」

 

 

 責任がとやかくの話は終結し、次の話題へ移るべくオスマンは「さてと」と呟いた。

 そのタイミングでコルベールが宝物庫へ入って来る。

 

「責任とかはこの際どうでも良い。重要なのは、フーケについてじゃ。昨夜、フーケ襲撃時に目撃者として、犯行の一部始終を見ていた三人を呼んでおる」

 

 コルベールに連れられる形で出入り口から顔を出したのは勿論、ルイズ、キュルケ、タバサの三人であった。

 

 

 三人はコルベールの後ろで一列に並び、教師達の前で立ち止まると礼儀正しくお辞儀をした。

 オスマンもそれに応じる形で一礼をした後に、早速本題へと移るべく彼は声をかけた。

 

「それでは、詳しく説明してくれたまえ。えぇと、ミス・ヴァリエールや」

 

 するとルイズは少し、紛つくように目線を落とした。

 

「えぇ……何処から説明すれば良いか……」

 

 正直、彼女にとったら少し答え辛い内容でもある。

 

 

 まさかキュルケと定助に関して喧嘩になり、決闘としてゲームを行っていた所を……なんて口が裂けても言えない訳である。と言うかこの話じゃ、男の取り合いでの諍いのように聞こえてしまい、穴でも掘って潜り込んでしまいたい程恥ずかしい気分になる。

 その延長線上としてフーケの襲撃を目撃したなんて、言えまいだろうに。

 

「見たままの出来事を聞かして貰えんかの。フーケは如何にして現れ、如何にして去って行ったのかを」

 

 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、フーケ登場時からを話すようにオスマンは言ってくれた。人知れずルイズはホッと、一息吐いた。

 

「突然、巨大なゴーレムが現れて、そこに壁に穴を開けたのです。ゴーレムが作り上げられたのは少し離れた所でして、そこから塔に向かって進行を始め、最後は拳による打撃を行使して破壊してしまいました」

「フーケの特徴は、見てやせんかね?」

「……いえ、申し訳ありませんが。ゴーレムの肩に乗っていたのでかなり離れていましたし、まず黒いローブを着ていたせいもあって男性か女性かも分かりませんでした」

 

 少し申し訳なさそうに、ルイズは当時を思い出しつつ話して行く。

 フーケの特徴は分からないと言った瞬間に、教師達は落胆の表情を見せた。

 

 

「そして空けた、その穴から宝物庫に侵入して、『破壊の円盤』を盗み出したかと思われます。懐に入れたか何かで、円盤の確認は出来ませんでしたが……それでまたゴーレムの肩に乗り、最後はゴーレムを一気に崩して行方をくらませてしまいました。ここまでで以上です」

 

 これでルイズ達の見た犯行の一部始終は語り終えた。

 話を聞いたオスマンは難しい顔をして、何か気になる点でもあるのか髭を撫でつつ、「ふぅむ……」と一回唸った。

 

「ゴーレム崩壊による土煙を利用し、逃げたと言う訳じゃな?」

「はい。恐らく、そうかと」

「しかし、何故そんな事を? 歩かせて、殴る事も出来るのなら、ゴーレムを使用して城壁を抜けた方が楽であろうに……」

「…………」

 

 その疑問について、思う所があるようだが、思わずルイズは口籠った。

 

「ん? どうしたかね? 何か言いたげな表情ではあるが」

「あー……いえ、それは多分……」

 

 言い辛そうにしている彼女に痺れを切らしたキュルケが、ルイズの言葉を代弁するかの如く喋り出した。

 

 

「ミス・ヴァリエールの使い魔が、フーケが宝物庫から出た所で無謀にも挑んだのですわ。結局はゴーレムから落とされてしまっていましたが、彼の執念深さを感じてゴーレムによる移動を諦めたのではないでしょうか?」

 

 それを聞きオスマンは、驚いたような表情でキュルケを見た。

 

「フーケに挑んだじゃと!? ミス・ヴァリエールの使い魔が!?」

「その通りでありますわ。なので、フーケの特徴に関してでしたら、彼の方が詳しいかとは思いますが」

 

 教師達の中でどよめきが立った。それもそうだ、一応は『平民』と言う事になっているルイズの使い魔……定助がフーケに立ち向かったのだから。メイジに対し、平民が立ち向かったと言う訳だ。

 ルイズは少し、恥ずかしげな表情なのは、自分の使い魔が騒がしている事に関してだろう。それはそれとしてオスマンはコルベールを一瞥し、合図を送る。

 

「すぐにミス・ヴァリエールの使い魔を呼びに!」

「畏まりました」

 

 出入り口の傍らで警護をしていた衛兵に対し、コルベールは定助の呼び出しを命じた。定助が平民達の間で有名である事は、コルベールは知っていたのであった。

 

「それなら洗濯場に行けばいいわ。今朝、ジョース……私の使い魔を洗濯に行かせたから」

 

 早速探しに行こうとする衛兵に対しルイズは、すぐに定助を見つけられるように彼の居場所を補足しておいた。

 なお、一瞬だけ『ジョースケ』と言いかけたが、先生達の前である事を思い出して言い換えている。平民をファーストネームで呼んでいる事に、今更ながらの気恥ずかしさを感じていた。

 衛兵はルイズに感謝を申し上げると、すぐさまその場を後にして定助を呼びに走り出した。

 

 

「しかしフーケめ……学院に手を出すとはけしからん!」

「もう逃げてしまったのか?」

「門番が気絶させられていた。そっから逃げたのだろう」

「全く! これでは王室に顔向け出来んぞ!」

 

 教師達は口々に文句を言い合っている。

 その様子を、定助が来るまでの暇潰しがてらに眺めていたルイズに対し、隣のキュルケが面倒そうな表情で愚痴を零した。

 

「はぁぁ……朝早くから疲れるわ、全く」

「先生方の前よ、黙ってなさい」

「堅物ねぇ、ルイズ……はぁ、こうなるのだったら、あんたとアホみたいな決闘なんてしなけりゃ良かったわ……」

「……元を辿れば、あんたが撒いた種じゃあないの。私は悪くないわよ」

 

 大声で宝物庫中に渡り合う教師達の声の中では、二人の会話は誰の耳にも届きまい。互いは互いを横目で睨み付けて、憎まれ口を叩き合うのみ。

 隣のタバサは表情一つ変えず、日和見するかのように皆を眺めていた。

 

 

 その間、オスマンは宝物庫をキョロキョロと見渡し、誰かを探している仕草を起こしていた。

 暫くしてからその誰かが見つからなかったようで、隣にいた、さっきまでキレながら床を蹴っていた男性教師に尋ねる。

 

「すまんが、ミス・ロングビルは知らんかの? 朝から姿を見とらんのじゃ」

「ミス・ロング……ビル…………すみませんが、あなたの期待は満たされないでしょう。私も彼女を見ていないのです」

「この非常時に何処へ行っとるのじゃ……」

「オールド・オスマン。ご要望とあらば、ミス・ロングビルを確実に追い詰めてお連れして来ましょうか……?」

「……君はいちいち物騒な事を言ってイカン。まぁ良い、ミスの事だからその内来おるじゃろうて」

 

 

 

 

 様々な感情やらが飛び散る宝物庫にて、衛兵がやっと戻って来た。

 

「お連れしました!」

 

 彼の声が聞こえたと同時に、宝物庫にいる全ての者の視線が出入り口に集中する。

 白い帽子と変な服の、ルイズの使い魔が登場したのだ。

 

「あー……えと、失礼します」

 

 妙に威圧の感じる視線の数々と、深刻な空気で満ちている宝物庫内の雰囲気に飲まれて、やや萎縮した状態で定助は出入り口を潜った。

 そこから一、二歩進み、目の前にいる教師達全員に対して一礼をする。

 

 

「ふむ……君がミス・ヴァリエールの使い魔じゃな?」

 

 まずオスマンが定助に声をかけた。

 向ける視線に、好奇と興味の念がある事に定助は違和感を覚えたが、そんな事はどうでも良いだろう。オスマンの言葉に、定助は返した。

 

「はい、初めまして……使い魔の、東方定助と言います」

「『ヒガシカタ・ジョースケ』? 珍しい名前じゃのう……まぁ、兎に角肩の力を抜きなさい。君に話を聞きたいだけじゃからの」

 

 定助は目の前の老人が、学院長とは分からないのだが、物腰が柔らかく、しかし尊敬な雰囲気を感じ取り偉い人だと言う事は察知出来た。

 優しげに微笑むオスマンに対し安心でもしたのか、定助は一呼吸吐いた。

 ルイズもルイズで、丁寧に応対する定助に安心している様子だ。

 

「今回、フーケが宝物庫を破り、宝を盗んだ事は知っておるな?」

「存じております」

「それで、今はフーケ襲来時の状況について整理をしている時なんだが、何でも君はフーケに挑んだそうではないか」

「…………はい」

 

 少し苦い顔を、定助は見せた。ルイズとキュルケの説教がフラッシュバックでもしているようだ。

 

「その時の様子を聞かせてくれんかの? 今この中で、君が一番フーケに近付いた人間じゃからの」

「分かりましたが……言う程太刀打ちした訳ではありませんし、参考になるかは知れないのですが」

「構わんよ」

「では……」

 

 

 それから定助は、教師達の鋭い視線が集中的に突き刺さる中で昨夜の事を話して行った。

 タバサの使い魔から自主的に落ち、ゴーレムの頭部に着地した事。そこからフーケの戻って来た所を突いて不意打ちした事。しかし存在がバレてしまい、足を磔られて落とされ事まで包み隠さず話した。

 ただ、隠した所と言えば、『ソフト&ウェット』の存在の事のみであろう。

 

 

「フーケの素顔は見とらんか?」

「……申し訳ありませんが、フードを深く被っていた上に夜間と言う事もあって……」

「ぬぅ……そうか……」

 

 結局はやられ損ではないか。

 定助が平民であるだけに、その失望の念はこれでもかと露呈させられ、教師の中には忌々しく舌打ちする者さえいた。

 

「……はぁ」

 

 いつの間にか定助一人が悪者にでもなったかのような雰囲気になり、ルイズは溜め息の後に寂しげに俯向くのだった。

 

 

 

 

「参考までにですが、フーケの身長は百六十八……か九かそこら。あぁ……あとローブ上からでしたけど、体の曲線が女性的でしたね」

 

 次に発した彼の報告に、場の空気は一転してギョッとなった視線が定助に向けられた。

 

「身長を測っていたのですか!?」

 

 耐え切れず、ルイズらの隣に控えていたコルベールが声を荒げた。

 対して定助は、頷いて肯定する。

 

「ゴーレムの肩の上で不安定でしたけど、一応フーケと同位置に立てましたし、自分の身長から逆算して。それに少なからず風が吹いていまして、それがフーケのローブを靡かせて、体に密着した時が偶にありましたので。胸があり、丸い感じだったと…………はい、思います」

 

 途中、定助はまたフラッシュバックを起こした。それは、キュルケとの『あの夜』である。

 恥ずかしくなって言葉を一瞬詰まらせたが、全然自然体で話せた。

 

 

 定助の洞察を聞き、オスマンが賞賛するように笑った。

 

「ホッホッホ! 素晴らしい洞察力じゃ! お手柄じゃよ、えぇと……ヒガシカタ君?」

「こ、光栄です。はい」

 

 名前を呼ばれ、猫のように反射としてピンと背筋を伸ばした。

 ルイズも何処か、嬉しげな表情へと戻っている。

 

「それが事実だとすると、フーケ女性説が浮上したのう」

「オールド・オスマン、平民の話を間に受けるのですか!?」

 

 異議申し立てをする教師がいたが、オスマンはそれをキッと睨み付けて粛した。

 

「この際に平民も貴族もなかろうが……それとも君は何か、フーケについて知っている事でもあるのかね?」

「え、いや……その……」

「貴族至上主義なのは良いが、先に言った通りフーケに一番近付いたのはヒガシカタ君じゃ。彼の発言を尊重して、何か変な所でもあるのかね? ん?」

「……申し訳ございません、詭弁でした……」

 

 教師は居心地悪そうに、後ろへ下がって行く。

 

 

 

 

「へぇ……ジョースケ、活躍したじゃない?」

「……ふん、ここまでして貰わないと私の使い魔は務まらないわよ」

「素直じゃないわねぇ……さっきの嬉しそうな表情は何処よ?」

「……それ以上言っていると、叩くわよ」

 

 そんなキュルケの言葉にさえ、嬉しそうなのだが。

 

 

 すると、廊下を鳴らす忙しない足音が聞こえ始め、何事かと振り返ってみれば、オスマンの秘書であるロングビルがやっとこさ現れたのであった。

 

「遅くなりました、申し訳ありません!」

「ミス・ロングビル!? 何処に行かれていたのですか!? 非常事態ですぞ!! 天変地異ですぞ!!」

「天変地異は言い過ぎかと……」

 

 遅れたロングビルに対し、コルベールが興奮した様子で話しかけた。

 しかし彼女は何処か、冷静な様子で小脇に抱えていた書類を取り出したのだった。

 

「ミス、それは?」

「フーケ襲来と聞き、朝から調査に出ていましたので」

「調査……ですか?」

「はい。近辺にフーケの目撃者がいないかと、聞き込みをしておりました。これはそれらを纏めた書類です」

 

 天才漫画家も驚きな程、状況把握の早さと仕事の早さ。オスマンとコルベール含め、教師達から賛美の言葉が挙がった。

 そしてロングビルはその書類の中から一枚を取り出し、それを見やった。

 

 

「結果と致しまして、フーケの居場所が判明しました」

「なんだってェェーーッ!?」

 

 何故か眼鏡の教師が大袈裟に驚いてみせたのだが、それに劣らず教師達……そして定助達も含めて驚きの声があがった。




ややジョジョ色強め、定助ハイスペ強め。失礼しました。
切る所に迷いましたが、ロングビル登場シーンで切らせて貰います。話を切る……ふふふ
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