新作も同時進行的に書いていますので、また鈍化しそうです。
5/19→外伝「TABITHA BIZARRE ADVENTURE」の新話を投稿しました。目次上部へどうぞ。
ロングビルの報告を聞いたオスマンが、彼女に次を急いで促した。
「それで、得られた情報とは? 誰からの情報じゃ?」
すぐさま彼女は、秘書らしい業務的な声色で、纏め上げた報告書を見ながら本文に入る。
「はい。目撃情報を持っていたのは、近在の農夫です。近くの森の廃屋に入って行く、黒いローブの怪しい人影を見たとの事です」
「確かか、それは!」
「人影の詳細も受けております」
次にロングビルの口から出よう、人影の特徴と身なりに定助も耳を傾け注目していた。自分が見て、提示した情報に合致するのかと気になっているからだ。
その他、彼の心理とは違えど、殆どの者も知りたい欲求から若干前屈みになり、彼女の言葉を聞き漏らすまいと静聴していた。さっきまでの騒然とした宝物庫内とは打って変わり、日の出の静けさのような沈黙が皆を飲み込む。
心待ちにされているロングビルの報告は静けさの中で響く、水面に落ちる雫の音のような風に見えた。
「黒ずくめのローブを着用した、『男』の姿との事です」
「…………なに?」
その声を出したのは、自身の情報との食い違いに動揺している、定助であった。それはオスマンも同様であり、考え込む様子を見せていた。
「ミス・ロングビルや」
「……何でしょうか?」
「確かに、黒いローブの『男』と聞いたのかね?」
再度オスマンは、確認するかのように聞き返すが、ロングビルは「嘘はない」と言うような凜とした目で頷きつつ、「はい」と肯定した。
定助は首を傾げる。
「どうなさいましたか?」
「……いや。つい先程、フーケと対峙したミス・ヴァリエールの使い魔君がのう? フーケの特徴を話してくれたのじゃ」
「フーケの……特徴、ですか?」
驚いているのか、途切れ途切れに言葉を続けて彼女は、定助をチラリと一瞥した。
ロングビルとは初対面なので定助は反射的に、一礼をする。
「フーケの身長は百六十八サント、及び肉体型が女性型と言って貰った所じゃ」
「…………!」
ピクリと、ロングビルの片眉が上がった。動揺しているとも、興味を示しているとも見える挙動だ。
所でオスマンの言ったセンチメートルの単位が『サント』である。そう言えばここまでcm、m、kmを聞いていない。ここではこの単位以外に別の単位を持っているのだろうかと、定助はやや場にそぐわない疑問を持った。
それは兎も角、定助は困惑する。自分は『フーケは女性っぽい』と思っていただけに、目撃情報の食い違いには疑いを持たざるを得なかった。
「えっと……ミス、ロングビル……さん?」
「へ? あ、どうなさいました?」
堪らず定助は、ロングビルに疑問を投げ掛けた。
「確かに……『男』と……こう、伺っているのですか?」
彼女の発言と表情は変わらない。
「……えぇ、確かに聴取し、ここに書きましたわ。その場で行った事ですので、間違いはないかとは思いますが……」
「……そう、ですか」
嘘はないと捉えた定助は、それ以上の問答を取り止めた。
定助の情報とロングビルの情報とが合致せず、どっち付かずの狭間にて互いに引かれ合っているオスマン含めた教師達は、眉を顰めて検討しかねている様子だ。
「男なのか? 女なのか?」
「どーゆー事だよチクショーッ!? フーケは二人いるのか!?」
「どっちを信じれば良いのだ……」
議論し合う教師達に向かって、先程に定助の情報へ異議を唱えていた教師が唾を飛ばして食い付いた。
「平民の情報なんかより、ミス・ロングビルの情報の方が確かだ!」
「ですがミスタ、彼はフーケに対抗した唯一の人です。信憑性は高いかと……」
「結局は平民だ! 平民なんかに、そのような技術があるものかッ! 全く、平民は出しゃ張るんじゃあない!」
「し、しかし……はぁ」
定助の事を授業で知り、少なからず隅に置いているシュヴルーズは擁護してくれた。しかしながら、熱くなり聞く耳持たなくなったその教師の様子を見て、シュヴルーズはとうとう口を閉ざしてしまった。
指を差され、「出しゃ張るな」と怒鳴られた定助はただ、ぺこりとお辞儀し、謝罪の意を示した。示しただけであり、言葉に出していない所は、彼も完全に謝罪の意を持っていない証拠なのだが。
(偉そうに……)
こう、心で毒を吐いたのはルイズであった。
定助にやり返してやったと言わんばかりの、してやったり顔の彼を見て、静かに怒りを募らせていた。
(ミス・ロングビルの情報だって、平民経由じゃないの)
彼女の立場もあるので思っても口には出さないが、見るからに不機嫌な顔は隠し切れていないようで少々、ムッとしている。
沸き起ころうとした議論を「まぁまぁ」と止めたのは、やはりオスマンであった。
「男か女かはこの際良い。事実としては、怪しい人影が森の廃屋に入って行ったとの目撃情報がある事じゃ」
「ここから徒歩で半日……馬なら四時間の距離です」
すかさずロングビルは、場所を補足として追加した。良い意味で抜け目ない彼女の手腕に、オスマンは敬意を表するように「有り難う」と一礼をする。
場所を聞き、コルベールは熱い口調で発案した。
「オールド・オスマン! ここは、王室騎士隊を要請致しましょう! フーケを袋のネズミにするのです!」
「馬鹿者ッ!!」
幾人からか「それが良い」と声のあがったコルベールの案は、オスマンの一喝によって却下される。
その迫力や、先程の好々爺な印象から全くの真逆であり、定助もルイズもビクリッと不意に羽ばたいた鳥に驚くように畏縮した。
オスマンは続ける。
「相手はかの大盗賊、一つの所に呑気に留まっておる程の輩ではあるまいじゃろうがッ! 王室に使いを送っとる間にフーケは逃げてしまうわいッ! それにすぐ王室頼みとは……それでも貴族かッ! 学院の宝が盗まれた、これはこの学院の問題であろうッ!! 自身の身に降りかかった火の粉を払えぬようで、面目と言う物を感じやせんのかッ!!」
「しかしオールド・オスマン、フーケのゴーレムは宝物庫を破壊する程のパワーを持っています! 一筋縄では行きません!」
「そうであってもじゃろうがッ!? 先にワシは、『責任は皆にある』と言った。貴族が責任を放棄するなんぞ、風上にも置けんッ!!」
オスマンの怒号に混じった貴族論に圧倒され、コルベールは口を紡いだ。それは、他の教師達も同じのようで、彼に異議を申し立てる者はいなくなったのだった。
「す、凄い人だなぁ、あのお爺さん……」
「お爺さんって失礼よ! あの人こそ、ここの学院長なのよ」
「……えっ、そうなのぉ!? はぁ、納得……」
小言で関心する定助に、ルイズはオスマンが学院長である事を告げてくれた。
確かに学院長と言われても良い器の立派な人だと、定助は驚きの後に尊敬を抱くようになる。
怒鳴ってしまい、少しばかり冷めた場を一転させる為オスマンは咳払いを一つした。
「という訳で、フーケの捜索に向かってくれる有志を募ろうかのう。我こそはと思う者、杖を掲げるのじゃ!」
オスマンが声を張り上げ、捜索隊の編成を行おうと呼び掛ける。
しかし、
「……えぇと……」
「………………」
「いや、私は…………」
「…………こ、こほん……」
……誰の杖も上げられる事は無かった。
ギトーもシュヴルーズも眼鏡も誰も、教師達は互いをチラリと見やり、どうしようかを考えあぐねている様子なのだが。分かる事は、行きたくないのだなと言う、静かながらの拒絶の意思だろう。
オスマンの表情に、先程の険しさが返して来る。
「……なんじゃ? 誰もおらんのか?」
「その……えぇと……」
「大盗賊、土くれのフーケを捕らえて名を上げようとする貴族はおらぬのか!?」
「………………」
宝物庫いる全ての教師を見渡すが、やはり誰一人としてアクションを起こす者はいなかった。
言えど土くれのフーケは、貴族を怯えさせる程の魔法技術を所持している故に『大盗賊』としての地位に立っているのだ。
更には強固なハズの宝物庫を破る威力を控えたゴーレムを操る。この手腕は並のメイジを遥かに凌駕する、恐怖に値した力。これに真っ向から立ち向かってやろうと言う勇気と気力なんざ、常人なら持てる訳がないのである。
「全く、嘆かわしい……」
ポツリと、オスマンでさえも耐えられずに文句を呟く。ここまで来たとしても、だれも杖を掲げないのだが。
定助は少し悲しげに、ルイズの方を見やる。彼女は何故か、俯いていた。
「……はい。志願致します」
沈黙に消え入ろうとする宝物庫の中で、星の光のように一際輝く声が響いた。
聞き覚えのある声、定助の視線の先で杖を掲げた、少女の真っ直ぐな表情があったのだ。
「み、ミス・ヴァリエール!?」
「な、何ッ!? 聞いていなかったぞ……」
シュヴルーズと長髪の教師より、驚きの声があがれば、それを発端として教師陣よりどよめきが立つ。
杖を掲げ、凛とした空気を纏うはルイズである。
「流石、ご主人ッ!」
定助は待っていました、と言わんばかりにすきっ歯を見せて喜んだ。彼は彼女の決起を、待っていたのだ。
「どさくさに紛れて杖を揚げたな、ミス・ヴァリエール……無駄だ、生徒がフーケに勝てない」
「でも、誰も掲げないじゃないですか」
「………………」
「そうでしょう?」
「……き、貴様何ぞにぃぃぃ……ッ!!」
諭そうとする長髪の教師を、ルイズはド正論で丸め込んだ。手足が太陽光で蒸発したかのような苦悶の表情を浮かべ、教師はルイズを睨むが何て事ない。ルイズは平然とした顔で、杖を一点の曇りなき高潔なる精神の元に掲げているのだ。
彼女の表情と言うのは、決意を秘めているだけに険しい。だがその険しさと言うのは、いつも定助に怒っている時の表情とは違い、暗黒に立ち向かう騎士のような気高さのある、険しい表情だった。
彼女の強情な性格はある意味で、芯を曲げない率直と誠実へと繋がる。もう誰も、彼女を説得出来る者は存在しないだろう。
「ルイズ、止めといたら?」
そんな彼女に、キュルケから引き止めの声がかかる。勿論、ルイズの考えは不変として確定しているのだが。
「言っとくけど、ツェルプストーの助言なんか聞き入れてあげないから」
「……はぁ、何でトリステインの女はこうも堅物なのかしら?」
「トリステインもゲルマニアも関係ないわよ……」
「仕方ないわねぇ」
もう一人の杖が上がった。
気怠げな表情でそれを上げたのは、キュルケである。ルイズはそんな彼女をぽかんと見ていた。
「み、ミス・ツェルプストーも!?」
コルベールから驚きの声をかけられるが、キュルケは拗ねたような声色でこう応える。
「ヴァリエールには負けられませんわ」
「おお!」
「……二重の意味でね? ふふっ!」
「おー……」
キュルケ参戦を喜ぶ定助だが、こちらに熱のある視線を送りつつ彼女の得意な含ませる語り口、定助はタジタジと苦笑いへ表情を変えた。またルイズの不機嫌な表情が浮き彫りになった。
「あんた何かについて来て欲しくないわよ!」
「あなた一人だと、彼が危険だわ〜」
「……ぎぃぃッ!」
食ってかかるルイズだが、定助が「まぁまぁ」と宥める。
しかし彼女の技術は素晴らしい戦力となるであろう。まだ修行の身ではあるのだが、彼女はギーシュと同じくスーパールーキーの類に入る力量であるのだから。
「……私が、後ろを振り向いた時……オマエは杖を下げる…………」
「下げませんから」
「ド畜生がぁぁぁッ!!」
長髪の教師がまた絡むが、軽くあしらわれて終わった。ブチ切れた彼は、床を犬でも蹴り飛ばすかのように蹴っている。
彼の様子にドン引きなキュルケであるが、目の端に動きを見つけた。
そこへ視線を向けると、ロッドを持って腕を伸ばすタバサの姿が。
「……もしかすると、君も……?」
恐る恐る聞くコルベールに対し、タバサはこくりと頷いてみせた。
驚いた顔をしたのはコルベールではなく、隣のキュルケである。
「タバサも、行くの?」
「…………」
「別にあなたは関係ないけど……」
「……心配。放っておけない」
短く彼女は、そう言った。
多くは語らない上に、考えも読めないタバサではあるが、今回だけは感じ取れるものがあると言う。一見、虚無主義的な彼女なのだが、友人を放っておける程に心がない訳ではないのだ。
「……ふふ、有り難うね。タバサ」
「…………」
そんな彼女に、キュルケは微笑みながら感謝を述べるのだった。
「…………ぐぬぬ……!」
何故かルイズとキュルケに食ってかかった長髪の教師は、タバサにだけは黙る。いや、どうせあしらわれるだろうと不貞腐れたようだ。
その隣、学院長のオスマンはニコリと笑っていた。
「 頼もしいのう! では、この三人に頼むとしようか」
「お、オールド・オスマン! 私は反対です!」
「そうだぜチクショぉッ!! 生徒に行かせるなんざ、川に馬車で突っ込むほど危険だぜぇ!?」
シュヴルーズと眼鏡の教師が猛反対の抗議を起こすのだが、それもオスマンの静かな一言で宥められる事となろう。
「ではお二人方、君達が代わりに行くかね? どうじゃ?」
「……わ、私は体調が……」
「……自分は、その……何か、首の後ろにナマ、ナマ……生暖かい感触が取れないので……」
口を閉じた二人を見てオスマンは、「安心せい」と微笑み、言葉を投げかけた。
「君らは彼女らをどうやら見くびっているようじゃが、ミス・タバサはこの歳で、『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士じゃ。技量で言うなら申し分無いじゃろうて!」
それを聞き、場の誰もがどよめきタバサに注目した。
タバサと親友であるハズのキュルケでさえも、この事を知らなかったようで、彼女を見つめて驚いている様子だ。
パッとしていないのは、定助だけのようだが。
「『シュヴァリエ』? 彼女、チーズかシャンパンの普及に貢献したの?」
「あんたの中で『シュヴァリエ』ってどんな位置付けなのよ!?」
「チーズとシャンパンの団体が、普及貢献した人を讃える為の称号って、聞いた事ある」
「知らないけどそっちは、商業団体の偽物よッ!! と言うか、それ覚えていて元の意味忘れるなんて、どう言う事よ!?」
突拍子なく、相変わらずの頓珍漢振りを発揮する彼に頭が痛い。この感覚も、何だか久し振りな感じがするのだが。
兎に角も、知らないと言う彼に対し、『シュヴァリエ』の称号を持つ凄さを説明せずにはいられなかった。それは、真面目な彼女だからこそ。
「良く聞いて。『シュヴァリエ』の称号は、王室から授与される爵位の一つよ」
「へぇ! 国民栄誉賞か!」
「何よその賞は……続けるわ。位としては最下級だけど、勿論授与されるまでは簡単じゃないわ。それを、あの子の年齢で手に入れているのが凄いのよ」
「入団一年目でMVP獲得するような感覚で良い?」
「MVPって何なの……って、説明しているから黙ってなさいッ!……殆どの位はお金の力で手に入る物もあるわ。けど、『シュヴァリエ』は『実力』でしか手に入らないの。つまり、技術と力量が秀でた者じゃないと手に入らない『実力の称号』なのよ!」
つまり……いや、つまりも何もルイズが説明し尽くしてくれたのだが、タバサの実力はここの教師達に肩を並べるか、勝っているかだと言う事なのだろう。
前から尋常じゃない人物だとは思っていたが、ここまでの魔法の使い手とは思っても見なかった。それはルイズよりもキュルケの方が衝撃が大きいだろうに。
「タバサ、本当に『シュヴァリエ』なの?」
「……嘘はない」
「へぇ! でもタバサって強者の雰囲気ってのがあるから、思えば驚かないかも!」
「…………」
そう言うキュルケだが、彼女も彼女でまた、タバサ程ではないが相当の手練れである事がオスマンの口から知れるのだ。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアにて優秀な軍人を多数輩出した家系の出じゃろう。それに、彼女の炎の魔法は強力で、上級生さえも怯えさせる程らしいと聞いた。ツェルプストー家に相応しい、炎の使い手じゃ」
「うふふ! お褒めに預かり、光栄ですわ」
キュルケは髪を掻き上げて、情熱的にアピールする。無論、そのアピール先は定助だろうに。
「へぇ、キュルケちゃんとこって、軍人一家なのかぁ」
「……ふん。何て事ないっての……」
「まぁまぁ……」
賞賛されるキュルケを見て、ルイズは面白くなさそうに下唇を突き出して拗ねている。
しかし次は、自分が褒められる番だと、彼女は胸を張り、期待の眼差しでオスマンを見た。
だが彼女の期待とは別に、オスマンは少し困ったような表情を浮かべていたのだが。
「……えぇと……」
これまでの彼女の軌跡を、オスマンは思い出していた。
爆発で教室破壊、以上である。これは困った、褒める所が全くない。
「ゔーん……あー……」
オスマンは表情の裏に動揺を隠すのだが、純粋に期待するルイズの目を見て更に焦燥に駆られるのだ。何とか彼は長年鍛えた脳を必死に稼働させ、ルイズの褒める点を、遺跡にある鍵を探すかのように絞り出した。
「そ、そうじゃそうじゃ……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出した名門貴族の……えぇと、ヴァリエール公爵の息女で…………あぁ、成績も優秀で将来有望なメイジ!……と、聞いておる」
何とか言葉を選んだ、と言う風の、ちょっと無理のある評価点だ。この無理のある感じがツボに嵌ったのか、キュルケは隣でクスクスと笑っている。
これは流石に駄目じゃないのかと、チラリとルイズ見たオスマンだが、当の本人は頰を赤らめて喜んでいる様子だった。定助も「何か凄いんだな」と言う認識で、主人と共に喜ぶのだ。
「あぁ、そうじゃッ! 彼女の使い魔じゃッ! ミス・ヴァリエールの使い魔は平民でありながら、あのグラモン元帥の子息、ギーシュ・ド・グラモンとの決闘で勝利したとの噂ッ!」
「……オレェ?」
今のでは不十分かなと思ったオスマンは、定助の事を思い出し、ルイズの使い魔と言う延長線上だが彼を褒めるのだった。
「それに彼は、何と言えどフーケに挑んだ男。フーケに対し、何かしらの動揺を与えられるかもしれぬ。もしかするなら、引けを取らぬ力量を秘めておるかも……な!」
「有り難う御座います……って、事は……」
定助は自分を指を差した。
「え、じゃあ、自分も参加ですかぁ?」
間抜けな声でオスマンに確認取ろうとする定助に、呆れ顔のルイズが話しかけた。
「あんたは私の使い魔だから、強制参加よ」
「そっかそっか、そだった……なら良し! 頑張るぞッ!!」
掲げる物を持っていないが、定助をバッと腕を振り上げ、参加の喜びを表したのだった。
緊張感のある所で、歓喜もある。それは、彼が戦闘狂と言う訳ではなく『正しい事の白の中にいる』実感が湧きおこした勇気に違いないのだ。だからこそ彼は、フーケへのリベンジに向かえる事が嬉しかった。
「全く、子どもかっての……」
「あっと……すいません」
「あんたは私の使い魔何だから……私を守るのが義務なのよ、泣いてでも連れて行く所よ」
「……有り難う」
ルイズのその言葉に、定助は深い感謝を示す。この言葉に隠れているのは、彼女なりの信頼だ、それを感じ取れたのだった。
二人の様子を眺めていたキュルケの方が、今度は面白くなさげな顔になっているが。
「うむ! これならば、大丈夫そうじゃな!」
「えぇ! オールド・オスマン、私希望が見えて参りましたッ! 何て言えど彼は、伝説の『ガンダー」
「おおっとぉ!? そこで止まれぇッ!! それ以上喋るなぁッ!!」
「もごっ!?」
興奮のあまり、うっかり内密なハズの『ガンダールヴ』の事を暴露しかけるコルベール。
それを手の中に仕込まれた爆弾ごと鉄球を放るような焦燥の元、オスマンは彼の口を塞いで封殺した。
(己はアホか!? クソカスかッ!? 他言無用と言ったじゃろうが!?)
(く、クソカスは酷いですよオールド・オスマン!)「もがが……ぐっ……ひぁ……あ、何でもありません!」
「そうじゃ! 何でもないのじゃ!」
二人に「何やってんだ? アホか?」と、一人で勝手に危機に陥っている老人に対して向けるような視線を、一同は向けている。
この冷めた視線に気付いたオスマンは、威厳を込めた咳払いをする事により強制的に空気を変えるのだった。
「お、オホンッ!! えぇと……これ以上、異議申し立てはないかの?」
「…………」
教師達からの声はあがらない。
それらを確認したオスマンは、改めてルイズ達に向かい合うのだった。
「……では、魔法学院は諸君らの努力と、貴族の義務に期待する」
オスマンの言葉を聞くと、キュルケもルイズもタバサも(タバサは最初の時の無表情のままだったが)、凛とした表情となり、直立の姿勢となる。
そしてそれぞれの杖を再度掲げ、同時に唱和するのだ。
「杖にかけてッ!」
「杖にかけて」
「……杖にかけて」
最後はスカートの裾をつまみ、優雅に、そして礼儀正しくお辞儀をするのだった。
この一連の動作は特に洗練されており、貴族はまさに『契約の騎士である』事を定助は思っていた。
「……えっと、杖にかけて……こう?」
「あんたはしなくて良いのよ……」
たどたどしくルイズ達の真似をする定助だが、「これは自分に貴族は向かないな」と思うほどに、彼女らの洗練された作法を羨むのだが。
それらの様子を見ていたオスマンは、楽しげに微笑んでいた。
背後にいるロングビルの、燃えるような瞳には気付かずに。
杖の誓いを終えると、早速ルイズ達は出発にかかった。
心配そうな教師達の視線を抜け、宝物庫を出る。いつもは暗いハズのここの廊下は、松明を増やされて比較的明るくなっている。
「しかしご主人……やっぱり、凄い」
その廊下を歩く途中、定助はルイズに声をかけた。彼女の決意と、強い心に敬意を払っての言葉である。
ルイズの表情は、緊張からか険しいものだった。
「凄いって、当たり前の事。確かにフーケは強力よ……でも学院長の仰る通り、これは学院の問題であって、学院の責任なの。あの時、何もしなかった私にも勿論、責任はあると思うわ」
「ご主人……」
「これは、『貴族としての誇りの戦い』なの。学院から宝を奪ったフーケにナメられては、駄目なのよ」
自分としての貴族を説く、ルイズの姿はとても気高くかつ暖かなものがあった。
今回の問題を自分の問題とし、大人に頼ろうとせずに自ら行かんとするこの勇気は確かに、『黄金に輝くもの』を秘めていると定助は感じ取っていた。
だが同時に、その事を定助は完全に受け入れられなかった。それは、『自分のような事になるまいか』との危惧があったからだ。
「……なぁ、ご主人。あの」
再度ルイズに話しかけた定助だが、それは彼女の悲鳴によって飲み込む事となる。
「ふぎゃっ!?」
煙草の煙を不意に嗅がされた猫のような悲鳴をあげて、ルイズは廊下に盛大に頭から転んだ。
いきなり転んだものだから定助は声をあげてビックリし、直様彼女の元へ近寄り幇助しようとする。
「ごご、ご主人!? 大丈夫!?」
「……ッ!? ストップ、ジョースケッ!!」
「んん!?」
何故かルイズに制止を受けたので、ピタリとだるまさんが転んだのように止まる。
その時に定助は、彼女が転んだ訳を知って目を背けた。
「…………」
「…………」
「…………一旦、部屋に戻ろうか」
「…………」
彼女の下着のゴムが切れ、ずり下がり、太腿の所まで落っこちていた。これに足を絡められ、すっ転んだ訳だ。
まるでコントのような展開に、定助はどうすりゃ良いのか分からない。
「…………」
「……お、起きれる?」
「……手伝って」
「了解」
「下は見ないでッ!!」
「了解ッ!!」
ルイズの許可が下りたのでさっさと近付き、顔真っ赤の彼女を立ち上がらせるのだ。
使い魔に着替え見られた所で恥は感じない、とは言っていたものの、こんな状況は流石に恥なのだろう。
(…………昨日、下着洗った時……やっぱ切ったか……?)
思い当たりは、街へ行く前の洗濯。
冷や汗を流しつつ、本当にこれから下着洗いはしない事を心に決めた定助であった。
最後のシーンは、コミック版より。
所で、原作の兎塚さんのルイズと、コミック版の望月さんのルイズと、アニメ版のルイズ……どのルイズがお好みですか?
私は荒木さん画風のルイズが見たいです(漆黒の意思)