ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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トニオさんの所でイタリア料理食べて、不眠症やその他諸々治して貰いたい。

100.000UA突破、恐縮です。


泡沫のアウェイクン。その1

 小屋から定助達の隠れ潜む茂みからは十メートル程度離れているので断言は出来ないが、窓には光も人影も見えず、風で擦れる葉々の音以外は一切の人的な音が聞こえて来ない。言う所、全く人の気を感じないと言う事だ。

 だが、暗い森の中で唯一明るいこの場所は、悪い意味で雰囲気を醸し出しており、只ならぬオーラを感じ取ってしまうのは致し方ない事だろうか。それがまた、近寄り難い気分にさせてしまう。

 

 

「ミス・ロングビル……あそこが、フーケの?」

 

 ルイズの質問に、彼女は小さく頷いて肯定する。

 

「はい。あの建物へ、フーケらしき人物が入ったと情報にあります」

「如何にも、人を寄せ付けないって所に隠れたのね」

「盗人にとっては、格好の巣窟と言う訳です……しかし、どうしましょうか」

 

 ロングビルは小屋を、そして辺りを見渡して様子を伺っている。

 相手は貴族を恐怖させた、かの土くれのフーケ……そんな人物が、何かしらの罠を仕掛けず、のうのうと隠れているハズがないと考えた。まるで太陽光を敵とする種族が、昼間の襲撃に何の備えもしない訳がないのと同じで、敵は盗みの手練れでもあり逃走の手練れでもあるハズだ。

 

「罠はありそうですか?」

「待ってて」

 

 罠の有無を確認するのは、タバサの役目である。騎士と言う事は、それなり戦闘の場数をこなしているという事で、こういった場合は何処にどんな罠を仕掛けられるかを、彼女は熟知しているようだった。

 暫く茂みから周りを見渡し、時に呪文を唱えて何かの魔法を行使したりと、注意深く観察する。

 

 

「……異常無し。罠も無し」

 

 それを聞き、一先ず建物への接近は難無しと言う事に、安心する。

 

「ただし、屋内は不明」

 

 流石にタバサは家内の状況を分かる程、超人ではない。これは仕方ないだろう。

 侵入経路については良く考えなくてはならないようだ。

 

「入口は二つ」

 

 彼女の指差す方を見ると、廃屋を斜めから見た形で表口があり、裏口と思われる扉も確認出来た。

 

「人を上手く運んで、様子を見る必要がある」

「タバサ、あなたの考えを聞くわ」

 

 タバサとキュルケの会話が何処か、行動開始した吸血鬼へと挑む者達のような雰囲気になっており、楽しんでいるようにも見えた。キュルケに関してはそうだが、タバサはどうかは分からないのだが。

 するとタバサを両手を出し、策の説明をしてくれる。

 

「囮を立てて注目させて、囮は表玄関から。後は裏口から」

「ほうほう!」

「こう……丁度、挟み撃ちの形になる」

 

 右手と左手の指先をぶつけるようにして、『挟み撃ち』を強調させる。

 確かに彼女の策は、一理あった。逃げ口塞ぎと言う訳か。

 

「それにその方法だと、土のない屋内で奇襲出来るから、ゴーレムも作らせられないわね」

 

 ルイズの補足を聞き、定助は「成る程」と膝を叩いた。タバサも「Exactly」と言うように頷く。

 メイジと言えど、無から有を生み出す事は出来ないのだ。

 つまりメイジの戦い方とは、相手の得意魔法を封じるような不利な状況を、誘い込み作り出すかと言う事だろう。特定の図形で力を発揮する技術を封じる為、その図形が存在しない氷原で襲撃するような風だろう。

 

(はぁ、だからかぁ……)

 

 そう言えばキュルケの部屋に入った時、大量の蝋燭が並べられていた。部屋に入って来た生徒を撃退したのは、蝋燭の火だった、蝋燭の火が炎となって襲い掛かったのだ。

 彼女にとって火の存在は力の源、食えば食う程強くなるエネルギーの根源。勿論あの時はムードの為もあるだろうが、防御壁としての役割も存在していたのだろうか。まさに、攻撃する防御壁だ。

 

 

 

 

 それは兎も角として、流石はタバサである。対メイジの戦闘術を心得ていた。

 

「凄いなぁ……本物の騎士だ」

「シュヴァリエは伊達じゃないって事よ、ダーリン!」

「…………」

「さて、役割分担しましょっ」

 

 ここからは役割の取り決めだ。誰が囮となるか、突入組となるか。

 

「囮は誰が適任かしら?」

「咄嗟の判断力に長けた人。予想外も否定出来ない」

「ふぅん……」

 

 チラリと、キュルケは定助を見やった。またルイズも定助を一瞥した。

 確かに囮としては定助が適任そうだ、フーケが彼の存在を見ると動揺を起こすかもしれないし、強力な武器(スタンド)もある。

 

 

「オレェ? う〜〜ん……」

 

 しかし何故か定助は渋るように考える仕草を取った。

 

(あれ?)

 

 ルイズは内心、驚いていた。いつもの彼なら二つ返事で引き受けてくれるだろうにと、意外である。彼には彼なりの考えでもあるのかと思い、それを聞こうとしたが、まず先にロングビルからの申し出が入る。

 

「あの、私はこの辺りの偵察に入ってもよろしいでしょうか?」

 

 手をヒョコリと上げ、申し訳なさそうに言う。

 

「どうしてですか? ミス・ロングビル……」

「フーケに仲間がいる可能性も否定出来ません……誰か一人でも対応出来る人がいた方が成功率が増すのでは」

 

 確かにと、ルイズは納得した。

 もしかしたら土くれのフーケとはツーマンセルの盗賊かもしれない。定助の言った女性の方と、ロングビルの情報にある男の方とが一組で盗みをしているのではないかと、ルイズは想像していた。

 

「どうする、タバサ?」

「…………」

 

 司令塔となっていたタバサに意見を求めると、彼女は口元に手を当てて考え中である事を示した。

 

 

「……了解」

 

 即決力が高い、すぐに彼女からの判断が出る。

 

「では、ミス・ロングビルは偵察をして貰いますが……気を付けて下さい」

「ミス・ヴァリエール、有り難う御座います」

 

 ロングビルは丁寧にお辞儀をし、「早速」と言わんばかりに偵察へ向かおうとした。

 

 

 

「あ、待って下さい」

 

 それを止めたのは、定助である。

 

「……どうされました?」

「どうしたのよ、ジョースケ?」

 

 ルイズとロングビルが同時に、引き止めた定助へと理由を求めた。さっきから彼の様子がおかしいと、主人であるルイズは気付いているのだが、『彼なりの考え』に期待しているのが無意識下での希望である。

 怪訝な表情の皆を前にして定助は、予想外の提案を投げ掛けた。

 

 

「オレもその、偵察に参加したい」

「え?」

 

 呆気に取られた声が、ロングビルの口から漏れる。

 ここまで来ると、ルイズでさえも彼の考えの糸口が分からなくなって来た。

 

「ちょっとジョースケ……あんたは主力の内よ?」

「そうよダーリン!」

「その呼び方を止めなさいって!」

 

 否定的な意見のルイズとキュルケの反応と、小さないざこざに苦笑いしながらも定助は話し出した。

 

「有り難いね、そう言って貰えて。だけど、キュルケちゃんにタバサ……さんにご主人って、なかなかのメンバーじゃあないか。ロングビルさんは一人だから危険かなって」

「そうかもだけど……」

 

 この提案に関して、ロングビル自身が大丈夫である旨を伝える。

 

「大丈夫ですよ……落ちぶれた者とは言え、メイジです。賊の一人や二人、何とかなりますわ」

「いや、万全を期した方が良いです。相手は『あの』、土くれのフーケですから」

「しかし……えぇと、ジョースケさんの能力でしたらかなりの戦力かと」

 

 定助が真剣な表情で、旨意を述べた。

 

 

「だからこそのバックアップです。それにフーケはオレを見ているだけに、強い刺激を与えかねないので。動揺は言い換えると、強力な警戒心です」

 

 つまり彼は、自分の存在がフーケに対して強い警戒心を作り、逆上を招き、思いもよらない行動に繋がりかねないと主張しているのだ。『動揺を与える』と『暴走を招く』は紙一重であると、伝えていた。

 この意見がタバサに思う所を作ったようで、彼女は定助を指差しこう呟いた。

 

 

「……偵察員、任命」

「え? いいの? タバサ?」

「構わない。考えも持っていそう」

 

 タバサからの任命と賛同を得て、「タバサが言うなら」と引き下がるキュルケ。

 

「ホント、勝手なんだから……」

「ごめん、ご主人……」

「……いいわ。ただし、単身殴り込みなんて止めてよね」

 

 そんないつもながらのキツい言い方の中でも、心配の念が入ってくれいた。ルイズもやや不満気味なのだが、仕方なしに賛同に入った。

 

 

 

 

 ロングビルは困った表情を作りながら、定助を見やる。一瞬だけ燃える目を携えた、鋭い視線へと変貌したように見えたのは錯覚だろうか。

 

「……では、ジョースケさん……早速、偵察に向かいましょう。いつ何どきにフーケに感付かれるか知れませんから」

「了解!……じゃあ、武運を祈る」

「何様なのよあんた……気を付けてね」

 

 ルイズの送り出しに手を振り応じ、タバサとキュルケに目線を合わせて「行ってくる」と意思表示すると、ロングビルと共に森の中へ消えて行った。

 草木と森の影に消え入るまで見つめるルイズだったが、見えなくなった時に深く息を吐き、落ち着きを求めようとした。彼女も彼女で、決意を新たに挑もうと言う気持ちを表面させたのだ。

 

 

 二人がいなくなり、一時の静けさが流れ出した頃を計らってタバサが編成の手直しを相談する。

 

「それで、囮は誰がするか」

「……はい」

 

 手を上げたのは、ルイズである。

 

「私がするわ」

 

 定助何かに出遅れてなるものですか……そんな強がりを含め、役に立ちたいと願う使命感からの志願だった。

 彼女の志願はごく自然な物だったのだろう。キュルケも「予想通り」と言わんばかりに微笑んでいる。

 

「あらあら?『ゼロのルイズ』に囮なんて務まるのかしらぁ?」

「……フンッ! 何て事ないわよ! 寧ろあんたが突撃する前に仕留めてあげるわ! これは予言よ!」

「あたしに予言だなんて、十年早いわよ。仕留めるのはあたしなんだから」

「言ったわね!? 良いわ、勝負よ!」

 

 キュルケの憎まれ口にルイズの強がり、最後はまた昨夜のトレースのような決闘模様。

 既視感のある光景に呆気取られる事は間違いないのだが、生憎この場にそれを表現出来る人物は存在しなかった。タバサは役割が決定し、早速作戦に移りたい様子だ。

 

「作戦の説明。正面から入り、屋内の偵察をこなしてサインを送り、その十秒後に表玄関より突入」

「重役じゃない。ヘマしないようにね?」

「こっちの台詞よ!」

 

 犬猿の仲とも言える二人の吠え合いは兎も角として、タバサはルイズに先を促した。

 あまり話したりはしない子だったが、ここまでせっかちだとは少し意外だと思っている。誘導をされながらも、とうとう行動を開始。

 

 

「じゃあ……い、行ってくるわ……!」

「武運を祈るわぁ」

「…………」

 

 挑発気味のキュルケを敢えて無視してやり、ルイズは意を決して茂みから飛び出した。

 飛び出してから少し立ち止まり、様子を伺うのだが、廃屋からは異常もひと気も見当たらない。

 

「……すぅー……はぁ〜……」

 

 静かに深呼吸をし、気持ちを整える。再度、歩を進めて行くが、今度は一気に廃屋へと近付く。

 

「ととっ……何ともないわね」

 

 ここまで異常がないので、緊張に張り詰めていた神経にも、戦闘中に煙草を吸うガンマンのように余裕が出て来ていた。

 髪の毛を払い、終わった後は櫛で梳かさないと、と考える程度には平気のようだ。

 そして廃屋の軒先にまでとうとう到達し、姿勢を低くさせながら窓から中をこっそり、覗き込む。

 

「暗いわね」

 

 案の定とも言える暗さだが、廃屋の屋根には穴が空いているようで、太陽光が差し込んでいた分は視認可能だ。

 息を殺し、ピリピリとした感覚を抱えながら注意深く中を観察する。

 

 

「……大丈夫そうかな?」

 

 家具も丸ごと放棄されているようで、椅子やチェストが散在している部屋が目に映る。

 しかしながら、人影は確認出来なかった。ルイズは後ろへ振り返り、茂みにいるかと思われるキュルケとタバサにサインを送る。手を交差させてバッテンを作り、『人影無し』と表現したハンドサインである。

 

 

 ハンドサインを確認した二人は、茂みから茂みへ移るように移動し、裏口を目指して行く。

 ルイズは玄関扉のドアノブを掴み、頭の中で十秒間カウントダウンを開始させる。突入はもうすぐだ、心拍数が上がって仕方がない。

 それでも彼女を突き動かしているのは、やはり人一倍あるプライドと使命感による勇気なのだろうか。

 

 

 

 カウントダウンは半分を越した。

 五……四……三……

 

 

 呼吸を整え、杖を用意する。

 もしかしたら、フーケとの全面対決だ。忘れかけた緊張が、望郷のように現れたのだった。あとは、ドアノブを捻って入り込むだけ。

 躊躇も何もない、悔しいが、自分の失敗魔法は強力な武器だろう。そう言い聞かせ、勇気達を鼓舞する。

 

 

 

 

 二……一……ゼロ。

 

 

「……ふぅッ!」

 

 息を素早く吐き、意を決して廃屋の表玄関から屋内へ突撃した。

 そして杖先を前方へと突き付けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 草木を分け、廃屋より少し離れた所へ出た。鬱蒼たる森は視界を覆い隠し、頼りになるのは聴覚のみである。

 ロングビルは前で、定助は後ろで、前後左右全てに注意を張り巡らせながら見回りをしていた。長らく人の手の入らなかった森の凄さがここまでとは、最早ジャングルのようだ。

 

「凄いな……『注文の多いレストラン』だ」

「それは、どう言う意味でしょうか?」

「あー、なんでもないです」

 

 そんな風に呟く程、あまりの密林に参った面もあるのだ。

 

「ここ最近は晴れ続きでしたからね、泥濘みがないだけでも助かりました」

「成る程。ドロドロになるのは嫌ですからね」

「お召し物が白いだけに、大変そうですね」

「……違いない」

 

 

 森ネズミが駆け、茂みが揺れた。こう言った雑音にも瞬時に反応するべきだろうが、何故かロングビルも定助も、鋭い警戒心を以て意に介する事はしなかった。特に定助には、ロングビルと行動を共にしなければならない理由がある。

 

 

「……ロングビルさん」

 

 すると突然、定助がロングビルを呼び止めた。

 反応した彼女は足を止め、振り返る。定助はロングビルからやや離れた位置よりジッと見つめている。

 

「……どうなさいましたか? ジョースケさん」

 

 彼から現れる只ならぬ雰囲気に怪訝な表情を浮かべ、業務的な声で話し掛けるロングビル。

 その問い掛けに対し、定助は少しの間を空けた後に口を開いた。

 

「幾つか質問があります」

「質問? こんな時にですか?」

「えぇ、こんな時『だからこそ』の質問ですよ」

 

 ロングビルの表情に、困惑が混じり始めた。

 定助の行動の意図と言う物がハッキリしないからである。何を思ってこんな時に質問とか言い出すのだろうかと、彼の意図を読みあぐねているのだ。

 

「…………」

「何も百の質問とかじゃあない……三つ四つ、答えて頂くだけですから」

「……えぇ、良いですよ。フーケに関した質問でしょう?」

 

 定助は「はい」と肯定し、頷いた。

 そのまま流れるような風で、話を彼の言う質問へと移行させる。

 

「あなたが持って来た情報で、フーケは『男』としていましたが、確かですか?」

「確かですか、と言われれば自信を持って『そうです』と断言出来ませんね。農家の方より聴取した情報ですからね、全体的な信憑性としては低いかもしれません。ただ、情報を纏めて暫定的にしているだけです」

 

 流石は学院長秘書を務める女性だ、ハッキリとしながらも要点を押さえた説明をしてくれる。

 次の質問へ移る。

 

「フーケはどうして、こんな深い森へ入ったのでしょうか?」

「……それは、人目に付かない所で休息を入れる為なのでは」

 

 当たり前の事である、逃げる賊が隠れる理由言えば、それしか思いつきまいに。どうしてこんな初歩の初歩な質問をしているのか、分からなかった、話を切ろうかなとも思った。

 次の質問へ移る。

 

 

 

 

「所で身長は百六十七ですよね」

「……はい?」

 

 次もフーケの質問かと思えば、身長の話。

 呆気に取られた彼女はつい、秘書たる業務的な声を忘れて素の声で反応してしまった。ただ、定助の表情だけが間抜けなこの質問とは打って変わり、真剣さのそれである事がアベコベとしている。

 しかしその数値は聞き覚えがあった、彼が学院長に提示していた『フーケの身長』ではないか。

 

「……すいませんジョースケさん、質問の意図をお聞かせ願いたいのですが」

「単なる好奇心ですよ。言っても、『ですか』では無くて『ですよね』だから、こっちとしては断言的ですがね。オレの身長から逆算しましたので」

「……えぇ、その位だったかとは、思いますが」

 

 把握していると言われたからには渋々と、明らさまな呆れ声で回答に応じる。

 本当にこの人は何を考え、身長の話をしているのか。まさか疑っているのか。計り知れないこの男に、疑問が尽きない。

 次の質問へ移る。

 

 

 

 

「この近く、農家って、ありましたっけ?」

「…………ッ」

 

 その質問にロングビルは呆気を驚愕の色に変え、ギョッとした目で定助の顔を見た。一瞬だけ現れた、彼女の秘書としての仮面の崩れる様を、定助はしっかりと確認したのだ。

 返答を頭の中で組み立てている最中に、定助は返答を待たずして畳み掛けるように聞く。

 

「一番近い農家は、葡萄畑でしたね。マルトーさんが言っていましたが、この近辺に美味いワイン用の葡萄を栽培する農園があるとか」

「……そうですね」

「でもそれは、ここからだいぶ遠い。学院から一時間の所にあった箇所でしたから。それ以降の道中はのどかな風景のみで、田畑は無かったかと思います」

「荷馬車で街へ買い出しに出ていた農家の人物ですわ。道中で出会った際に、聴取した所です」

 

 それなら森の前も通るだろうし、違和感はないだろうと決定付けるような回答であった。

 定助を眉を顰め、「意外」とも言わんばかりに険しい表情となった。それを見たロングビルは嬉しさからか、微笑みを浮かべている。

 

 

「……ここって、結構深いですよね。鬱蒼としていて、まるで暗い。あなたの言った通り、『人目の付かない所』ですよね」

「…………」

 

 この問い掛けに、ロングビルは何かに気付いたようで微笑みを止めてしまう。

 

 

 

 

「ここは馬車じゃ入り込めない辺鄙な所。オレは街へ向かったから分かるのですが、こんな森は通らなかった」

「…………えぇ」

「なのにあなたの情報は、奥の廃屋の存在まで特定していた、奇妙だ。オレで分かる事が、あなたには分からない訳がないだろう。それに春の葡萄畑は、開花の時期。枝の調整に花粉の操作、誰か一人でも街へ行けない程に忙殺される季節ですよ」

 

 実は葡萄畑の下りの理由付けは七割本当、三割想像である。もしかしたら街へ行く余裕程度が出来るかもだが、彼女の行き場をふさぐ為にハッタリを混じらせたのだった。マルトーから葡萄畑の存在を聞いていて良かったと、今ここで思ったが、元よりこの知識があった自分にも感謝したい所。

 

 

 しかし彼女の頭の回転は速い……言い逃れされる前に次の質問へ移る。

 

 

 

「……所で先程、『定助さんの能力でしたらかなりの戦力』と言っていましたが、あなたにはオレが何に見えたのですか?」

「あっ……」

 

 ここでとうとう、彼女の『化けの皮』が剥がれ始めるのだった。

 定助の能力は、学院職員へは浸透していない様子だったのを思い出して欲しい。学院長でさえも(彼は盗み見をしていたが)把握し切れず、「ギーシュを倒した噂」としていた程であり、定助に特殊能力があるだなんて把握している訳がなかろうに。

 

「オレがメイジにでも見えましたか? それとも、屈強な戦士にでも? 今でこそ剣を二つ背負っていますが、馬車での会話を聞いていたあなたなら、オレが剣に関してはズブの素人である事は知っているハズ」

「……能力に関しては、生徒の皆さんより……」

「こう聞きました?『ミス・ヴァリエールの使い魔が、精霊を出現させてギーシュに勝った』……信じて、いるのですか?」

「…………」

 

 信じる訳がない、彼女の『表面上』の性格は、収集した情報で判断する、それこそ秘書である故のリアリストな性格であるハズ。こんなファンタジーでメルヘンな噂を真に受けるような人物ではなかろうが。

 フーケに挑んだなら、勇気を賞賛すれば良い。『能力』を挙げた事には違和感があるのではないか。

 

 

「…………」

「……オレは今、恐ろしい想像をしている。もしかしたら、的外れなのかもしれない。だが、それを言葉にしてあなたに突き付けていると言う事は、確固たる自信があるって事です」

 

 ロングビルの口元が、伸縮を繰り返すかのようにひくついている。

 もう彼女は隠す気がないのか、目の奥で燃え盛る『轟々たる漆黒の炎』を。

 

 

 

 

「身長百六十八、女性、違和感。オレの情報と合致したよ。あなた……いや、お前が盗賊、『土くれのフーケ』だ」

 

 ロングビルは黙ったまま、定助を凛とした表情で睨み付けていた。

 目の奥の炎は、地獄の業火如く猛々しくも静かと言う奇妙な形に見える。そこに見えたのは、余裕だ。

 恐らくシラを切るつもりだろうが、定助には『奥の手』が残っている。

 

「証拠はおありで?」

「どうかな。所で、思い出した事が一つ、あったんだ」

 

 定助は指を、彼女の右手の袖へ向けた。

 

「フーケに挑んだ時に、あと少しの所で掴めたのだが……残念ながら、それは叶わなかったよ」

「……あ」

「……払った方が良い、オレの能力は確かに『触った』」

「まさかッ!?」

 

 彼女は定助の言葉に思い当たる所があったようで、バッと彼の目線の先である袖を見た。

 

 

 

 

「が、何も出来なかったけどね」

 

 その言葉が空気を通じ、彼女の鼓膜を震わせばピタリと行動が停止した。

 兼ねてより余裕のあった表情がボロボロと崩れ、歪んだ物となっている。

 

 

 恐らく、『ソフト&ウェット』の存在は確認し、少なからず動揺し、インパクトを与えたハズだ。それは『フーケ』として受けた衝撃が、『ロングビル』として聞いた噂とが繋がった瞬間でもあろう。

 得体の知れない存在に『触られ、何かした』と言ってやれば、噂としか知らぬ彼女は誇張して受け取ってしまい、不気味さから反応せざるを得ないと言う訳である。

 

 

 

 

 間抜けは見つかったようだ。

 

 

 

 

「…………して、やられたって事ですね」

「敬語使うのは、『本業』の時もなのか?」

「…………」

 

 

 ニヤリと、口角を吊り上げロングビル……『土くれのフーケ』は定助に目を合わせて不敵に笑った。

 

 

「そんなお行儀良い盗賊がいるわけないじゃない!」

 

 フーケは杖を取り出し、呪文を唱える。杖先は、定助の遥か後方を向けられていた。




イタリア行きたいですなぁ。
失礼しました
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