ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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遅れましたが、まぁ、はい……失踪しませんから(笑)
某サイトで一次創作活動を始めたので、執筆頻度はゲキ落ち中でさ。

6/20→『TABITHA BIZARRE ADVENTURE』の新話を投稿致しました。目次上部へどうぞ。


泡沫のアウェイクン。その2

「土くれのフーケッ! そこまでよッ!」

 

 きっかり十秒後に突入したルイズは、意気揚々と家内に向けて杖先を見せた。

 だが、自分が差していた人物は、怪しげな存在何かではなく、良く見知った人……キュルケとタバサである。

 

「ルイズじゃないの。フーケは?」

「……あれ? いない?」

 

 裏口から同時に入った二人だけが、ルイズから見た小屋内の人物である。双方同時に、困惑の声をあげた。

 つまりは、この小屋の中に人はいなかったと言う事に他ならないのだが。

 

「まさかあなた、逃がしたとかじゃないわよね?」

「な訳ないじゃないッ! あんたと同じタイミングで入ったのに、見逃すハズないじゃない!?」

「冗談だって、冗談。ムキにならないでよ、ルイズ」

 

 冗談のつもりに聞こえないキュルケの冗談に、髪型貶されたヤンキーが如くプッツンと怒鳴るルイズを宥めつ、部屋の中を見渡した。

 

 

 部屋は、少しばかりの家具のみが置かれた寂しい雰囲気である。

 床板も軋み、森ネズミか何かが齧ったのだろうか、壁や柱もボロボロと崩れかかっていた。残された家具はチェストにベッドなど、基本的な物が指で数えられる程度があるのみ。それらもまた腐敗が進んでおり、とても使用出来た物ではなかろうに。

 

 

 気が付けば、キュルケの後ろに跪いて床を撫でているタバサが確認出来た。

 

「何やっているのよ……えぇと、タバサ?」

 

 比較的初めて、彼女の名前を呼んだルイズ。

 呼応するようにタバサは顔を上げ、手の平を見せた。

 

「見て」

「見てって……うわ、汚いわね! 埃じゃない!」

「そう、埃」

「それが何なのよ……」

 

 次にタバサは膝を叩きながら立ち上がり、見解を述べる。

 

「フーケが隠れ家にしていた……にしては、埃が多過ぎる」

 

 小屋内の埃は、ルイズ達の突入の際に舞い上がり、窓から差し込む太陽光によって映し出されていた。足を見てみれば、埃が床に積層しておら、分厚い埃の層を踏んでは足跡がくっきりと出来ていた。

 多少なり吸い込んでしまったキュルケが、小さくくしゃみをする。

 

「埃が多過ぎるって……確かに埃っぽいわね」

「ベッドも窓辺も、埃だらけ……隠れ家程度にしていたにしても、多過ぎる」

「え……じゃあ、この家には私達以外、誰も入っていないって事!?」

 

 つまりはフーケが入ったと言う情報は、真っ赤な嘘だと言う事だろうか。

 そう結論付け、ルイズは呆れたように額に手を当てた。

 

 

 だが、彼女の結論はタバサに否定される。

 

「それはない」

「はい?」

「扉の近辺には埃が少ない」

 

 振り返り、自分が入って来た表玄関に視線を配らせてみれば、確かに埃が少なく、床の色彩も明るかった。

 

「え、それは私が単身突入したからで……」

「あなた一人が入った」

「だからそう言っているじゃないの」

 

 するとタバサはピッと指を床に向け、怪訝な表情のルイズの目を促せる。

 

 

「足跡、『二人分』」

 

 タバサのその言葉に注意力が集中し、やっとルイズは気付く事が出来た。

 突入してからルイズは一直線にキュルケらの方へ来たのだが、その足跡の他に別の所へ伸びる『もう一人足跡の存在』があったのだ。

 

「あ……ほ、本当だ! じゃあやっぱり、ここがフーケの隠れ家じゃない」

「それは一部違う」

「一部って何よ……」

「ベッドも他の床にも、埃が溜まっているわ。何者かは、確かにここへ入ったけど、寝るも食べるもせずにさっさと何かして退散したって事よ」

 

 横からキュルケが補足を入れた。ルイズはムッとした顔になる。

 確かにその通りなのだが、キュルケが横槍入れてくる事に対しての不満だ。

 

「ついでに言うと……」

「あぁ、もう! 理解したわよ! えぇと……埃の量からして、何者かは初めてここを使った……って事よね?」

「それに、このような森深くの廃墟。何者かは目星だけを付けていて、何らかの目的の為だけに今回初めて使用した」

 

 今度横から補足を入れたのは、タバサ。またしてもな一件にルイズは表情をひくつかせ、募る苛つきを抑える事に必死になっていた。

 その後に「分かっていたわよ!」と、ガルルッと吠えるルイズに対し、キュルケは笑いを堪える事に必死になっていた。

 

 

 だが、三者の間でそんな結論が付いたのだが、だとしから尚の事不気味であろう。

 一体フーケは(フーケかどうかは不明だが、暫定的にフーケとする)この廃屋で何をしていたのだろうか。

 

 

「目的が知れないわねぇ……」

 

 眉間に皺を寄せ、理解不能のフーケの真意にあぐねるキュルケだったが、ジッと部屋全体を観ていたタバサが何かに気付いたようだ。

 

 

「……チェスト」

「え? タバサ?」

「チェストに埃が積もっていない」

 

 タバサが指差す先にある、粗のある木目の小さなチェストにキュルケとルイズは注目した。

 成る程、確かにチェストには薄黒い埃がなく、くっきりとした輪郭と色彩を帯びて部屋の隅に置かれている。埃まみれの廃屋内ではかなり異質に見え、更に良く観てみれば、チェストの手前に足跡もあった。

 

「……確かに」

 

 気になったルイズが誰よりも早く、チェストの方へと歩を進めた。

 

「ちょっとルイズ、何が仕掛けられているか分かったもんじゃないわよ?」

「こんなちっぽけなチェストに、大それた罠なんて仕掛けられないわよ」

「んー……まぁ、そうよね」

 

 罠の心配はせず、ルイズはチェストの前に立ち、少し屈んで箱を開けた。

 静かな部屋の中で、ガチャリと気持ち良いまでに澄んだ開閉音が木霊する。

 

 

 

 

 中にあったのは一枚の丸い円盤であった。

 

「……あれ? ね、ねぇ、これって……」

 

 円盤に見覚えがあるのか、ルイズは躊躇の色を見せずに円盤を持つと、チェストから取り出して二人に見せ付けた。

 それを見てキュルケは呆気に取られた表情となる。

 

 

「それ、『破壊の円盤』じゃない!?」

 

 愕然としたキュルケの声があがる。

 ルイズがチェストから出した円盤とは、何と昨夜よりフーケに強奪された『破壊の円盤』であったのだ。真ん中に小さな穴が空いており、裏面が光の方向によって虹色に輝く不思議な素材から、偽物ではなく確かに無二の物質である事は分かる。

 

「えぇ!? 呆気なぁい!」

 

 拍子抜けと言った具合に、キュルケはかくんとずっこける。

 ルイズもルイズで、今手に持っている物質が『破壊の円盤』である事に信憑を疑っている程であった。

 

「ほ、本物……よね?」

「確かに本物」

「それは分かっているわよ……宝物庫の見学会で見たんだし、間違いない……と思う」

 

 まだ疑いの念がしつこく残っているルイズは、『破壊の円盤』をひっくり返し、表の面をつい見やる。

 表には『DISC』と書かれた妙な単語の羅列が目に付いた。アカデミーでも無意味語と暫定されたその単語は見覚えのある物で、やはり本物であると確信せざるを得ないだろう。

 

「本物……だよね」

 

 ともあれ無事、目的であった『破壊の円盤』の奪取に成功したのだ。

 呆気のなさと虫の良すぎる事実に困惑を残しながらも、取り返したい物は取り返したので廃屋を出発しようかとした。

 

 

 

「……え?」

 

 

 その時、薄っぺらな円盤の表面に、人間の姿が写ったのが視界に入った。

 

 

 

 

 緑色の混じった長髪を輝かせ、虚空を厳しい眼差しで見つめる男だ。裸の上半身には形容の出来ない模様があり、とても人間とは思えない肌色をした、逞しい体の亜人である。

 

「……ッ!」

 

 不意に写ったその男に目が行った彼女は、円盤の表面を凝視した。

 隆々とした筋肉と強面ながらも、何故か荒々しさを感じない奇妙な男に、凛とした気質を感じ取ったからだ。それは草原の風のようなとも、凪の海とも形容出来る、穏やかな猛々しさだ。

 

 

「これって……」

 

 どうして円盤に写っているのかと言う疑問よりも、この男は誰なのかと気になってしまう。だがそれは次の瞬間、轟音とキュルケの悲鳴によって注意を外さずを得なかったのだが。

 

 

「きゃぁぁぁ!!」

「な、なに!?」

 

 木々の軋む音と、唐突に明るくなった家内と頭上から降って来る埃や木屑に驚き、ルイズ達は直様天井を見上げた。

 

 

 

 

 既にそこには天井はなく、開けた青空が目に映った。

 そして、廃屋の屋根を手に持った巨大な存在の姿も確認出来ている。

 

「ご、ゴーレム!? どう言う事よ!?」

 

 昨夜の襲撃に現れたフーケのゴーレムと同じ物が、三人を襲撃しに来たのだ。

 いないと思われていたフーケが、まさか近辺で待ち伏せしており、廃屋に入った所を一網打尽にせんとゴーレムを差し向けたのだろう。囲われたのはフーケではなく、自分達だった。

 

 

 ゴーレムは手に持った屋根部分を放り投げ、大きな足をゆっくりと持ち上げた。

 

 

「退却」

「言われなくてもするわよッ!!」

 

 屋内にいては分が悪いと踏み、三人は滑り込むように裏口から部屋を脱出する。

 腐った床板から土臭い芝生の上へ出たと同時に、立ち煙る粉塵と風圧を纏って、廃屋がゴーレムの足に潰されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で定助は、小屋から聞こえた悲鳴に気が付き、振り返った。

 視界の先には、あのゴーレムが堂々と立っており、その立つ場所こそはルイズ達が探索している廃屋の場所ではないかと、目を見開いた。

 

「あれは……! お前ぇッ!!」

 

 定助の姿が一瞬だけブレ、そのブレが体から離れたと同時に彼の半身、『ソフト&ウェット』が出現する。

 しかしフーケもうかうかしておらず、突然飛び上がっては定助から距離を取った。

 

「そっちがこっちを把握していたのなら、こっちだって把握していたさ。その精霊、『行動範囲』が決められているのよねぇ?」

「グッ……!!」

 

『ソフト&ウェット』の射程距離は二メートル。その事実を、フーケに掴まれていたのだ。

 

「昨夜、あなたを落とした時に気付いていたわ。もし行動範囲の概念がないのなら、あなた共々落ちて行くなんて事ないでしょ?」

「…………!」

「推定だけれど、一か二メイル程度と見たわ。文字通り、ぴったりくっ付いている存在って事よ。正解かしら?」

 

 やはり相手は貴族さえも恐怖させる大盗賊とだけあり、聡明な者であった。

 昨夜のほんの一瞬だけの衝突で、『ソフト&ウェット』の射程距離を見事看破せしめている。定助は内心悔しがったのだが、自分と同じくして得られる情報は物にされていた訳だ。敵でなければ尊敬していた程である。

 

「このッ!」

 

 何とかフーケを射程距離内に引き入れようと定助は突っ込んだのだが、フーケは呪文を唱えて飛び上がり、到底定助の手に届かないであろう木の上へと逃げて行った。

 

「残念、こっちには『魔法』ってのがあるのよ。腐っても平民って事ね、あなたは」

 

 木の上よりほくそ笑み見下す彼女の様に、定助は苦虫を潰したような表情で舌打ちをする。

 

 

「……目的は何だ! 目的も無しに、オレ達をここまで誘導するものか!」

 

 定助の問いにフーケは鼻で笑う。

 

「さぁて、何ででしょうか? こっちもまだ『目的』は『達成していない』から、答え合わせには早過ぎるわ」

「偵察隊は無作為による編成……一個人を狙った怨恨とは思えない」

「本当に賢明な人だこと。勿論、誰にも恨みは持っていないわ……あぁ、強いて言えばあなたが恨めしいかしら? 私の全体像を捉えたのはあなたが初めてなのよ」

 

 フーケは悩ましげに溜め息吐いた。言っている最中に苛つきが現れたのだろう。

 

「全く……してやられたわ」

「それは光栄だ、正々堂々勝負するか?」

「冗談じゃない。その精霊が何をしでかすか分からない以上は、近付かずに様子見に徹しておくわ。私は盗賊であって、戦士じゃないの」

 

 それだけ言い残すとフーケは更に飛び上がり、生い茂る葉の中へと身を隠してしまった。

 

「待てッ!!」

 

 咄嗟に定助も後を追おうとしたが、背後で再び鳴る轟音によって追跡を断念せざるを得なくなる。

 

 

 ゴーレムは今、ルイズ達を襲撃しているだろう。

 このままでは彼女らが危険だ、捕らえる望みの薄いフーケを追うより、ルイズらの安全を確保するのが最優先事項だ。

 

「……チィッ! ご主人に何かあったら、タダじゃ済ませないからな!」

 

 捕まえられなかった不甲斐無さを舌打ちで表した後、身を翻してゴーレムの方へ彼は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!?」

 

 ゴーレムの踏み付けにより発生した風で、小さな体のルイズはゴロゴロと地面を転がり、飛ばされる。

 廃屋を潰したが、ルイズ達がまだ生きていると認識したゴーレムはゆっくりと顔の部分を彼女らに向け、体を動かし始めた。

 しかし、吹き飛ばされた際に受け身を取っていたキュルケとタバサは互いに杖を構え、同時に呪文を詠唱した。

 

「『ウィンディ・アイシクル』」

「『フレイム・ボール』ッ!」

 

 タバサのロッドからは氷の矢が、そしてキュルケの杖からは大型の炎球が出来上がり、僅かの時間間隔を置いて杖先からゴーレムに向かって放出された。

 氷と炎と言う、全く真逆の魔法とは言え仲違いを起こさず、二つの魔法は延長線上に沿ってゴーレムへクリーンヒットする。

 

「大当たり」

「やっほう! 景品貰えるかしらぁ?」

 

 二人の魔法はものの見事に、ゴーレムの体に穴を空けていた。

 

 

 

 

「うわ……」

 

 

 ……のだが、空けられた穴が足元の土を吸い上げ、それを素材として驚異的な速度で修復してしまったのだ。

 

「も一発ッ!『フレイム・ボール』ッ!」

 

 再度キュルケは同様の魔法を行使し、破壊を試みるが、破壊は出来るのだがあっという間に修復されてしまう。

 

 

 ここは森の奥の肥えた土壌の上、ゴーレム基『土のメイジ』にとっては独断場でしかならない。水中戦が得意な存在に対し、水中で勝負を挑むようなものである。

 今になって考えてみれば、フーケはこれを見越して誘い込んだのだろうに。『破壊の円盤』を返上した理由は分からないが、これでは蜘蛛の巣にかかった蝶が如く。

 

「こんなの無理よ! 実質、無敵じゃない!」

 

 完全に戦意喪失したキュルケがお手上げと言わんばかりに、叫んだ。

 その横でひっくり返っていたルイズが起き上がり、キュルケとタバサを見やった。

 

「どうするのよ!? 勝てるの!?」

「…………」

 

 

 悲痛なルイズの問い掛けに対し、タバサは二人を見て提案を入れる。

 

「……策はある」

「え!?」

「圧倒的不利な状況にするべき、唯一の策がある」

 

 流石はタバサだと、ルイズは心から尊敬の念を込めた眼差しを送る。

 その策が気になったのはルイズだけではなく、キュルケも食いつくように聞いてきた。

 

「タバサ! その策とは!?」

「たった一つの冴えたやり方。この方法以外、行動はない」

「それは!?」

 

 

 するとタバサは無表情でコクンと頷くと、ゴーレムに背を向けて後方を指差した。

 

 

 

 

「『逃げる』」

「グッドアイディアーッ!」

 

 彼女の呟きが聞こえた瞬間、キュルケとタバサは一目散にバッと走り出し逃げたのだ。

 状況を把握しきれていないルイズが、そんな二人の背中をポカンと眺めている。

 

 

「何よそれぇぇぇッ!?」

 

 ツッコミの叫びをあげて、ルイズも走り出す。

 しかし彼女は完全に逃げる事はせず、ある程度距離を稼いだのならなんと振り返り、魔法を唱えた。

 

 

「『ファイア・ボール』ッ!」

 

 魔法は残念ながらいつもの失敗魔法だった。

 それでさえも、ゴーレムの表面に花火のような破裂が起こり、やや抉った程度なのだが。到底、彼女の魔法ではキュルケとタバサ以上に太刀打ち出来ない。

 勿論、破壊箇所は修復される。

 

「まだまだぁ!」

 

 だが逃げようとはしない。迫り来るゴーレムに対し、彼女は無謀にもギリギリまで戦おうとしているのだ。

 彼女は理解していなかった、タバサが逃亡を提案したのは、ここが敵にとっての独断場であるからだ。敵にとって有利な条件下で勝負するなど、戦士として勇気とは言えないのだ。決して、怖気付きからの逃走ではない。

 

 

 しかしルイズの心の芯にある部分が、その真意の理解に至らず、湧き起こった勇気が暴走を起こしたかのように彼女を無謀へと走らせた。

 ルイズは再び魔法を唱え、ゴーレムの肩部を爆発させた。

 

 

 それも修復され、ダメージゼロ。

 

「くぅ……ッ!」

 

 全く効果のない自分の魔法に、歯痒さからか小さく呻き声を出す。

 それだけに杖を握る力も強まり、手放す事もなくなったのだが。

 

 

 また彼女は魔法を唱えようとしたのだが、それはある人物の声により中断される。

 

 

 

 

「ご主人ッ!!」

 

 ある人物とは定助だ。定助はルイズの向かって反対側、ゴーレムの背後に現れていた。

 

「ジョースケ!」

「オラァッ!!」

 

 ゴーレムの太く強固な足を、『ソフト&ウェット』の強化されたパワーを以て崩しにかかる。

 

「『摩擦』を奪うッ!!」

 

 その際にシャボン玉を飛ばし、ゴーレムの足から摩擦を奪ったのだが、全く効果が現れていないようだ。

 対象があまりにも大き過ぎる。能力が効き目を持たない事態に、定助は歯嚙みした。

 

 

 しかし拳は足の腱の部分を破壊し、バランスを崩したゴーレムは両手を使ってフラフラとしていた。

 

「今だご主人! 逃げるんだ!」

 

 侵攻が止まったゴーレムに、これは機会だとルイズに逃走を促す定助。言えど破壊した箇所は地面に一番近い足の部分なので、修復スピードは体全体の倍となっている。

 

「なっ!? こんな事も可能なのか……!」

 

 破壊した傍から修復する破壊箇所を見て、定助はギョッと動揺した。見た目も手応えも渇いて固まった土なのだが、ただの土壌がゴーレムにくっ付いた瞬間にその、硬い土へと変化して治って行くのだ。

 土の上での優位性の高さに、戦慄さえ覚えたのだ。

 

「オラオラオラオラオラッ!!」

 

 すかさずラッシュを叩き込む『ソフト&ウェット』だが、このラッシュでは全くダメージになるまい。

 精々行動を止め、隙を作る程度だ。だが十分だ、まずはルイズを逃さなくては。

 

 

 

 

「『ファイア……ボォォォル』ッ!」

 

 呪文詠唱の声、ルイズは逃げやしない。

 驚いた定助は、ゴーレムより響いた爆発音が聞こえたと同時に攻撃を止め、一旦距離を取った。

 

 

 逃げようしないルイズに対し、宝物庫を出た時の不安が過ぎったからだ。

 

「ご主人!! 何やっているんだ!?」

 

 困惑した定助の問いに、ルイズはキッと睨み付けるように視線を投げた。

 

「何よ!? フーケを捕まえようとしてるのよッ!!」

「フーケはここにいない! ゴーレムを離れた所から操っているんだ!!」

「だとしても、逃げられる訳ないでしょッ!! 敵に背を向けるなんて御免だわ!」

「そんな事言っている場合じゃ……ッ! えぇい!!」

 

 定助はまた、ゴーレムの足に『ソフト&ウェット』で一発入れると、咄嗟に離れて自分の存在をアピールさせた。

 ゴーレムを自分に仕向けようとしたのだ。

 

「こっちだ! こっち来いよ!」

「ジョースケ!? 勝手な事しないでッ!!」

「勝手な事はお互い様だ!! ここは逃げなきゃ駄目だッ!!」

 

 強情なルイズの説得より先に、定助へと注意を向けたゴーレムが一歩近付き始める。良い具合に引き寄せ、ルイズに逃走の機会を再度与えたと言うのに、彼女は逃げようともせずまた魔法を行使したのだ。

 これには流石の定助でも、堪らず怒鳴ってしまった。

 

「ご主人ッ!! 言っているだろッ!? この場所では勝てないんだってッ!!」

「煩いッ!!!!」

「ッ!?」

 

 だが次は、その怒鳴り声に勝る程の、ルイズの怒鳴り声が響き渡るのだ。

 

 

「フーケを捕まえたら、もう誰も『ゼロのルイズ』なんて言わないッ!! ここで逃げたら、また馬鹿にされる毎日よッ!! 私は貴族よ、貴族は決して背中を向けないのッ!!」

 

 悲痛な思いと熱情が歪に交差したような、勝気な彼女だからこそのプライド。

 日々、『ゼロのルイズ』として白い目で見られている彼女にとって挽回のチャンスでもあり、貴族としての誇りを曲げないプライドの衝突でもある。

 ここで引いたら自分は『ゼロ』のままだ、貴族として逃げるもんですか。そんな闘争心が、勇気に熱血を送り込んでいる。

 

 

 ゴーレムは定助の追跡を止め、比較的近い位置にいるルイズを標的と定め、進撃を開始してしまう。

 

「あぁクソ! 何てこったッ!!」

 

 焦燥感に駆られた定助は、何振り返り構っていられず、ルイズの方へと走り出した。

 ゴーレムが吸収し、地面に窪みとなっている所からは地下水が滲み出しており、軽く水溜りになっている。それを踏み弾けさせ、真っ直ぐの最短距離で走る。

 

「ご主人ッ!! そっちに行った、駄目だッ!! 逃げるんだご主人!!」

 

 だが彼女は頑なに逃げようとしない。

 心のプライドが、鎖となりて彼女の思考を岩のように固めてしまったのだ。そこにあるのは、人間に挑むノミのような魂無き無謀であろう。

 

「くッ……ふぁ、『ファイア・ボール』ッ!!」

 

 止めないルイズに対し、ゴーレムはもう目と鼻の先。

 定助の悲願の叫びさえ、彼女にはもう届かないのか。

 

 

「逃げろッ! 逃げてくれぇぇぇぇッ!!」

 

 

 その時、彼の頭にガツンと、フラッシュバックが発生した。驚きからか、表情が大きく歪んだ。

 

「はぁっ!?」

 

 流れ込んだ記憶の断片を掴む前に、使命感が彼を急かして掴ませない。

 ルイズは今だ杖を振り、魔法を唱え、失敗して、軽く抉っては修復され……とうとうゴーレムの足が彼女の頭上で大きく上げられた。

 

 

 

 

「あ……」

 

 体が闇に染まる。ゴーレムが太陽光を遮り、ルイズを影で覆ったのだ。

 眼前に広がる、巨大な足……ヒビの入った、干ばつの大地のような土塊が自身を押し潰さんと振り下げられた。その一瞬は、とてもスローモーションに見える。

 

 

 こうなって初めて、ルイズの熱した頭は冷静さを取り戻した。

 あぁ、何やっていたんだ私は。後悔の念を滲ませ、恐怖を軽度にする為に瞳をギュッと閉じるのだった。

 

 

 

 

 結局、私は『ゼロのルイズ』なの?

 自問自答に逃避して、諦念を抱えてしまったのだ。

 

 

 

 

「ご主人ッ!!」

「きゃあッ!?」

 

 絶望に沈みかけたルイズを、到達した定助は思い切り突き飛ばす。

 とてつもない力で押された彼女は大きく吹っ飛び、離れた茂みの方へと着地する。

 

 

「ぎぃッ!!『ソフト&ウェ……ッ!!」

 

 定助の勇んだ掛け声が聞こえたが、それは途中でぶつ切りになった。

 

 

 

 

 まるで、一コマだけを抜き出したかのような、鮮明な画像となって視界に広がっていた。 定助の歪んだ表情から、落ちた葉の挙動さえも彼女にとっては、夢のような絵画の世界にしか見えなかったのだ。

 

 

「う、嘘……?」

 

 轟音と風圧。ゴーレムの巨大な足は、ちっぽけな定助を容易く踏み潰してしまったのだ。

 残酷な、その光景をルイズは、脳裏に焼き付けてしまう。

 

 

「あ……あぁ……!」

 

 体が震え、喉が痙攣するかのような感覚により、声が出せなかった。

 見開かれ、瞳孔がブレるルイズの眼前で、自身を信じて支えてくれた我が使い魔が、影も形も消滅してしまったのだから。

 

 

 

 

 

「ジョースケぇぇぇぇぇ!!??」

 

 ルイズの慟哭に似た叫びが、まるで時を止めたかのようなワンシーン上で木霊し、泡沫が如く消えた。




6/16→加筆と修正を入れました。失礼しました
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