ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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二ヶ月待たせた……だが、ランタンは生きている……
どじゃぁぁん。地獄から戻って来たぞ、読者諸君!!
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。色々と理由は御座いますが、休止理由については活動報告に載せています。
兎に角、今後とも宜しくどうも。


白金のワールド。その2

 その場にいた者は、目の前の光景を決して信じられるハズがなかった。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!』

 

 ルイズの目の前に、突然『謎の男』が出現し、空気を振るわさん程の猛る掛け声を放ちながら、やって来るゴーレムの拳を己の拳で砕いているのだ。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!』

 

 一発ではない。目にも止まらぬスピードで何発も何発も拳を打ち付け、そのパワーで襲い来るゴーレムの拳の速度を相殺したのだ。

 

「えっ!? な、な、何なのこれぇ!?」

 

 張本人たるルイズもハッと我に返れば、目の前の人智を超えた凄まじい光景に、困惑の声で叫ぶばかりである。

 頭に円盤を半分突き刺したまま、『謎の男』が放つインパクトに怯えて頭を抱えるだけだ。

 

 

 困惑の渦中にいるのは、定助もそうである。

 

「な!? これは……!!」

 

 定助は、この『謎の男』が何者なのかを、『近しい者』としての感覚で気付いたのだ。

 

 

 

 

「これは『スタンド』……なのかッ!?」

 

 ルイズから発現している豪腕の闘士、それは『ソフト&ウェット』と同じ存在『スタンド』だ。

 あまりの衝撃と、そのスタンドが放つインパクトに圧倒された定助は、一瞬だけ立ち止まった。その、『スタンド』を間近で確認する。

 

 

 この世界で初めて確認した、『ソフト&ウェット』以外のスタンド。

 そのスタンドは、『ソフト&ウェット』よりも遥かに高い次元に位置する、無欠の万能感が挙動の一つ一つに現れていた。

『ソフト&ウェット』より人間に近い造形、「早い」とだけでは形容の足りない程の規格外なスピードに、迫る岩塊を押し留め破壊する圧倒的なパワー……全てが彼の認識の外側であった。

 

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッ!!!!』

 

 一層強まる雄叫びに定助はハッと我に返り、『ソフト&ウェット』を引っ込めて隣のルイズに飛び付いた。

 

「ご主人ッ!!」

「え? きゃあ!?」

 

 ルイズを定助は抱きつつ横へ飛び、岩塊の射程から逸れた所でルイズを庇うように覆い被さりながら着地した。

 途端に、謎のスタンドは蝋燭の灯りのように、唐突に消えた。

 

 

 

 その瞬間に、遮る物の無くなった岩塊が、二人のいた所に雪崩れ込む。

 先程のスタンドのお陰で幾分か質量も速さも小さくなっているものの、直接当たれば大怪我しまいかねない位ではあった。

 

 

 地面と衝突し、破裂した岩塊の破片が飛び散る。中には大きめのものもある、危険だ。

 しかしそれらは、定助とルイズの二人に当たる前に二人を避けた。タバサが風の魔法で、急拵えのバリアを張ってくれていたのだ。

 

「二人共」

 

 タバサが定助らに駆け寄った。

 立ち上る粉塵は、タバサの魔法によって分散される。

 

「あぁ……あ、タバサちゃん……」

「怪我は」

「怪我は……あるっちゃあるけど……」

 

 定助が体を起こし、庇っていたルイズを解放する。

 何がなんだかと、あまりの展開にここ数秒の記憶がぼんやりとしているルイズが頭を上げてタバサを見上げた。綺麗な桃色の髪は先程までの一悶着による風圧で、すっかり乱れている。

 

 

 額には、『破壊の円盤』が突き刺さったまま。

 タバサの目が、驚きからかギョッと見開かれた。あまり見ない彼女の表情に、ルイズは思わず注視する。

 

「それ……」

「へ? それって……いっ!?」

 

 

 しかし『破壊の円盤』は、ルイズの額から弾かれるようにして飛び出し、抜けてしまったのだ。

 

「きゃあっ!?」

「わっ」

 

 円盤はルイズの額から射出し、タバサを掠めて粉塵の中に消えてしまう。

 ルイズもルイズで、円盤と磁石のように弾かれ合い、後ろに吹き飛んで定助に再度抱えられた。

 

「わぁぁぁ!? ちょ、ちょっとタバサぁ!! 今すぐ治癒魔法を!!」

「…………?」

「なんで『何言ってんだ、アホか』って顔してんのよ!?」

 

 ルイズは大慌てで自身の額を指差し、定助に抱えられた状態で顔を突き出してタバサに治癒を要求する。

 

「『破壊の円盤』が突き刺さっていたのよ!? パックリ割れているでしょ!? ホラッ!!」

「……あー、ご主人?」

「定助も見てないで、『ソフト&ウェット』で治しなさいよッ!!」

「オレェ? いやいや、オレのスタンドは怪我の治癒なんて出来ないんだけど……ほら、前見て」

 

 定助に促され、視線を彼から前方へとルイズは視線を向けると、自分の顔があった。

 実際は、クレーターから滲み出ていた地下水を、タバサが魔法で持ち上げて鏡の代用としているだけである。

 

「額」

 

 その反射したルイズの顔の額にタバサは指を差し、注目させる。

 

 

 額には傷一つ付いていなかった。

 

「あ、あれ? でも、私の額に……?」

「間違いなく突き刺さっていた」

「ちちち、ちょっと待って……記憶の整理を……っとお!?」

 

 呆然気味のルイズを無視するように、唐突に定助はルイズを軽く押して立たせると、タバサを横切って辺りを見回し始めた。地面を、ハイレベルのモグラ叩きをしているかのようにキョロキョロと……どうやら、『破壊の円盤』を探しているようだ。

 

「ジョースケ?」

 

 ルイズの呼び掛けにも応じない。彼の横顔からは、必死な様子が伝わって来る。

 

「なぁご主人! あのDISCは一体、なんなんだ?」

 

 呼び掛けを質問で返す定助に、ルイズは当惑気味に応えてくれた。気がまだ動転しているようだ。

 

「し、知らないわよ! 私だって聞かされていなかったわ!あの……えっと、あれって……?」

「ご主人、あれは間違いなく『スタンド』だ!」

「スタンドぉ!?」

 

『ソフト&ウェット』がスタンドと言う存在、の事は分からないタバサは何を意味しているのか分かっていない。小首を傾げ、怪訝に定助を見やっていた。

 一方で円盤は粉塵の中に消えてしまった為に、何処かは分からない。定助は手当たり次第に探す。

 

「ジョースケ、説明して! あんた、『破壊の円盤』について何か知っているの!?」

 

 訪ねるルイズに、定助は首を振る。

 

「分からない。分からないが、アレはスタンドに関係ある物……もしくはスタンドその物かも……」

 

 定助自身も、初めてだ。そもそも、スタンド使い以外にスタンドが取り憑くと言う事があるのかと、頭の中を必死に巡らしていた。考えた所で、彼には分かるハズもない事柄だが、考えずにはいられない。

 

 

 

 

 粉塵が晴れて行く。すると、定助の前方にゆらりと人影が見えて来た。

 

「ッ!? 誰だお前!!」

 

 定助は『ソフト&ウェット』を発現させ、人影に威嚇をする。

 風に乗って粉塵は森の上空へ分散して行くと、人影の輪郭が確かな物となって行き、正体が現れた。

 

 

「ケホっケホっ! もぉ! 煙いわね!」

 

 聞き覚えのある声と、見覚えのある容姿。煙の向こうには紅髪の美女、キュルケが立っていた。

 

「キュルケちゃん! あぁ良かった!!」

「さっきの見ていたけど……ちょっと現実か夢か疑っちゃうわ……ねぇ、実は朝起きてから今まで夢って事はないかしら?」

 

 キュルケも、先程の光景を見ていたようだ。気怠げな表情のまま、ルイズと定助の方に視線を行ったり来たりとさせている。

 定助は『ソフト&ウェット』を消して、安心したように息を吐いた。

 

「キュルケちゃん、間違いなく現実だよ」

「……そうよね。いや、分かっているんだけど」

「どうしたの? キミ……」

 

 粉塵が晴れて、キュルケの何とも言えない微妙な表情がはっきり見えた。左右非対称な苦笑いと、ハの字の眉毛。目線は何故か、左側へ目が向いている。

 定助はキュルケの役目を思い出した。

 

「そうだ! フーケだフーケ! フーケは捕まえた!?」

 

 彼がそう聞くと、キュルケの表情に出ていた「申し訳ない」と言わんばかりの不甲斐無さが強まった。

 逃してしまったのだろうか……にしては、異常な程に緊迫感張り詰めた様子だ。

 

「うん、まさしくそうなんだけど……夢だったら良かったのにって」

「……キュルケちゃん?」

「えーっと……その……」

 

 煙が晴れて、段々とキュルケの背後が見えて来た。

 

 

 

 

「……ごめんなさぁい、ダーリン」

 

 

 苦笑いで両手を合わせ、猫撫で声で謝る彼女の背後で…………フードを被ったフーケが杖先を向けて立っていた。

 

「フーケッ!?」

「これはこれは、凄い物を見させて貰ったわ。へぇ、『破壊の円盤』……まさしく名の通りねぇ!」

 

 定助が構えると彼女はフードを外し、尚の事杖を見せ付けた。

 

「それ以上近付かないで。近付いたならこの子は磔刑よ」

 

 人質を取られ、定助は彼女との距離六メートルで立往生を食らう。

 

「……チィッ」

「そこの二人は杖を捨てなさい。あと……これもこっちにある事を考慮しなさいね?」

 

 

 フーケの手には、『破壊の円盤』が摘まれていた。定助らに見せ付けるように、それをヒラヒラ動かしている。

 追う者追われる者とが逆転している様子に、杖を放ったルイズが定助の傍までやって来て怒鳴る。

 

「ちょっとキュルケぇ!? 捕まってどうすんのよ!?」

「だって木の上にいるなんて! 気付かないわよ」

 

 内心定助は、フーケは木の上にいる可能性の事を伝え忘れていたと、顔を歪めた。

 キュルケは不意打ちを食らい……この様子だと杖を没取されてしまったか、成す術無しに形成逆転。思えばそうだ、相手と彼女とは場数が違う、フーケにまんまとしてやられたのだ。

 

「ゴーレムの手足が埋められた時に、彼女と対峙したのよ。まぁ、不意打ちだから秒で肩が付いたけど?」

 

 

 嘲笑うフーケの他所に、恨めしくキュルケを睨むルイズだが、定助は手で制して諭す。

 

「ご主人、キュルケちゃんは悪くない……あっちが一枚上手(うわて)だった」

 

 定助の言葉を聞き、フーケは得意げに顎を上げる。

 

「あら、敵を褒めるなんて、余裕なのねぇ」

「事実だろ」

「まっ、そうだけど。ふふふ! あんた風に言えば『泡を食わせた』って事よ!」

 

 

 フーケは眼鏡を取り、その場に捨てた。

 グラス越しだった目は、フィルターが取っ払われたように燃えた様を彼らに向ける。猛禽類、まさに隼が標的を発見したような闘争と沈着の目で見ていたのだ。

 

 

 タバサも定助の隣へ来る、ロッドは捨てられている。同時に、ルイズがフーケに話しかけた。

 

「……どう言う思惑なの?『破壊の円盤』を盗んだり手放したり」

「あら、察しが悪いのね。使い魔君は気付いたみたいだけど?」

 

 定助は何も言わない。ジッと、フーケを睨み付けている。

「まぁいいわ」と呟き、彼女は説明を始めた。

 

 

「理由は簡単よ、これの使い方が分からなかった。当たり前でしょ? これはトリステインが誇る魔法学院の秘宝……使用方法が分かるハズないわよ」

「使い方が分からないなら、持っても仕方ない」

 

 タバサが補足し、フーケは満足げだ。

 

「その通り。このままじゃ精々、観賞用よ! 困ったから私は考えた訳」

 

 ニヤリと、邪悪に口角が歪む。

 

 

「解けないのなら、『解いて貰え』ってね」

 

 つまり、オスマンが偵察隊を考えた時から、彼女の掌だった訳だ。皆が貴族の思いを胸に杖を掲げていた時も、彼女は心の奥底でほくそ笑み、嘲笑していたのだ。

 

 

 ルイズは体をワナワナと震わせていた。全てはフーケに踊らされていたと言う事実に、怒りを募らせている。

 

「……私たちなら、解けるって……?」

「教師陣なら知っていると思っていたから、あまり期待していなかったわ、あの腰抜け連中……でも人間、危機的状況に陥ったら何をするか分からないもの……あなたの使い魔君を見ていたら、まさしくそうだって知ったわ」

「もし、私たちも分からなかった場合は?」

「ゴーレムで踏み潰して、人事交換よ。生徒が死んだなら、教師陣も否応無しでしょ?」

 

 カフェでお茶を頼むような、あっさりとした物言い。彼女からはやると言ったらやる、『漆黒の意思』が目の奥にテラテラと漂っていた。

 

「しかし……まさか頭に差し込めるなんて! ちょっと生理的に不気味だけど、あんな素晴らしいパワーが手に入るとは!」

「あの能力は、お前には扱えない」

「……そう言えば直感だけど、あんたの『精霊』に似ている気がしたわねぇ……一体何なの?」

「…………」

「……だんまりかい。まぁ、あんたと『破壊の円盤』の正体なんてどうでもいいか」

 

 

 フーケはキュルケのすぐ背後で『破壊の円盤』を、自身の額に近付けた。

 定助らは思わず半歩進んだ。

 

「やめろッ!!」

「どちらにせよ、あなた達は私の正体を知ってしまった……逃してしまえば晴れて賞金首よ、もう安心して眠れないわ。だから、始末しなきゃならないの」

 

 

 途端に、地響きが起こる。

 振り返ると、土が隆起を初めていた。再びゴーレムを作り出しているのだ。

 

「どうせなら、この円盤で始末したい思いね。岩をも砕くパワー……あんなの食らったら、痛みのショックで間違い無く死ぬわ」

 

 フーケは魔性の笑みを携え、円盤を片手で器用にクルクル回す。

 途端に、キュルケの表情が強張る。彼女もあの規格外なパワーを目撃している、フーケが最初に始末するとしたらまず自分だと、焦りの念を滲ませているのだ。

 ルイズは飛び出そうとする。しかし、定助が引き止めた。

 

「ジョースケ!! いずれにしても、ゴーレムに……!」

 

 ゴーレムは背後で、人型を形成して行く。徐々に徐々に、先程の身の丈まで大きくなる。動き出すくらいまで行けば、こちらに成す術はない。

 

「だからと言ってみすみす奴の前に出たら……あの円盤の力は、キミが身を以て熟知しているだろう」

「でもこのままじゃキュルケが……!」

「…………」

 

 待てばゴーレムに潰され、されど突撃すればあのスタンドに骨身砕かれ、撤退すればキュルケが殺される。八方塞がりだ、手立ては無い。

 

(賭けるしかない……)

 

 定助はルイズを制止させながら、真っ直ぐにフーケへ向き直る。

 

 

 

 

「……キュルケちゃんを、離せ」

 

 そして、静かに言い放った。

 

「……自分の立場を弁えている?」

「弁えている。だからこそ、言っている。離せ」

「分かっていないじゃない。ここに来てとうとう頭脳が間抜けなのかしら?」

 

 眉間に皺を寄せ、見るからに不機嫌を表現するフーケ。

 しかし定助は引かず、言い切る。

 

 

「……昨夜のリベンジをしよう。『サシの勝負』だ」

「……は?」

 

 彼の発案に、フーケは呆気に取られる。次には失笑だ。

 

「ジョースケ!? あんた、何言って……」

「ご主人、任せておいてくれ」

 

 ルイズの制止を聞く気はなかった。これしか方法がないと、覚悟を決めたのだ。

 

「なんで危険人物のあんたと、わざわざまたやり合わないといけないのさ。あんたは不気味、何をしでかすか分からない」

「しかし考えてみろ。危険人物はゴーレムの攻略法を知っているし、圧死を免れる術もある。更にご主人たちと違って手放せない『武器』がある」

「…………」

「引き換え、そっちは『破壊の円盤』がある。つまり、オレと同等の『武器』を手に入れた訳だろう」

 

 フーケは黙って定助の話を聞いている。戯言と思っているかもしれないし、聞く耳を持っているようにも見える表情だ。

 ルイズとキュルケが、愕然とした様子で定助を凝視しているが、横槍が入る前に付け加えた。

 

 

「確実性を取るなら、頭に円盤差し込んで、あのパワーを使って撲殺する方が確実じゃあないか」

「……その為の、サシの勝負って訳」

「その通り」

「私が乗ると思って? まぁ、確かに何で踏み付けたあんたが生きているのかが理解出来ないけど」

 

 口振りから、定助が地面を泥に変えて圧死を免れたと言う事には気付いていないようだ……言えど、彼女ならすぐに合点の行きそうなものだが。

 あまり乗り気ではない彼女に対し、定助は言葉を被せた。

 

 

「……魔法が使えるって事は、元貴族なんだろう」

「……それが?」

「いや。このままでいいのか、と」

「…………」

 

 定助は彼女の『プライド』に漬け込もうとしている。

 貴族を出し抜いて来た大盗賊土くれのフーケだ、それなりにプライドがあるハズ。全戦全勝たる彼女の出鼻砕いた『平民』の定助に対し、『元貴族』のフーケがゴーレムで踏み潰しただけの呆気ない死を望むハズがない。望むのは、苦痛をじっくり味わらせた後の死だろう。定助は、彼女のプライドに賭けたのだ。

 

 

「……煽っているの?」

「煽っている」

 

 定助はあっけらかんと答えた。

 フーケの左瞼がピクリと、神経質に引き攣った。

 

 

 

 

「…………ふん。挑発には乗らないタチなんだけど……いいわ、乗ってあげる」

 

 食い付いた、と定助は内心で叫んだ。

 フーケは杖を懐に戻して、キュルケの襟元を掴む。もう片方の手は、『破壊の円盤』を額に近付けさせたいまま。

 

「それじゃあ、あんたと交換と言う事にしようか」

 

 彼女は口角を上げて、定助を凍てつくような眼差しで見据える。

 彼は臆する事無く、自身とフーケとの六メートルを一歩一歩と埋め始めた。

 

「ねぇ、待って! 罠かもしれないわよ!?」

 

 人質であるキュルケが定助に喚起を促す。それを、左手でひらひらとさせるだけで流した。

 さっきまで定助を引き止めようとしていたルイズは、心配そうな眼差しながらも、定助の判断に任せている。やると言ったらやる、彼の覚悟を無下にはするつもりはない。

 

「互いに一メートル……キュルケちゃんが離れたと同時に叩き込む」

「こう言う形式ばった戦いは久し振りかも」

 

 呆れた表情のフーケがぼやいた。

 

 

 

 

 定助には勝算がある。それは、『スタンド発現の速度』である。

 純粋なスタンド使いである定助は、比較的早くスタンドを出せる。一方でフーケはどうか。謎のスタンドを使役出来る『破壊の円盤』を頭に差し込んでから、スタンド発現まではスパンが多少なりあるハズ。

 

 

 あのスタンドとやり合うつもりはない、定助は気付いている。あのスタンドは『ソフト&ウェット』以上のパワーとスピードを兼ね揃えている。あんな完璧な物などあるのかと、戦慄した程だ。

 ならば、出て来る前に本体には退場願う。定助は「キュルケちゃんが離れたと同時」と言った、つまり『離れた瞬間にスタンドで攻撃するつもり』なのだ。スタンドを知らぬフーケが、スタンド発現までの差まで気付く訳がない。

 円盤を差し込んでから出現まで、定助よりも遅れる。その隙を、定助は突くのだ。

 

 

 

 

 フーケとの距離は、三メートル。あと一メートルで互いの射程距離、二メートル進めば勝負が始まる。

 

 

「見た事のない素材ね」

 

 不意に、フーケは呟いた。

 

「この円盤の素材、研究所でも『unknown』らしいじゃない」

「いきなり何だよお前」

「いや、私は【土】のメイジとして、素材には凄く関心があるのよ。美食家はサラダの材料にさえ拘るようなもの。気になって仕方ないわ」

 

 突然語り始めたフーケに、定助は違和感を覚える。

 

「私は盗賊として、数多のお宝を手中に収めて来たけど……たまに笑っちゃうような物もあったわね」

「何が……」

「『黄金の矢』を持っているって自慢していたのに、いざ私が盗むでしょ? そしたらそれは『真鍮』だった! 何でもライバルが純金の指輪を見せびらかしていたから、嫉妬したのよ。あれは呆れたわねぇ」

「何を言って……」

「『破壊の円盤』の表面って、綺麗な緑色で『マラカイト』みたいね」

 

 定助とフーケとの距離は、二メートル。彼女は『破壊の円盤』を見せびらかすように、突き付けた。

 

 

 

 

「分かる?『再現』って奴」

 

 円盤が、『土くれ』となって崩れ落ちる。

 

「なっ」

 

 定助が「なに」と言う前に、彼女は頭を思い切り後ろへ動かし、次に横を向いた。

 

 

 

 

 後頭部に、『破壊の円盤』が突き刺さっている。

 

「私の持っていた円盤は『マラカイト』による再現! 本物は『フードの中』に忍ばせていたのさッ!! 万が一の保険だったのがまさか、功を奏すなんて!!」

 

 定助は目を見開く。口から、空気の漏れる感覚がした、体がワナワナと震え出した。

 彼女には既に、円盤が差し込まれた。彼の考えは、フーケに読まれていたのか。

 

 

「フ……」

 

 同時に、『破壊の円盤』のスタンドが圧倒的オーラを纏い、風のように全体像を現した。

 怒りに燃える表情と怒髪、そして硬く硬く握り締められた両手の拳。スタンドは定助だけではない、『キュルケ』も攻撃対象に定めている。

 

「『抜きな、どっちが早いか勝負って奴』ね、アハハハハハハハ!!!!」

 

 そして仮初めのスタンドマスター、フーケは邪悪にケタケタ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥゥゥゥゥケェェェェッ!!!!」

 

 定助の怒りの叫びと共に、『ソフト&ウェット』が出現。

 

「キャアァ!?」

 

 スタンドに攻撃する前より先にキュルケを片手で掴むと、後方へ乱暴に投げ付けた。

 

 

「やはり、彼女を助けたわね!!『一手』遅れたァッ!!」

 

 キュルケを安全圏へ投げたと同時に、破壊のスタンドは筋肉を膨らませ、鬼神が如く眼差しを定助に突き刺したまま、目一杯後ろに溜めた腕を高速で突き出したのだ。

 

 

『オラァァァッ!!!!』

「オラァッ!!!!」

 

 二つの雄叫びが共鳴する。二つの拳が衝突する。

 

 

 腕を伸ばし切らない内に受け止めた『ソフト&ウェット』の拳にパワーはない。

 石が割れるように、拳が裂ける。

 

「ぐぁあ!?」

 

 歪む定助の表情、血を吹き出した右手。

 だが破壊のスタンドは、無慈悲にもう片方の拳を彼へ叩き込む。

 

 

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!』

 

 無数の拳が一斉に定助へ襲い掛かる錯覚を起こす程の最高速ラッシュが、彼の体に覆い被さるようだ。

 定助は右手の痛みを堪え、『ソフト&ウェット』にラッシュをさせて拳を拳で受け止めにかかる。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!」

 

 拳が衝突する、ソニックウェーブが巻き起こり、『ソフト&ウェット』の拳から血が吹く。

 定助には分かる、『このスタンドは何人たりとも敵わない』。

 

『オラァッ!!』

 

 渾身の拳が『ソフト&ウェット』の耐久性の落ちた拳にヒット。

 いや、小指を掠めて左肩に直撃した。

 

「うぁあぁああ!?」

 

 定助の左肩から鮮血が吹き出した。あまりの激痛に、手を緩める。

 

 

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!』

「うおぉぉぉおぉおぉぉぉおおおぉ!!??」

 

 スタンドの拳が定助の腕へ、腹部へ、腿へ、胸へと叩き込まれた。

 視界がぼやけた、多量の血が吐き出された、足に力が消えた。

 

「ジョースケェ!?」

 

 ルイズの悲痛な叫ぶが飛ぶ。依然、定助に拳は叩き込まれる。

 タバサが捨てた、自分のロッドに向けて走り出したが、果たして間に合うのか。ゴーレムはもう完成間近だ。

 

「ハハハハハ!! な、なんだいこの力はッ!? 負ける気がしない!!」

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!』

「勝ったぁ!! 私の頭脳勝ちだッ!!」

 

 勝ち誇るフーケ、最早彼女には敵無しだった。未知なりしも最強の力を手に、フーケは興奮状態。

 対して定助は虚ろな目をしている、限界は近い。

 フーケは狡猾ながらも定助にいっぱい食わせたのだ。破壊のスタンドはラッシュの手を緩め、全ての力を最後の一撃を込め始めた。

 

 

 

「……勝ったと、は……少し……早とちりじゃあ、ない……か?」

 

 彼から掠れた声が絞り出される。

 

「やっと……攻撃の手を…………緩めた、な」

 

 

 

 

『シャボン玉』は、フーケの口元で割れた。

 

「ぶぐぅぅ!?」

 

 瞬間、フーケの胸内いっぱいに何かが迫り上がる感覚が起こる。

 それは気道を突き抜け、口内に広がり、

 

「がはぁッ!?」

 

 堪え切れず開いた口から、多量の泡が吹き出したのだ。彼女には何があったのか、判断する余裕はもう無い。

 

 

 

 

「『ソフト&ウェット』…………今、お前の肺から、『酸素』を奪った……『泡を食った』のはお前だったな」

 

 

 定助は攻撃の中、ずっと待っていた。スタンドの『トドメ』の動作を、タメの挙動を。

 破壊のスタンドのラッシュに隙はない。定助に、『シャボン玉』を作らせる隙すら与えなかった。だがタメの挙動の時に、満を辞してシャボン玉を飛ばしたのだ。

 

 

「ぐぼ、おおご!?」

 

 肺を満たしていた酸素が突如出て行き、陸にいながらも溺死寸前の状態に陥ってしまう。

 息を吸おうとするも、口と気道を埋め尽くす泡が酸素の通りを阻害している。

 

 

 彼女は何とか、スタンドのタメた拳で攻撃させようとするがどうした事か、スタンドはみるみる内に消失して行くではないか。

 

「スタンドは『生命のエネルギー』、『魂のヴィジョン』……気絶寸前の人間に、操れる訳がない」

 

 破壊のスタンドが姿完全に消した、と同時に、フーケが前のめりに勢い良く倒れた。

 後頭部に突き刺した『破壊の円盤』が抜き出たのだ。

 

 

 完成しかけていたゴーレムは再び、土へと戻る。くしゃりと足から崩れ、ただの土の積み上げとなった。

 

 

「ジョースケ!?」

「いたぁい……もう少し優しくしてくれても……って、ダーリン!?」

 

 定助は辛うじてだが何とか立てていた。

 しかしルイズとキュルケが大急ぎで近寄る頃には、バタンと倒れてしまった。

 

「じょ、ジョースケ!? 大丈夫!?」

「どこからどう見ても大丈夫じゃないでしょ!」

「知ってるわよッ!! ま、ま、魔法……あぁ!! 杖投げたままだったぁ!?」

「あなたが持っていたって使えないでしょ!」

「それはそうだけ……何ですってぇ!?」

「兎に角杖を……」

 

 

 てんやわんやの二人を差し置き、いつの間にか隣に立っていたタバサが早口で『治癒』の魔法をかけた。隙を見てロッドを取りに行っていたのが良かった。

 

「…………」

「あ、えっと……ありがとう、タバサ」

「…………」

 

 ルイズは彼女に感謝をしたが、タバサは魔法に集中しているのか返答が面倒なのか、無視をした。

 次に、呻き声が聞こえる。定助は意識を失った訳では無かった。

 

 

「あぁ……ご、ご主人……」

「ジョースケ! 起きていたの!?」

「す、すっごく痛い……息が出来ないけど……か、辛うじて意識は……」

「キャァァ!! 流石ダーリィン!!」

 

 定助とルイズの会話を、キュルケは定助を抱き締めて遮断させる。

 それが痛覚に触れたようで、定助は「痛い痛い痛い!」と情け無い声を出した。

 

「き、き、キュルケ!! 怪我人に抱きかかるって、どんな頭してんのよ!?」

「感極まったのよ! 彼こそが英雄よ!!」

「いいから離れなさいって!! 傷に障るでしょうが!!」

 

 キュルケを引き剥がそうとするが、体格差的に動かさなかった。

 この感情のエネルギーの捌け口が如く、ルイズは定助に怒鳴る。

 

「あんたねぇ!! 正面からやり合うって、どんな考えしてんのよ!?」

「ご、ごめ……」

「全く……ま、まぁ……結果オーライだし、良しとするわ」

 

 説教しようと考えたが、ここまでの事を思い返して「自分も人の事言えないな」と考え、頰を赤らめて会話を切った。

 案の定、キュルケが突っかかる。

 

「なぁに上から目線で話しているのよ。ジョースケが死んだと思っていた時なんて、見た事も無い程狼狽えていたわよぉ?」

「や、やややや喧しいわッ!! あ、あんただって半泣き状態だったじゃない!?」

「あなたはボロ泣きだったじゃない」

「ぐっ……! こ、この……ぎぃッ!! こ、今回はここまでにしてあげるわ、ツェルプストー!!」

 

 まるで負け惜しみのような間抜けな台詞に、顔が真っ赤になるルイズ。ここでキュルケが煽るものなら魔法を使ったかもしれないが、彼女は彼女とて定助に夢中だ。

 ルイズは自身を宥めるように何度も深呼吸し、気を紛らわせる為に隣で倒れるフーケに注目した。

 

 

 

 

 白目を剥き、苦痛に歪んだ表情のまま気絶していた。ルイズは恐る恐る近付き、彼女の懐から杖を取り上げる。

 

「まさか、ミス・ロングビルがフーケだったなんて……全く気付かなかったわ」

「そうよねぇ。良く気付けたわね、ダーリン!」

「…………ぐぬぬ」

「何て事ないよ……ちょっとカマかけただけ」

 

 キュルケのダーリン呼びを止めようとしたが、ふと昨夜の戦いの事を思い出して「ぐぬぬ」と抑えた。今日一日はダーリン呼びを許容する約束だ。

 定助はタバサの治癒を受けながらも、反応してくれた。

 

「ね、ねぇ、ジョースケ。あんたの事だから無いと思うけど……」

 

 フーケを見ていたルイズは、定助に尋ねる。

 今の彼女は前述した通り、白目を剥き、苦痛に歪んだ表情のまま気絶している。正直、死んでいるのではと敵ながら心配してしまう。勿論、彼女の価値観から見れば、フーケはすぐに絞首刑に処すべきとは思っているものの、あまりに凄い表情なので同情心が芽生える。

 

「死んでない……わ、よね?」

「大丈夫大丈夫……酸欠で気絶させた程度だから」

 

 今頃彼女の頭の中は霧がかった状態だろう。

 

「どうやってそんな事したのよ」

「彼女の肺から酸素を奪った」

「…………えぐい事するのね」

 

 ゾクゾクと鳥肌が立つ嫌悪感が湧いた。「肺の中から」と言う所が生理的にキタのである。そして、それを食らった本人たるフーケに同情してやった。

 

 

 しかし彼女は悪党だ。起きたら逃げ出すだろう、縛っておかないといけないか。

 

「…………」

 

 フーケの背後に、『破壊の円盤』が落ちている。裏面の、鏡のようで鏡では無いような良く分からない素材が虹色模様を見せている。

 

 

 ふと、先程までの光景を思い出した。あれは、自分を守ってくれた存在であり、自分らを窮地に陥れた存在でもある。あの円盤を見に宿した者のみが手に入れられる、仮初めの最強。

 恐ろしくもあるが、羨む存在。こんな物が学院に、もっと言えばこの世にある事が信じられない。

 

 

 そして相乗して膨らむ定助と言う存在の謎。『破壊の円盤』の戦士に似た存在『スタンド』を操る青年。

 彼はもしや、『破壊の円盤』と何か関係があるハズだ……彼も何か知っている様子だった。

 ちらりと定助を見る。治癒はまだ終わっておらず、キュルケに抱き着かれたまま「もうちょっと優しく」と訴えている。その様子にまたプツンといきかけたが、我慢して『破壊の円盤』の回収をした。

 

「この円盤を一つじゃないとか……だとしたら不気味ね」

 

 疲れた体を引き摺りつつ、円盤の前に立つと、しゃがみ込んで拾った。

 

 

「……一体、何なのよ」

 

 円盤の薄緑の表面に、あの戦士が映った。

 長い髪を靡かせた、白金の戦士だ。




ジョジョの実写化……もう、何も言えねぇ……
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