ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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ダンス・ウィズ・ミー。その1

 夕刻に近付く頃、ルイズたちは学院へと凱旋を果たした。

 馬車には縄を四重五重に巻かれた秘書のロングビルが積まれていたので、生徒たちは騒然となった事は当たり前だろう。事情を説明し、哨兵にフーケを渡した時、大急ぎでやって来たコルベールに連れられ、定助以外の三人は学院長室へ通された。

 

 

「よくぞ『破壊の円盤』を取り戻し、更にはフーケの捕縛も成し遂げてくれた! 君たちの功績を強く賞賛する!」

 

 学院長、オールド・オスマンは手を叩きながら、目の前の若き勇者たちを讃えた。嬉しがっているようなルイズと、得意げなキュルケに、やっぱり無表情のタバサと、反応はそれぞれだったが。

 三人を讃えた後、オスマンはやや暗い表情となってコルベールに一瞥する。それはそうだ、学院秘書がまさか大盗賊だったとは今でも信じられない事実だろう。

 

「ふぅんむ……しかしまさか、ミス・ロングビルがフーケだったとは……灯台下暗し、ワシらは敵の眼前にいた訳じゃった」

「えぇ、本当に信じられません……私とて、彼女らがフーケを捕縛したと言ってミス・ロングビルを差し出された時は、何をしているのか分からなかった程でしたから……あぁ、失礼を」

 

 オスマンとコルベールは、フーケもとい、ロングビルに好意を抱いていた。事実への驚愕もそうだが、心に寒風吹き渡る虚しさも同時に現れている。

 しかし、悪党は悪党だと割り切れる所は確かに、年長者としての威厳だ。オスマンは優しい笑みを見せ、改めて三人に感謝を伝えた。

 

「ともあれ円盤は無事だった上、君たちにも怪我がなくて良かった良かった。ワシは君たちの勇気ある行動に敬意を表するよ。本当によくやってくれた、有り難う!」

 

 学院長からのお礼を貰い、三人はお辞儀をする。

 ただルイズの表情は少し曇ったままだ。

 

 

「あのぉー、所でオールド・オスマン」

 

 頭を上げて、キュルケが手をヒョコリと見せながら、オスマンに質問を投げかけた。

 

「おや、なんだね、ええと……ミス・ツェルプストー」

「はい。いえ、フーケはどうやって秘書になれたのかなぁって、思いまして」

「え」

 

 瞬間、オスマンの表情は子を見守る父のような優しい笑みから、嘘を暴かれた少年のような冷や汗ものの緊迫した表情へ一変する。

 思えばそうだ。身元不詳のハズであるフーケが、何故にどうやってトリステイン一の魔法学院の学院長秘書まで上り詰められたのだろうか。確かに彼女は秘書としてなら有能だったが、そこに辿り着くまでには家柄の調査、魔法技能などがある。家柄も住所もあるとは到底思えないフーケがそれらのプロセスをクリア出来る訳がないだろうに。一体、どうやって秘書になれたのだろうか。

 

「…………」

「そう言えばそうですね……オールド・オスマン! 盗賊が秘書になれる程、ここの審査が甘い訳がありませぬぞ! もしや、裏切り者がいるのかもしれません!」

 

 キュルケの疑問に、コルベールが食い付いた。オスマンの表情がみるみる険しくなるが、それは裏切り者について懸念を示しているとかの物では無く、秘密を暴露されそうなギャングのボスが如し。

 

「あの……オールド・オスマン、お体の具合でもよろしくないのですか?」

 

 顔面蒼白の彼に対し、心配になったルイズが声をかけた。

 コルベールもオスマンの状態に気付いたようだが、彼の様子から事の発端を「まさか」と察したようだ。オスマンは白状する。

 

 

「……実は〜、彼女を秘書にしたのはワシでのぉ……」

「オールド・オスマンが直々に?」

「そうじゃ」

「どうやって?」

「スカウトじゃ」

「何処で?」

「そ、そこまで追求するんか……」

 

 立ってしまった疑惑はもう隠せないだろうと、オスマンは口籠もりながら続けた。

 

 

「……居酒屋。彼女、元々給仕をしとっての……美人だし、その……尻を撫でても怒らなかったから、秘書にならんかーって……」

「…………」

「……なんじゃ、その養豚場の豚を見るような目は」

 

 コルベールの刺すような冷たい眼差しを受け、冬の森に置かれたような寒気が走り身を震わした。

 その視線はいつの間にか、前方の三人からも向けられており、一旦は縮こまったものの逆ギレ同然に机をバンバン叩いて言い訳をする。

 

「だってだってだって!『学院長さん素敵!』とか『痺れる憧れる』とか褒める上に魔法も使えると来るわ、何度も言うが美人だしナイスバデーだし尻を撫でても怒らんし! こんな色仕掛けされたら、誰だって秘書にするじゃろ!? ワシだってするッ!!」

「その後は蹴られたりと、冷遇されていたようですが?」

「美人だし」

「…………」

 

 見よ、これがトリステイン一の魔法学院学院長の情け無い姿だ。今の彼なら数千の矢を普通に浴びたとて、落馬してそのまま踏み付けられたとてヘイトの対象となるだろう。それ程に憎々しくも清々しい開き直りだったのだ。

 コルベールは内心にて、「いい気になってんなこのクソジジイ」と思い、危うく杖を振ってしまいかけた。

 

 

「……さて、三人方には良い知らせがあります」

「ミスタ!? 勝手に話を進めんでくれんか!?」

「あなた、頭がグツグツのシチューか何か?」

「誰がグツグツのシチュー……ちょっと待て、今キミ、ワシの事なんつったかね?」

「それでは〜」

「無視をするんじゃあないッ!!」

 

 無視を咎めるオスマンを無視し、コルベールはルイズらに『知らせ』を伝える。

 倦怠気味だった場の空気だが、何とかルイズたちは背筋を伸ばし、礼儀正しく待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で定助。

 

「とある農夫が泥だらけで働いている時に、通りすがりの酔っ払いが絡んだんだ。『やい、お前は(MUD)が好きだな。まるで豚のようだ!』と」

「…………」

「……すると農夫はこう答えた。『お前が(MAD)だろ』」

 

 途端に場が爆笑に包まれた。

 ここは厨房で、仕込みがひと段落ついた時にジョーク大会が始まり、定助がジョークを言ったのだ。結果はウケたようで、マルトーや他の四人ばかしの料理人が腹を抱えながら笑っていた。

 

「ワハハハハハハ!! 流石、我らが泡! こりゃ面白れぇ!」

 

 もはや彼の癖なのだろうか、定助に近付き背中をバンバンと叩く。今日負った傷に響き、歪んだ表情となった所で手を止めた。

 

「おおっと! すまない! じゃあ、お詫びとして俺も一つ!」

 

 マルトーはドカッと自分の椅子に座ると、楽しそうに笑いながら腕を組み、少し考えた後にジョークをかます。

 

「トリステイン、ガリア、【アルビオン】、ゲルマニアの王家が集まり、茶会をしていた。そこへ、腹を空かせた子犬がやって来る」

「するとぉぉ……?」

「トリステインは蹴飛ばし、ガリアは血統を確認させ、アルビオンはその犬に噛まれ、ゲルマニアは『可愛い奴め! こっち来い!』」

 

 再び場は爆笑の渦に飲み込まれた。マルトーの十八番(おはこ)であるエスニックジョークだ。

 定助はそれぞれの国柄が分からなかったが、トリステインのルイズ、ガリアのタバサ、ゲルマニアのキュルケを想像して「あぁ分かるかも」と笑っていた。アルビオンだけは分からないが。

 

「じゃあ、僕も……友人が言うんだ。『そのチェリー、食べないのならくれないかい? 僕の大好物なんだ』。だからあげてみた」

「そしたらぁぁ……?」

「レロレロレロレロレロレロレロレロ」

「なんだそらぁ!? くっだらねぇ!! ガハハハハハハ!!」

 

 ジョークですら無いが、何とも言えない笑いを誘った。この赤毛の前衛的な前髪のシェフはなかなかのやり手だ。

 

 

 

 

 そこへ厨房の扉が開き、シエスタが入って来た。その手にはワインが抱えられている。

 

「マルトーさん! 持って来ましたよ!」

「おぉ! やっとか! さぁシエスタ、我らが泡に注いでやりな!!」

 

 少し定助は苦い顔をした。

 ここに彼がいる経緯として、ルイズたちが呼び出された後にシエスタに連れられたのだ。厨房に入ってみれば定助が大盗賊を捕まえたと周知されており、高級ワインを飲まされる事になったのだ。シエスタが別室のワインセラーに取りに行っている間、ジョーク大会が行われていた。

 シェフたちはフーケを快く思っていなかった。貴族を懲らしめると、平民の生活が変わるかは別の話だ。寧ろ、フーケが貴族の館を壊した為に修繕費のせいで税率が上がったなんて事もあったらしい。特に貴族邸近くの大農園を踏み荒らして逃げた際は物価が上がり、料理人連中からは怒りを買われていたとか。

 フーケを賛美していたのは遠い郊外の者か、武具屋と嫌貴族主義者。大抵の者はフーケの影響による流れ弾を鬱陶しがっていた。

 

 

「ジョースケさんっ! お()ぎしますよ!」

「悪いなぁ、シエスタちゃん……あれ、ワイングラスがないよ」

「そうかな」

 

 ワイングラスをズアッと、隣から妙なポージングで赤毛のシェフが渡してくれた。唐突かつインパクト抜群で、呆然としたまま受け取る。

 受け取ったと同時に赤いワインがトクトクと注がれ、意識を戻す。

 

「はい。アルビオン産の、高級ワインですよ!」

「高級……だ、大丈夫なの? 貴族専用とかだったり……」

 

 するとまた、赤毛シェフが笑いながら定助の肩を掴み、囁くように言う。

 

 

「バレなきゃ、横領じゃあないのだよ」

「…………」

「そして君のワイングラスに注がれた。戻す訳にはいかない、飲むしかない、仕方ない。もしバレたら我らが泡、貴様が悪いのだ」

「…………オレェ?」

 

 怖い顔で怖い事を言う彼に対し、ワインを注ぎ終えたシエスタがムッとした表情で咎めた。

 

「もう、嘘ばかり! 大丈夫ですよジョースケさん。これは前日、開封後に余らせた物で、廃棄予定でしたから。そんな物しか出せないのは少し心苦しいですが……」

「いやいや、十分だよ……ほら、まだ見事なワインレッド」

 

 グラスの中で揺れる透き通るような赤紫の波は、厨房の明かりに照らされルビーのように輝いている。定助はあまりワインについて詳しくはないのだが、質の良い物悪い物はすぐに分かる。

 

「ここ、底の所、グラスの底にさ、ちょっと割って穴を開けるとね、そこから勢い良くワインが出て来て一気飲み出来る。これ、『ショットガン』って飲み方だけど」

「ジョースケさん、ジョーク大会は終わりですよ?」

「……まずはテイスティング」

「……ふふふ! ごゆっくり楽しみください」

 

 赤毛シェフはニコニコと笑いながら、無礼を詫びるように頭を下げる。爽やかな優男に見えて存外に腹黒い面がある人物だ、その腹の中を見てみたい程である。

 

 

「しかしなんだ……まさかフーケがロングビルだったとは。結構、俺らにも良くしてくれた人だったからなぁ、ショックと言っちゃショックだったな」

 

 一人のシェフがそう言うと、マルトーとシエスタ含めた全員が首を縦に振った。

 彼女は『ロングビル』として、貴族にも平民にも溶け込めていたのだ。彼女の適応能力は素晴らしいものだ、誰もフーケの片鱗に気付かなかった訳だろう。定助はワインをちびちび流し込みながら、内心で賞賛した。

 

「そう考えると惜しいかなぁ、捕まっちまって……まぁ、俺はフーケを良く思ってなかったけどなぁ」

「ともあれ永遠の別れになっちまうな。貴族にあれだけ喧嘩売ってんだ、裁判無しの即首吊り台行きだろう」

「これが大盗賊の最後……馬鹿な……呆気なさ過ぎる……!」

 

 フーケがやって来た憲兵に連行された時を、定助は見ていた。

 縛られたまま素直に、何も言わずこちらを一瞥もせず、諦め切ったかのように馬車へ入れられた。向こうはこちらを殺す気だったが何だろうか、その後ろ姿には寂寞たる虚無感さえ存在していたのだ。

 

 

 シェフらの話に、マルトーがうんざりした表情で乗っかる。

 

「全く……それよりも、我らが泡も貢献したと言うのに、俺はフーケよりも手柄を横取りした貴族どもに飽き飽きだ!」

 

 彼の話にシェフたちも「そうだそうだ」「答える必要もない」と賛同する。

 口に含んだ分のワインを飲み下した定助が、マルトーに尋ねた。

 

「手柄の、横取り?」

「ん? なんだなんだ、当人にも知らせないとは……今頃、貴族らだけに『爵位』の授与が言い渡されている所だろうに」

「爵位? ご主人たち、位が上がるんですか?」

「そんなもんだ! いつだって評価されるのは貴族だろうに!」

「…………」

 

 マルトーは腕を組み、不機嫌に口をへの字に曲げた。

 そう言えばフーケを引き渡す際に、ルイズ・キュルケ・タバサの三人だけが呼び出されたのだった。確か、学院長室へ行くようにとコルベールと言う先生に連れられて行ってしまった。

 

 

(ご主人が……)

 

 定助をワインを飲みながら、物思いに耽るのである。

 勿論、手柄の横取りだとかは何とも思っていない。ただ、ルイズに爵位が贈られる事に感慨深さを感じていたのだった。

 

 

「……そう言えばあの円盤って……」

「ジョースケさん、何かおっしゃいました?」

「ん? いや、シエスタちゃん。ちょっとした独り言だよ」

 

 そう言いながら、グラスに残ったワインを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コルベールとのボヤ騒ぎの末、オスマンが手元の書類を見ながら三人に言い渡した。

 既に窓からは、二つの月が見えて来ている時刻だ。

 

「さて……今回の功績を讃えて、君たちに『シュヴァリエ』の称号を宮廷に申請した。ミス・タバサはシュヴァリエの称号を持っているので、『精霊勲章』の称号を申請した。フーケを捕まえたからのぅ、城下町の貴族たちはさぞかし喜ぶじゃろうて」

 

 タバサを除き、ルイズとキュルケは歓喜の声をあげた。

 

「本当ですか!?」

「あぁ、本当じゃとも。他の貴族に成し遂げられなかった事を、成し遂げたのじゃからな! また追々、連絡が来るじゃろうが、ともあれ良くやった、三人ともよ!」

「やったぁ!!」

 

 キュルケがピョンと跳ね、表情と態度で喜びを表現している。タバサは嬉しいのやら嬉しくないのなら表情すら変えていないが、平常運転だろう。

 ただ、ルイズは先程と同じく、曇った表情になっていた。

 

 

「……ん? どうしたのかね、ミス・ヴァリエール? 君らしくないぞ?」

 

 オスマンがルイズの異変について、尋ねた。あの努力家かつ激情家であるルイズが、貴族の一歩として切望されるシュヴァリエを貰ったのに真逆の表情をしている事が奇妙に思えたからだ。

 ルイズは「すいません」と一回お辞儀をしてから、おずおずとオスマンに聞く。

 

 

 

 

「あの……ジョースケには、何もないのですか?」

 

 彼女は自身の命を救い、更にフーケ捕縛に多大な貢献をした定助の手に何も残らない事が蟠りとなっていたのだ。

 誰よりも身を挺し、誰よりも率先して……少し無謀な所もあれど、計算して行動し、結果としてフーケとの一騎打ちに勝利した。誰よりも貢献したのは自分よりも定助であり、彼の功績を無視するのは如何なものかと考えていた。

 

 

 彼女は貴族だ、貴族として、他力によって自身が美味しい蜜を頂く事に不服を持っている。

 

「ふぅんむ……」

「ジョースケは良くやりました。ジョースケがいなければ、フーケを捕まえる所か、私たちの命まで危うかった程です」

「しかしミス・ヴァリエール……残念ながら、彼は『平民』じゃ」

 

 これが現実である。いつかの授業の時もそうだったように、従者の評価は貴族に渡る仕組みなのだ。

 それに、平民である彼へ爵位を渡す事など出来ようが無かろうに。ルイズは肩を落とした、彼に救われた身として、彼に正当な評価を与えたかった。

 

「……君の気持ちは分かるぞ、ミス・ヴァリエール。然るべき者には然るべき評価を、とは同感じゃ。じゃが、こればかしはどうにもならん」

「…………失礼をしました」

「いや、君が謝るべき事ではないぞ……お、噂をすれば何とやら」

 

 突然、オスマンが嬉しそうに笑みを浮かべたと思えば、学院長室の扉に向かって呼び掛けた。

 

「ノックは不要じゃ、そのまま入って来なさい!」

 

 

 

「失礼します」と困惑気味な声と共に、恐る恐ると扉が開かれた。

 扉の隙間から、定助がそぉっと出て来る。

 

「ジョースケ、来てたの?」

「あ、うん……えぇと、三人とも爵位取得おめでとう」

「なんで知ってるのよ……」

「噂になってたよ、貰えたんじゃあないかって……て、そうじゃないそうじゃない」

 

 ゆっくり扉を閉めると、好奇の目で見るオスマンとコルベールに対して深々とお辞儀をした。英国紳士が如く、礼儀の整った礼である。

 

「ご主人……ミス・ヴァリエールが爵位を得られると聞き、使い魔として駆け付けなくてはと、勝手ながら訪問させて頂きました。お気に障りましたのなら、謝罪致します」

「やや、大丈夫じゃよ、結構結構。それよりも主人の晴れ舞台に参じるとは、忠誠心が深いようじゃな。良い事じゃ」

「有り難う、御座います」

 

 定助は学院長を前に少し緊張しているのか、それとも扉の前まで来ていた事を見抜かれた事に動揺しているのか、何処と無く態度が固かった。キュルケはそんな様子の彼に対してクスクスと笑っていたが、ルイズは無礼が無いようにとヒヤヒヤとしている。

 

 

 

「さて、君たちへの連絡はここまでじゃ。三人とも、『この後』に備えて準備を始めておくと良いじゃろう」

「この後?」

 

 オスマンの言った『この後』について首を傾げる定助。何かあったかなと、思い出していた。

 その最中、オスマンは定助を指差し、ルイズに話し掛ける。

 

「そして……ジョースケ君とは少し話をしたいのだが、ミス・ヴァリエール、彼を借りて宜しいかな?」

「え? オレェ?」

 

 いつもの癖で、自分に指差し間抜けな声で一人称を言い、「自分ですか」と聞いた。

 ルイズは、オスマンがまさか定助と話をするとは、と彼が何かしたのか不安になった。だが、オスマンの表情に咎めるやら問い詰めると言った意思を感じなかったので、困惑しながらも承諾する。

 

「えぇ……いいですよ」

「有り難う、そんなに時間は取らせんよ……では、今宵は楽しんで来る事じゃな!」

 

 オスマンはコルベールに目配りし、彼にルイズらに退室を促させ、彼自身も退室させた。

 ルイズとキュルケは定助の様子を気にしつつも、「失礼しました」と一声かけて扉から出て行く。

 

 

 

 

「それでは、失礼いたしました、オールド・オスマン」

 

 最後はコルベールの声と共にバタンと扉が閉められると、しぃんとした空気が部屋に入り込んで来る。

 大きな窓を背に座るオスマンの頭上には、双月が登っていた。彼はすぐには口火を切らない、コルベールたちの気配が無くなるまでジッと、扉の方を見ていた。この待っている時間が、とても窮屈に感じられるのはオスマンに醸し出す威厳による物だろうか。

 

 

 彼は廊下から聞こえるコルベールたちの足音が消えた時に、一度呼吸を吐き出してから定助に話し掛けた。

 

「すまんな、呼び止めて」

「いえ、お構いなく……」

「それで、話と言うのは……と、その前に済まんが、扉をチョロっと開けて貰えんかの?」

「はい?」

 

 定助は言われるがまま、学院長室の扉まで近付き、開いた。

 すると少し開けた時にその隙間から、一匹の小動物が入り込みオスマンの所まで走って行く。オスマンは足元まで来たそれを拾い上げ、手の平の上に乗せて撫でている。

 オスマンが乗せている物は、白いネズミであった。

 

「……あなたの、使い魔ですか?」

「すまんの、大事な話をする時は廊下から監視させておるのじゃ。専用の入口など作れんからの、締め出されていたんじゃよ」

「……お言葉ですが、どうやって伝えるのでしょうか? 鳴き声ですか?」

 

 オスマンは片方の眉毛を上げて、チャーミングに笑った。先程まで感じていた威厳はそのままだが、ずっと子供っぽい印象だ。

 

「良い所に気付くのぅ。しかし、君の主人は使えぬようじゃな」

「使えない?」

「元来、使い魔は儀を果たした時、主人に感覚が共有されるようになっとる。つまり、使い魔は主人の視覚の補助となる訳じゃな」

 

 それを聞き、定助は自分の目元に手を当てたが、オスマンは笑いながら手を振った。

 

「人間と動物の違いかな? 君とは共有は出来とらんようじゃ」

「どうして分かるのですか?」

 

 定助の疑問に、オスマンは悪戯好きな少年のような笑みで答える。

 

 

「今朝、宝物庫で君を探させる時、彼女は『洗濯に行かせたから、洗濯場にいる』と、想定で言っておった。場所を的確に伝えたければ君の視覚を利用して場所を把握し、『使い魔は今、洗濯場にいる』と確信して言うハズじゃ。完璧主義な所があるミス・ヴァリエールならそうするハズじゃろうて?」

 

 最も、魔法を使えない彼女だから……と言う考えもあるが、適切ではないと彼は判断し、考えから除外した。使い魔の儀が出来て、感覚共有が出来ない訳がないからだ。

 定助はオスマンの明晰な推理に、息を飲んだ。やはり生きている年数が違う、この人には隠し事が出来ないと、ある意味でプレッシャーになった。

 思い出せばキュルケに誘われた時、フレイムはずっとこっちを見ていた。彼女は部屋の中から定助の場所を把握しており、だからこそ上手い具合に彼を部屋に引き込めたのだ。

 

 

 先程の事だって同じで、扉の前にいた定助はオスマンの使い魔の目を通して把握されていた。

 

「……それで、お話とは」

「おぉ、そうだった……さてと、ハッキリ言おう。ワシが話そうとしていたのは」

 

 オスマンは自身の使い魔、モートソグニルを撫でつつ本題に入る。

 

 

 

 

「君のその、『精霊』についてじゃ」




「だが断る」
この台詞がアニメで言われる事を何年待ったかッ……!
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